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気付いたら転生してました。
11.新しい家族
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夕食の席に着くと、すでにお父様とお母様は席に着いていた。
メイドについて遅れてやってきたレイモンド。促されて私の隣の席に座る。
レイモンドは、終始ビクビクしている。
そもそもこの後部屋に入ってきて、私達がいる事に驚き。
メイドに椅子を引かれた事に驚き。
出てきた料理に驚き。
更には、みんなの前に並ぶ料理を見渡し驚き…。
ちょっと懐かしい光景。私も初めはそうでしたから。いやぁ、一般庶民には貴族の食卓はは驚きの連続だったわ。流石にもう慣れたけど。
様子を盗み見ていると、レイモンドの「驚き」は、私の当初の驚きと違うのだと気付いた。
驚きと共に、怯えが見えるのだ。
彼は没落していたとは言え、貴族の家庭で育っている。
悲惨な生い立ちが原因だろう。
家族で共に食事など取ったことがないのだろう。
メイドに椅子を引いてもらったことがないのだろう。
小さくて痩せている身体、まともな食事をさせてもらっていなかったのだろう。
家族と同じものを食べていなかったのだろう。
よく見ると、レイモンドの細い腕には小さな傷や痣がある……。
ゲームの中では、調子の良い優男でしかなかったレイモンド。エメラルドちゃんへの生い立ち語りの場面では、「へ~。よくある設定だなぁ」ぐらいにしか思ってなかった。
今、その生い立ちを辿ってきた、生身の人間が目の前にいる。「よくある設定」が産み出した姿はあまりにも、悲痛なものだった。
「レイモンド。食事は口に合っているかな?」
お父様が声をかけると、ビクりと肩を震わせるレイモンド。
「…はい。とても、美味しいです。」
隣からか細い声が聞こえる。
「そうか、それは良かった。量は大丈夫かい?足りない様なら、おかわりをするといい。」
「いえ…。こんなに食べたことない、です。もうお腹いっぱいで…残しちゃいそうで…。ごめんなさい。」
お母様が少し鼻を啜って立ち上がった。
「ごめんなさいっ。お食事中だけど、失礼するわ。」
足早に部屋から出て行ったお母様。扉を閉める瞬間、涙を零すのが見えた。
レイモンドは、始め驚いてお母様が出て行くのを見ていたが、直ぐに小さい身体を更に小さくして、今にも泣き出しそうにしている。
「ご、ごめんなさい…。僕…。ごめんなさい。」
「レイモンド、大丈夫だよ。君は悪くないんだ。残しても怒ったりしないから。無理して食べたりしなくても大丈夫だ。」
焦って料理を食べようとするレイモンドを優しく諭すお父様。
「お母様はきっと、急にお腹が痛くなっちゃったのよ。トイレだわ!レイモンド!紳士なんだったら見て見ぬふりよ!」
すかさず、私がナイスフォローをいれる。
「メリー…。トイレって…。」
苦笑するお父様。ポカンと口を開けてこちらを見るレイモンド。
え?何?今のダメ!?
お母様は戻ってはこなかったが、私達3人は食事を終えた。
レイモンドは、メインの料理を少し残していた。無理に食べなかったことに、逆に安心した。
「明日、館の中を案内してあげるわ!」
「それはいい!そうしてやってくれ。私は暫く仕事で日中家を空けるから。メリー、頼んだよ。それとレイモンド、急にうちに来たから、足りない物も多いだろう。服などは手配するが、他に足りない物があったら私かマリエルに言うだよ?」
「はい…。ありがとうございます。」
まだ、緊張しているようだけど、どもり無く喋るようになった。
「メリー、レイモンドおやすみ。良い夢!」
そう言うと、お父様は部屋を出た。レイモンドもメイドに促されて部屋に戻って行く。
さて私は、最近はまっている冒険小説の続きを書庫に取りに行ってから部屋に戻ります。
書庫の中では珍しく、子ども向けの本で読みやすい本を見つけたのだ。どうやらお父様が小さい時に買ってもらった本らしい。
書庫に行く途中、泣き声とそれを慰めるような声が聞こえてきた。
お母様の部屋の扉が、少し開いている。近付くと話している内容がはっきりした。お母様とお父様だ。
「シュレプ…。私、耐えられなくて…。あの子が不憫で…!あんなに幼い子が。あんなに怯えて!腕や足に沢山、傷や痣があって…。荷物も小さな鞄1つだけ。あんまりだわ!」
「ああ、もっと早くレイモンドを見つけてあげられていれば良かったんだけどね…。今、レイモンドは唯一の味方だった母親を亡くして、新しい家に養子に来て、一番不安な時だ。私達でしっかり彼を支えてあげよう。」
泣きながら嘆くお母様を優しく励ますお父様。あぁ!なんていい夫婦なんだ!!
