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8話
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早速、準備と復讐の計画を進めていこう。
まずは住むべき所。
この邸はジェラルド様が所有しているが、基本的に仕事で外に出ているために侍女達はおらず、一人だけで住んでいるようだ。
なので。
「とりあえず、ここに住まわせてもらいますね」
「……は?」
「命を狙われているのです。離れて危機となる訳にはいかないでしょう?」
「そ……そうだが。恥じらいはないのか? それに、俺はお前を疑って」
前世でしこたま読んだ小説達の知識が私に教えてくれる。
恥じらいなど捨て、常に最善を選べと……
命を狙われる立場の今、状況を悪くするだけの感情など不要。
「恥じらいなど気にする場合ですか? それに、疑っているなら近くで見張った方が良いですよね」
「それはそうだが……」
戸惑い気味のジェラルド様を放置しつつ、私は足元に寄ってきた白猫を抱き上げた。
そういえば、この子の名前を聞いていない。
「ニャーン」
「ジェラルド様、この子の名前は?」
「ない。勝手に住み着いていた」
飼っている訳ではない?
こんなに可愛いのに……
「一応、名前でも付けておいてあげましょうよ」
「……好きにしろ」
ため息交じりに呟かれた言葉に、私は心から嬉しさを感じながら白猫を抱きしめた。
「じゃあ、この子はハクちゃんです」
「ニャーーーン!」
白色のなので、ハク。
我ながら安直だが、呼びやすさ重視だ。
前世では猫を飼おうと夢見ていたが、こんなタイミングで叶うとは。
っと、ハクちゃんにばかり構っていられない。
そう思った時、ジェラルド様が諌めるように呟く。
「言っておくが、俺はまだお前を完全に信用したわけでは––」
「分かっております。では……貴方を信用させるためにも、復讐を進めますね」
呟き、私はジェラルド様の手を取った。
「街まで行きますよ、付いてきてください」
「お、おい。もう動くのか?」
「もちろん。住む所も決まり、身の安全も保証されたなら。一気に動き出せます」
「……」
「それに、協力関係となった今。貴方にも私の成果を渡さないといけませんからね」
彼と共に邸を出て、街へと向かう。
強引かもしれないが、少なくとも今はジェラルド様と離れる事は避けるべきだ。
彼もそれを分かったのか、何も言わないでくれた。
街へ向かう馬車の中で、彼は私を見つめてポツリと呟く。
「額の傷」
「っ……あぁ、これはデミトロに」
「聞かれても、今は賊に付けられた事にしておけ」
「え?」
「今のお前は、身を隠しておくことが最善。下手に身を明かせば居場所が伝わる」
「あぁ……確かに」
その通りだ。
下手にデミトロ達に居場所が知られる可能性を避け、今は身を隠す事が優先だ。
さすがは騎士団長……そういった判断は早い。
「そういえば……包帯、変えてくれたのですね」
「……あぁ」
「ありがとうございます」
倒れていた間に巻かれた新しい包帯の手触り。
ベクスア家と関わっていなければ……彼は優しいままだったのかな。
そう考えれば、少し残念にも感じた。
その後、街へとたどり着いた私は帝国郵便局へと向かう。
ここは帝国内で手紙を届けてくれる機関だ。
「さぁ、行きますよ」
「お、おい……手を引くな」
「さっさと私を信用してもらうためです、お早く」
ジェラルド様を強引に連れながら、郵便局内で幾つかの紙に筆を走らせた。
書いたのは、二通の手紙だ。
