上 下
16 / 17
億万長者への道02《総売上:??円》

彼の本性※

しおりを挟む
「いいよ、一旦許してあげる」

 よく頑張ったね、と如月は首に回った手の力を緩め、離す。
 くちゅりと音を立て、口内からも指を引き抜いた。
 
「ッごほっ!ふ、ぅ、ぅ゛………っは」

 解放されたものの、上手く空気を取り込めず噎せる。口の中に残った異物感が、首に残った手の感触が、ただ気持ち悪かった。

「アンジュ君、落ち着いて」
「--っはあ、は……っひゅぅ」
「……ほら、ゆっくり呼吸すれば大丈夫だから」

 一向に落ち着かない様子を見かねた如月が言う。
 彼は床に手を付き俯く俺を、子供みたいに抱き上げ、膝に乗せた。
 いや、そもそもお前のせいだろう!と主張してやりたいところだが、生憎、口に出す元気はない。
 慰めるように背中を摩ってくる如月の肩に顔を預け、俺はなんとか呼吸に集中した。

「っふっ、ぅ、はあ………く、くるじか、ったあ……!」
「ごめんごめん。最初だし、もう少し手加減すればよかったね」

 「でも、噛もうとしてきたから」と、如月は悪びれなく言う。
 いまだ整わぬ呼吸に苦しみながらも、俺は思った。この人本当は、すごく子供っぽいんじゃないかって。
 一見、大人っぽい紳士に見えるけど。先程までの不安定な情緒や自分本位な行動を思うと、そう思えてならない。

 俺は内心、どうしたものかと首を捻った。
 無駄に知恵があるだけ厄介なのだ。彼が取り繕うことをやめた今、びっくり箱のように次々出てくる新たな一面が、怖い。

「……どう?そろそろ落ち着いたかな」
「っはあ………、っ、……うん?」
「よかった。じゃあ、始めてもいいよね」
「っ………!?ま、まって」

 落ち着いた、とはいえ回復したわけではないのだ。
 如月のことだし、ここで終わらせてくれるはずがないと、分かってはいたが。あまりの急展開に心が追いつかなかった。

「もう充分待ったよ。甘やかしすぎたくらいだ」

 如月はそう言って、膝の上の俺を、ベットの上へ乱暴に放った。
 背中を受け止め、ギシ、と軋むスプリング。思わぬ衝撃に、目を見張る。
 すぐさま乗り上げた如月が、押し倒すように顔の横へ手をついた。

「っひ……、ちょっと、急に投げないでよお!」
「ベットの上だから、別に痛くなかったでしょ?」
「それは、まあ……」

 言い淀む俺に構わず、如月は続ける。

「じゃあさっそくだけど……アンジュ君、服を脱ごうか」

 服を、脱ぐ?

「……--はあっ!?」
「枕営業なんだから、当たり前」

 脱がなきゃ始まらないよ、と呆れた様子の如月に、固まる俺。
 言われて「はいそうですか」と脱げる奴が、どこにいるのだろう。着替えで服を脱ぐとか、銭湯で裸になるのとは訳が違う。
 真上から見下ろされた状態で、自ら服を脱ぐなんて、さすがの俺も嫌だ。
 しかし。

「アンジュ君」

 脅すように、首元に添えられる手。一瞬にして、鼓動が早まるのを感じた。
 わざと、喉仏を潰すように押し付けられる。「嫌だよね」と首を傾ける如月に、俺は態度を変え、こくこくと頷いた。

「なら、どうすればいいか分かるだろう」

 そう言って、首から手は外された。
 如月が見ている。俺は震える手で、借りたパジャマのボタンを、一個一個外す。
 器用な方ではないから、緊張のせいか余計に時間がかかった。
 やっとの思いで最後のボタンを外し終わり、袖から腕を引き抜く。脱ぎ終わったシャツは、如月がすぐに放ってしまった。

 上裸姿で頭上の男をうかがう。
 案の定「下も脱げ」という圧を感じ、俺は渋々、下のズボンへ手をかけた。
 
「……あの、脱いだけど」
「まだだよ」

 これも脱いで、と如月が見やった先。……残るは、下着のみだ。
 俺はぎゅうと目を瞑り、一思いにパンツを脱ぎ捨てた。

「……っもう、これでいいでしょお!」

 投げやりに叫ぶ。如月は満足気に目を細めた。
 とんだ羞恥プレイである。こんなに誰かに見られながら着替えたこと、人生で初めてだ。
 顔を染める俺に構わず、彼は上から下へと、生まれたままの姿をじっとりと眺めてくる。
 頭上から、ふっと羞恥を煽るような笑みが聞こえた。

