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劣等感② セドアside
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凍りついてしまった魔術師の姿に、驚きで声が出ない。
俺の反応を見て、クロヴィスは凍った魔術師を叩いた。
「二週間後に魔法は解除される。その時に事情は説明してやれ」
「な……我が帝国が誇る。一級魔術師が……」
「五年前に俺を殺そうとしたんだ。殺してないだけ感謝しろ」
「さ、先程の会話はなんだ!? お前は一体なにを隠している!」
ようやく冷静な思考を取り戻したと同時に、目の前にいるクロヴィスに尋ねる。
その途端、喉に鋭い痛みが走った。
喉が凍りついている!?
「うぐっ!?」
「お前に答える訳ないだろ」
「な、なら……何をする気だ? 俺に何を聞かせる気だ?」
「ラシェルには、お前を苦しめる姿は見せたくなくてな」
「や、やめぇ……がっ!!!?!?!!」
「辞める訳ない。俺の怒りが……さっきので終わると思っていたか?」
全身を氷の針で刺されていく感覚が走る。
あまりの痛みに叫びたいのに、喉が凍っていて声も出せない。
痛い、痛い、痛い。
「は……いっ……なんだ……これは……」
「お前の感覚に痛みだけを与えてる。傷は残らないから安心しろ」
苦し気に呼吸を吐き出す俺を、クロヴィスは見下してくる。
なんて屈辱だ。
奴に抵抗する力が、俺には皆無だ。
「言っておく。ラシェルにだけは手を出すな」
「が……くそ……」
「まぁ、いずれどう足掻いてもラシェルには手出しできなくするけどな」
「な……にを?」
考えが読めずに尋ねれば、クロヴィスは笑った。
「ラシェルが作ったポーションの品質を、お前達も理解しているだろ?」
「っ!?」
「他国にも光の魔力を持つ者はいるが……ラシェル以上の品を作り出せる奴はいない」
「……」
「ラシェルには女神と讃えられるほどの力があるのに、お前達は彼女の存在を他国には公表せず虐げていた」
「ちが……う。我ら皇族は、彼女を適切に管理するた……め……」
隣国に彼女の存在を知られれば、ポーションを多く作らせる無理強いが出来なくなる。
多大な利益を生みだす存在を手放す訳にはいかない。
だから、我らで管理していたのだ。
ラシェルが余計な情報を知り、立場が逆転する訳にはいかなかった……
「だからまぁ……俺が隣国にラシェルのことを全部明かす事にした」
「なっ!?」
「ラシェルを虐げていた……お前達の所業を全てな」
「や、やめ! そんな事をすれば……」
「現皇帝ならびに……皇族の信頼は地に落ちる。好都合だ」
クロヴィスが明かした今後の展望に、身体が震える。
もしも隣国に俺達の所業が明かされたなら、どのような末路になるのか想像もできない。
「や! やめ! やめてくれ! お……おねがいだ! 皇族の威厳を失ってもいいのか!?」
「やめる訳ない。それに……お前らの自業自得だろ」
待て、待ってくれ。
お前が、俺から全てを奪うな。
俺が……お前に勝っている部分を奪われたなら……俺は……
苦しみの中で呼吸を吐きながら、遠ざかっていくクロヴィスに手を伸ばす。
愚弟だと見下して、殺そうと思ったあいつを必死に止めようともがく。
俺が最も欲しいと望むラシェルが隣に居るあいつに、全てが負けてしまう。
その現実を突きつけられたようで、深い絶望が胸を満たした。
「やめろ! 父上と、俺が築き上げてきた皇族の信頼を壊すなど。国家の損失だ!」
「やめられないんだよ。俺はラシェルを幸せにする。それが……やり残した事だからな」
「? な、なにを……」
「お前には関係ない。大人しく終わりを待ってろ」
「ま、まて……待ってくれ! 話を聞け! クロヴィス!」
痛みに耐えながら、絶望を振り払うように必死に叫ぶ。
だが俺には……クロヴィスに対抗する明確な打開策はなく。
そして奴も、俺の話を聞く素振りすら見せずに去ってしまった。
俺の反応を見て、クロヴィスは凍った魔術師を叩いた。
「二週間後に魔法は解除される。その時に事情は説明してやれ」
「な……我が帝国が誇る。一級魔術師が……」
「五年前に俺を殺そうとしたんだ。殺してないだけ感謝しろ」
「さ、先程の会話はなんだ!? お前は一体なにを隠している!」
ようやく冷静な思考を取り戻したと同時に、目の前にいるクロヴィスに尋ねる。
その途端、喉に鋭い痛みが走った。
喉が凍りついている!?