一通はデミトロの邸にいる侍女や護衛達へ、私に協力してもらう事を要請する内容。
『私達に出来る事があれば……いつでも言ってください』
あの時の言葉を信じて、計画を書いた手紙を送ろう。
「手紙を送るのはいいが、侍女に何が出来る」
隣で見ていたジェラルド様の呟き。
そういえば、彼には今回の計画は話していなかった。
「侍女達には、客人を公爵邸の中に通してもらうだけですよ」
「は……?」
「もう一通が、重要なのです」
私はもう一つ書いていた手紙を見せて微笑む。
その宛先は、ある伯爵家の名前が書かれていた。
「伯爵家? これは」
「手紙を送るのは。デミトロの妻であるアーリアの不倫相手に向けてです」
「っ」
「アーリアだと偽り、デミトロが不在だとウソを書いて不倫相手を公爵邸に招待してあげましょうか」
私の言葉に、ジェラルド様は訝しむような視線を向けた。
若干、信じられない様子だ。
「字が違う事、疑わぬはずがない」
「えぇ、でも不倫相手に送る手紙だからこそ出来るんです」
呟きつつ、私は手紙の隅に小さな星のマークを描いた。
「これは、アーリアが不倫相手へ手紙を送る際に付けていた印。不倫関係を知られぬため、偽名を使い、こうして手紙を送っていました」
アーリアは間抜けだ、公爵邸では手紙をまとめて出すが。そこに彼女はこのマーク付きの手紙を紛れさせていた。
しかし、私は向こうの家で執務以外にも手紙の送付までやらされていたおかげで、気付く事ができた。
その経験が、今の私の復讐する道になっている。
「さて、文字が違うのは腕を怪我して代筆させた事にしてと……」
「容赦ないな」
「ふふ、容赦? ……しない方が貴方も好都合でしょう?」
「……あぁ」
全てを奪った公爵家に情などない。
偽り、騙して全てを奪う事にためらいなど……あろうはずがない。
「さて、ジェラルド様。不倫した男女と、不倫された夫。会えばどうなるのか楽しみですね」
「恐ろしいな、これは……」
「これでも足りないほど、私も全て奪われてきたのです。これを機に内側から破壊していきましょうか」
公爵家が悪行をしているのなら、こちらも悪道で返そう。
内側から崩し、公爵家としての力さえ奪っていくのだ。
「この伯爵家は有力家だ、もし関係が途絶えればベクスア家にも痛手となるな」
「その時は、少しは信用してくださいね」
「……」
呟くジェラルド様に、私はそんな言葉を返しつつ。再び邸へと戻った。
◇◇◇
数日後、ジェラルド様宛に手紙が届く。
侍女達からだった。
手紙を開けば、『お任せください』と、計画に協力してくれる返事が……皆の分、たくさん書かれていた。
この返事から。復讐の一歩が刻まれはじめた。
まずは住むべき所。
この邸はジェラルド様が所有しているが、基本的に仕事で外に出ているために侍女達はおらず、一人だけで住んでいるようだ。
なので。
「とりあえず、ここに住まわせてもらいますね」
「……は?」
「命を狙われているのです。離れて危機となる訳にはいかないでしょう?」
「そ……そうだが。恥じらいはないのか? それに、俺はお前を疑って」
前世でしこたま読んだ小説達の知識が私に教えてくれる。
恥じらいなど捨て、常に最善を選べと……
命を狙われる立場の今、状況を悪くするだけの感情など不要。
「恥じらいなど気にする場合ですか? それに、疑っているなら近くで見張った方が良いですよね」
「それはそうだが……」
戸惑い気味のジェラルド様を放置しつつ、私は足元に寄ってきた白猫を抱き上げた。
そういえば、この子の名前を聞いていない。
「ニャーン」
「ジェラルド様、この子の名前は?」
「ない。勝手に住み着いていた」
飼っている訳ではない?
