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証明編

21話

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「父様、それは……」

「友人同士である事は構わない。しかし、二人が特別な感情を抱いた仲となる事は避けろと言っている」

 そんな関係ではありません……とは、言えなかった。
 お互いに、まだ言葉にもしていない感情を禁止され、私は戸惑ってしまう。

「父様、それは僕の自由を奪うという事でしょうか?」

「貴族に生まれた時点で、自由に生きる事はできん。家々の仲を結ぶ婚約を行う、これも我らの義務だ」

「そんな……僕は、自由に生きるために、留学先でもディオネス家へ貢献してきました」

「分かっている。しかし……公爵家の婚約者が平民と聞けば、周囲の貴族達がどう思うのか、想像できるはずだ」

「関係ない、そんな事!」

「代々この家が築き上げてきた信頼を失う事は、許されんのだ」

 アルは負けずに言い返すが、フレーゴ様の意見は変わらない。
 それを見ている私には、ふつふつと沸き立つ感情が胸に渦巻いていた。

 それを抑えようと、必死に耐えて拳を握る。

「父様、僕が今までディオネス家へ貢献してきていたのは、自由に生きるためです!」

「何度も言わせるな、公爵家に生まれた時から自由に生きる権利はない」

「亡くなった母様だって、僕が生きたいように生きろと」

「っ……それでも、ディオネス家として認める事は出来ない」

 目の前に見える光景が、不思議と過去の出来事と重なった。
 幼いアルが、力では敵わない相手に押されて悲しむ姿。状況はまるで違うのに、あの幼き頃と同じ感情が私の胸を燃やして、自然と口が開いた。

「さっきから……」

「っ!?」「?」

 私の呟きに、アルもフリード様も視線を向ける。
 
「さっきから……私の話も聞かずに、一方的に話をしないでくださいフレーゴ様」

「リディア嬢、君のためでもあるんだ。貴族家と懇意にしても、君を軽視する者ばかりの社会に身を投げ出す事になるのだぞ。貴族社会の根底にある差別意識はきっと今後も君を傷つける」

「なら、その軽視する者達へ……私の価値を知らしめてみせます」

 言い放つと、フレーゴ様は口を閉じる。
 私は沸き立つ怒りを抑えながら、考えを口にしていく。

 子供の頃のように、からかう子共達から、力づくでアルを助ける事はもうできない。
 年数は私とアルをすっかり大人にして、子共の頃からでは見えなかった様々なしがらみで襲ってくる。
 だからこそ、それに毅然と立ち向かう大人に私はなってみせよう。 
 アルに救われるだけでなく、隣に立つに相応しい女性だと証明してみせる。

「私が、他の貴族家の方々に蔑まれるような者でなければいいのでしょう? フレーゴ様」

「君は……平民だ。それだけで蔑まれるのだ。そんな世界はきっと辛いだけだ」

「ええ、平民というだけで……蔑まれ、軽視され、暴行される事は私が一番、誰よりも分かっています。だからこそ、そんな考えを抱かぬようにしてみせます」

「どうする気だ?」

 問いかけるフレーゴ様に私は微笑みを返す。

「それは……まだ話せません。だけど、貴族家が持つ平民への差別を変えてみせます。私をきっかけとして」

 まっすぐに、目を見つめて私は言った。
 ウソではなく、私はそれを実行する算段があるからだ。 

 もう二度と、私のように平民であるだけで不当な差別を受けるような者が出ないようにしてみせる。
 その覚悟がフレーゴ様との会話でようやく決まったのだ。

「……そこまで言うのなら、見せて欲しいものだ」

「もし、私が有言実行を果たしたと認めてくださった際には……先程の発言を取り消してください」

 公爵家の当主であるフレーゴ様に発言を取り消せと要求するなど、どれだけ無礼なのかは分かっている。
 だけど、平民であるだけで不当な扱いを受ける筋合いはない。

 なにより、私や村の皆……見たこともない人のため。差別の連鎖を断ち切りたい。
 それはフレーゴ様も含めてだ。

「分かった……そうなれば、私の非を認めよう。話は終わりだ、私は執務に戻る」

 承諾してくれたフレーゴ様に礼をして、私とアルは執務室を出ていく。
 二人きりになった時、アルが私の手を握った。

「リディ、ごめん……僕が父を説得できれば」

「大丈夫だよ、アル。フレーゴ様がああやって言ってくれたから、私も覚悟が決まった」

「……なにか、考えがあるの?」

「うん、私が出来る……私にしか出来ない方法があるの。協力してくれる?」

「もちろん、むしろ僕にも協力させて欲しい」

「なら、早速だけど準備をして欲しい事があるの……」


 私は、考えていた事をアルにだけ話す。
 
 それは……グレアルフと私がもう一度、接触する計画。
 アルも驚いた内容だったけど、最後まで聞き届けた彼は「準備は任せて」と納得してくれた。

 私も……今度こそ一人で動く。
 二度と私のように蔑まれる者を無くし、平民への差別を断ち切ってみせるため。
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