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第3章
最強の助っ人
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ベアトリスとブルーノ氏との次回縁談日は水面下で調整中のようだが、向こうはぜひすぐにと積極的だという。
たった1度の対面だったとはいえ、色々と確認しておきたいことができた側としては、大人しく次回を待ってなどいられない。
ということで、フットワークがタンポポの綿毛よりも軽いジャンヌの提案のもと、キアラたちはイグニス州ウエスカータに来ていた。
さて、キアラたちとは誰か?
「わぁ、ここがウエスカータ?大きな駅ー!ボク、来たのはじめてー!」
ぴょんっと軽やかに駅のホームに降り立つ小さな背中に続きながら、キアラはその愛らしさに微笑む。
半日も列車に乗っていたのに、そんな疲れは微塵もないようだ。
「列車に乗ったのも初めてでしたよね?今日は初めてのことだらけですね、ウィリアム様!」
そう、ベアトリスの用意した最強の助っ人とは、このふわふわほっぺのウィリアム第二王子だったのだ。
ウィリアムは列車内で買ってもらった棒付きキャンディを片手に、興奮に上気した顔でキアラを振り返る。
「うん!ウエスカータって大きな駅だね!キアラ、みて!お店がいっぱいあるよ!あっちは何のお店かな?」
駅前の売店へと走り出そうとするウィリアムに横から長い腕が伸びる。
「ウィル、大興奮なのは分かったから、ちょっと落ち着け。あんまり興奮すると迷子になるだろ、ほら。」
襟の詰まった濃紺の薄手のワンピースをまとった長身の淑女がウィリアムをヒョイと軽く片腕に抱えこむ。
もう片方の手には大きな荷物鞄を持ったままだ。
いささか力持ちな淑女。
だが、そのことに違和感を持つ者は不思議とおらず、そこではなく、女神とその御子という1枚の宗教画的光景に驚き、足を止めたり、振り返ったりする者がチラホラ。
「…ウィリアム様がいると尋ねる先の警戒心を削げるかとは思いますが、お二人が揃うと色んな意味で警戒しなければならない気がしますね。」
周囲を含めた今の状況を半目で眺めながら、キアラは早くも諦観の境地だ。
道中も似たようなものだったので分かってはいたが。
「大丈夫だよ、キアラ。ウィルを第二王子だと知ってる人間はきっといないよ。まだ5歳だから王城からも殆ど出たことはないし、まさか王族がこんな形で外にいるなんて誰も思わないだろう?」
「…そういう意味ではないのですが。」
======================================
「キアラさんとケダモノで旅をさせるなんて私が不安ですからね。今回はウィルを連れて行ってくださいな。」
お茶を飲みながらニッコリと微笑むベアトリス。
その様子は可憐な王女そのもの。
隣にハリセンさえなければ。
「誰がケダモノだ…だいたい、ウィルなんて連れて行ってどうするんだよ?第二王子を城外に連れ出すなんて、むしろリスクだろ?」
頭を摩りながら席に座り直すジャンヌと、キアラも同じことを思っていた。
ベアトリスは悠然とした姿勢を崩さず続ける。
「人のことをあれこれ調べようというのです。つまりは、話を引き出す相手の警戒心を下げるのが一番肝心なところでは?そこで、『街に越してくるつもりの姉弟』という設定で周囲から話を聞けば良いではありませんか。街で見なれぬ娘があれこれ聞いて回るよりもずっと効果的だと思いますし、ジャンヌが言うように、別の視点とやらで話が聞けるかもしれませんわ。」
「なるほど…。」
「なんか上手く丸め込まれてるだけな気がするけどね…。」
キアラとジャンヌが同時に感想を漏らすと、ベアトリスがジャンヌに向けてだけ笑みを深める。
ヒッとジャンヌが小さく呻く。
「それに、ウィルのいる前で情操教育によろしくないことはできないでしょう?クロードとアイザックでは、目を盗んでなんて考えるかもしれませんからね。四六時中一緒にいなければならないウィルは、私からキアラさんに贈る精神的なリードですわ。」
