5 / 17
億万長者への道01《総売上:0円》
Noise Ⅰ
しおりを挟む
「源氏名は……まあ、わざわざ変える必要も無い気がするが。希望はあるか?」
「いいや、特には無いかなあ」
「んじゃ、杏樹……カタカナの″アンジュ″でどうだ?他にしっくりくる名前もねえし」
「いーよ!俺、源氏名決めたってどうせ自分の名前言っちゃうだろうし」
「んじゃ、それで決まりな」
今現在、俺の働く店舗へ見学に行くべく歌舞伎町を歩いている訳だが。……隣のこの男、とにかく目立つ。歩く度モーゼのように人が掃けていくではないか。
なにこれ、怖がられてるの?それともあの……有名人だから的な?果たしてどっちなんだろう。
「……黒咲サンて、怖い人なの?」
「いんや?ちょっと顔が知れてるだけ」
「ああ、そう………」
にっこり。と形容詞がつけられそうな態とらしい笑みに、俺は深く追求するのを辞めた。多分、触れちゃいけないやつだ。
「てかお前、黒咲さんじゃなくていいぞ。さん付け苦手だろ」
「ええ~、じゃあなんて呼ぶの?……くろにゃん?」
「いや、黒にゃんはやめろ。……黒咲とか芙蓉とか、そこらへんでいいだろ」
「……」
「なんだよ、その目は」
黒咲がじとりとこちらを見下ろす。
ふざけて言った″黒にゃん″という呼び名が、思いのほか気に入ってしまったのだ。俺は意外と、あだ名をつけるセンスがある。ちなみに決め手は語呂。
これ以上に語呂のいい呼び名は思いつかないし、黒咲と芙蓉は普通すぎる。だったら、やっぱり黒にゃんがいいな、と思ったのだ。
「黒にゃん」
「おい」
「………黒にゃん」
訴えるような俺の視線に、黒咲サン……もとい黒にゃんは、「ぐう」と唸る。やがて、観念したように頭を手で押さえた。
「ああ、もういいさ。勝手にしろ。黒にゃんでもなんでも好きに呼びやがれ」
「ヤッター!!黒にゃん、すき~~」
「はあ……とんだ大物だな」
黒咲はそう言ってため息をつくと、ふと視線を上へやる。
数歩進んだところで、その歩みを止めた。
「ほら、着いたぞ」
「んえ?」
「--ようこそ、Noiseへ」
そう言って指し示されたゆびの先。
黒基調に時々金があしらわれた、ゴージャスで品のある色彩。正面から、噴水を囲むように続く螺旋階段と、一定間隔に貼られたキャストらしき人物たちの写真が見えた。(無論、全員錚々たる美形である)
ホストクラブ……というより、お城みたいな造りだ。俺一人で歩いていたら、「なんでこんな所にお城が!?」と疑問に思っていたことだろう。
「……ここが、『Noise』……!」
キャストたちの写真を見てなんとなく、黒咲が「ある程度統一感を出したい」と言った意味が分かった。だって、下手なアイドルグループよりもキラキラしてかっこいいもん。それに加えて距離が近いってなったら、そりゃあ女の子はハマるよ。
「ま、外装も拘ったからな。内装は更にすごいぞ」
「すごい、すごいよ黒にゃん!漫画で見たホストクラブよりゴージャスだもん……!しかも、みんなかっこいい……」
「だろ?建物もキャストも、ついでに内勤も。兎に角″質″に拘るってのがうちのブランディングだからな」
「今日からお前もその一員ってわけだ」と肩をこずいてくる黒咲。「俺、ホストになるんだ」って。そう実感した途端、身体中に熱が駆け巡った。
なんだかんだ、大変だったよ。ヒッチハイクもそうだし、ヤクザ風男に絡まれてさっきは死ぬかと思ったし。
でも、やっと憧れのホストになれる。億万長者……それから、夢のハーレムを目指せるんだ!と思ったら、急にワクワクしてきたのだ。
そりゃあ、まだ不安もあるけど。ここまできたらやるしかないでしょ。
「黒にゃん……俺、頑張るよ!」
ふんす、と鼻息を鳴らし黒咲を上目に見やる。やる気に満ちた様子を感じ取ったのだろう、黒咲は「ああ」と目尻を下げ俺の頭を撫でた。
「えいえいおー!!」
「おうおう、いい心構えだ。気持ちさえ負けてなけりゃ、お前の顔なら上手くやれるさ」
そう言って、黒咲はこちらへ手を差し出す。
「……さて、行こうか。起爆剤のお披露目だ」
螺旋階段の先。扉の向こうには、どんな景色が待っているんだろう。
ここは俺が、億万長者を目指す場所。今か
ら進むこの一歩が、俺のホスト人生の始まりなんだ……!