なんでこんないい夫婦の娘は、ゲーム上であんな性悪なんだ!?
そんな疑問を胸に、バレないように、ソッと静かにその場を離れた。
***
次の日の朝食の席。お父様もいることにびっくりした。朝早くに仕事に出てしまうので、朝食はいつもお母様と私の2人だったからだ。レイモンドに気を使っているのだろう。
「レイモンド。昨日は食事の途中で席を外してしまってごめんなさいね。」
お母様に声を掛けられ、ビックリしたようだけど、料理から顔を上げ、横にブンブン首を振るレイモンド。
「あら、そんなに首を振っては痛めてしまうわ?」
フフフと笑うお母様。レイモンドはピタリと首を振るのを止めた。
「そうそう、今日の昼食後に、商会の者が来るからね。メリーもドレスを新調するといい。」
「はい!お父様。じゃあ、レイモンド、館を案内するのは朝食の後にしましょうか!」
「はい。」
小さく頷くレイモンド。
レイモンドがしっかり朝食を食べている事を確認すると、早々にお父様は仕事へと出かけて行った。
昨晩と比べ、穏やかな時間だった。
メイドについて遅れてやってきたレイモンド。促されて私の隣の席に座る。
レイモンドは、終始ビクビクしている。
そもそもこの後部屋に入ってきて、私達がいる事に驚き。
メイドに椅子を引かれた事に驚き。
出てきた料理に驚き。
更には、みんなの前に並ぶ料理を見渡し驚き…。
ちょっと懐かしい光景。私も初めはそうでしたから。いやぁ、一般庶民には貴族の食卓はは驚きの連続だったわ。流石にもう慣れたけど。
様子を盗み見ていると、レイモンドの「驚き」は、私の当初の驚きと違うのだと気付いた。
驚きと共に、怯えが見えるのだ。
彼は没落していたとは言え、貴族の家庭で育っている。
悲惨な生い立ちが原因だろう。
家族で共に食事など取ったことがないのだろう。
メイドに椅子を引いてもらったことがないのだろう。
小さくて痩せている身体、まともな食事をさせてもらっていなかったのだろう。
家族と同じものを食べていなかったのだろう。
よく見ると、レイモンドの細い腕には小さな傷や痣がある……。
ゲームの中では、調子の良い優男でしかなかったレイモンド。エメラルドちゃんへの生い立ち語りの場面では、「へ~。よくある設定だなぁ」ぐらいにしか思ってなかった。
今、その生い立ちを辿ってきた、生身の人間が目の前にいる。「よくある設定」が産み出した姿はあまりにも、悲痛なものだった。
「レイモンド。食事は口に合っているかな?」
お父様が声をかけると、ビクりと肩を震わせるレイモンド。
「…はい。とても、美味しいです。」
隣からか細い声が聞こえる。
「そうか、それは良かった。量は大丈夫かい?足りない様なら、おかわりをするといい。」
「いえ…。こんなに食べたことない、です。もうお腹いっぱいで…残しちゃいそうで…。ごめんなさい。」
お母様が少し鼻を啜って立ち上がった。
「ごめんなさいっ。お食事中だけど、失礼するわ。」
足早に部屋から出て行ったお母様。扉を閉める瞬間、涙を零すのが見えた。
レイモンドは、始め驚いてお母様が出て行くのを見ていたが、直ぐに小さい身体を更に小さくして、今にも泣き出しそうにしている。
「ご、ごめんなさい…。僕…。ごめんなさい。」
「レイモンド、大丈夫だよ。君は悪くないんだ。残しても怒ったりしないから。無理して食べたりしなくても大丈夫だ。」
焦って料理を食べようとするレイモンドを優しく諭すお父様。
「お母様はきっと、急にお腹が痛くなっちゃったのよ。トイレだわ!レイモンド!紳士なんだったら見て見ぬふりよ!」
すかさず、私がナイスフォローをいれる。
「メリー…。トイレって…。」
苦笑するお父様。ポカンと口を開けてこちらを見るレイモンド。
え?何?今のダメ!?
