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4話
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『リディ、あげる』
『アル、いいの?』
前髪で目元の隠れた男の子、私よりも少し年上で臆病なアル。
彼が私の頭へそっと花冠を乗せてくれる。
忘れていた、幼き頃の遠い思い出が揺らぐ頭の中に浮かんでいる。
『綺麗だね、リディ』
『ありがとう……アル、でもどうしてこんな物くれたの?』
『……あのね、リディにはこの村で助けてもらって、僕は本当に感謝してるんだ』
『アルは臆病だから、からかわれやすいものね』
『うん、でもリディがいてくれたから。僕はこの村にいる時、ずっと楽しかったよ』
?
何かおかしな言い回しに私は小首を傾げると、彼はそっと手を握ってきた。
『だから、絶対にまたリディに会いにくるよ。その時は––––』
あれ……。
アルは一体何を言っていたの。
◇◇◇
「ん……」
意識が戻っていくと同時に、身体が動いている事がわかる。
生きている?
どうしてと思って目を開くと、身覚えのない部屋の寝台で私は横になっていた。
綺麗で広い部屋、暖炉はパチパチと火をおこしていて暖かい。
置いているインテリアはどれも高価そうで、私が寝ている寝台も綺麗なシーツとふわふわの羽毛で出来ている。
そんな部屋の寝台で、一人でいるのだ。
「どこ、ここ」
状況が分からず、キョロキョロと見渡していると扉が開いた。
入ってきたのは黒髪の青年だった。凛々しく整った顔立ち、見ただけでため息の出そうな程に美しい青年は紅の瞳で私を見つめて口を開いた。
「起きたんだね。リディ」
駆け寄ってきて、彼はいきなり私をギュッと抱きしめた。
優しくて暖かいハグだけど、突然の事で言葉が出ない。
この人、私をリディと呼んだ?
そうやって呼ぶのは、今まででたった一人だったはず。
「僕が分かる? アルベール・ディオネス……いや、君が知っていたのはアルって名前だね」
微笑み、私を見つめるその口元で気付いた。
「アルっ!? ほ、本当に?」
「そうだよ、久しぶり……!」
少し強く抱きしめられて、ドキドキとして心臓が壊れてしまいそうだ。
記憶の中のアルと違って、彼はとても大きくなっていて……とてもかっこよくなっている。
そんな彼が、私を抱きしめているのだから、この鼓動は当然だ。
「あ、あの……アル」
「ずっと、君にまたそう呼ばれたかった」
「え……」
「会いたかった、絶対に迎えに行くと決めていたんだ」
「ど、どういうこと?」
彼は私から身体を離して、目を見つめてくる。
そして、少しだけ怒ったような表情を浮かべた。
「今の状況を説明する前に、まずは君の事を僕に聞かせて」
「アル……」
「君が身を投げ出した瞬間はもう見たくないんだ。だから聞かせて、リディ」
何も聞かずとも、アルはそう言って私を抱きしめてくれる。
その温もりや、人からの優しさを久々に受けて……涙が自然とこぼれてしまう。
「ごめん、ごめんね、アル」
「謝らなくていいよ。分かるよ……リディは悪くない」
泣き終わるまで、アルは何も言わずに待っていてくれた。
ハンカチを渡してくれて、涙を拭く私へ優しく語りかける。
「制服、汚れていたから……何が起こったのか、少しは分かるよ」
そうだった。
私はいじめを受けてそのまま、あの村までやって来ていたんだ。
着替えは、彼の使用人がしてくれていたのだろうか? 気付けば今は別の衣服になっていた。
「あの……お母さんには」
「今は何も言ってないよ、あの時に逃げたのは何か理由があったと思ったから」
「……」
全てお見通しだったようだ。
アルは会えなかった年数に見合う程に、大人になっている。
なのに、私は……。
「いじめられているんだ。学園で……」
「……リディ」
「平民だから、権威ある学園が汚れるって言わ……れて。それで、私は学園を辞め……ようとして、そんな情けないことを、お、お母さんに言えなくて……」
駄目だ。
また、涙をこぼしてしまう。
借りたハンカチで涙を拭こうとした時、アルはそっと指で拭ってくれた。
その綺麗な顔で私を見つめながら、頭を撫でてくれるのだ。
「あ、あの……アル……」
すっかりかっこよくなった彼の行動はに鼓動が高鳴って、胸の緊張が止まらない。
あわあわとした私に、アルはニコリと快活に笑った。
「リディ、君は絶対に大丈夫だよ。情けなくなんてない。僕は良く知っている」
「ア、アル……知っているって、なにを」
「正確には、僕どころか聡い人達なら皆が知っているだろうね。学園の者達は馬鹿ばかりだよ」
「ど、どういうこと?」
「君は、君が思う以上に凄い事をやっているんだよ。それをまずは知って欲しい」
そう言って、彼はゆっくりと私の頭を撫でながら語り出す。
『アル、いいの?』
前髪で目元の隠れた男の子、私よりも少し年上で臆病なアル。
彼が私の頭へそっと花冠を乗せてくれる。
忘れていた、幼き頃の遠い思い出が揺らぐ頭の中に浮かんでいる。
『綺麗だね、リディ』
『ありがとう……アル、でもどうしてこんな物くれたの?』
『……あのね、リディにはこの村で助けてもらって、僕は本当に感謝してるんだ』
『アルは臆病だから、からかわれやすいものね』
『うん、でもリディがいてくれたから。僕はこの村にいる時、ずっと楽しかったよ』
?
