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学園編
13話グレアルフside
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まずい……まずい。
研究資料を作る残りの期間はもうほとんどない。
焦りから、日々の学園生活でもミスばかりだ。
「どうすれば……」
友人だった者達は皆、責任を負いたくないと協力もしてくれない。
講師達も見て見ぬふりをしていた癖に、俺に対しても見て見ぬふりを始めた。
ナタリーも同様、俺が焦って苛立っているのを避けて最近は近づきもしてこない。
「まずい、まずい」
日に日に、減っていく期間。
仲間となら何でも出来ると感じていた万能感も消えて、無力感に日々襲われる。
何もできず、手も出せない事に苛立ちだけが募っていく。
なによりも苛立つのは、リディアが俺にここまで迷惑をかけている事が許せない。
「とりあえず、今は期間を伸ばしてもらうか? それしか……」
追い込まれた俺は一目もはばからずにブツブツと呟きながら話していると、ふと多くの生徒達が窓から外を見ているのに気付いた。
気になり、同じように窓から顔を覗かせると学園の出入り口に立派な馬車が停まっていた。
「聞いた? 今日はディオネス公が学園へ視察に来るそうよ」
「次期公爵のアルバート様といったかしら、楽しみね」
お気楽な奴らだ、リディアをいじめていた事を知られそうな時は顔を真っ青にしていた癖に。
俺が言い逃れのためにウソを吐いたために、すっかり安心しきって夢中になっている。
こんなに苦労している俺を置いて。
「どけ! 俺が見る!」
「っ!」
せめてもの腹いせで、窓の最前列に割り込む。
その際に何人かの生徒を突き飛ばしたが、皆は黙って下がる。
いい気分だ、たまにはこうして立場を分からせてもいいだろう。
「俺も次期当主となる。将来的に交流する立場としてディオネス公がどのような方か確認せねばな」
もっともらしい理由を述べて、最前列にて馬車の様子を見守った。
馬車の扉が開き、一人の男性が降りてくる。遠くからでもその凛々しさは見えた、黒髪に整った顔立ち。
背の高さも相まって、溢れる気品に周囲の女生徒達から感嘆の声が漏れ聞こえる。
ふと、少し遠くを見れば俺の恋人であるナタリーも同様に頬を赤く染めている。
それが癪に障り、ナタリーに苦言を言おうと目を離した時だった。
「お、おい! あ、あれ……」
「ウソ……でしょ」
「見ろ、おい見ろ!」
明らかにざわついた声が聞こえだして、再び外へ視線を向け、目を見開く。
「ウソだ。なんで、あの女が……」
ディオネス公が馬車から手を引き、丁重に降ろしているのは見間違うはずもない。
リディアだ。
居なくなったはずの、あのリディアがディオネス公と共に学園にやって来た?
「そんな……」「なんで」
先程まで色めき立っていた声は消えて、皆が顔を青ざめさせていた。
当たり前だ、ほとんどの生徒がリディアを貶して学園から追い出そうとしていたのだ。
だから……皆が心のどこかでリディアが自殺していると思っていた。そうあって欲しいと望んでいたのかもしれない。
結果は、仲睦まじそうにディオネス公と話すリディアがこの学園へ帰還している。
「ど、どうするの? グレアルフ」
いつの間にかナタリーがやって来ており、共に貶していた友人達も集まっていた。
「と、とりあえずここでは話せない。少し離れるぞ」
慌ててその場を去った俺達は見る事は出来なかった。
校舎の近くまで来ていたリディア達が仲睦まじくて、昨日今日知り合った仲には見えなかった事を。
◇◇◇
「ど……どうする? あいつが帰ってきたのはいいが、公爵家の方と一緒だぞ」
俺の呟きにナタリーと友人達も気まずい表情を浮かべる。
「あ、謝って全て許してもらうのは……どうなんだ?」
一人が、言葉を吐く。
それに否定したのは俺だけでなく、全員であった。
「平民階級の者に頭を下げる? 考えられるか!」
「そうよ、私達はただ学園の品位を下げないためにやっていただけよ」
「それに、出ていったのはあいつだ。俺たちは悪くない」
「……そうだよな、出来るはずないよな」
「もちろんだ、優秀な貴族家の者が平民に頭を下げたなど末代の恥だ。出来るはずがない」
とはいえ、この状況は非常にまずい。
ディオネス公がどこまで知っているか分からないが……俺に出来る事をするしかない。
「俺が、もう一度……あの女と話してみる」
「話すって、なにを?」
「あいつは俺が恋人関係をだましていた事にショックを受けていただろう? もう一度、愛してやれば俺の元へ帰ってくるはずだ」
「だけど、公爵家の方と一緒に来ているのよ? そんなに簡単に……」
「あいつは平民階級で貴族家の知り合いなど居ないはずだ。学園から出て知り合ったばかりの仲だろう、一度は恋した俺と天秤にかければ、絶対に俺を選ぶはずだ。あの女にとって貴族家の恋人は喉から手が出るほどに惜しいはずだ」
大丈夫、きっとあいつは未だに心のどこかで俺に恋したままのはずだ。
もう一度俺が愛してやると言えば、また戻ってくる。
「皆、安心しろ。俺がリディアを説得しれみせる。いじめた等と言われるものか」