たくさんの希望を胸に、俺は差し出された手をぎゅうと力強く握った。
「いいや、特には無いかなあ」
「んじゃ、杏樹……カタカナの″アンジュ″でどうだ?他にしっくりくる名前もねえし」
「いーよ!俺、源氏名決めたってどうせ自分の名前言っちゃうだろうし」
「んじゃ、それで決まりな」
今現在、俺の働く店舗へ見学に行くべく歌舞伎町を歩いている訳だが。……隣のこの男、とにかく目立つ。歩く度モーゼのように人が掃けていくではないか。
なにこれ、怖がられてるの?それともあの……有名人だから的な?果たしてどっちなんだろう。
「……黒咲サンて、怖い人なの?」
「いんや?ちょっと顔が知れてるだけ」
「ああ、そう………」
にっこり。と形容詞がつけられそうな態とらしい笑みに、俺は深く追求するのを辞めた。多分、触れちゃいけないやつだ。
「てかお前、黒咲さんじゃなくていいぞ。さん付け苦手だろ」
「ええ~、じゃあなんて呼ぶの?……くろにゃん?」
「いや、黒にゃんはやめろ。……黒咲とか芙蓉とか、そこらへんでいいだろ」
「……」
「なんだよ、その目は」
黒咲がじとりとこちらを見下ろす。
ふざけて言った″黒にゃん″という呼び名が、思いのほか気に入ってしまったのだ。俺は意外と、あだ名をつけるセンスがある。ちなみに決め手は語呂。
これ以上に語呂のいい呼び名は思いつかないし、黒咲と芙蓉は普通すぎる。だったら、やっぱり黒にゃんがいいな、と思ったのだ。
「黒にゃん」
「おい」
「………黒にゃん」
訴えるような俺の視線に、黒咲サン……もとい黒にゃんは、「ぐう」と唸る。やがて、観念したように頭を手で押さえた。
「ああ、もういいさ。勝手にしろ。黒にゃんでもなんでも好きに呼びやがれ」
「ヤッター!!黒にゃん、すき~~」
「はあ……とんだ大物だな」
黒咲はそう言ってため息をつくと、ふと視線を上へやる。
数歩進んだところで、その歩みを止めた。
「ほら、着いたぞ」
「んえ?」
「--ようこそ、Noiseへ」
そう言って指し示されたゆびの先。
黒基調に時々金があしらわれた、ゴージャスで品のある色彩。正面から、噴水を囲むように続く螺旋階段と、一定間隔に貼られたキャストらしき人物たちの写真が見えた。(無論、全員錚々たる美形である)
ホストクラブ……というより、お城みたいな造りだ。俺一人で歩いていたら、「なんでこんな所にお城が!?」と疑問に思っていたことだろう。
「……ここが、『Noise』……!」
キャストたちの写真を見てなんとなく、黒咲が「ある程度統一感を出したい」と言った意味が分かった。だって、下手なアイドルグループよりもキラキラしてかっこいいもん。それに加えて距離が近いってなったら、そりゃあ女の子はハマるよ。
「ま、外装も拘ったからな。内装は更にすごいぞ」
「すごい、すごいよ黒にゃん!漫画で見たホストクラブよりゴージャスだもん……!しかも、みんなかっこいい……」
「だろ?建物もキャストも、ついでに内勤も。兎に角″質″に拘るってのがうちのブランディングだからな」
「今日からお前もその一員ってわけだ」と肩をこずいてくる黒咲。「俺、ホストになるんだ」って。そう実感した途端、身体中に熱が駆け巡った。
なんだかんだ、大変だったよ。ヒッチハイクもそうだし、ヤクザ風男に絡まれてさっきは死ぬかと思ったし。
でも、やっと憧れのホストになれる。億万長者……それから、夢のハーレムを目指せるんだ!と思ったら、急にワクワクしてきたのだ。
そりゃあ、まだ不安もあるけど。ここまできたらやるしかないでしょ。
「黒にゃん……俺、頑張るよ!」
ふんす、と鼻息を鳴らし黒咲を上目に見やる。やる気に満ちた様子を感じ取ったのだろう、黒咲は「ああ」と目尻を下げ俺の頭を撫でた。
「えいえいおー!!」
「おうおう、いい心構えだ。気持ちさえ負けてなけりゃ、お前の顔なら上手くやれるさ」
そう言って、黒咲はこちらへ手を差し出す。
「……さて、行こうか。起爆剤のお披露目だ」
螺旋階段の先。扉の向こうには、どんな景色が待っているんだろう。
ここは俺が、億万長者を目指す場所。今か
ら進むこの一歩が、俺のホスト人生の始まりなんだ……!
