38 / 38
三巡目「戻せない選択」
最終話 セレリナside
しおりを挟む
コリウス王国の国境を超え、揺れる馬車の中でガデリスの横顔を見つめる。
彼が隣に居てくれる事は嬉しいが、これで良かったのだろうか。
父の悪事で国を出るしかなかった私と違い、彼には騎士として輝かしい未来があったはずだ。
その事に少なからず罪悪感がある。
「ガデリス……本当に、私についてきて良かったの? 国に残っていれば、貴方には名声や、別の幸せも……」
思わずこぼした問いかけ。
ガデリスはハッと視線を向け……屈託のない笑顔を浮かべた。
「何を言っているんですか、俺にはここ以上の幸せはありませんよ」
「……」
「ずっと、こんな日が来て欲しかった。幼少期から恋焦がれたセレリナ様の隣に居れる事、俺がどれだけ幸せか、貴方に伝わりますか?」
「ガデリス……」
ガデリスは笑いかけつつ、私の手を握る。
顔の熱くなった私を、さらに抱き寄せてくるのだから鼓動は止まらない。
「これからは、もう我慢しなくていいですよね」
「……」
「セレリナ様も自由になったのですから。好きに生きて、幸せになってください。俺は充分に幸せですから」
「うん、ありがとう。ガデリス」
久しく感じていなかった誰かの優しさを受け。
思わず涙をこぼす。
父に命を奪われかけ、その悲しみにずっと耐えていた。
だけど彼の包み込んでくれる優しさが……もう、なにも我慢しなくていいと思わせてくれた。
「大丈夫です。俺は絶対に、貴方を傷つけません」
「うん……うん」
「今まで苦しんだ分、好きな事でもしましょうか! まずはラザばぁに教わった庭いじりでも二人でやりましょう」
「ふふ、そうね、ガデリス。やってみようか」
「花を育てましょう! 野菜もいいなぁ」
ガデリスの明るい言葉に、笑みがこぼれていく。
優しい気遣いを与えてくれる彼の腕に抱かれていると、ようやく王家から解放され、自身の人生が自由へと向かう実感が湧いた。
「ガデリス……私ね、貴方と二人で過ごす未来が、これから楽しみだよ」
「いえ、俺の方が楽しみですよ! ずっと尽くさせてくださいね」
答える彼は真剣な表情そのもので、どれだけ想ってくれていたのか伝わってくる。
心から幸せだと思えるほどに、彼は素敵だった。
そんな時。
走っていた馬車が停まり、御者が慌てた声を出していた。
「どうしましたか?」
御者へと問いかければ、彼は馬車の向かう先を指さした。
「いや、道の真ん中にいる犬っころが、どいてくれなくて……」
「え?」
視線を向ければ、御者の言う通り道の中央に子犬が居た。
真っ黒な毛並みでおすわりしつつ、何故か動かない。
馬車を降りて近づけば、子犬の視線は何故か私に注がれる。
「首輪は着いてない……」
「ワン! ワン!」
「っ……可愛い……」
そっと子犬を抱き上げれば、思った以上に大人しく腕に収まって驚いた。
賢い子のようだ。
「ガデリス、この子も一緒に行きましょうか」
「そうですね、賑やかになりそうです」
黒毛をなでれば、そのモフモフした感触に頬が自然と緩む。
子犬を連れて再び馬車に乗れば、子犬は膝上に乗って大人しくしていた。
なんて賢い子だ。
「可愛い犬ですね。セレリナ様」
「ええ、それに私、誰にも言ってこなかったけれど、ずっと犬が飼うのに憧れていたから嬉し––」
あれ、同じ事を誰かに言ったような記憶がある
いやいや、そんなはずがないか。
これは胸の内にとどめていた願望だったのだから。
「セレリナ様、名前を付けてあげませんか? これから共に過ごすのですから」
「そうね……」
この子に付ける名前は、なぜか一つしかないように思える。
その名が、何故かとてもしっくりくるんだ。
「貴方の名前は……ムトね」
どこか懐かしい名前と共に、私はようやく新たな人生へと歩み出した。
亡き冷遇妃が残したもの
ーfinー
◇あとがき◇
本作を読んでくださり、ありがとうございます。
しおりを挟み、ご感想や、エールなどを頂けて励みになっておりました!
自分の中では挑戦の気持ちで書いた本作。
主人公を切り替え、色々とややこしい設定を盛ったりと……正直に言って書き上げるのが今までで一番大変でした。
難儀した作品だけに思い出も大きく、最後まで読んでくださった皆様に感謝しかありません。
反省点も多かったですが、私の中ではお気に入りです!