「アンジュ君、ここピンク色なんだね」

 かわいいね?と、如月が胸あたりを指で掠める。なぜかぴくりと体がはねた。
 首を、絞められたからだろうか。外側からの刺激に、いつもより過敏な反応を示す己の体。
 如月は面白がるように「敏感」と笑った。

「ッひ……やぁ、そこ撫でないで……」
「やー、じゃないよ」
「あっ!……っひぅ、ぅ゛」

 優しく乳輪をなぞっていた指が、叱るように乳首を弾いた。外気に晒されたそこは、存在を主張するようにツンと尖っている。
 仰け反る背を押さえつけるように、如月は両手で胸を揉みしだいた。

「んぅ……おれ、女の子じゃない、よ?」
「知ってるよ。……ただ、揉まれると男でも、女の子みたいに膨らむんだってさ」

 試してみようか、と如月が首を傾ける。
 
「うそ、ほんと……?っん、ねぇ、やめて……!おっぱいできたら、やだあ……」
「っあはは!いいじゃない。顔は既に女の子だし……胸までできたら、とうとう男卒業だね」

 平たい胸を寄せ集め、育てるように揉まれる。抵抗しようにも、時折乳首を掠める指に、体の力を奪われるのだ。少し触られるだけで、ぴりぴりと刺激が走り、背中が震えた。

「……ねえ。さっきから背中反ってるけど、そんなに触ってほしいの?--ここ」
「っあ!?……っあぁ、!ぅ……ひ゛」
「尖ってるし」
「いた……ッい、ぅぅぅ……やあっ!」

 如月の指が、きゅうと両方の乳首を捕らえた。痛いくらいに力を込められ、目に涙が溜まる。
 もう限界だ、というところで、その力は緩められた。そうして、今度は不自然なくらいに優しく、そこを撫でてくるのだ。

「っひ!ぁ、ぁ………!くぅ、ん」
「……ふふ、ワンちゃんみたいな声。可愛いねえ、アンジュ君」
「や、なにッ--っあ、んぅ……なんか、へん……っ」

 びりびりと、痺れるような感覚が怖かった。さっきは痛いだけだったのに。
 優しくなぞられた途端走った刺激に、頭が真っ白になる。
 意図せず跳ねる体も、女の子みたいに高い、変な声も。全部が恥ずかしくてたまらない。

「へん、じゃなくて、″気持ちいい″んだよ」
「……っきも、ちい?」
「そう。アンジュ君は、男の子なのに胸を触られて気持ちよくなっちゃう、変態さんなわけだ。……恥ずかしいね」

 口端をあげ「でもさあ」と如月は続ける。

「さっきも言ったけど、枕営業って奉仕だから……アンジュ君が気持ちよくなったら、ダメだと思わない?」
「……あ、ぁっ!……ひぅ」

 答えなきゃいけないのに。なにを言われているのか、理解できなかった。
 『気持ちいい』んだよ、と。そう言われて自覚した途端、得体の知れない刺激は″快感″に変わり、脳が溶けるようなそれに、俺は襲われていた。
 問いながらも、如月の指は止まらない。くるくると優しくなぞられては、時折、きゅうと潰される。

「思うよね?」
「……うぎゅッ!?」
「答えて」
「……は、ひ!……思う、ぅ゛!」

 乳首に爪を立てられ、大きく体が跳ねた。痛みの中に混じる微量な快感に、俺は絶望した。
 爪、立てられてるのに。思いっきり潰されてるのに、それが気持ちいなんて、可笑しい。……俺どうしちゃったんだろう。
 
 じわりと涙が滲む。もう、キャパオーバーだ。
 とうとう零れた涙に、如月が初めて、動きを止めた。

「なあに、どうしたの」
「ぅ、う……!俺……おれえ、おかしい……?」
「なにが」

「っん……痛いのに、きもちいの」

 俯きながら、小さな声で呟く。
 頭上で、如月が息を呑む音が聞こえた。

「………うん。そうだね、おかしいと思う」
「--ッ!う、ぅ……どうしよ、おかしいんだ……っ」

 男なのに、女の子みたいな声がでる。触られただけで、体が跳ねる。痛いのに、気持ちいい。
 自分のことがまるで理解できず、俺は溢れる感情のまま、ぼろぼろと涙をこぼした。
 
