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23話
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「いきなり……なんだというのだ! お前達は!」
ベクスア公爵家、前当主ドルモアが住む屋敷は街から離れた位置に建っている。
目立たぬためだろうが……今回はそれが裏目にでたようだ。
なにせ、この森林に囲まれた地形のおかげで、騎士団が接近するのを直前まで隠す事ができたのだから。
「帝国騎士団・団長のジェラルドだ。公爵家当主のデミトロ・ベクスアを殺人未遂容疑で身柄を拘束させてもらう。他……ドルモア・ベクスアに関しても幾つかの罪状で調べさせてもらう」
「聞いておりません! いきなりの来訪は失礼では?」
門番らしき者達は酷く焦った様子で騎士団を止める。
その様子に、内部もこの来訪にパニックになっているのは想像に容易い。
「なんにせよ。ドルモア様のご許可が下りるまでは……し、暫しお待ちを」
「待たぬ」
「へ?」
「もはや、これ以上の問答は不要。我らが行く道を塞ぐならば、みな捕らえるだけだ」
ジェラルド様の号令が下りた瞬間。
騎士達はためらいなく邸へと乗り込んでいく。
ベクスアを逃さぬため、こちらも正規の手順など踏んでられない。
強行突破。
それが……ここに辿り着く前に騎士達に周知された作戦だ。
「な! やめ!」
「くそっ……ドルモア様に伝え––」
騎士達は手慣れた速さで、門番達を捕えていく。
私やジェラルド様、そしてグレインもそのままデミトロ達を探して屋敷へと入る。
ジェラルド様の隣が一番安全であるため、私も離れずに付いて行く。
「止まれ! なんの許可があって我らが邸に……」
やけに多いベクスア家の衛兵達。
それも皆が、所属不明の鎧を着込んで私達の前に立ちはだかる。
その様相を見れば、明らかにこの屋敷に公爵家の不都合が隠されている事が丸わかりだ。
「邪魔だっ!!」
「あまり……我ら公爵家を舐めるなよ? 団長だか知らんが……潰してやってもいいのだぞ?」
ジェラルド様に並ぶ程の体躯の男が、通路で立ちはだかった。
私達を止めるという名目の割には、剣を抜き取ってジェラルド様へと向けている。
これでは、殺すと言っているのと同義。
……なんと都合が良いのだろうか。
「ジェラルド様」
「あぁ」
私の声にジェラルド様が頷き、剣を向けた衛兵へと視線を向けた。
「帝国騎士団への執行妨害により。貴様らを捕縛させてもらう」
「なっ!? ふざけるな! もういい! 時間稼ぎなどせずに、騎士共を全て処理すれば問題はない!」
衛兵が剣を振りかざし、ジェラルド様へと薙ぐ。
しかし、彼はあっさりとかわし、鞘を払って騎士の手を切り飛ばした。
「な……あぁぁぁ!!」
「邪魔だと、私は言ったはずだ」
「ひっ……」
ジェラルド様が剣を抜けば、公爵家の衛兵も臨戦態勢へと入った。
多くの者達が集まり、通路を塞いでいく手を阻む。
が……
「行ってください! 団長!」
そんな声が聞こえたと同時に、帝国騎士達が一斉に衛兵達にぶつかって通路を開く。
「行ってください! 両親の仇なんですよね! 逃がしちゃ駄目です!」
「俺達……ずっと誤解してました……だから団長のためにここは任せてください!」
両親を殺していたと思っていた騎士達だったが、その誤解への贖罪のために身体を張って道を作る。
その様子に……ジェラルド様は自然と微笑んでいた。
もう、指も使わずに彼らへと笑いかける。
「任せた」
「はい!」
作られた道を進んでいく。
広い屋敷だが、書斎までのルートは分かりやすい。
なにせ……衛兵達が行く手を親切にも阻んでくれているのだから。
次々と、衛兵達を押さえながらも突き進んだ先。
「っ……」
しぶとくも、再び大きな体躯の衛兵達が現れた。
それも……他と違う様相の鎧を見るに、彼らがドルモアの懐刀かもしれない。
「止まれぇ!!!!」
「ここまで来るとは……もはや騎士達を我らが消すしかないな」