暗めなお話を書くと、反動で底抜けに明るい話が書きたくなるので、
次回作はハチャメチャに明るい話にしようと考えております。
また、私の作品を見かけた際にはチラリと覗いてくださると嬉しいです。
皆様、本当にありがとうございました!
彼が隣に居てくれる事は嬉しいが、これで良かったのだろうか。
父の悪事で国を出るしかなかった私と違い、彼には騎士として輝かしい未来があったはずだ。
その事に少なからず罪悪感がある。
「ガデリス……本当に、私についてきて良かったの? 国に残っていれば、貴方には名声や、別の幸せも……」
思わずこぼした問いかけ。
ガデリスはハッと視線を向け……屈託のない笑顔を浮かべた。
「何を言っているんですか、俺にはここ以上の幸せはありませんよ」
「……」
「ずっと、こんな日が来て欲しかった。幼少期から恋焦がれたセレリナ様の隣に居れる事、俺がどれだけ幸せか、貴方に伝わりますか?」
「ガデリス……」
ガデリスは笑いかけつつ、私の手を握る。
顔の熱くなった私を、さらに抱き寄せてくるのだから鼓動は止まらない。
「これからは、もう我慢しなくていいですよね」
「……」
「セレリナ様も自由になったのですから。好きに生きて、幸せになってください。俺は充分に幸せですから」
「うん、ありがとう。ガデリス」
久しく感じていなかった誰かの優しさを受け。
思わず涙をこぼす。
父に命を奪われかけ、その悲しみにずっと耐えていた。
だけど彼の包み込んでくれる優しさが……もう、なにも我慢しなくていいと思わせてくれた。
「大丈夫です。俺は絶対に、貴方を傷つけません」
「うん……うん」
「今まで苦しんだ分、好きな事でもしましょうか! まずはラザばぁに教わった庭いじりでも二人でやりましょう」
「ふふ、そうね、ガデリス。やってみようか」
「花を育てましょう! 野菜もいいなぁ」
ガデリスの明るい言葉に、笑みがこぼれていく。
優しい気遣いを与えてくれる彼の腕に抱かれていると、ようやく王家から解放され、自身の人生が自由へと向かう実感が湧いた。
「ガデリス……私ね、貴方と二人で過ごす未来が、これから楽しみだよ」
「いえ、俺の方が楽しみですよ! ずっと尽くさせてくださいね」
答える彼は真剣な表情そのもので、どれだけ想ってくれていたのか伝わってくる。
心から幸せだと思えるほどに、彼は素敵だった。
そんな時。
走っていた馬車が停まり、御者が慌てた声を出していた。
「どうしましたか?」
御者へと問いかければ、彼は馬車の向かう先を指さした。
「いや、道の真ん中にいる犬っころが、どいてくれなくて……」
「え?」
視線を向ければ、御者の言う通り道の中央に子犬が居た。
真っ黒な毛並みでおすわりしつつ、何故か動かない。
馬車を降りて近づけば、子犬の視線は何故か私に注がれる。
「首輪は着いてない……」
「ワン! ワン!」
「っ……可愛い……」
そっと子犬を抱き上げれば、思った以上に大人しく腕に収まって驚いた。
賢い子のようだ。
「ガデリス、この子も一緒に行きましょうか」
「そうですね、賑やかになりそうです」
黒毛をなでれば、そのモフモフした感触に頬が自然と緩む。
子犬を連れて再び馬車に乗れば、子犬は膝上に乗って大人しくしていた。
なんて賢い子だ。
「可愛い犬ですね。セレリナ様」
「ええ、それに私、誰にも言ってこなかったけれど、ずっと犬が飼うのに憧れていたから嬉し––」
あれ、同じ事を誰かに言ったような記憶がある
いやいや、そんなはずがないか。
これは胸の内にとどめていた願望だったのだから。
「セレリナ様、名前を付けてあげませんか? これから共に過ごすのですから」
「そうね……」
この子に付ける名前は、なぜか一つしかないように思える。
その名が、何故かとてもしっくりくるんだ。
「貴方の名前は……ムトね」
どこか懐かしい名前と共に、私はようやく新たな人生へと歩み出した。
亡き冷遇妃が残したもの
ーfinー
◇あとがき◇
本作を読んでくださり、ありがとうございます。
しおりを挟み、ご感想や、エールなどを頂けて励みになっておりました!
