ハーレム目指してホストデビューしたら、ヤンデレ男たちと修羅場な件。

幻中雲夕

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億万長者への道01《総売上:0円》

愉快な仲間たち

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 黒咲と如月が居なくなったあと。俺は絶賛、残ったキャストたちの質問攻めに追われていた。

「ええっと、おれえ、この後は黒にゃんとこに行くことになってるから……」
「……てか、マジで黒咲さんとどういう関係?あの人が黒にゃん呼び許してる時点で驚きなんだが……」
「んと、今日ヤクザみたいな人に詰められてるとこを助けてもらった」
「え!?会ったの今日!?」

 キャストたちの様子で悟ったが、黒にゃんは普段中々に恐れられているらしい。
 ちょっとウザイとこあるけど、怖くはないよなあ?と思いつつ「お前ヤクザに詰められるって……なにしたんだよ……」と呆れ気味の茶髪キャストに抗議する。

「なんもしてないよお!勝手に言いがかりつけられて、お金ないのにお金とられそうになったの……」
「あ、ああ。なるほど」
「お前弱っちそうだもんなあ」

 挙句の果て「ちゃんと飯食ってる?」なんて心配される始末。全く、揃いも揃って馬鹿にしてさあ!
 しょうがないので、田舎の自然で培った自慢の力こぶを見せてやった。いや、欠片もなくね?という誰かのツッコミは無視。ここにいる人たちがやけに高身長細マッチョ揃いなだけである。

「如月さんも言ってたけどさあ、確かにうちのキャストとは趣向が違うよな。黒咲さん、なんの意図があったんだろ」
「……そもそも、うち身長制限無かったっけ?175以上とか……お前何センチよ」
「えー、わかんない。180くらいじゃない?」
「嘘つけそれ俺の身長だわ!お前170も無いだろ、多分」

 だって、マジで知らないし。
 身長測ったことないもん、と口をむくれさせる。
 俺の発言に周りのキャストたちは驚いたように顔を見合せた。

「え、健康診断は?」
「行ったことない!」
「学校とかで計るだろ~」
「んーと、小学校とかでは測ったかもねえ?でも俺、中学から学校行ってないし」

 言いながら、ソファーの背もたれにズルズルと寄りかかる。包み込まれるようなフィット感がやけに気持ちよかった。さすが、高級ソファー。

「……あれ、中学って義務教育よな」
「元から父さんもいないし、そん時母さんもいなくなっちゃったの。金ないしド田舎で学校遠いし、まあ行かなくていっか~みたいな?」

 小さい頃の記憶はあまりない。親の記憶も。
 母さんが言うにどうしようも無いクズだった父さんは、俺が小さい頃どっかで事故って野垂れ死んだらしい。母さんは俺が小学校を卒業すると同時に消えた。
 たまたま耳に入ったばあちゃんたちの噂話によれば「都会の男に唆されて……」とかなんとか。まあ多分、俺を捨てて男と上京したってことなんだろうな。

「あ、これ別に暗い話じゃないから。気にしないでねえ~」

 学校とか興味なかったし、と笑う。
 しかし周りはどうにも気まずいようで、それぞれが反応に困った結果、重たい沈黙が場を包むのだ。

 --別に、ただの世間話じゃんね?

 俺は人知れずため息をつく。親なんて元々いないようなものだし。まともに世話された記憶もないから、自分が不幸だとか、可哀想って言われてもいまいちわかんない。俺は一人でのびのびと……たまに近所のばあちゃんたちに世話してもらって、楽しく暮らしてましたよ。

 どんよりとした空気のさなか。どーすっかねえと思考を巡らせていると、右隣に座る茶髪キャストが突如こちらに向き直った。

「お前………」

 なにやら小刻みに震えている。どうしたんだろ、具合でも悪いのかな。
 流石の俺も心配になり、大丈夫?と声をかけようとしたときだ。彼はがばりと腕を広げ、次の瞬間、力強くこちらを抱きしめたのだ。

「んぇ!?」
「っお前、苦労してきたんだな~~!!」

 茶髪キャストは俺の肩に顔をのせ、ズビズビと鼻を啜る。もしかして泣いているのだろうか……今の話で?
 肩の布が湿っていく気配に思わず目を見開く。

「内心ちゃらんぽらんそうで大丈夫かなとか思ってたけど、全然そんなこと無かった、すまん!お前はすごい、すごいよ……」
「ええ、ちょ、なんで泣いてんのお~!?俺別に、苦労とかしてないけど」
「無理して笑わなくていいんだ。大丈夫、分からないことがあったらなんでも聞いてくれ!」

 肩から顔を上げた茶髪キャストは俺の顔を真正面から見つめ、「あと、なんかあったら言え!俺が守ってやる!」と言い放った。

 --ええ~。あ、ありがた迷惑……。

 なんて言えるわけもなく。それとなく、ハハ、と乾いた笑いを返しておいた。
 悪い人ではないと思うけども、少々面倒臭いというか暑苦しいというか。
 困惑する俺を見かねたのだろう。左隣に座る黒髪のクールそうなキャストが、俺の頭越しに茶髪さんをこずいた。

「っいてっ!」
「暑くなりすぎ」
「……いや、だってなあ。まさか、そんな人生を送ってるなんて思わなかったから……」

 再び語り出した茶髪キャストを見て、黒髪キャストはやれやれといった様子で肩を竦めた。

「……たまに暑苦しいけど、まあ、悪いやつじゃないから。許してやって?」
「は、はあ……」

 俺の頭に手を置き、「あと」と彼は続ける。

「俺も協力できることがあれば気軽に言ってくれていいから」
「え……その、ほんと?」
「ああ、もちろん」
 
 最後に、「さっきは振られちゃったけど……今度時間があるとき、ご飯でも行こうね」と黒髪キャストは優しく微笑むのだ。
 
 おや?
 俺は名探偵のごとくぴくりと眉を動かす。一時はどうなるかと思ったけど--なんかみんな勝手に同情してくれたおかげで、優しくしてくれそうかも?
 思わぬ展開に先程と打って変わって顔を綻ばせた俺は、背中の後ろで小さくガッツポーズをキメる。ラッキー、話してよかったじゃんね。自分の特殊?らしい生い立ちが、まさかこんな所で役立つとは。
 今後も使えそうだなあと打算的なことを考えつつ、黒髪キャストの誘いに頷きかけたとき。

「おいちょっとまて。……お前、下心あるな?」

 茶髪キャストがハッとしたように黒髪キャストと俺の間に手を差し込んだ。顔を俯かせそう語りかける様子は、なにかの映画のワンシーンみたいだった。てか下心ってなに。

「俺、男だよ……?」
「なに言ってんだろね。こいつ」
「いいや俺にはわかる、わかるぞ……誤魔化したって無駄だ!こいつを見守る立場として、そんな輩を近づけることはできない!」

 ふんす、と鼻息を立てそう意気込む茶髪キャスト。

「……いや、モンペかよ」

 先程まで静観していたキャストたちの声が合わさった瞬間だった。
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