お母様は戻ってはこなかったが、私達3人は食事を終えた。
レイモンドは、メインの料理を少し残していた。無理に食べなかったことに、逆に安心した。
「明日、館の中を案内してあげるわ!」
「それはいい!そうしてやってくれ。私は暫く仕事で日中家を空けるから。メリー、頼んだよ。それとレイモンド、急にうちに来たから、足りない物も多いだろう。服などは手配するが、他に足りない物があったら私かマリエルに言うだよ?」
「はい…。ありがとうございます。」
まだ、緊張しているようだけど、どもり無く喋るようになった。
「メリー、レイモンドおやすみ。良い夢!」
そう言うと、お父様は部屋を出た。レイモンドもメイドに促されて部屋に戻って行く。
さて私は、最近はまっている冒険小説の続きを書庫に取りに行ってから部屋に戻ります。
書庫の中では珍しく、子ども向けの本で読みやすい本を見つけたのだ。どうやらお父様が小さい時に買ってもらった本らしい。
書庫に行く途中、泣き声とそれを慰めるような声が聞こえてきた。
お母様の部屋の扉が、少し開いている。近付くと話している内容がはっきりした。お母様とお父様だ。
「シュレプ…。私、耐えられなくて…。あの子が不憫で…!あんなに幼い子が。あんなに怯えて!腕や足に沢山、傷や痣があって…。荷物も小さな鞄1つだけ。あんまりだわ!」
「ああ、もっと早くレイモンドを見つけてあげられていれば良かったんだけどね…。今、レイモンドは唯一の味方だった母親を亡くして、新しい家に養子に来て、一番不安な時だ。私達でしっかり彼を支えてあげよう。」
泣きながら嘆くお母様を優しく励ますお父様。あぁ!なんていい夫婦なんだ!!
なんでこんないい夫婦の娘は、ゲーム上であんな性悪なんだ!?
そんな疑問を胸に、バレないように、ソッと静かにその場を離れた。
***
次の日の朝食の席。お父様もいることにびっくりした。朝早くに仕事に出てしまうので、朝食はいつもお母様と私の2人だったからだ。レイモンドに気を使っているのだろう。
「レイモンド。昨日は食事の途中で席を外してしまってごめんなさいね。」
お母様に声を掛けられ、ビックリしたようだけど、料理から顔を上げ、横にブンブン首を振るレイモンド。
「あら、そんなに首を振っては痛めてしまうわ?」
フフフと笑うお母様。レイモンドはピタリと首を振るのを止めた。
「そうそう、今日の昼食後に、商会の者が来るからね。メリーもドレスを新調するといい。」
「はい!お父様。じゃあ、レイモンド、館を案内するのは朝食の後にしましょうか!」
「はい。」
小さく頷くレイモンド。
レイモンドがしっかり朝食を食べている事を確認すると、早々にお父様は仕事へと出かけて行った。
昨晩と比べ、穏やかな時間だった。
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