何かおかしな言い回しに私は小首を傾げると、彼はそっと手を握ってきた。
『だから、絶対にまたリディに会いにくるよ。その時は––––』
あれ……。
アルは一体何を言っていたの。
◇◇◇
「ん……」
意識が戻っていくと同時に、身体が動いている事がわかる。
生きている?
どうしてと思って目を開くと、身覚えのない部屋の寝台で私は横になっていた。
綺麗で広い部屋、暖炉はパチパチと火をおこしていて暖かい。
置いているインテリアはどれも高価そうで、私が寝ている寝台も綺麗なシーツとふわふわの羽毛で出来ている。
そんな部屋の寝台で、一人でいるのだ。
「どこ、ここ」
状況が分からず、キョロキョロと見渡していると扉が開いた。
入ってきたのは黒髪の青年だった。凛々しく整った顔立ち、見ただけでため息の出そうな程に美しい青年は紅の瞳で私を見つめて口を開いた。
「起きたんだね。リディ」
駆け寄ってきて、彼はいきなり私をギュッと抱きしめた。
優しくて暖かいハグだけど、突然の事で言葉が出ない。
この人、私をリディと呼んだ?
そうやって呼ぶのは、今まででたった一人だったはず。
「僕が分かる? アルベール・ディオネス……いや、君が知っていたのはアルって名前だね」
微笑み、私を見つめるその口元で気付いた。
「アルっ!? ほ、本当に?」
「そうだよ、久しぶり……!」
少し強く抱きしめられて、ドキドキとして心臓が壊れてしまいそうだ。
記憶の中のアルと違って、彼はとても大きくなっていて……とてもかっこよくなっている。
そんな彼が、私を抱きしめているのだから、この鼓動は当然だ。
「あ、あの……アル」
「ずっと、君にまたそう呼ばれたかった」
「え……」
「会いたかった、絶対に迎えに行くと決めていたんだ」
「ど、どういうこと?」
彼は私から身体を離して、目を見つめてくる。
そして、少しだけ怒ったような表情を浮かべた。
「今の状況を説明する前に、まずは君の事を僕に聞かせて」
「アル……」
「君が身を投げ出した瞬間はもう見たくないんだ。だから聞かせて、リディ」
何も聞かずとも、アルはそう言って私を抱きしめてくれる。
その温もりや、人からの優しさを久々に受けて……涙が自然とこぼれてしまう。
「ごめん、ごめんね、アル」
「謝らなくていいよ。分かるよ……リディは悪くない」
泣き終わるまで、アルは何も言わずに待っていてくれた。
ハンカチを渡してくれて、涙を拭く私へ優しく語りかける。
「制服、汚れていたから……何が起こったのか、少しは分かるよ」
そうだった。
私はいじめを受けてそのまま、あの村までやって来ていたんだ。
着替えは、彼の使用人がしてくれていたのだろうか? 気付けば今は別の衣服になっていた。
「あの……お母さんには」
「今は何も言ってないよ、あの時に逃げたのは何か理由があったと思ったから」
「……」
全てお見通しだったようだ。
アルは会えなかった年数に見合う程に、大人になっている。
なのに、私は……。
「いじめられているんだ。学園で……」
「……リディ」
「平民だから、権威ある学園が汚れるって言わ……れて。それで、私は学園を辞め……ようとして、そんな情けないことを、お、お母さんに言えなくて……」
駄目だ。
また、涙をこぼしてしまう。
借りたハンカチで涙を拭こうとした時、アルはそっと指で拭ってくれた。
その綺麗な顔で私を見つめながら、頭を撫でてくれるのだ。
「あ、あの……アル……」
すっかりかっこよくなった彼の行動はに鼓動が高鳴って、胸の緊張が止まらない。
あわあわとした私に、アルはニコリと快活に笑った。
「リディ、君は絶対に大丈夫だよ。情けなくなんてない。僕は良く知っている」
「ア、アル……知っているって、なにを」
「正確には、僕どころか聡い人達なら皆が知っているだろうね。学園の者達は馬鹿ばかりだよ」
「ど、どういうこと?」
「君は、君が思う以上に凄い事をやっているんだよ。それをまずは知って欲しい」
そう言って、彼はゆっくりと私の頭を撫でながら語り出す。
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