たくさんの希望を胸に、俺は差し出された手をぎゅうと力強く握った。
22
お気に入りに追加
650
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の僕
みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。
※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。
悪役令息、主人公に媚びを売る
枝豆
BL
前世の記憶からこの世界が小説の中だと知るウィリアム
しかも自分はこの世界の主人公をいじめて最終的に殺される悪役令息だった。前世の記憶が戻った時には既に手遅れ
このままでは殺されてしまう!こうしてウィリアムが閃いた策は主人公にひたすら媚びを売ることだった
n番煎じです。小説を書くのは初めてな故暖かな目で読んで貰えると嬉しいです
主人公がゲスい
最初の方は攻めはわんころ
主人公最近あんま媚び売ってません。
主人公のゲスさは健在です。
不定期更新
感想があると喜びます
誤字脱字とはおともだち
BLゲーに転生!!やったーーー!しかし......
∞輪廻∞
BL
BLゲーの悪役に転生した!!!よっしゃーーーー!!!やったーーー!! けど、、なんで、、、
ヒロイン含めてなんで攻略対象達から俺、好かれてるんだ?!?
ヒロイン!!
通常ルートに戻れ!!!
ちゃんとヒロインもヒロイン(?)しろーー!!!
攻略対象も!
ヒロインに行っとけ!!!
俺は、観セ(ゴホッ!!ゴホッ!ゴホゴホッ!!
俺はエロのスチルを見てグフグフ言うのが好きなんだよぉーー!!!( ̄^ ̄゜)
誰かーーー!!へるぷみぃー!!!
この、悪役令息
無自覚・天然!!
今度こそ幼なじみから逃げられると思ったのに!
枝豆
BL
どこまでもついてくる攻めと逃げたい受け
攻め 坂木 唯人 177cm 面が良いナチュラルサイコパス
受け 黒田 海 168cm どこにでもいる黒髪平凡。
途中、主人公が女の子と付き合う表現がありますが、BLなので最終的には攻めとカップリングされます。
主人公は女の子好きなのに。可哀想
攻めは別にゲイでは無いが、主人公は抱ける
ワンコと見せかけた拗らせナチュラルサイコパス攻めとそれに逃げようとするけどダメそうな不憫受けの話
アルファポリス以外にも、pixivで掲載しています
4人の乙女ゲーサイコパス従者と逃げたい悪役令息の俺
りゅの
BL
おそらく妹が買ったであろうR18の乙女ゲーの世界に入り込んでしまった俺は、気がついたらその世界の悪役として登場していた。4人のサイコパス従者に囲まれ絶体絶命ーーーやだ、視線が怖い!!帰りたい!!!
って思ってたら………あれ?って話です。
一部従者に人外要素ある上バリバリ主人公総受けです。対戦よろしくお願いします。
⚠️主人公の「身体の持ち主」かなりゲスいことやってます。苦手な方はお気をつけください
広告視聴・コメント・ブクマ大変励みになります。いつもありがとうございます。
HOT女性向けランキング 39位
BLランキング 22位
ありがとうございます
2024/03/20
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる