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第3章
報告会
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庭園の出口でブルーノ・アーロンと別れたキアラたちは、ベアトリスの部屋へと戻ってきていた。
「今飲み物を用意させますね。ハーブティーでよろしいですか?」
「ええ、ありがとうキアラさん。お茶会だったはずなのに、なんだか喉が渇きましたわぁ。久しぶり王女っぽく過ごしたせいかしら。」
「王女っぽいというか、王女様ですからね…」
言いながらメイドにハーブティーを用意するように告げる。
ところが、しばらくしてティーセットを乗せたワゴンを押してやってきたのはメイドではなく、なんとジャンヌだった。
「私と共にお待たせしました~!お疲れの淑女たちには潤いをってことで、ローズヒップティーをチョイスしてみました♡」
するとすかさず王女殿下の宝刀がジャンヌの背中に炸裂する。
「ふふふ、最後のハートマークが気に入りませんでしたわ。」
「…このっ…絶対それで殴りたいだけだろ…」
背中を押さえながらワナワナするジャンヌの姿も、三日目にして、もはや日常の一部となりつつある。
「はいはい、私が淹れますからジャンヌも座ってください。そういえば、今までどこに行ってたんですか?」
その一言で、ジャンヌが素早く立ち直る。
「あらキアラちゃん、私がいなくて寂しかった?」
女性モード全開でキアラの顎を持ち上げるジャンヌに
「はい、ハウスですわ。」
本日二度目の制裁。
蹲るジャンヌを冷ややかに見やりながらも、キアラは自分の顔が注いでいるお茶程度には熱くなっていることを感じる。
ああ、あの女神顔を直視しても動じないように修行せねば。
「ところで、キアラさんは気づいていらっしゃらなかったのね。ジャンヌも庭園にいましたわ。そうですわよね?」
「なんだ、むしろベスは気づいてたのかよ。」
「あんなに殺気立った人が近くにいれば、嫌でも目につきますわよ。」
「ふんっ」
「近くに…ですか?」
キアラは涼しい顔のベアトリスと、何故か苦々しい顔をしたジャンヌの二人にお茶を出しながら、庭園での様子を思い出そうと首を傾げる。
ベアトリスはお礼を言いながらそれを受け取ると、早速一口含む。
たった数時間だったとはいえ、やはり疲れていたのだろう。
「ええ。キアラさん、庭園に護衛の騎士たちがいたのを覚えていらっしゃいます?」
「はい。でも、この王城には至る所に騎士の方々がいらっしゃるので、あまり気には留めていませんでしたが…え、もしかして?」
「せいかーい!俺がそのうちの一人になってたってわけ。」
「男性の格好で立っていたんですか?」
想像がつかない。
というか、コレの場合、男装になるのだろうか?
「キアラさんがメリノ様と話しているだけで殺気立つものですから、私、ハラハラしましたわ。」
「メリノ様が何か?危ない人には見えませんでしたけど?」
「キアラは気にしなくていいから…」
だから、なぜそんな苦虫を噛み潰したような顔を?
不思議に思っているとベアトリスがジャンヌを宥めるようにハリセンで軽く叩く。
「はいはい、周りの男を威嚇しないとやっていられないギリギリ状態の狼さんは黙ってお茶でも飲んでくださいな。それで、キアラさんは、今日のことで気になったことはありました?」
「ベス、おまっ!」
「ハウス!」
いつものやり取りをぼんやりと眺めながら、キアラはお茶会を思い出す。
「変だなと思ったのは、アルファーノ様がお菓子の感想を言われた時でしょうか、やはり。あとは、素敵なカフスボタンです。」
「カフスボタン?」
キアラはカフスボタンのことを話した時のアーロンの様子が少し気になったことを告げた。
「何というか、メリノ様は何かに気づいたようでした。そして、それを悲しい…いえ、苦しいと感じておられるような…。とにかく、お二人には何か特別な事情があるのでないかと。」
「なるほど…。たしかに、お二人には人に言えない秘密のようなものがありそうだとは、私も思いましたわ。如実に表れたのはお菓子の感想の時でしたが、その他にもメリノ様の顔色が悪い場面がありましたし。それが果たして、王太子の暗殺なのかまでは分かりませんでしたけれど。」
「へえ、これは1発目から当たりを引いたかもしれないってわけか。」
怪しいのを当たりと呼んで良いのだろうか。
そして、どうしてこの男は少し楽しそうなのだろうか。
「調べてみる価値はありそうだよね?」
「調べると言っても、あの調査書作成時に散々プロの方が調べ尽くしたのでは?」