「その通りだ。騎士団長とやらは直ぐに殺してやろう、我らの力を見せつけ––っ?!!!」
三者三様、思い思いの言葉を述べていたが……
突然、余裕の笑みを浮かべていた騎士の一人が悶絶して倒れる。
他の者達が視線を向けた瞬間、薙いだ銀色の剣先が弧を描いて、さらにもう一人の瞼を切り裂いた。
彼らは体躯の大きなジェラルド様に視線を向けていたようだ。
驕りが警戒を失い、下を見れていない。
ドルモアに懐刀がいるように、ジェラルド様にも……グレインという懐刀がいる。
「団長行ってください! お姉さんも気を付けてくださいね!」
「任せた、グレイン」
「ありがとう!」
「はい!! 帰ったらまた、玉子焼き作ってくださいね、お姉さん!」
「こっのぉ!! ガキがぁ!」
衛兵達が剣を抜き取るが、それを躱しつつグレインは道を開いてくれた。
ジェラルド様も一人の衛兵を軽くなぎ倒しつつ、私と共に駆けていく。
流石に私にも分かる。
グレインならば、任せても問題ないと。
皆に任せて突き進んだ先、書斎と思われる扉を開けば……彼らは居た。
「な……もうここまで……」
「レティシア……本当に来たのか」
デミトロと、ドルモア。
二人そろって、私達を見て驚きの表情を浮かべていた。
だが、その動揺をかき消すようにデミトロが激情に任せて叫び出す。
「レ、レティシア……お前は約束を違えるのか! 俺達はもう……関わり合う事はないと言ったはずだろう!」
「うっさいっ!!!!」
「ぐっ!?!」
怒りの拳をデミトロの鳩尾に出す。
ここに来る前に、グレインから習っておいて良かった……
「お、お前ぇぇ……」
「普通に、許すはずがないでしょ?」
「な……」
「今、貴方の相手はしてられません。黙ってて」
悶絶しているデミトロから視線を外し、ドルモアを見つめる。
逃げようと思っていたのか、慌てた様子の彼の首元へとジェラルド様が剣を突きつけた。
もはや、彼らに逃げ場はない。
「覚悟、できておりますよね? ドルモアさん」
「ぐ……」
微笑みながら問いかければ、ドルモアは酷く悔しそうに顔を歪めながら、こちらを睨んだ。
ベクスア公爵家、前当主ドルモアが住む屋敷は街から離れた位置に建っている。
目立たぬためだろうが……今回はそれが裏目にでたようだ。
なにせ、この森林に囲まれた地形のおかげで、騎士団が接近するのを直前まで隠す事ができたのだから。
「帝国騎士団・団長のジェラルドだ。公爵家当主のデミトロ・ベクスアを殺人未遂容疑で身柄を拘束させてもらう。他……ドルモア・ベクスアに関しても幾つかの罪状で調べさせてもらう」
「聞いておりません! いきなりの来訪は失礼では?」
門番らしき者達は酷く焦った様子で騎士団を止める。
その様子に、内部もこの来訪にパニックになっているのは想像に容易い。
「なんにせよ。ドルモア様のご許可が下りるまでは……し、暫しお待ちを」
「待たぬ」
「へ?」
「もはや、これ以上の問答は不要。我らが行く道を塞ぐならば、みな捕らえるだけだ」
ジェラルド様の号令が下りた瞬間。
騎士達はためらいなく邸へと乗り込んでいく。
ベクスアを逃さぬため、こちらも正規の手順など踏んでられない。
強行突破。
それが……ここに辿り着く前に騎士達に周知された作戦だ。
「な! やめ!」
「くそっ……ドルモア様に伝え––」
騎士達は手慣れた速さで、門番達を捕えていく。
私やジェラルド様、そしてグレインもそのままデミトロ達を探して屋敷へと入る。
ジェラルド様の隣が一番安全であるため、私も離れずに付いて行く。
「止まれ! なんの許可があって我らが邸に……」
やけに多いベクスア家の衛兵達。
それも皆が、所属不明の鎧を着込んで私達の前に立ちはだかる。
その様相を見れば、明らかにこの屋敷に公爵家の不都合が隠されている事が丸わかりだ。
「邪魔だっ!!」
「あまり……我ら公爵家を舐めるなよ? 団長だか知らんが……潰してやってもいいのだぞ?」
ジェラルド様に並ぶ程の体躯の男が、通路で立ちはだかった。