こんなに可愛いのに……
「一応、名前でも付けておいてあげましょうよ」
「……好きにしろ」
ため息交じりに呟かれた言葉に、私は心から嬉しさを感じながら白猫を抱きしめた。
「じゃあ、この子はハクちゃんです」
「ニャーーーン!」
白色のなので、ハク。
我ながら安直だが、呼びやすさ重視だ。
前世では猫を飼おうと夢見ていたが、こんなタイミングで叶うとは。
っと、ハクちゃんにばかり構っていられない。
そう思った時、ジェラルド様が諌めるように呟く。
「言っておくが、俺はまだお前を完全に信用したわけでは––」
「分かっております。では……貴方を信用させるためにも、復讐を進めますね」
呟き、私はジェラルド様の手を取った。
「街まで行きますよ、付いてきてください」
「お、おい。もう動くのか?」
「もちろん。住む所も決まり、身の安全も保証されたなら。一気に動き出せます」
「……」
「それに、協力関係となった今。貴方にも私の成果を渡さないといけませんからね」
彼と共に邸を出て、街へと向かう。
強引かもしれないが、少なくとも今はジェラルド様と離れる事は避けるべきだ。
彼もそれを分かったのか、何も言わないでくれた。
街へ向かう馬車の中で、彼は私を見つめてポツリと呟く。
「額の傷」
「っ……あぁ、これはデミトロに」
「聞かれても、今は賊に付けられた事にしておけ」
「え?」
「今のお前は、身を隠しておくことが最善。下手に身を明かせば居場所が伝わる」
「あぁ……確かに」
その通りだ。
下手にデミトロ達に居場所が知られる可能性を避け、今は身を隠す事が優先だ。
さすがは騎士団長……そういった判断は早い。
「そういえば……包帯、変えてくれたのですね」
「……あぁ」
「ありがとうございます」
倒れていた間に巻かれた新しい包帯の手触り。
ベクスア家と関わっていなければ……彼は優しいままだったのかな。
そう考えれば、少し残念にも感じた。
その後、街へとたどり着いた私は帝国郵便局へと向かう。
ここは帝国内で手紙を届けてくれる機関だ。
「さぁ、行きますよ」
「お、おい……手を引くな」
「さっさと私を信用してもらうためです、お早く」
ジェラルド様を強引に連れながら、郵便局内で幾つかの紙に筆を走らせた。
書いたのは、二通の手紙だ。
一通はデミトロの邸にいる侍女や護衛達へ、私に協力してもらう事を要請する内容。
『私達に出来る事があれば……いつでも言ってください』
あの時の言葉を信じて、計画を書いた手紙を送ろう。
「手紙を送るのはいいが、侍女に何が出来る」
隣で見ていたジェラルド様の呟き。
そういえば、彼には今回の計画は話していなかった。
「侍女達には、客人を公爵邸の中に通してもらうだけですよ」
「は……?」
「もう一通が、重要なのです」
私はもう一つ書いていた手紙を見せて微笑む。
その宛先は、ある伯爵家の名前が書かれていた。
「伯爵家? これは」
「手紙を送るのは。デミトロの妻であるアーリアの不倫相手に向けてです」
「っ」
「アーリアだと偽り、デミトロが不在だとウソを書いて不倫相手を公爵邸に招待してあげましょうか」
私の言葉に、ジェラルド様は訝しむような視線を向けた。
若干、信じられない様子だ。
「字が違う事、疑わぬはずがない」
「えぇ、でも不倫相手に送る手紙だからこそ出来るんです」
呟きつつ、私は手紙の隅に小さな星のマークを描いた。
「これは、アーリアが不倫相手へ手紙を送る際に付けていた印。不倫関係を知られぬため、偽名を使い、こうして手紙を送っていました」
アーリアは間抜けだ、公爵邸では手紙をまとめて出すが。そこに彼女はこのマーク付きの手紙を紛れさせていた。
しかし、私は向こうの家で執務以外にも手紙の送付までやらされていたおかげで、気付く事ができた。
その経験が、今の私の復讐する道になっている。
「さて、文字が違うのは腕を怪我して代筆させた事にしてと……」
「容赦ないな」
「ふふ、容赦? ……しない方が貴方も好都合でしょう?」
「……あぁ」
全てを奪った公爵家に情などない。
偽り、騙して全てを奪う事にためらいなど……あろうはずがない。
「さて、ジェラルド様。不倫した男女と、不倫された夫。会えばどうなるのか楽しみですね」
「恐ろしいな、これは……」
「これでも足りないほど、私も全て奪われてきたのです。これを機に内側から破壊していきましょうか」
公爵家が悪行をしているのなら、こちらも悪道で返そう。
内側から崩し、公爵家としての力さえ奪っていくのだ。
「この伯爵家は有力家だ、もし関係が途絶えればベクスア家にも痛手となるな」
「その時は、少しは信用してくださいね」
「……」
呟くジェラルド様に、私はそんな言葉を返しつつ。再び邸へと戻った。
◇◇◇
数日後、ジェラルド様宛に手紙が届く。
侍女達からだった。
手紙を開けば、『お任せください』と、計画に協力してくれる返事が……皆の分、たくさん書かれていた。
この返事から。復讐の一歩が刻まれはじめた。
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