【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか

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二巡「変化」

29話

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 ムトの言葉は気になるが、行動を止める訳にはいかない。
 マクシミア公爵や侍女のマリはガデリスの部下達に引き渡した。

「お、お願いだ! 私は全て話したのだ! どうか……事実は公表しないでくれ……」
「助けてよ! ミランダ様に命令されただけなの!」

 最後まで許しを乞う彼らだが、王妃候補アンネッテの死を偽装した罪だけでも極刑は確実だ。
 犯した罪は取り消せないのだから償うしかない。

 彼らを引き渡した後、数日かけてアンネッテの死が自殺である事、ミランダとスルードが共謀している事を全ての貴族へと伝えるための文書を作成した。
 マクシミア公爵の供述も合わさり、これでスルードを罪に問うことができるだろう。

「セレリナ様、王宮からの遣いが来ました」

 ようやく準備が終わった時、レオンの遣いがガデリスの邸へ訪れた。
 アンネッテの死について、真相が知りたいので王城に来て欲しいようだ。

「いかがいたしますか? セレリナ様……」

 心配そうに覗き込むガデリスだが、答えは決まっている。
 もう貴族たちへ文書は送り終え、スルードを罰する外堀は埋めた。
 せっかく王宮に出向く機会をくれたなら、スルードを逃がさぬためにも真実を伝えに行こう。

「行きましょうか、ガデリス。これで……やっと終わるはずです」

「承知しました。貴方の御身、最後まで守らせいただきます」



   ◇◇◇




 玉座の間へと入れば、レオンとスルードが待っていた。
 
「セレリナ、まずは……来てくれたことを感謝させてほし––」

「レオン、そこをどいて」

「え?」

 私へと感謝を示すレオンを押しのけ、真っ直ぐにスルードへと突き進む。
 影で私を貶めていた人物の前へ……

「スルード様。貴方が……ミランダと共犯だったのですね」

「なっ!?!」

 発した言葉に、レオンが驚きで表情を一変させる。
 王家として毅然と振る舞ってほしいが、今の彼には期待できそうにない。
 まぁ無理もない、長年王家を支えるスルードを私が糾弾しているのだから。

「セ、セレリナ様……いったい何を言っているのですか? 私が……貴方を貶めていた?」

「ええ、アンネッテが自殺した事実を隠したマクシミア公爵家を脅し、指示に従わせていたのですよね」

「っ……な、なにを言って……」

「彼らが明かしましたよ。全て……貴方に脅されておこなったとね」

 スルードは押し黙り、表情を変えない。
 しかしレオンは、私の言葉に驚きを隠し切れずに口を挟んできた。

「セレリナ、アンネッテ自殺していただと? それは本当か?」

「ええ。私が知った事を全てお話しましょう」

 私は見聞きした事を話す。
 マクシミア公爵が妃候補のアンネッテが自死させてしまった責任から逃れるため、死因を偽装した事。
 そして、それらをスルードとミランダが脅迫材料としていた事を全て明かす。

「これが、事の顛末です」

「……セレリナ。そんなはずがない! スルードはいつだって君の事を信じていたはずだ! 母と共犯だったならば、君に味方する利益がない!」

 レオンの疑問は当然だろう。
 私の知るスルード様は、いつだって親身で優しかった。
 ミランダと正反対の行動をとっていた事に、確かに違和感は感じる。

 しかし、その理由は簡単だ。

「スルード様は、どちらに転んでも良かったのですよね?」

「っ!?」

「レオンが私を疑い続けるなら、それを利用して王家を下ろす。逆にレオンが私を信じたなら、マクシミア公爵家と繋がる貴方は証拠と証言を再び偽装して、レオンを殺人を犯した妃を庇う王として処罰したのでしょう?」

 彼は状況を操れるからこそ、周囲から怪しまれないようにしていたのだろう。
 安全な位置で、優しい仮面を被って私を貶めていたのだ。
 ある意味で最も姑息ともいえる。

「……」

「スルード様、先ほどから黙っていますが。マクシミア公爵からの証言は出ました。もう諦めてくれますか?」

 押し黙ったままのスルード様は、額に冷や汗を流してゴクリと喉を鳴らす。
 そして、乾いた唇を開いた。

「そ、そんな与太話は誰も信じぬでしょう。私は……やっていない! 誰も信じませぬよ! 私と貴方では……積み上げてきた実績が……」

「じつは先程、ミランダ様の尋問に立ちあってきました」

「っ!! な……」

「貴方の名を出せばえらく動揺したので問い詰めれば、諦めて白状してくれましたよ?」
 
 動揺するミランダに、罪を許すと餌をあげれば直ぐに白状してくれた。
 もちろん、その後は許す事はウソだと伝えておいた。
 ミランダは酷く泣き叫んで私に罵詈雑言を吐いたが、許されるはずがないと少し考えれば分かるだろうに……

 まぁ、彼女が騙されやすいおかげで、スルード様との共犯を確信できたのはいい事だ。

「スルード様、諦めてください」

「そ……そんな」

 ミランダの証言が、彼を追い詰めたようだ。
 平然とした表情は消え、酷く焦って視線を泳がせている。

「やっと……ここまできたというのに。こんな所で終わっていいはずがない。私の憎しみは、こんな所で……」

 ブツブツと呟くスルードだったが。
 その声をかき消すような声が玉座の間に響いた。

「諦めよ、スルード」

 声にふり向けば……そこには私の父––フォンド公爵がいた。

「フォンド公爵……どうしてここに?」

「セレリナからの真相の手紙を見て、急ぎスルードの屋敷を捜索させてもらった。すると、こんな物がでてきた」

 父が取り出したのはナイフだ。
 それは酷く錆びいていたが、柄にはマクシミア公爵家の家紋が刻まれている。

「アンネッテ嬢が自死した際の凶器がいつまでも見つからなかったが、お前が持っていたようだな……セレリナに殺人の罪を確実に着せるためか?」

「っ……な……私の屋敷を荒らすなど……お前ぇッ!!」

「関係ない。物的証拠まで出た、これ以上の弁明は無駄だと思うが?」

「そんな、どうして……ここまできたというのに……!! ミランダ様と私の計画がぁ……」

 思いがけず父が持ってきてくれた証拠により、スルード様の逃げ道は無くなった。
 確かに父にも手紙を送ってはいたが、行動に移していたなんて……

「お父様……証拠品を見つけるなんて、一体どうやって……」

「なにかお前の手助けになれればと思い、スルードの屋敷を調べただけだ。目論見通りいけたな」

 父は私の傍へと来ると、腕を引いて抱きしめた。
 暖かくて大きな手が頭を撫でてくる。

「こんな事で許してもらえると思っていないが……今度こそお前が掴んだ真実を信じるのが、私の贖罪だ」

「お父様。ありがとうございます……」

「礼などいい。むしろ今までお前の苦労に報いる父になれず、すまなかったな」
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