私達を止めるという名目の割には、剣を抜き取ってジェラルド様へと向けている。
これでは、殺すと言っているのと同義。
……なんと都合が良いのだろうか。
「ジェラルド様」
「あぁ」
私の声にジェラルド様が頷き、剣を向けた衛兵へと視線を向けた。
「帝国騎士団への執行妨害により。貴様らを捕縛させてもらう」
「なっ!? ふざけるな! もういい! 時間稼ぎなどせずに、騎士共を全て処理すれば問題はない!」
衛兵が剣を振りかざし、ジェラルド様へと薙ぐ。
しかし、彼はあっさりとかわし、鞘を払って騎士の手を切り飛ばした。
「な……あぁぁぁ!!」
「邪魔だと、私は言ったはずだ」
「ひっ……」
ジェラルド様が剣を抜けば、公爵家の衛兵も臨戦態勢へと入った。
多くの者達が集まり、通路を塞いでいく手を阻む。
が……
「行ってください! 団長!」
そんな声が聞こえたと同時に、帝国騎士達が一斉に衛兵達にぶつかって通路を開く。
「行ってください! 両親の仇なんですよね! 逃がしちゃ駄目です!」
「俺達……ずっと誤解してました……だから団長のためにここは任せてください!」
両親を殺していたと思っていた騎士達だったが、その誤解への贖罪のために身体を張って道を作る。
その様子に……ジェラルド様は自然と微笑んでいた。
もう、指も使わずに彼らへと笑いかける。
「任せた」
「はい!」
作られた道を進んでいく。
広い屋敷だが、書斎までのルートは分かりやすい。
なにせ……衛兵達が行く手を親切にも阻んでくれているのだから。
次々と、衛兵達を押さえながらも突き進んだ先。
「っ……」
しぶとくも、再び大きな体躯の衛兵達が現れた。
それも……他と違う様相の鎧を見るに、彼らがドルモアの懐刀かもしれない。
「止まれぇ!!!!」
「ここまで来るとは……もはや騎士達を我らが消すしかないな」
「その通りだ。騎士団長とやらは直ぐに殺してやろう、我らの力を見せつけ––っ?!!!」
三者三様、思い思いの言葉を述べていたが……
突然、余裕の笑みを浮かべていた騎士の一人が悶絶して倒れる。
他の者達が視線を向けた瞬間、薙いだ銀色の剣先が弧を描いて、さらにもう一人の瞼を切り裂いた。
彼らは体躯の大きなジェラルド様に視線を向けていたようだ。
驕りが警戒を失い、下を見れていない。
ドルモアに懐刀がいるように、ジェラルド様にも……グレインという懐刀がいる。
「団長行ってください! お姉さんも気を付けてくださいね!」
「任せた、グレイン」
「ありがとう!」
「はい!! 帰ったらまた、玉子焼き作ってくださいね、お姉さん!」
「こっのぉ!! ガキがぁ!」
衛兵達が剣を抜き取るが、それを躱しつつグレインは道を開いてくれた。
ジェラルド様も一人の衛兵を軽くなぎ倒しつつ、私と共に駆けていく。
流石に私にも分かる。
グレインならば、任せても問題ないと。
皆に任せて突き進んだ先、書斎と思われる扉を開けば……彼らは居た。
「な……もうここまで……」
「レティシア……本当に来たのか」
デミトロと、ドルモア。
二人そろって、私達を見て驚きの表情を浮かべていた。
だが、その動揺をかき消すようにデミトロが激情に任せて叫び出す。
「レ、レティシア……お前は約束を違えるのか! 俺達はもう……関わり合う事はないと言ったはずだろう!」
「うっさいっ!!!!」
「ぐっ!?!」
怒りの拳をデミトロの鳩尾に出す。
ここに来る前に、グレインから習っておいて良かった……
「お、お前ぇぇ……」
「普通に、許すはずがないでしょ?」
「な……」
「今、貴方の相手はしてられません。黙ってて」
悶絶しているデミトロから視線を外し、ドルモアを見つめる。
逃げようと思っていたのか、慌てた様子の彼の首元へとジェラルド様が剣を突きつけた。
もはや、彼らに逃げ場はない。
「覚悟、できておりますよね? ドルモアさん」
「ぐ……」
微笑みながら問いかければ、ドルモアは酷く悔しそうに顔を歪めながら、こちらを睨んだ。
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