「だーかーらー、これが視点の違いだよ、キアラ。調査書の時は、王女の縁談相手として怪しい点はないかが焦点だろ?ここからは、あの二人に謀反の疑いがないか、または、二人の関係、周囲に怪しい点がないか。この差は大きいと思わない?」
「確かに。お二人の秘密を暴くのは気が引けますが、もしそれが王家にとって危険なものなら、暴くべき事柄ですね。」
「そういうこと。というわけで、早速明日アグニス州に出掛けよう!」
キアラはその言葉に飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
早速にもほどがないか。
「やっぱりキアラはいい目を持ってると思うんだよね。カフスボタンなんてさ、キアラが話を振らないと出なかった話題だしさ。」
「そうですわね。キアラさんだからこその観点ですわね。私はお二人から情報を得ようとしか思っていませんでしたし。」
「あの、皆さんそんなに神経を尖らせて生活しているのですか?」
その問いにニッコリと微笑みで返す二人の目はまたしても笑っていない。
ここの人間怖すぎる。
「明日早速アグニス州に向かって、彼らのことを探ろう。こういうのは実際に自分で見てみないとね。」
どうやら本気だとみてとったキアラは、諦めのため息を吐く。
「アグニス州まで列車で半日はかかると言うのに、ジャンヌはフットワークが軽いんですね。」
「キアラちゃんとデートだから浮き足立っちゃうのよ♡」
「デート…」
その言葉の破壊力にキアラがアタフタしていると、今まで黙していたベアトリスが本日何度目かの宝刀をジャンヌの後頭部に華麗に見舞う。
「馬鹿なこと言ってはいけませんわぁ!」
「だから、お前はそれで殴りたいだけだろって何度も…」
「キアラさんをこんなケダモノと二人でなど旅させません。もちろん、人を付けますわ。」
「人、ってどなたのことですか?」
頭を抱えるジャンヌを華麗に無視して尋ねると、ベアトリスのハンターグリーンの瞳がキラリと光る。
「私たちの最強の助っ人ですわ。」
キアラとジャンヌは戸惑い顔を互いに見合わせた。
「今飲み物を用意させますね。ハーブティーでよろしいですか?」
「ええ、ありがとうキアラさん。お茶会だったはずなのに、なんだか喉が渇きましたわぁ。久しぶり王女っぽく過ごしたせいかしら。」
「王女っぽいというか、王女様ですからね…」
言いながらメイドにハーブティーを用意するように告げる。
ところが、しばらくしてティーセットを乗せたワゴンを押してやってきたのはメイドではなく、なんとジャンヌだった。
「私と共にお待たせしました~!お疲れの淑女たちには潤いをってことで、ローズヒップティーをチョイスしてみました♡」
するとすかさず王女殿下の宝刀がジャンヌの背中に炸裂する。
「ふふふ、最後のハートマークが気に入りませんでしたわ。」
「…このっ…絶対それで殴りたいだけだろ…」
背中を押さえながらワナワナするジャンヌの姿も、三日目にして、もはや日常の一部となりつつある。
「はいはい、私が淹れますからジャンヌも座ってください。そういえば、今までどこに行ってたんですか?」
その一言で、ジャンヌが素早く立ち直る。
「あらキアラちゃん、私がいなくて寂しかった?」
女性モード全開でキアラの顎を持ち上げるジャンヌに
「はい、ハウスですわ。」
本日二度目の制裁。
蹲るジャンヌを冷ややかに見やりながらも、キアラは自分の顔が注いでいるお茶程度には熱くなっていることを感じる。
ああ、あの女神顔を直視しても動じないように修行せねば。
「ところで、キアラさんは気づいていらっしゃらなかったのね。ジャンヌも庭園にいましたわ。そうですわよね?」
「なんだ、むしろベスは気づいてたのかよ。」
「あんなに殺気立った人が近くにいれば、嫌でも目につきますわよ。」
「ふんっ」
「近くに…ですか?」
キアラは涼しい顔のベアトリスと、何故か苦々しい顔をしたジャンヌの二人にお茶を出しながら、庭園での様子を思い出そうと首を傾げる。
ベアトリスはお礼を言いながらそれを受け取ると、早速一口含む。
たった数時間だったとはいえ、やはり疲れていたのだろう。
「ええ。キアラさん、庭園に護衛の騎士たちがいたのを覚えていらっしゃいます?」
「はい。でも、この王城には至る所に騎士の方々がいらっしゃるので、あまり気には留めていませんでしたが…え、もしかして?」
「せいかーい!俺がそのうちの一人になってたってわけ。」
「男性の格好で立っていたんですか?」
想像がつかない。
というか、コレの場合、男装になるのだろうか?