 少しして。骨ばった手が、俺の顔を優しく持ちあげる。
 されるがまま上を向いた先--如月は瞳孔の開ききった目で、俺を見ていた。

「大丈夫だよ」
「っ………?」
「大丈夫。練習すればいいんだ」
「れん、しゅう」
「男の子なのに、そうやって気持ちよくなるのは、おかしい。……きっと他の人が知ったら、アンジュ君のこと、嫌いになるかも」

 如月の言葉に、「ひっ」と息を詰まらせた。
 そこまでのことだなんて、知らなかった。自分の体のことなのに。

 ショックを受ける俺に向かって、如月はもう一度、「大丈夫」と続けた。

「たくさん気持ちいいことをして、慣れればいいんだよ。その内、刺激を感じなくなる」
「………っ!そ、それ、ほんとう……?」
「本当。……安心して?僕の言う通りにすれば、全部上手くいく」

 だから、もう少し頑張ろうね。
 そう微笑む如月に、俺は藁にもすがる思いで、頷いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

悪役令息、主人公に媚びを売る

枝豆
BL
前世の記憶からこの世界が小説の中だと知るウィリアム しかも自分はこの世界の主人公をいじめて最終的に殺される悪役令息だった。前世の記憶が戻った時には既に手遅れ このままでは殺されてしまう!こうしてウィリアムが閃いた策は主人公にひたすら媚びを売ることだった n番煎じです。小説を書くのは初めてな故暖かな目で読んで貰えると嬉しいです 主人公がゲスい 最初の方は攻めはわんころ 主人公最近あんま媚び売ってません。 主人公のゲスさは健在です。 不定期更新 感想があると喜びます 誤字脱字とはおともだち

BLゲーに転生!!やったーーー!しかし......

∞輪廻∞
BL
BLゲーの悪役に転生した!!!よっしゃーーーー!!!やったーーー!! けど、、なんで、、、 ヒロイン含めてなんで攻略対象達から俺、好かれてるんだ?!? ヒロイン!! 通常ルートに戻れ!!! ちゃんとヒロインもヒロイン(?)しろーー!!! 攻略対象も! ヒロインに行っとけ!!! 俺は、観セ(ゴホッ!!ゴホッ!ゴホゴホッ!! 俺はエロのスチルを見てグフグフ言うのが好きなんだよぉーー!!!( ̄^ ̄゜) 誰かーーー!!へるぷみぃー!!! この、悪役令息 無自覚・天然!!

今度こそ幼なじみから逃げられると思ったのに!

枝豆
BL
どこまでもついてくる攻めと逃げたい受け 攻め 坂木 唯人 177cm 面が良いナチュラルサイコパス 受け 黒田 海 168cm どこにでもいる黒髪平凡。 途中、主人公が女の子と付き合う表現がありますが、BLなので最終的には攻めとカップリングされます。 主人公は女の子好きなのに。可哀想 攻めは別にゲイでは無いが、主人公は抱ける ワンコと見せかけた拗らせナチュラルサイコパス攻めとそれに逃げようとするけどダメそうな不憫受けの話 アルファポリス以外にも、pixivで掲載しています

4人の乙女ゲーサイコパス従者と逃げたい悪役令息の俺

りゅの
BL
おそらく妹が買ったであろうR18の乙女ゲーの世界に入り込んでしまった俺は、気がついたらその世界の悪役として登場していた。4人のサイコパス従者に囲まれ絶体絶命ーーーやだ、視線が怖い!!帰りたい!!! って思ってたら………あれ?って話です。 一部従者に人外要素ある上バリバリ主人公総受けです。対戦よろしくお願いします。 ⚠️主人公の「身体の持ち主」かなりゲスいことやってます。苦手な方はお気をつけください 広告視聴・コメント・ブクマ大変励みになります。いつもありがとうございます。 HOT女性向けランキング 39位 BLランキング 22位  ありがとうございます 2024/03/20

処理中です...