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19話
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禁忌の魔法である蘇生魔法。
その術式を全て終えて、傍に居た者達がクロヴィスを見つめる。
私の護衛騎士や、協力してくれた一級魔術師。
彼らの視線の中で、本来のクロヴィスの肉体の指先が……動いた。
「ん……」
「っ!! クロ……ヴィス……」
起き上がった彼へと駆け寄る。
抱きしめれば、かつての温もりを……確かに感じることができた。
「ラ……シェル? なんで、おれ」
「良かった。良かった……クロヴィス!」
「一体、なにを……」
戸惑いながら、クロヴィスの視線が動く。
以前までの仮初の身体、朽ちていくその身を見て、瞳を大きく見開いた。
そして……
「セドア……?」
彼の瞳は、隣で倒れるセドア様を映した。
クロヴィスの隣で、冷たくなって眠る彼を……
「ラシェル……俺は、生きて……るのか?」
「はい。はい……」
「……そうか。なら聞かせてくれ、ラシェル」
彼は呟きながら私の髪を撫でる。
かつてのように凛々しい顔立ちと、幼い子供に聞くような語り方で、私へ問いかけるのだ。
「全部、聞かせてくれ。知りたいんだ……ラシェルがしてくれた事も、セドアがなにをしたのかも」
「はい! はい……全部、伝えます」
戻ってきてくれた彼に抱きつき、溢れる涙を堪え切れずに流しながら。
私は、彼に全てを語った。
◇◇◇
––––三日後。
訪れたエミリーの馬車へと、セドア様の遺体が眠る棺桶が運ばれていく。
彼女は眠っているセドア様を見て、涙と共に微笑んでいた。
「ごめんなさい……エミリー。このような、結果となって……」
「謝らなくていいのよ。セドア様だって、自分の身を犠牲にする覚悟を決めて貴方の元へ向かったのだから。私だって覚悟はしていたわ」
「感謝してる。エミリーや、セドアにも……」
クロヴィスが頭を下げれば、エミリーが首を横に振って笑う。
「だめだめ。流刑された身分である私の前で、皇帝夫妻が余裕のない表情をしないでください」
「だけど、エミリーの愛した……セドア様が」
セドア様を憎んでいた気持ちは確かにある。
だけど、クロヴィスを失いかけた私には、エミリーの気持ちが少なからず理解できる。
しかし、彼女は笑った顔を変えずに答えた。
「いいのよ。彼だって皇族とはかけ離れて落ちぶれた姿を晒すより、死んだ方がいいと言っていたのよ。それが彼の皇族としての誇りだってね」
「……」
「それにね……私は十分、満足できたの」
エミリーは眠っているセドア様の髪を撫でる。
その瞳は、心から愛しいと思っているように潤んでいた。
「私は彼の婚約者候補になれた時、本当に嬉しかった。でも彼はラシェルに心を惹かれていて、一度だって私を見てくれなかったけど……この一年。ずっと私の傍に居て、私を見てくれたのよ」
「エミリー……」
「それで十分。その思い出だけで、幸せだわ」
そう告げたエミリーは、馬車に積まれていく棺桶を見届ける。
これから、二人で過ごいてた流刑の地で彼を埋めるらしい。
セドア様が、それを望んでいたようだ。
「エミリー、貴方の流刑は一級魔術師と同じく……解除されています。王都に戻ることも可能です」
「必要ないわ。私は二人で過ごしたあの地で過ごしたいの。それに彼も言い残してくれたのよ。死んだ後は、ずっと私と一緒にいてくれるってね」
その言葉を最後に、エミリーは馬車に乗りこむ。
再び眠るセドア様を見つめた瞳からは、確かに涙がこぼれているのが見えた。
「ラシェル。これで会うのが最後だから、謝罪をさせて……」
「っ!!」
「嫉妬で貴方に酷い事をしてしまったこと、本当にごめんなさい。どうか……セドア様が望んだように二人で幸せに過ごしてね」
「はい。私はもう、恨んではいません。さようなら、エミリー」
去っていく馬車を見送りながら、隣に立つクロヴィスの手を握る。
命を奪った張本人だけど、命を救ってくれたセドア様を見送るクロヴィスの瞳は、どこか寂し気だった。
◇◇◇
「なぁ、ラシェル」
「はい」
「もう、俺は生きるのを諦めない。絶対に」
「もちろんです。諦めたら、私が許しません」
「そうだな。これからも生きていくよ。救ってもらった命を、大切にしながら」
私の手をギュッと強く握り、クロヴィスはセドア様が積まれた馬車が見えなくなるまで見送る。
そして……たった一言。