自分の中では挑戦の気持ちで書いた本作。
主人公を切り替え、色々とややこしい設定を盛ったりと……正直に言って書き上げるのが今までで一番大変でした。
難儀した作品だけに思い出も大きく、最後まで読んでくださった皆様に感謝しかありません。
反省点も多かったですが、私の中ではお気に入りです!
暗めなお話を書くと、反動で底抜けに明るい話が書きたくなるので、
次回作はハチャメチャに明るい話にしようと考えております。
また、私の作品を見かけた際にはチラリと覗いてくださると嬉しいです。
皆様、本当にありがとうございました!
770
お気に入りに追加
4,231
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(231件)
あなたにおすすめの小説

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド



俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?

一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
244様
ご感想ありがとうございます(≧∇≦)
また私の作品に出会って貰えて嬉しいです!
今作の主人公は貯めていたうっぷんをしっかりと発散した所は、私もお気に入りの場面ですね(*´罒`*)
応援ありがとうございます😊
読書の醍醐味を味わっていただけたとのこと、作者としては嬉しい限りです!
先代王妃達は本当にどうしようもなくて、彼らの周りはほとんど全員が腐敗していたともいえますね🌼*・
元サヤについては、本作は主人公への不幸を招いたのはレオンも共犯なので、ヨリを戻すのは無しにしました(∩∀<`。)
アンネッテもミスリードで悪役っぽくしておりましたが、しっかりと彼女も主人公を想っていた一人ですね(≧∇≦)
きっと、きっと彼女も来世で幸せになれるはずです!
悪役は本当に自分本位な人達ばかりですよね(๑•̀ㅁ•́ฅ✨
地位と、願いを同時に叶えたい貪欲さで犠牲を増やした行いは本当に酷いです。
最後、行った事が行ったことでしたので、しっかりと断罪シーンも描いておきました🌼*・
今作を本当に楽しめていただいたようで、嬉しいです!
たくさんのお褒めのお言葉、私の活力と原動力となっております(*´罒`*)
ありがとうございます!!
沢山のご感想は全然バラバラでは無いですよ!
読んでいる私も元気をもらえました(*´罒`*)
今作で感情を動かせることができたなら、私にとってそれ以上の喜びなんてありません(≧∇≦)
これからも、健康第一に。
喜んで貰える作品をどんどん書いていきます!!
ありがとうございます⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
ひらめすき様
ご感想ありがとうございます😊
私が貴方の元を〜の後に、こちらまで読んだくださって嬉しいです(* ᴗ͈ˬᴗ͈)”
あちらの作品は私にとって初となる元サヤであったため、読みやすさや結末も気に入って頂けて嬉しいです(*´`*)💞
あちらは私の中でも傑作ではありますが、他の作品にも今の私で上手く書けるだろうか……と昔の自分に驚くお気に入りのお話などは多くあります(*´罒`*)
そんな中で、今作も私には思い出深い作品です✨
いくつかの複雑な設定を混ぜながら、一つの生き直すというテーマを守って書いていた思い出がありますね(*˘︶˘*).。.:*♡
表現なども、いつも迷って書いておりますが、嬉しいご感想を頂けて励みになります(* ᴗ͈ˬᴗ͈)”
ムトのセリフは私もお気に入りです(*´罒`*)
思えば人間は生きるという欲求以外にも大きな欲があるから、戦争などを起こしてしまいますよね。
それを彼のセリフにこめました(≧∇≦)
とはいえ、私はまだまだ思慮も浅く、知識も豊富な訳ではないです⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
ですが、そういったお褒めの言葉は嬉しくてニヤニヤしてしまいます(◦ˉ ˘ ˉ◦)
キャラを展開のための犠牲にせず、物語の中で生かしてやるのは、私の一つの目標です!
それが完璧かといえばまだまだですが、ひらめすき様のお言葉を励みにこれからも頑張りますo(>‧̫<)o⤴️💖
ラストは迷いつつも、お互いの道を歩む方が綺麗かなっと物悲しいものにしました!
レオンの視点に立ってくださり、彼を思ってくださり感謝です(*´罒`*)
初めの頃の作品などは、句読点などもなくて少し恥ずかしいものばかりです💦🙈
とはいえ、もし気になる作品があればぜひぜひ読んでください😊
これからも頑張ります!ありがとうございます(*´`*)💞
こすや様
こちらの作品、3回も読んでくださっているのですね(*≧艸≦)
ありがとうございます😊
こちらも私にとって、若干のミステリーを加えていた作品なので、楽しんでくださって嬉しいです(*´`*)💞