「………俺はそんなに信用ないかね。」
ジャンヌは、何の話なのかよく分からず置いてけぼりとなっているキアラをチラリとみやると、しぶしぶという態度を明確に示しつつ、ウィリアムの同行を承諾した。
確かに幼い子どもを連れた娘が聞き出す話と、王家直轄の諜報員が聞き出す話では、出てくる内容に違いがあるかもしれないという点は賛同したようだ。
キアラは早速明日の準備のために先に部屋に戻ることにし、メイドに言って数日分の荷造りをすることになった。
ただし、手持ちは最小限にし、残りは城の人間に宿まで届けてもらうようにとジャンヌが指示する。
「それにしても、第二王子を簡単に外に出そうだなんて、王家は一体どうなってるのかね。」
キアラの足音が遠ざかるのを確認し、ジャンヌは隣を睨めつける。
「あら、うちの第一王子なんて5年も外に出たままなんですのよ?第二王子が近隣の州に数日赴くことくらい、ピクニックみたいなものですわ。」
「…そういう返しが笑顔でできるところがお前の怖いところだよ。」
「褒め言葉だと受け取っておきますわ。」
「ウィルにはちゃんと見えないように護衛つけとけよ。」
「体力だけは人並み以上の誰かさんが一緒にいれば問題ないとは思いますが、分かりましたわ。」
「体力だけで悪かったな。」
ベアトリスの言うように、幼いウィリアムはほとんど外に出たことがなく、正しい絵姿も出回ってはいないだろう。
近年急速に広がっている写真とやらも、成長目まぐるしい時期のウィリアムの「今」を捉えたものなど無いに等しい。
それでも、万が一ということはある。
良からぬことを考える人間というのは、良いことを考える人間よりも知恵が回るというのがジャンヌの持論だ。
「それに、ウィリアムが皇太子となるか否かは別として、あの子もそろそろ市井を知っても良い時期です。兄と姉が揃って奔放なんですもの。あの子にはきっと将来苦労をかけますわ。」
ベアトリスの口調がどこか物悲しいものに変わる。
その横顔は、凛とした王女でも、陽気なハリセン女でもなく、不安と葛藤に憂う少女の顔だった。
ジャンヌを含めて、ベアトリスを知る人間はこの顔に弱いことを彼女は知らない。
「二人とも別に悪いことしようってわけじゃないんだから、そんな顔をするなよ。それに、来週には着くんだろ?あいつに愚痴でも何でも聞いてもらえよ。」
そう言うと、ベアトリスの上頬に少し赤みがさす。
気持ちを素直に口に出さないところが彼女らしい。
「ええ、体力しかないお馬さんだけでは心もとないと言ってやりませんと。お兄様がしっかり手綱を握ってくれませんと。」
「お前な…」
ジャンヌの恨みがましい視線をさらりと交わすと、ベアトリスは
「こちらで私にできることは少ないですけれど、せいぜいブルーノ氏との次回面談を焦らしてみますわ。そちらは万事恙無く進めてくださいな。」
どうやら調子が戻ったベアトリスに内心で息を吐きつつ、婉然と微笑んで見せる。
「お任せください、王女殿下。」
======================================
「まずは宿泊先に向かいますか?」
ひとまずホームを出たキアラは、傾いてきたとはいえ眩しく照りつける日差しを手で遮りながらジャンヌに尋ねる。
「そうだね。まずは馬車をつかまえて宿に向かおう。それにしても、やっぱり結構暑いな。」
ジャンヌは流石に性別がバレるからと、肌の露出を最小限に抑えた服装だ。
薄手とはいえ、体温の高いウィリアムを抱えていれば温石を持っているようなものなので、額には薄っすらと汗が滲んでいる。
「ウィリアム様、僭越ながら私と手をつないでくださいませ。このままではジャンヌが溶けてしまいそうです。」
「はーい!」
キアラは同じく汗ばんだウィリアムの額をハンカチで抑えつつ、苦笑する。
自分も暑いのにジャンヌから離れないなんて、なんていじらしいのだろう。
一方、ウィリアムをバトンタッチできたジャンヌは少しホッとしたように息をついた。
一行は、駅前の馬車乗り場から宿泊先へと移動することになった。
デマントイドの王都から列車で半日の距離にあるここウエスカータの本日の天候は快晴。