「うぐっ!?」
「お前に答える訳ないだろ」
「な、なら……何をする気だ? 俺に何を聞かせる気だ?」
「ラシェルには、お前を苦しめる姿は見せたくなくてな」
「や、やめぇ……がっ!!!?!?!!」
「辞める訳ない。俺の怒りが……さっきので終わると思っていたか?」
全身を氷の針で刺されていく感覚が走る。
あまりの痛みに叫びたいのに、喉が凍っていて声も出せない。
痛い、痛い、痛い。
「は……いっ……なんだ……これは……」
「お前の感覚に痛みだけを与えてる。傷は残らないから安心しろ」
苦し気に呼吸を吐き出す俺を、クロヴィスは見下してくる。
なんて屈辱だ。
奴に抵抗する力が、俺には皆無だ。
「言っておく。ラシェルにだけは手を出すな」
「が……くそ……」
「まぁ、いずれどう足掻いてもラシェルには手出しできなくするけどな」
「な……にを?」
考えが読めずに尋ねれば、クロヴィスは笑った。
「ラシェルが作ったポーションの品質を、お前達も理解しているだろ?」
「っ!?」
「他国にも光の魔力を持つ者はいるが……ラシェル以上の品を作り出せる奴はいない」
「……」
「ラシェルには女神と讃えられるほどの力があるのに、お前達は彼女の存在を他国には公表せず虐げていた」
「ちが……う。我ら皇族は、彼女を適切に管理するた……め……」
隣国に彼女の存在を知られれば、ポーションを多く作らせる無理強いが出来なくなる。
多大な利益を生みだす存在を手放す訳にはいかない。
だから、我らで管理していたのだ。
ラシェルが余計な情報を知り、立場が逆転する訳にはいかなかった……
「だからまぁ……俺が隣国にラシェルのことを全部明かす事にした」
「なっ!?」
「ラシェルを虐げていた……お前達の所業を全てな」
「や、やめ! そんな事をすれば……」
「現皇帝ならびに……皇族の信頼は地に落ちる。好都合だ」
クロヴィスが明かした今後の展望に、身体が震える。
もしも隣国に俺達の所業が明かされたなら、どのような末路になるのか想像もできない。
「や! やめ! やめてくれ! お……おねがいだ! 皇族の威厳を失ってもいいのか!?」
「やめる訳ない。それに……お前らの自業自得だろ」
待て、待ってくれ。
お前が、俺から全てを奪うな。
俺が……お前に勝っている部分を奪われたなら……俺は……
苦しみの中で呼吸を吐きながら、遠ざかっていくクロヴィスに手を伸ばす。
愚弟だと見下して、殺そうと思ったあいつを必死に止めようともがく。
俺が最も欲しいと望むラシェルが隣に居るあいつに、全てが負けてしまう。
その現実を突きつけられたようで、深い絶望が胸を満たした。
「やめろ! 父上と、俺が築き上げてきた皇族の信頼を壊すなど。国家の損失だ!」
「やめられないんだよ。俺はラシェルを幸せにする。それが……やり残した事だからな」
「? な、なにを……」
「お前には関係ない。大人しく終わりを待ってろ」
「ま、まて……待ってくれ! 話を聞け! クロヴィス!」
痛みに耐えながら、絶望を振り払うように必死に叫ぶ。
だが俺には……クロヴィスに対抗する明確な打開策はなく。
そして奴も、俺の話を聞く素振りすら見せずに去ってしまった。
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