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プロローグ
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「ごめん、待たせた」
死んだと聞いていた彼が、私の目の前にいる
夢かと思ったけれど、握られた手から伝わってくる温もりが現実だと知らせてくれた。
「その傷……どうした」
五年ぶりに再会した彼は、こちらの戸惑いも気にせずに尋ねて。
私の額にある傷に、優しく触れた。
途端に、彼の綺麗な紅色の瞳が揺れる。
「誰にやられた」
言わずとも、誰かに傷つけられたのだと彼は理解したのだろう。
舌打ちと共に手が引かれて抱きしめられる。
久しく感じていなかった優しさと温もりに涙が流れて、彼のシャツに染みていく。
でも彼はなにも気にせず、優しく私の髪を撫でた。
「イラつく……」
呟く声と同時に、さらに強く抱きしめられた。
「五年かけてやっと帰ってくれば……俺のに、傷をつけた奴がいるとはな……」
口調の荒さとは反対に、私の頬に触れる手が五年前の記憶通りに優しくて。
顔を上げれば……優しく微笑んでくれる。
「待ってろ、ラシェル」
「っ……」
「馬鹿どもは、俺が片付けてやる。そして……お前を今度こそ、幸せにしてやる」
荒々しい言葉を吐きながらも……
彼が私を抱きしめる手は、誰よりも優しかった。
この日、私の人生は大きく変わっていくことになった––
死んだと聞いていた彼が、私の目の前にいる
夢かと思ったけれど、握られた手から伝わってくる温もりが現実だと知らせてくれた。
「その傷……どうした」
五年ぶりに再会した彼は、こちらの戸惑いも気にせずに尋ねて。
私の額にある傷に、優しく触れた。
途端に、彼の綺麗な紅色の瞳が揺れる。
「誰にやられた」
言わずとも、誰かに傷つけられたのだと彼は理解したのだろう。
舌打ちと共に手が引かれて抱きしめられる。
久しく感じていなかった優しさと温もりに涙が流れて、彼のシャツに染みていく。
でも彼はなにも気にせず、優しく私の髪を撫でた。
「イラつく……」
呟く声と同時に、さらに強く抱きしめられた。
「五年かけてやっと帰ってくれば……俺のに、傷をつけた奴がいるとはな……」
口調の荒さとは反対に、私の頬に触れる手が五年前の記憶通りに優しくて。
顔を上げれば……優しく微笑んでくれる。
「待ってろ、ラシェル」
「っ……」
「馬鹿どもは、俺が片付けてやる。そして……お前を今度こそ、幸せにしてやる」
荒々しい言葉を吐きながらも……
彼が私を抱きしめる手は、誰よりも優しかった。
この日、私の人生は大きく変わっていくことになった––
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