といっても、1年の大半が陽気な天候のこの州では、珍しくもない。
王都と異なり海が近いイグニス州は面積自体は他州に比べてかなり小さいものの、いわゆるリゾート地として名高く、輝く海と砂浜、美味しい海の幸を求めて人足が絶えない。
中でも、ここウエスカータは独特な建築様式が数々生み出された芸術都市としても有名で、キアラも何度か家族で訪れたことがある場所だ。
そんなキアラでもワクワクするのだから、初めての小旅行となるウィリアムは、いわずもがな。
「キアラ、今のみた?!きれいなブルーのお家だったよ!あっちは黄色!すごいね!なんであんなにキレイな色なの?」
「このあたりは季節によって霧が濃いそうです。霧の中でも自分の家が分かるように鮮やかにしているそうですよ。」
「すごい!ボクもあんなお家に住みたい!」
「ウィリアム様は色んな意味で鮮やかなお家がありますでしょう…。」
王都とはだいぶ雰囲気が異なる彩り豊かな家屋や店が立ち並ぶ街並みに終始目を輝かせ、目に入るあらゆるものについてキアラとジャンヌを質問攻めにして2人を楽しませた。
そうしてあっという間の30分が過ぎたころ、宿泊先に到着した。
真っ白な外壁で覆われた、ちょうど長方形の積み木を積んだような形のその建物は、3階建ての「オテル」と呼ばれるもので、近年観光地を中心に増えている宿泊場だ。
値段によって客室の広さやサービスに違いがあり、キアラたちは中間層の価格帯の部屋を二部屋借りることになっている。
ちなみに、キアラもウィリアムも素性を隠すためメイドを連れてきていないが、必要な際にはオテルに頼めば人を貸してくれるそうだ。
心配してくれたジャンヌの配慮だったのだが、日常生活の範囲で言えば自分ですべてできるので問題ないと答えると、なぜか複雑な顔をされたのは謎だ。
「荷物を置いたら、とりあえずロビーに集合して食事にしよう。簡単な車内食以降は何も食べてないし、お腹が減った。」
「ボクもー!」
というやり取りを経てオテル近くの食堂に来た3人は、「服装と見た目が合っていない、何か豪華な姉弟がいる」という周囲のソワソワとした視線に気づくことなく食事を始めた。
たった1度の対面だったとはいえ、色々と確認しておきたいことができた側としては、大人しく次回を待ってなどいられない。
ということで、フットワークがタンポポの綿毛よりも軽いジャンヌの提案のもと、キアラたちはイグニス州ウエスカータに来ていた。
さて、キアラたちとは誰か?
「わぁ、ここがウエスカータ?大きな駅ー!ボク、来たのはじめてー!」
ぴょんっと軽やかに駅のホームに降り立つ小さな背中に続きながら、キアラはその愛らしさに微笑む。
半日も列車に乗っていたのに、そんな疲れは微塵もないようだ。
「列車に乗ったのも初めてでしたよね?今日は初めてのことだらけですね、ウィリアム様!」
そう、ベアトリスの用意した最強の助っ人とは、このふわふわほっぺのウィリアム第二王子だったのだ。
ウィリアムは列車内で買ってもらった棒付きキャンディを片手に、興奮に上気した顔でキアラを振り返る。
「うん!ウエスカータって大きな駅だね!キアラ、みて!お店がいっぱいあるよ!あっちは何のお店かな?」
駅前の売店へと走り出そうとするウィリアムに横から長い腕が伸びる。
「ウィル、大興奮なのは分かったから、ちょっと落ち着け。あんまり興奮すると迷子になるだろ、ほら。」
襟の詰まった濃紺の薄手のワンピースをまとった長身の淑女がウィリアムをヒョイと軽く片腕に抱えこむ。
もう片方の手には大きな荷物鞄を持ったままだ。
いささか力持ちな淑女。
だが、そのことに違和感を持つ者は不思議とおらず、そこではなく、女神とその御子という1枚の宗教画的光景に驚き、足を止めたり、振り返ったりする者がチラホラ。
「…ウィリアム様がいると尋ねる先の警戒心を削げるかとは思いますが、お二人が揃うと色んな意味で警戒しなければならない気がしますね。」
周囲を含めた今の状況を半目で眺めながら、キアラは早くも諦観の境地だ。
道中も似たようなものだったので分かってはいたが。
