上 下
10 / 17
億万長者への道01《総売上:0円》

思わぬ誤算

しおりを挟む
「なんでちゅーするの……?ぁ、ちょっと……んむ」
「あ?ペットにはちゅーするだろ」
「……俺、飼ったことないからわかんないよお、ぅ、ちゅ」
「俺もねえよ」
「っん……えぇ?」

 謎の暴論を振りかざし喋るごとに口付けてくる黒咲。
 困惑する俺に構わず、彼はもう一度俺の唇にキスをした。

「んむ、ぅ……ッちょ、ちょっとお~」
「おい、嫌がんなよ。もっとしたくなるだろ」
「ひぇっ……ん、ぅぅぅ」

 --し、しつこい……!!
 逃げるように顔を背けたことで、益々黒咲の加虐心に火をつけてしまったようだ。黒い笑みを浮かべたまま、唇どころか顔中口付けてくるのだ。
 百歩譲ってちゅーは許すけども。猫吸いみたいな感じで時々吸ってくるの、やめてくれないかなあ。
 
「……おれ、おいしくないよお」
「いや、なんか甘い。ミルクの匂いすんだよお前」

 その直後、フェイントで軽く頬を噛まれた。ひぎゃ!と体を捩るも、逃げることは叶わず--挙句の果て「しっぽ踏まれた猫みてーな反応だな」と嘲笑される始末。
 俺は改めて確信した。こいつ絶対、絶対動物に嫌われるタイプ!構いすぎて!!
 
 隣に住んでた愛猫家のおばちゃんの飼い猫。ぶちゅぶちゅ口付けられては嫌そうに耳を凹ませていたっけ、とふと思い出す。
 俺は今この瞬間。生まれて初めてあいつの気持ちを理解し、心から同情したのだった。



「おい、拗ねんなよ」
「…………むーん」
「でた。鳴き声」

 黒咲が鼻で笑う。
 俺の現在地は相も変わらず膝の上。いい加減うんざり……かと思いきや、慣れたせいか意外と過ごしやすい。
 人の温もり?みたいなの、案外悪くないなあなんて。らしくないことを思った。

「ま、いいけどねえ。別に」

 住ませてくれるなら、と目の前の肩に顔を埋める。
 黒咲は何故か呆れた様子だ。ややあって「はあ」とため息をついた後、俺の頭に優しく手を置いた。

「……なんか、色々心配になるわ」
「んえ?なんで」
「いや……まあ強いて言うなら、この街は俺みたいに良い奴ばっかじゃねーってこった」
 
 ええ、黒にゃん、まさかの良い奴カウント。彼が言うに「良い奴ばかりじゃない」この街で、大層恐れられているというのに?
 むむむと眉を顰める。正直なところ疑問は禁じ得ないが--まあ、″俺にとっては″悪い人じゃないし。
 ここは突っ込まないでおこう。自己完結した俺は、人知れず口端を上げた。
 なにも知らない黒咲は「そんなことより」と続ける。

「連絡先、交換しとくぞ。なんかあってからじゃ遅いからな」
 
 ぽんと背中を叩かれる。肩から顔を上げなあに?と見やれば、俺の鞄の方向へくいと顎をやるのだ。
 意図を悟り「ああ、携帯?」と尋ねる。ややあって、無言で頷く目の前の男。

「……うんとねえ」

 いやあ、困った。都会の人はみんな携帯持ってるのが普通なんかね?
 俺の地元じゃ周りほとんどお年寄りだったし、居てもせいぜいガラケーだったけど。

「どうした、早く持ってこい」
「……実は俺さあ」

 携帯、持ってない。
 付けっぱなしのバラエティ番組。テレビの中の芸人が、タイミング良く「なんでやねん!」とツッコんだ。
 
「持ってないって……無くしたとかではなく?」
「うん。誰かさんが落とした壊れかけのスマホ拾って、勝手に使ってたことはあるけどね」

 地元で一番交通量の多い(とはいえ、田舎なのでたかが知れている)道路の脇道。稀に来る観光客が手にしている、噂のスマホとやらが落ちていたのだ。画面割れてボロボロだし、要らないから捨てたんだろうなあ、と有難く拝借したのを覚えている。
 --割とすぐ壊れちゃったけど。当時を振り返りつつ、目の前の金目をじいと見やる。
 黒咲はガシガシと頭を掻き、俺に向き直った。

「思わぬ誤算だなー……明日、出勤前買いに行くぞ」
「え!買ってくれんのお!」
「ホストの必需品だからな。無けりゃ話にならん」
「……そんな重要なんだ」
「ああ。客への連絡とか……あと、最近じゃSNSも大事なんでね」

 SNS--地元じゃ悪い風に言われていた言葉に少々ドキリとした。田舎のおばちゃん達の情報によれば、騙されるやら成りすまし?やら、とにかく怖いもんだって聞いた。
 果たして俺に使いこなせるだろうか。

「他店の話だが……SNSがバズって認知度上がって、最下位から一気にNo.1みたいな例もある。特に、顔がいい奴はやって損ねえよ」
「えええ、ま、まじい!?」
「大マジ」

 「お前は取り敢えずバンバン自撮り載せとけ」と黒咲が言うので、ひとまず頷いておく。
 自撮り、とかしたことないけど。ワンチャンバズってNo.1採れる可能性があるなら、そりゃあやるさ。

「おれ、SNS頑張る!」

 やり方教えてね?と強請るように黒咲の首に抱きついた。
 バズって最下位からNo.1に上り詰めたホストとやらにも話を聞いてみたいけど、それはまあ後々。

「ああ……でも俺よか、如月のが適任だと思うが」
「…………」
「ッハハ、嫌がってやんの。野生の勘ってやつかね?」

 あいつ外面だけはいいのになあ、と不思議がる黒咲に、俺は白々しい笑みを返した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。 幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。 席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。 田山の明日はどっちだ!! ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。 BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。 11/21 本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。

処理中です...