侯爵令嬢と密かな愉しみ

ポポロ

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プロローグ

デマントイド王国

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ここデマントイド王国は、ほんの60年ほど前まで、近隣諸国との火種が絶えない国だった。
不幸だったのは、この国が周囲をイグニス、アウルム、ソルムという3カ国にぐるりと囲まれており、拮抗するどの国もが同等の国力だったことだろう。
どこも突出した力をもっていないだけに、各国はギリギリの攻防を繰り返すばかりで、なかなかに決着がつかなかった。
そうこうするうちに月日ばかりが経ち、常に戦火に晒された4カ国の国力は最低ラインまで下がり続けていたのだが、それに気がづいた頃には、まさにどの国もが「振り上げた剣の収め方が分からない」状態だった。
全ての国がこのまま滅びへの道を歩むしかない、そんな暗闇に一筋の光をもたらさんと立ち上がったのが、デマントイド国第28代目国王、つまり前王であるローズベルト・ミルトニア・グレートフィールドだった。

「我々は最も愛すべき、優先すべき自国の民をも傷つけていることから、これ以上目をそらしてはならぬ。また、その罪を己の代で…我々の代で償うべきである。それが分からぬ愚王は、この場にはいないと信じている。友よ、争いはここまでた。」

後世にも残る有名なこの言葉とともに、終戦と不可侵条約の締結を各国に直接申し出た。
終わりなき戦いの日々に限界を感じていた周囲3カ国は、真摯な王の説得を受け、とうとうこれに応じた。
4カ国の王は、自国の復旧と発展に国力を注ぐよう指示した後、条約に則って次代にその跡目を譲り、王の座を辞した。

その先王達の偉業からおよそ10年後。
現デマントイド王であるオスカー・ジニア・グレートフィールドは、周囲3カ国の条約国と新たな条約を結んだ。

『デマントイドを唯一国とし、イグニス、アウルム、ソルムはその都市国家とする』

3つの都市国家には独立政治権を認めるものの、国としてはデマントイド国に統一するという前代未聞の大技を、若き王がわずか一代で、しかも無血で成し得た衝撃は国内に留まらず、傑物オスカー王の名は遠く異国の地にまで轟くこととなる。
国民は彼のことを、恐れと敬意を表して「悪魔の叡智」と称した。

それから30年、現在のデマントイド王国は、3つの大きな都市国家を有する世界トップクラスの先進国として発展を続けている。
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