俺達は絶対に、平民階級の女に頭を下げてはならないのだから。
研究資料を作る残りの期間はもうほとんどない。
焦りから、日々の学園生活でもミスばかりだ。
「どうすれば……」
友人だった者達は皆、責任を負いたくないと協力もしてくれない。
講師達も見て見ぬふりをしていた癖に、俺に対しても見て見ぬふりを始めた。
ナタリーも同様、俺が焦って苛立っているのを避けて最近は近づきもしてこない。
「まずい、まずい」
日に日に、減っていく期間。
仲間となら何でも出来ると感じていた万能感も消えて、無力感に日々襲われる。
何もできず、手も出せない事に苛立ちだけが募っていく。
なによりも苛立つのは、リディアが俺にここまで迷惑をかけている事が許せない。
「とりあえず、今は期間を伸ばしてもらうか? それしか……」
追い込まれた俺は一目もはばからずにブツブツと呟きながら話していると、ふと多くの生徒達が窓から外を見ているのに気付いた。
気になり、同じように窓から顔を覗かせると学園の出入り口に立派な馬車が停まっていた。
「聞いた? 今日はディオネス公が学園へ視察に来るそうよ」
「次期公爵のアルバート様といったかしら、楽しみね」
お気楽な奴らだ、リディアをいじめていた事を知られそうな時は顔を真っ青にしていた癖に。
俺が言い逃れのためにウソを吐いたために、すっかり安心しきって夢中になっている。
こんなに苦労している俺を置いて。
「どけ! 俺が見る!」
「っ!」
せめてもの腹いせで、窓の最前列に割り込む。
その際に何人かの生徒を突き飛ばしたが、皆は黙って下がる。
いい気分だ、たまにはこうして立場を分からせてもいいだろう。
「俺も次期当主となる。将来的に交流する立場としてディオネス公がどのような方か確認せねばな」
もっともらしい理由を述べて、最前列にて馬車の様子を見守った。
馬車の扉が開き、一人の男性が降りてくる。遠くからでもその凛々しさは見えた、黒髪に整った顔立ち。
背の高さも相まって、溢れる気品に周囲の女生徒達から感嘆の声が漏れ聞こえる。
ふと、少し遠くを見れば俺の恋人であるナタリーも同様に頬を赤く染めている。
それが癪に障り、ナタリーに苦言を言おうと目を離した時だった。
「お、おい! あ、あれ……」
「ウソ……でしょ」
「見ろ、おい見ろ!」
明らかにざわついた声が聞こえだして、再び外へ視線を向け、目を見開く。
「ウソだ。なんで、あの女が……」
ディオネス公が馬車から手を引き、丁重に降ろしているのは見間違うはずもない。
リディアだ。
居なくなったはずの、あのリディアがディオネス公と共に学園にやって来た?
「そんな……」「なんで」
先程まで色めき立っていた声は消えて、皆が顔を青ざめさせていた。
当たり前だ、ほとんどの生徒がリディアを貶して学園から追い出そうとしていたのだ。
だから……皆が心のどこかでリディアが自殺していると思っていた。そうあって欲しいと望んでいたのかもしれない。
結果は、仲睦まじそうにディオネス公と話すリディアがこの学園へ帰還している。
「ど、どうするの? グレアルフ」
いつの間にかナタリーがやって来ており、共に貶していた友人達も集まっていた。
「と、とりあえずここでは話せない。少し離れるぞ」
慌ててその場を去った俺達は見る事は出来なかった。
校舎の近くまで来ていたリディア達が仲睦まじくて、昨日今日知り合った仲には見えなかった事を。
◇◇◇
「ど……どうする? あいつが帰ってきたのはいいが、公爵家の方と一緒だぞ」
俺の呟きにナタリーと友人達も気まずい表情を浮かべる。
「あ、謝って全て許してもらうのは……どうなんだ?」
一人が、言葉を吐く。
それに否定したのは俺だけでなく、全員であった。
「平民階級の者に頭を下げる? 考えられるか!」
「そうよ、私達はただ学園の品位を下げないためにやっていただけよ」
「それに、出ていったのはあいつだ。俺たちは悪くない」
「……そうだよな、出来るはずないよな」
「もちろんだ、優秀な貴族家の者が平民に頭を下げたなど末代の恥だ。出来るはずがない」
とはいえ、この状況は非常にまずい。
ディオネス公がどこまで知っているか分からないが……俺に出来る事をするしかない。
「俺が、もう一度……あの女と話してみる」
「話すって、なにを?」
「あいつは俺が恋人関係をだましていた事にショックを受けていただろう? もう一度、愛してやれば俺の元へ帰ってくるはずだ」
「だけど、公爵家の方と一緒に来ているのよ? そんなに簡単に……」
「あいつは平民階級で貴族家の知り合いなど居ないはずだ。学園から出て知り合ったばかりの仲だろう、一度は恋した俺と天秤にかければ、絶対に俺を選ぶはずだ。あの女にとって貴族家の恋人は喉から手が出るほどに惜しいはずだ」
大丈夫、きっとあいつは未だに心のどこかで俺に恋したままのはずだ。
もう一度俺が愛してやると言えば、また戻ってくる。
「皆、安心しろ。俺がリディアを説得しれみせる。いじめた等と言われるものか」
俺達は絶対に、平民階級の女に頭を下げてはならないのだから。
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