「キアラさんがメリノ様と話しているだけで殺気立つものですから、私、ハラハラしましたわ。」
「メリノ様が何か?危ない人には見えませんでしたけど?」
「キアラは気にしなくていいから…」
だから、なぜそんな苦虫を噛み潰したような顔を?
不思議に思っているとベアトリスがジャンヌを宥めるようにハリセンで軽く叩く。
「はいはい、周りの男を威嚇しないとやっていられないギリギリ状態の狼さんは黙ってお茶でも飲んでくださいな。それで、キアラさんは、今日のことで気になったことはありました?」
「ベス、おまっ!」
「ハウス!」
いつものやり取りをぼんやりと眺めながら、キアラはお茶会を思い出す。
「変だなと思ったのは、アルファーノ様がお菓子の感想を言われた時でしょうか、やはり。あとは、素敵なカフスボタンです。」
「カフスボタン?」
キアラはカフスボタンのことを話した時のアーロンの様子が少し気になったことを告げた。
「何というか、メリノ様は何かに気づいたようでした。そして、それを悲しい…いえ、苦しいと感じておられるような…。とにかく、お二人には何か特別な事情があるのでないかと。」
「なるほど…。たしかに、お二人には人に言えない秘密のようなものがありそうだとは、私も思いましたわ。如実に表れたのはお菓子の感想の時でしたが、その他にもメリノ様の顔色が悪い場面がありましたし。それが果たして、王太子の暗殺なのかまでは分かりませんでしたけれど。」
「へえ、これは1発目から当たりを引いたかもしれないってわけか。」
怪しいのを当たりと呼んで良いのだろうか。
そして、どうしてこの男は少し楽しそうなのだろうか。
「調べてみる価値はありそうだよね?」
「調べると言っても、あの調査書作成時に散々プロの方が調べ尽くしたのでは?」
「だーかーらー、これが視点の違いだよ、キアラ。調査書の時は、王女の縁談相手として怪しい点はないかが焦点だろ?ここからは、あの二人に謀反の疑いがないか、または、二人の関係、周囲に怪しい点がないか。この差は大きいと思わない?」
「確かに。お二人の秘密を暴くのは気が引けますが、もしそれが王家にとって危険なものなら、暴くべき事柄ですね。」
「そういうこと。というわけで、早速明日アグニス州に出掛けよう!」
キアラはその言葉に飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
早速にもほどがないか。
「やっぱりキアラはいい目を持ってると思うんだよね。カフスボタンなんてさ、キアラが話を振らないと出なかった話題だしさ。」
「そうですわね。キアラさんだからこその観点ですわね。私はお二人から情報を得ようとしか思っていませんでしたし。」
「あの、皆さんそんなに神経を尖らせて生活しているのですか?」
その問いにニッコリと微笑みで返す二人の目はまたしても笑っていない。
ここの人間怖すぎる。
「明日早速アグニス州に向かって、彼らのことを探ろう。こういうのは実際に自分で見てみないとね。」
どうやら本気だとみてとったキアラは、諦めのため息を吐く。
「アグニス州まで列車で半日はかかると言うのに、ジャンヌはフットワークが軽いんですね。」
「キアラちゃんとデートだから浮き足立っちゃうのよ♡」
「デート…」
その言葉の破壊力にキアラがアタフタしていると、今まで黙していたベアトリスが本日何度目かの宝刀をジャンヌの後頭部に華麗に見舞う。
「馬鹿なこと言ってはいけませんわぁ!」
「だから、お前はそれで殴りたいだけだろって何度も…」
「キアラさんをこんなケダモノと二人でなど旅させません。もちろん、人を付けますわ。」
「人、ってどなたのことですか?」
頭を抱えるジャンヌを華麗に無視して尋ねると、ベアトリスのハンターグリーンの瞳がキラリと光る。
「私たちの最強の助っ人ですわ。」
キアラとジャンヌは戸惑い顔を互いに見合わせた。
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