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億万長者への道01《総売上:0円》
思わぬ誤算
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「なんでちゅーするの……?ぁ、ちょっと……んむ」
「あ?ペットにはちゅーするだろ」
「……俺、飼ったことないからわかんないよお、ぅ、ちゅ」
「俺もねえよ」
「っん……えぇ?」
謎の暴論を振りかざし喋るごとに口付けてくる黒咲。
困惑する俺に構わず、彼はもう一度俺の唇にキスをした。
「んむ、ぅ……ッちょ、ちょっとお~」
「おい、嫌がんなよ。もっとしたくなるだろ」
「ひぇっ……ん、ぅぅぅ」
--し、しつこい……!!
逃げるように顔を背けたことで、益々黒咲の加虐心に火をつけてしまったようだ。黒い笑みを浮かべたまま、唇どころか顔中口付けてくるのだ。
百歩譲ってちゅーは許すけども。猫吸いみたいな感じで時々吸ってくるの、やめてくれないかなあ。
「……おれ、おいしくないよお」
「いや、なんか甘い。ミルクの匂いすんだよお前」
その直後、フェイントで軽く頬を噛まれた。ひぎゃ!と体を捩るも、逃げることは叶わず--挙句の果て「しっぽ踏まれた猫みてーな反応だな」と嘲笑される始末。
俺は改めて確信した。こいつ絶対、絶対動物に嫌われるタイプ!構いすぎて!!
隣に住んでた愛猫家のおばちゃんの飼い猫。ぶちゅぶちゅ口付けられては嫌そうに耳を凹ませていたっけ、とふと思い出す。
俺は今この瞬間。生まれて初めてあいつの気持ちを理解し、心から同情したのだった。
「おい、拗ねんなよ」
「…………むーん」
「でた。鳴き声」
黒咲が鼻で笑う。
俺の現在地は相も変わらず膝の上。いい加減うんざり……かと思いきや、慣れたせいか意外と過ごしやすい。
人の温もり?みたいなの、案外悪くないなあなんて。らしくないことを思った。
「ま、いいけどねえ。別に」
住ませてくれるなら、と目の前の肩に顔を埋める。
黒咲は何故か呆れた様子だ。ややあって「はあ」とため息をついた後、俺の頭に優しく手を置いた。
「……なんか、色々心配になるわ」
「んえ?なんで」
「いや……まあ強いて言うなら、この街は俺みたいに良い奴ばっかじゃねーってこった」
ええ、黒にゃん、まさかの良い奴カウント。彼が言うに「良い奴ばかりじゃない」この街で、大層恐れられているというのに?
むむむと眉を顰める。正直なところ疑問は禁じ得ないが--まあ、″俺にとっては″悪い人じゃないし。
ここは突っ込まないでおこう。自己完結した俺は、人知れず口端を上げた。
なにも知らない黒咲は「そんなことより」と続ける。
「連絡先、交換しとくぞ。なんかあってからじゃ遅いからな」
ぽんと背中を叩かれる。肩から顔を上げなあに?と見やれば、俺の鞄の方向へくいと顎をやるのだ。
意図を悟り「ああ、携帯?」と尋ねる。ややあって、無言で頷く目の前の男。
「……うんとねえ」
いやあ、困った。都会の人はみんな携帯持ってるのが普通なんかね?
俺の地元じゃ周りほとんどお年寄りだったし、居てもせいぜいガラケーだったけど。
「どうした、早く持ってこい」
「……実は俺さあ」
携帯、持ってない。
付けっぱなしのバラエティ番組。テレビの中の芸人が、タイミング良く「なんでやねん!」とツッコんだ。
「持ってないって……無くしたとかではなく?」
「うん。誰かさんが落とした壊れかけのスマホ拾って、勝手に使ってたことはあるけどね」
地元で一番交通量の多い(とはいえ、田舎なのでたかが知れている)道路の脇道。稀に来る観光客が手にしている、噂のスマホとやらが落ちていたのだ。画面割れてボロボロだし、要らないから捨てたんだろうなあ、と有難く拝借したのを覚えている。
--割とすぐ壊れちゃったけど。当時を振り返りつつ、目の前の金目をじいと見やる。
黒咲はガシガシと頭を掻き、俺に向き直った。
「思わぬ誤算だなー……明日、出勤前買いに行くぞ」
「え!買ってくれんのお!」
「ホストの必需品だからな。無けりゃ話にならん」
「……そんな重要なんだ」
「ああ。客への連絡とか……あと、最近じゃSNSも大事なんでね」
SNS--地元じゃ悪い風に言われていた言葉に少々ドキリとした。田舎のおばちゃん達の情報によれば、騙されるやら成りすまし?やら、とにかく怖いもんだって聞いた。
果たして俺に使いこなせるだろうか。
「他店の話だが……SNSがバズって認知度上がって、最下位から一気にNo.1みたいな例もある。特に、顔がいい奴はやって損ねえよ」
「えええ、ま、まじい!?」
「大マジ」
「お前は取り敢えずバンバン自撮り載せとけ」と黒咲が言うので、ひとまず頷いておく。
自撮り、とかしたことないけど。ワンチャンバズってNo.1採れる可能性があるなら、そりゃあやるさ。
「おれ、SNS頑張る!」
やり方教えてね?と強請るように黒咲の首に抱きついた。
バズって最下位からNo.1に上り詰めたホストとやらにも話を聞いてみたいけど、それはまあ後々。
「ああ……でも俺よか、如月のが適任だと思うが」
「…………」
「ッハハ、嫌がってやんの。野生の勘ってやつかね?」
あいつ外面だけはいいのになあ、と不思議がる黒咲に、俺は白々しい笑みを返した。
「あ?ペットにはちゅーするだろ」
「……俺、飼ったことないからわかんないよお、ぅ、ちゅ」
「俺もねえよ」
「っん……えぇ?」
謎の暴論を振りかざし喋るごとに口付けてくる黒咲。
困惑する俺に構わず、彼はもう一度俺の唇にキスをした。
「んむ、ぅ……ッちょ、ちょっとお~」
「おい、嫌がんなよ。もっとしたくなるだろ」
「ひぇっ……ん、ぅぅぅ」
--し、しつこい……!!