「大丈夫だよ、キアラ。ウィルを第二王子だと知ってる人間はきっといないよ。まだ5歳だから王城からも殆ど出たことはないし、まさか王族がこんな形で外にいるなんて誰も思わないだろう?」
「…そういう意味ではないのですが。」
======================================
「キアラさんとケダモノで旅をさせるなんて私が不安ですからね。今回はウィルを連れて行ってくださいな。」
お茶を飲みながらニッコリと微笑むベアトリス。
その様子は可憐な王女そのもの。
隣にハリセンさえなければ。
「誰がケダモノだ…だいたい、ウィルなんて連れて行ってどうするんだよ?第二王子を城外に連れ出すなんて、むしろリスクだろ?」
頭を摩りながら席に座り直すジャンヌと、キアラも同じことを思っていた。
ベアトリスは悠然とした姿勢を崩さず続ける。
「人のことをあれこれ調べようというのです。つまりは、話を引き出す相手の警戒心を下げるのが一番肝心なところでは?そこで、『街に越してくるつもりの姉弟』という設定で周囲から話を聞けば良いではありませんか。街で見なれぬ娘があれこれ聞いて回るよりもずっと効果的だと思いますし、ジャンヌが言うように、別の視点とやらで話が聞けるかもしれませんわ。」
「なるほど…。」
「なんか上手く丸め込まれてるだけな気がするけどね…。」
キアラとジャンヌが同時に感想を漏らすと、ベアトリスがジャンヌに向けてだけ笑みを深める。
ヒッとジャンヌが小さく呻く。
「それに、ウィルのいる前で情操教育によろしくないことはできないでしょう?クロードとアイザックでは、目を盗んでなんて考えるかもしれませんからね。四六時中一緒にいなければならないウィルは、私からキアラさんに贈る精神的なリードですわ。」
「………俺はそんなに信用ないかね。」
ジャンヌは、何の話なのかよく分からず置いてけぼりとなっているキアラをチラリとみやると、しぶしぶという態度を明確に示しつつ、ウィリアムの同行を承諾した。
確かに幼い子どもを連れた娘が聞き出す話と、王家直轄の諜報員が聞き出す話では、出てくる内容に違いがあるかもしれないという点は賛同したようだ。
キアラは早速明日の準備のために先に部屋に戻ることにし、メイドに言って数日分の荷造りをすることになった。
ただし、手持ちは最小限にし、残りは城の人間に宿まで届けてもらうようにとジャンヌが指示する。
「それにしても、第二王子を簡単に外に出そうだなんて、王家は一体どうなってるのかね。」
キアラの足音が遠ざかるのを確認し、ジャンヌは隣を睨めつける。
「あら、うちの第一王子なんて5年も外に出たままなんですのよ?第二王子が近隣の州に数日赴くことくらい、ピクニックみたいなものですわ。」
「…そういう返しが笑顔でできるところがお前の怖いところだよ。」
「褒め言葉だと受け取っておきますわ。」
「ウィルにはちゃんと見えないように護衛つけとけよ。」
「体力だけは人並み以上の誰かさんが一緒にいれば問題ないとは思いますが、分かりましたわ。」
「体力だけで悪かったな。」
ベアトリスの言うように、幼いウィリアムはほとんど外に出たことがなく、正しい絵姿も出回ってはいないだろう。
近年急速に広がっている写真とやらも、成長目まぐるしい時期のウィリアムの「今」を捉えたものなど無いに等しい。
それでも、万が一ということはある。
良からぬことを考える人間というのは、良いことを考える人間よりも知恵が回るというのがジャンヌの持論だ。
「それに、ウィリアムが皇太子となるか否かは別として、あの子もそろそろ市井を知っても良い時期です。兄と姉が揃って奔放なんですもの。あの子にはきっと将来苦労をかけますわ。」
ベアトリスの口調がどこか物悲しいものに変わる。
その横顔は、凛とした王女でも、陽気なハリセン女でもなく、不安と葛藤に憂う少女の顔だった。
ジャンヌを含めて、ベアトリスを知る人間はこの顔に弱いことを彼女は知らない。
「二人とも別に悪いことしようってわけじゃないんだから、そんな顔をするなよ。それに、来週には着くんだろ?あいつに愚痴でも何でも聞いてもらえよ。」
