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億万長者への道01《総売上:0円》
Noise Ⅰ
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「源氏名は……まあ、わざわざ変える必要も無い気がするが。希望はあるか?」
「いいや、特には無いかなあ」
「んじゃ、杏樹……カタカナの″アンジュ″でどうだ?他にしっくりくる名前もねえし」
「いーよ!俺、源氏名決めたってどうせ自分の名前言っちゃうだろうし」
「んじゃ、それで決まりな」
今現在、俺の働く店舗へ見学に行くべく歌舞伎町を歩いている訳だが。……隣のこの男、とにかく目立つ。歩く度モーゼのように人が掃けていくではないか。
なにこれ、怖がられてるの?それともあの……有名人だから的な?果たしてどっちなんだろう。
「……黒咲サンて、怖い人なの?」
「いんや?ちょっと顔が知れてるだけ」
「ああ、そう………」
にっこり。と形容詞がつけられそうな態とらしい笑みに、俺は深く追求するのを辞めた。多分、触れちゃいけないやつだ。
「てかお前、黒咲さんじゃなくていいぞ。さん付け苦手だろ」
「ええ~、じゃあなんて呼ぶの?……くろにゃん?」
「いや、黒にゃんはやめろ。……黒咲とか芙蓉とか、そこらへんでいいだろ」
「……」
「なんだよ、その目は」
黒咲がじとりとこちらを見下ろす。
ふざけて言った″黒にゃん″という呼び名が、思いのほか気に入ってしまったのだ。俺は意外と、あだ名をつけるセンスがある。ちなみに決め手は語呂。
これ以上に語呂のいい呼び名は思いつかないし、黒咲と芙蓉は普通すぎる。だったら、やっぱり黒にゃんがいいな、と思ったのだ。
「黒にゃん」
「おい」
「………黒にゃん」
訴えるような俺の視線に、黒咲サン……もとい黒にゃんは、「ぐう」と唸る。やがて、観念したように頭を手で押さえた。
「ああ、もういいさ。勝手にしろ。黒にゃんでもなんでも好きに呼びやがれ」
「ヤッター!!黒にゃん、すき~~」
「はあ……とんだ大物だな」
黒咲はそう言ってため息をつくと、ふと視線を上へやる。
数歩進んだところで、その歩みを止めた。
「ほら、着いたぞ」
「んえ?」
「--ようこそ、Noiseへ」
そう言って指し示されたゆびの先。
黒基調に時々金があしらわれた、ゴージャスで品のある色彩。正面から、噴水を囲むように続く螺旋階段と、一定間隔に貼られたキャストらしき人物たちの写真が見えた。(無論、全員錚々たる美形である)
ホストクラブ……というより、お城みたいな造りだ。俺一人で歩いていたら、「なんでこんな所にお城が!?」と疑問に思っていたことだろう。
「……ここが、『Noise』……!」
キャストたちの写真を見てなんとなく、黒咲が「ある程度統一感を出したい」と言った意味が分かった。だって、下手なアイドルグループよりもキラキラしてかっこいいもん。それに加えて距離が近いってなったら、そりゃあ女の子はハマるよ。
「ま、外装も拘ったからな。内装は更にすごいぞ」
「すごい、すごいよ黒にゃん!漫画で見たホストクラブよりゴージャスだもん……!しかも、みんなかっこいい……」
「だろ?建物もキャストも、ついでに内勤も。兎に角″質″に拘るってのがうちのブランディングだからな」
「今日からお前もその一員ってわけだ」と肩をこずいてくる黒咲。「俺、ホストになるんだ」って。そう実感した途端、身体中に熱が駆け巡った。
なんだかんだ、大変だったよ。ヒッチハイクもそうだし、ヤクザ風男に絡まれてさっきは死ぬかと思ったし。
でも、やっと憧れのホストになれる。億万長者……それから、夢のハーレムを目指せるんだ!と思ったら、急にワクワクしてきたのだ。
そりゃあ、まだ不安もあるけど。ここまできたらやるしかないでしょ。
「黒にゃん……俺、頑張るよ!」
ふんす、と鼻息を鳴らし黒咲を上目に見やる。やる気に満ちた様子を感じ取ったのだろう、黒咲は「ああ」と目尻を下げ俺の頭を撫でた。
「えいえいおー!!」
「おうおう、いい心構えだ。気持ちさえ負けてなけりゃ、お前の顔なら上手くやれるさ」
そう言って、黒咲はこちらへ手を差し出す。
「……さて、行こうか。起爆剤のお披露目だ」
螺旋階段の先。扉の向こうには、どんな景色が待っているんだろう。
ここは俺が、億万長者を目指す場所。今か
ら進むこの一歩が、俺のホスト人生の始まりなんだ……!