逃げるように顔を背けたことで、益々黒咲の加虐心に火をつけてしまったようだ。黒い笑みを浮かべたまま、唇どころか顔中口付けてくるのだ。
百歩譲ってちゅーは許すけども。猫吸いみたいな感じで時々吸ってくるの、やめてくれないかなあ。
「……おれ、おいしくないよお」
「いや、なんか甘い。ミルクの匂いすんだよお前」
その直後、フェイントで軽く頬を噛まれた。ひぎゃ!と体を捩るも、逃げることは叶わず--挙句の果て「しっぽ踏まれた猫みてーな反応だな」と嘲笑される始末。
俺は改めて確信した。こいつ絶対、絶対動物に嫌われるタイプ!構いすぎて!!
隣に住んでた愛猫家のおばちゃんの飼い猫。ぶちゅぶちゅ口付けられては嫌そうに耳を凹ませていたっけ、とふと思い出す。
俺は今この瞬間。生まれて初めてあいつの気持ちを理解し、心から同情したのだった。
「おい、拗ねんなよ」
「…………むーん」
「でた。鳴き声」
黒咲が鼻で笑う。
俺の現在地は相も変わらず膝の上。いい加減うんざり……かと思いきや、慣れたせいか意外と過ごしやすい。
人の温もり?みたいなの、案外悪くないなあなんて。らしくないことを思った。
「ま、いいけどねえ。別に」
住ませてくれるなら、と目の前の肩に顔を埋める。
黒咲は何故か呆れた様子だ。ややあって「はあ」とため息をついた後、俺の頭に優しく手を置いた。
「……なんか、色々心配になるわ」
「んえ?なんで」
「いや……まあ強いて言うなら、この街は俺みたいに良い奴ばっかじゃねーってこった」
ええ、黒にゃん、まさかの良い奴カウント。彼が言うに「良い奴ばかりじゃない」この街で、大層恐れられているというのに?
むむむと眉を顰める。正直なところ疑問は禁じ得ないが--まあ、″俺にとっては″悪い人じゃないし。
ここは突っ込まないでおこう。自己完結した俺は、人知れず口端を上げた。
なにも知らない黒咲は「そんなことより」と続ける。
「連絡先、交換しとくぞ。なんかあってからじゃ遅いからな」
ぽんと背中を叩かれる。肩から顔を上げなあに?と見やれば、俺の鞄の方向へくいと顎をやるのだ。
意図を悟り「ああ、携帯?」と尋ねる。ややあって、無言で頷く目の前の男。
「……うんとねえ」
いやあ、困った。都会の人はみんな携帯持ってるのが普通なんかね?
俺の地元じゃ周りほとんどお年寄りだったし、居てもせいぜいガラケーだったけど。
「どうした、早く持ってこい」
「……実は俺さあ」
携帯、持ってない。
付けっぱなしのバラエティ番組。テレビの中の芸人が、タイミング良く「なんでやねん!」とツッコんだ。
「持ってないって……無くしたとかではなく?」
「うん。誰かさんが落とした壊れかけのスマホ拾って、勝手に使ってたことはあるけどね」
地元で一番交通量の多い(とはいえ、田舎なのでたかが知れている)道路の脇道。稀に来る観光客が手にしている、噂のスマホとやらが落ちていたのだ。画面割れてボロボロだし、要らないから捨てたんだろうなあ、と有難く拝借したのを覚えている。
--割とすぐ壊れちゃったけど。当時を振り返りつつ、目の前の金目をじいと見やる。
黒咲はガシガシと頭を掻き、俺に向き直った。
「思わぬ誤算だなー……明日、出勤前買いに行くぞ」
「え!買ってくれんのお!」
「ホストの必需品だからな。無けりゃ話にならん」
「……そんな重要なんだ」
「ああ。客への連絡とか……あと、最近じゃSNSも大事なんでね」
SNS--地元じゃ悪い風に言われていた言葉に少々ドキリとした。田舎のおばちゃん達の情報によれば、騙されるやら成りすまし?やら、とにかく怖いもんだって聞いた。
果たして俺に使いこなせるだろうか。
「他店の話だが……SNSがバズって認知度上がって、最下位から一気にNo.1みたいな例もある。特に、顔がいい奴はやって損ねえよ」
「えええ、ま、まじい!?」
「大マジ」
「お前は取り敢えずバンバン自撮り載せとけ」と黒咲が言うので、ひとまず頷いておく。
自撮り、とかしたことないけど。ワンチャンバズってNo.1採れる可能性があるなら、そりゃあやるさ。
「おれ、SNS頑張る!」
やり方教えてね?と強請るように黒咲の首に抱きついた。
バズって最下位からNo.1に上り詰めたホストとやらにも話を聞いてみたいけど、それはまあ後々。
「ああ……でも俺よか、如月のが適任だと思うが」
「…………」
「ッハハ、嫌がってやんの。野生の勘ってやつかね?」
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