【完結】冷遇された私が皇后になれたわけ~もう貴方達には尽くしません~

なか

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10話

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 クロヴィス様はセドア様を少し見てくると言って、出て行ってしまう。
 寂しかったが、時間にして数十分待っていれば、飄々とした様子で戻ってきた。

「待たせた」

「クロヴィス様……何事も無かったですか?」

「あぁ、セドアの方は万全だ。暫くは手を出してこないさ」

「ありがとうございます」

「いいんだ……俺のためだからな」

「え? なにか言いましたか?」

「いや。なんでもない。とりあえず、この部屋を片付けるか」

 ふと聞こえた声に疑問に思ったが、クロヴィス様は話を逸らして部屋の片づけを始めた。
 魔法で風を起こし、気絶していたエリナや、その護衛達が部屋の外へ放り出される。
 さらには、崩れていた壁や壊れてしまった家具なども元通りだ。
 彼の魔法には驚かされる事ばかりだ。

「しかし帰って来て早々、ラシェルに会った事以外は最悪な事だらけだな」

 そう言って、クロヴィス様は掃除を一瞬で掃除を終わらせてくれた。
 落ち着いた後、私はさっそく疑問を投げる。
 彼には、聞きたい事ばかりだ。

「クロヴィス様……この五年もの間、いったいどこに居たのですか?」

 五体満足の彼が、どうして帝国に戻って来れなかったのか。
 もっとも疑問に思っていた事を問いかける。

「教えてください。この五年……貴方になにがあったのかを」

「そうだな。説明するよ」

 そう言ってクロヴィス様は寝台に座り、私へと手招く。
 近づけば腕を引かれて、彼の膝の上に座らされた。

「まずどこから話すかな……」
 
 それほど説明が難しいことなのだろうか。
 クロヴィス様は考え込むように悩んでいるので、私は彼の頬を引いた。

「おい……なにやってんだよ」

「クロヴィス様。私には全て話してください。五年前から……何があったのかを」

「……分かった、最初から話すよ」

 頷きながら口を開いたクロヴィス様の表情は、酷く辛い経験を思い出すように神妙だった。

「はじまりは五年前……俺がセドアに嵌められて、殺されそうになった時からだ」

 クロヴィス様が語り出した内容は、私の知っていた部分から始まった。

 私達の住むグローディア帝国から北には、今も小競り合いが続く国がある。
 五年前にその国は突然、魔物を刺激してを帝国へと向かうようにけしかけたのだ。
 数百を超える魔物が帝国へと侵攻を始め、彼はその防衛のために駆り出され、見事に魔物を大規模魔法によって一掃した。

「ここまでは、ラシェルも知っているな?」

「はい……聞いております」

「なら、ここからが続きだ」

 魔物を退けた後。
 クロヴィス様と同じ部隊だった帝国の一級魔術師たちが、彼の背後から攻撃を始めたという。
 それを指示していたのが、セドア様だ。

「どうして、セドア様だと分かるのですか?」

「魔術師たちは、セドアの指示でついて来た連中だ。警戒はしていたが、魔力を消耗した場面を狙われたなら、俺も逃げるのに精一杯だった」

 苛立ち交じりに舌打ちをして、クロヴィス様は話を続ける。

「瀕死の重傷を負った俺は、最後の力で崖に飛び込んだ。その崖下でなんとか生きていたんだ」

「そ、それなら……五年間、崖に居たのですか?」

「……あぁ、傷を癒すのに手間取ってた。深い傷で動けなくて、完全に完治するまでに五年もかかった」

「せ、せめてどこかで手紙を出してくれれば、私が迎えに……」

「命を狙われたんだ。完治する前に居場所を知られる訳にはいかなかった」

 それもそうだ。
 クロヴィス様の言っている事には理解ができる。
 
 だけど、気のせいだろうか。
 なぜか私には、視線を逸らして話す彼が真実を言っているようには見えないのだ。
 真相を確かめるために、私は問いかけた。
 
「ですが、セドア様はクロヴィス様の死体も見つかったと……」

「さぁな。おおかた魔術師達が俺の死体を見つけられず、偽装したんだろ」

「そう……なのでしょうか」

「あまり気にしなくていいだろ。とりあえず……俺の五年間はそういった事情だ。待たせて悪かった」

 まだ腑に落ちない部分が多いけど、クロヴィス様はこれ以上は話したくないとばかりに話を切り上げる。
 謝罪をされては、これ以上探るような物言いは難しかった。

「とりあえず。ラシェルとまた会えて良かった」

 そう言いいながらも、彼は私の髪を撫でる。

「なぁ、今は何も聞かず……一緒に過ごしてくれるか?」

「っ……もちろんです。クロヴィス様」

「クロヴィスでいいよ。ラシェルだけは、俺の特別だ」

「はい。クロヴィス」
 
 久しく感じていなかった人の優しさ。
 それが、再会できたクロヴィスからのものである嬉しさが胸を満たす。

 疑問は多い。
 けれど……今だけは五年ぶりに再会した喜びを、私も彼と分かち合いたかった。
 



   ◇◇◇



 クロヴィスが帰ってきた翌日。
 彼はさっそく動き出した。

「とりあえず。お前を虐げていた奴らを片付けてくる」

 呟きを残し、「待ってろ」と部屋を出て行ったクロヴィス。
 その日は、皇宮のあちこちから悲鳴が上がり、救いを求める声が鳴り響いていた。



 一人残った私は、久しく訪れていなかった休日とも呼べる時間を過ごす。
 だが、もちろん呆然としていた訳ではなく、今後について考え続けていた。
 そして、一つの答えを出す。 

「クロヴィスが頑張ってくれているんだから。私も……」

 いつまでも頼ってばかりではいられない。
 彼が言った。自由に生きて欲しいという言葉に従って、動き出すと決めた。

 クロヴィスが帰ってきた今。
 もう、我慢しなくていいのだから。
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