たくさんの希望を胸に、俺は差し出された手をぎゅうと力強く握った。
「いいや、特には無いかなあ」
「んじゃ、杏樹……カタカナの″アンジュ″でどうだ?他にしっくりくる名前もねえし」
「いーよ!俺、源氏名決めたってどうせ自分の名前言っちゃうだろうし」
「んじゃ、それで決まりな」
今現在、俺の働く店舗へ見学に行くべく歌舞伎町を歩いている訳だが。……隣のこの男、とにかく目立つ。歩く度モーゼのように人が掃けていくではないか。
なにこれ、怖がられてるの?それともあの……有名人だから的な?果たしてどっちなんだろう。
「……黒咲サンて、怖い人なの?」
「いんや?ちょっと顔が知れてるだけ」
「ああ、そう………」
にっこり。と形容詞がつけられそうな態とらしい笑みに、俺は深く追求するのを辞めた。多分、触れちゃいけないやつだ。
「てかお前、黒咲さんじゃなくていいぞ。さん付け苦手だろ」
「ええ~、じゃあなんて呼ぶの?……くろにゃん?」
「いや、黒にゃんはやめろ。……黒咲とか芙蓉とか、そこらへんでいいだろ」
「……」
「なんだよ、その目は」
黒咲がじとりとこちらを見下ろす。
ふざけて言った″黒にゃん″という呼び名が、思いのほか気に入ってしまったのだ。俺は意外と、あだ名をつけるセンスがある。ちなみに決め手は語呂。
これ以上に語呂のいい呼び名は思いつかないし、黒咲と芙蓉は普通すぎる。だったら、やっぱり黒にゃんがいいな、と思ったのだ。
「黒にゃん」
「おい」
「………黒にゃん」
訴えるような俺の視線に、黒咲サン……もとい黒にゃんは、「ぐう」と唸る。やがて、観念したように頭を手で押さえた。
「ああ、もういいさ。勝手にしろ。黒にゃんでもなんでも好きに呼びやがれ」
「ヤッター!!黒にゃん、すき~~」
「はあ……とんだ大物だな」
黒咲はそう言ってため息をつくと、ふと視線を上へやる。
数歩進んだところで、その歩みを止めた。
「ほら、着いたぞ」
「んえ?」
「--ようこそ、Noiseへ」
そう言って指し示されたゆびの先。
黒基調に時々金があしらわれた、ゴージャスで品のある色彩。正面から、噴水を囲むように続く螺旋階段と、一定間隔に貼られたキャストらしき人物たちの写真が見えた。(無論、全員錚々たる美形である)
ホストクラブ……というより、お城みたいな造りだ。俺一人で歩いていたら、「なんでこんな所にお城が!?」と疑問に思っていたことだろう。
「……ここが、『Noise』……!」
キャストたちの写真を見てなんとなく、黒咲が「ある程度統一感を出したい」と言った意味が分かった。だって、下手なアイドルグループよりもキラキラしてかっこいいもん。それに加えて距離が近いってなったら、そりゃあ女の子はハマるよ。
「ま、外装も拘ったからな。内装は更にすごいぞ」
「すごい、すごいよ黒にゃん!漫画で見たホストクラブよりゴージャスだもん……!しかも、みんなかっこいい……」
「だろ?建物もキャストも、ついでに内勤も。兎に角″質″に拘るってのがうちのブランディングだからな」
「今日からお前もその一員ってわけだ」と肩をこずいてくる黒咲。「俺、ホストになるんだ」って。そう実感した途端、身体中に熱が駆け巡った。
なんだかんだ、大変だったよ。ヒッチハイクもそうだし、ヤクザ風男に絡まれてさっきは死ぬかと思ったし。
でも、やっと憧れのホストになれる。億万長者……それから、夢のハーレムを目指せるんだ!と思ったら、急にワクワクしてきたのだ。
そりゃあ、まだ不安もあるけど。ここまできたらやるしかないでしょ。
「黒にゃん……俺、頑張るよ!」
ふんす、と鼻息を鳴らし黒咲を上目に見やる。やる気に満ちた様子を感じ取ったのだろう、黒咲は「ああ」と目尻を下げ俺の頭を撫でた。
「えいえいおー!!」
「おうおう、いい心構えだ。気持ちさえ負けてなけりゃ、お前の顔なら上手くやれるさ」
そう言って、黒咲はこちらへ手を差し出す。
「……さて、行こうか。起爆剤のお披露目だ」
螺旋階段の先。扉の向こうには、どんな景色が待っているんだろう。
ここは俺が、億万長者を目指す場所。今か
ら進むこの一歩が、俺のホスト人生の始まりなんだ……!
たくさんの希望を胸に、俺は差し出された手をぎゅうと力強く握った。
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