そう言うと、ベアトリスの上頬に少し赤みがさす。
気持ちを素直に口に出さないところが彼女らしい。
「ええ、体力しかないお馬さんだけでは心もとないと言ってやりませんと。お兄様がしっかり手綱を握ってくれませんと。」
「お前な…」
ジャンヌの恨みがましい視線をさらりと交わすと、ベアトリスは
「こちらで私にできることは少ないですけれど、せいぜいブルーノ氏との次回面談を焦らしてみますわ。そちらは万事恙無く進めてくださいな。」
どうやら調子が戻ったベアトリスに内心で息を吐きつつ、婉然と微笑んで見せる。
「お任せください、王女殿下。」
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「まずは宿泊先に向かいますか?」
ひとまずホームを出たキアラは、傾いてきたとはいえ眩しく照りつける日差しを手で遮りながらジャンヌに尋ねる。
「そうだね。まずは馬車をつかまえて宿に向かおう。それにしても、やっぱり結構暑いな。」
ジャンヌは流石に性別がバレるからと、肌の露出を最小限に抑えた服装だ。
薄手とはいえ、体温の高いウィリアムを抱えていれば温石を持っているようなものなので、額には薄っすらと汗が滲んでいる。
「ウィリアム様、僭越ながら私と手をつないでくださいませ。このままではジャンヌが溶けてしまいそうです。」
「はーい!」
キアラは同じく汗ばんだウィリアムの額をハンカチで抑えつつ、苦笑する。
自分も暑いのにジャンヌから離れないなんて、なんていじらしいのだろう。
一方、ウィリアムをバトンタッチできたジャンヌは少しホッとしたように息をついた。
一行は、駅前の馬車乗り場から宿泊先へと移動することになった。
デマントイドの王都から列車で半日の距離にあるここウエスカータの本日の天候は快晴。
といっても、1年の大半が陽気な天候のこの州では、珍しくもない。
王都と異なり海が近いイグニス州は面積自体は他州に比べてかなり小さいものの、いわゆるリゾート地として名高く、輝く海と砂浜、美味しい海の幸を求めて人足が絶えない。
中でも、ここウエスカータは独特な建築様式が数々生み出された芸術都市としても有名で、キアラも何度か家族で訪れたことがある場所だ。
そんなキアラでもワクワクするのだから、初めての小旅行となるウィリアムは、いわずもがな。
「キアラ、今のみた?!きれいなブルーのお家だったよ!あっちは黄色!すごいね!なんであんなにキレイな色なの?」
「このあたりは季節によって霧が濃いそうです。霧の中でも自分の家が分かるように鮮やかにしているそうですよ。」
「すごい!ボクもあんなお家に住みたい!」
「ウィリアム様は色んな意味で鮮やかなお家がありますでしょう…。」
王都とはだいぶ雰囲気が異なる彩り豊かな家屋や店が立ち並ぶ街並みに終始目を輝かせ、目に入るあらゆるものについてキアラとジャンヌを質問攻めにして2人を楽しませた。
そうしてあっという間の30分が過ぎたころ、宿泊先に到着した。
真っ白な外壁で覆われた、ちょうど長方形の積み木を積んだような形のその建物は、3階建ての「オテル」と呼ばれるもので、近年観光地を中心に増えている宿泊場だ。
値段によって客室の広さやサービスに違いがあり、キアラたちは中間層の価格帯の部屋を二部屋借りることになっている。
ちなみに、キアラもウィリアムも素性を隠すためメイドを連れてきていないが、必要な際にはオテルに頼めば人を貸してくれるそうだ。
心配してくれたジャンヌの配慮だったのだが、日常生活の範囲で言えば自分ですべてできるので問題ないと答えると、なぜか複雑な顔をされたのは謎だ。
「荷物を置いたら、とりあえずロビーに集合して食事にしよう。簡単な車内食以降は何も食べてないし、お腹が減った。」
「ボクもー!」
というやり取りを経てオテル近くの食堂に来た3人は、「服装と見た目が合っていない、何か豪華な姉弟がいる」という周囲のソワソワとした視線に気づくことなく食事を始めた。
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