【完結】冷遇された私が皇后になれたわけ~もう貴方達には尽くしません~

なか

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12話

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「婚約支度金を全額返済しろだと? ふざけた事を言うな。ラシェルっ!!」

 声を荒げた父に、私は冷静に言葉を返す。
 
「いえ、ふざけておりません。これは正当な要求です」

「正当だと……? 親族である私がお前の支度金を管理する事に問題はない。私は誰よりも帝国の法令を遵守しているのだ、お前に返済する義務などない」

「ええ、確かに親族が支度金を管理する事は許可されておりますね」

 冷静に考え始めた父は支度金を使っている事に対して、悪い事をしていない絶対の自信があるのだろう。
 私を嘲笑して、足を机にまで上げる余裕ぶりだ。
 しかし……父は状況を変える手段が私にある事を忘れているようだ。

「分かるだろうラシェル。私に返済の義務などない。お前の支度金は、私のものでもあるのだから」

「いえ、返済の義務がないのは……親族に限った話ですよ」

「なに……?」

「私は、父のイベルトス伯爵家を分籍する事に決めました」

「は……?」

「つまり、この家の子供を辞めるという事です。お母様の実家であるリース子爵家に籍を移します」

 私が父の親族である事で費用が全て管理されてしまうなら。
 家族を辞めてしまえばいい。簡単なことだ。

「私が分籍をしてはリース子爵家の娘となれば……おのずと私の支度金の権利はリース子爵家に移ります」

「な……な……」

「さて、イベルトス伯爵様。誰よりも法令遵守すると豪語したのなら、私の支度金は返済して頂きますね?」

 もはや父とも呼ぶ気は無い。
 そんな意味を込めた私の言葉に、元父は焦りと怒りに満ちた表情を向けた。

「貴様……リース子爵家に籍を移すだと……?」

 お母様の祖父母には感謝している。
 彼らがリース子爵家を継続してくれている事で、私はそちらの籍に移す権利を有しているのだから。

「そんなことさせるか。そもそも、分籍の手続きが未成年のお前に実行する権利はない!」

「手続きはクロヴィスがしてくれます。皇子である彼の邪魔ができると?」

「……っ!! クロヴィス殿下が……帰ってきたのか」

「ええ、おかげで……もう元お父様に気を遣う必要はなくなったので、こうして家族を辞めにきました」

「この……恩知らずの娘が……」

「えっと……恩を感じるような事はしてもらった事がないですし。もう娘じゃありませんよ?」

 ニコリと笑いかけてそう言えば、元父は立ち上がって私に詰め寄った。
 まさか、ここまで短気だったとは。
 
「私をこれ以上馬鹿にするなら。娘であろうと……非道な手段をとらせてもらうぞ?」

「勝手に馬鹿にされる事をしているのでしょう?」

「黙れ、もういい。生意気なお前は我が家の騎士に捕えさせてやる。お前のような親不孝は娼館にでも売り飛ばして––」

「俺のラシェルを、娼館に売り飛ばすって言ったか?」

「誰だ。っ!?」

 元父の叫びを遮り、酷く冷たい声が部屋に響いた。
 途端に、元父の身体が吹き飛ばされたように転がっていき、壁に激突する。

「うっ……ぐぅ……」

「お前の家の騎士達は聞き訳が良かったよ。俺の名を告げれば、もうお前の指示には従わない事を誓ってくれたよ」

 そう、クロヴィスは万が一に備えて伯爵家の騎士を止めに向かってくれていたのだ。
 この元父が、最悪の手段を使って血が流れるのを避けるためだ。
 心配していたが、どうやら穏便に話は済んだらしい。

「ク……クロヴィス、で、殿下……? き、帰還していたのですか?」

「話を逸らすなよ。もう一度聞くが、誰を娼館に売り飛ばすって?」

「ぁ……ち、ちが……」

 もう一つクロヴィスが離れていた理由があるとすれば。
 今のように、元父の失言を引き出すためでもある。

「俺の妻となるラシェルへの暴言。もはや父でも無くなったお前の処遇は爵位のはく奪じゃ済まさねーぞ」

「お、お待ちください。私は貴方がいると知らずに……そうだ。一度ゆっくり、娘と三人で前向きに話し合いを」

「なぁ……どうして俺が、五年前に行方不明になる前から、ラシェルに与えられるはずの支度金を見逃してやっていたと思う?」

 問いの途中で、元父の両手足がクロヴィスの魔法によって凍り付いていく。
 逃げられないまま、自らの断罪となる宣告を受ける。
 その恐怖に、元父は瞳を潤ませていた。

「わ、分かりません!」

「俺は六歳という幼い娘に暴力を振るうようなクズを追い込むため……ずっとこの時を待ってた」

「あ……あぁぁぁ」

「俺が何も言わないのをいいことに調子に乗り、支度金で私腹を肥やさせ。お前がもう返済できない状況に陥るまで待ってたんだよ」

「ゆ、許してくださぁい! わ、わたしはぁ!」

「無理。俺のラシェルを傷つけた奴を許すはずないだろ。お前に見合ってない伯爵の立場は、支度金の返済と共に消えるんだ」

 見下す冷たい瞳に睨まれて、一切の慈悲もなく元父は希望を絶やされる。
 それを理解した途端に絶望の表情を浮かべていた。

 僅か半日もせず、全ての地位を失う程の額の返済義務が生じたのだ。
 元父の絶望感は、計り知れないものに違いない。

 
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