「ありがとな。兄上……」と、彼は感謝の言葉を兄へと贈った。
その術式を全て終えて、傍に居た者達がクロヴィスを見つめる。
私の護衛騎士や、協力してくれた一級魔術師。
彼らの視線の中で、本来のクロヴィスの肉体の指先が……動いた。
「ん……」
「っ!! クロ……ヴィス……」
起き上がった彼へと駆け寄る。
抱きしめれば、かつての温もりを……確かに感じることができた。
「ラ……シェル? なんで、おれ」
「良かった。良かった……クロヴィス!」
「一体、なにを……」
戸惑いながら、クロヴィスの視線が動く。
以前までの仮初の身体、朽ちていくその身を見て、瞳を大きく見開いた。
そして……
「セドア……?」
彼の瞳は、隣で倒れるセドア様を映した。
クロヴィスの隣で、冷たくなって眠る彼を……
「ラシェル……俺は、生きて……るのか?」
「はい。はい……」
「……そうか。なら聞かせてくれ、ラシェル」
彼は呟きながら私の髪を撫でる。
かつてのように凛々しい顔立ちと、幼い子供に聞くような語り方で、私へ問いかけるのだ。
「全部、聞かせてくれ。知りたいんだ……ラシェルがしてくれた事も、セドアがなにをしたのかも」
「はい! はい……全部、伝えます」
戻ってきてくれた彼に抱きつき、溢れる涙を堪え切れずに流しながら。
私は、彼に全てを語った。
◇◇◇
––––三日後。
訪れたエミリーの馬車へと、セドア様の遺体が眠る棺桶が運ばれていく。
彼女は眠っているセドア様を見て、涙と共に微笑んでいた。
「ごめんなさい……エミリー。このような、結果となって……」
「謝らなくていいのよ。セドア様だって、自分の身を犠牲にする覚悟を決めて貴方の元へ向かったのだから。私だって覚悟はしていたわ」
「感謝してる。エミリーや、セドアにも……」
クロヴィスが頭を下げれば、エミリーが首を横に振って笑う。
「だめだめ。流刑された身分である私の前で、皇帝夫妻が余裕のない表情をしないでください」
「だけど、エミリーの愛した……セドア様が」
セドア様を憎んでいた気持ちは確かにある。
だけど、クロヴィスを失いかけた私には、エミリーの気持ちが少なからず理解できる。
しかし、彼女は笑った顔を変えずに答えた。
「いいのよ。彼だって皇族とはかけ離れて落ちぶれた姿を晒すより、死んだ方がいいと言っていたのよ。それが彼の皇族としての誇りだってね」
「……」
「それにね……私は十分、満足できたの」
エミリーは眠っているセドア様の髪を撫でる。
その瞳は、心から愛しいと思っているように潤んでいた。
「私は彼の婚約者候補になれた時、本当に嬉しかった。でも彼はラシェルに心を惹かれていて、一度だって私を見てくれなかったけど……この一年。ずっと私の傍に居て、私を見てくれたのよ」
「エミリー……」
「それで十分。その思い出だけで、幸せだわ」
そう告げたエミリーは、馬車に積まれていく棺桶を見届ける。
これから、二人で過ごいてた流刑の地で彼を埋めるらしい。
セドア様が、それを望んでいたようだ。
「エミリー、貴方の流刑は一級魔術師と同じく……解除されています。王都に戻ることも可能です」
「必要ないわ。私は二人で過ごしたあの地で過ごしたいの。それに彼も言い残してくれたのよ。死んだ後は、ずっと私と一緒にいてくれるってね」
その言葉を最後に、エミリーは馬車に乗りこむ。
再び眠るセドア様を見つめた瞳からは、確かに涙がこぼれているのが見えた。
「ラシェル。これで会うのが最後だから、謝罪をさせて……」
「っ!!」
「嫉妬で貴方に酷い事をしてしまったこと、本当にごめんなさい。どうか……セドア様が望んだように二人で幸せに過ごしてね」
「はい。私はもう、恨んではいません。さようなら、エミリー」
去っていく馬車を見送りながら、隣に立つクロヴィスの手を握る。
命を奪った張本人だけど、命を救ってくれたセドア様を見送るクロヴィスの瞳は、どこか寂し気だった。
◇◇◇
「なぁ、ラシェル」
「はい」
「もう、俺は生きるのを諦めない。絶対に」
「もちろんです。諦めたら、私が許しません」
「そうだな。これからも生きていくよ。救ってもらった命を、大切にしながら」
私の手をギュッと強く握り、クロヴィスはセドア様が積まれた馬車が見えなくなるまで見送る。
そして……たった一言。
「ありがとな。兄上……」と、彼は感謝の言葉を兄へと贈った。
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