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一巡「後悔」

1話

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「どうして……セレリナ様を信じてくださらなかったのですか!」

 俺の態度に対し、耐え切れずに叫び出した大臣。
 彼を皮切りに、周囲の者達が王妃––セレリナの自死に対しての非難を俺に向ける。

「……貴様らには関係ない。あの女の罪は事実だ」

「国民に愛されていたセレリナ様が、罪を犯すなどあり得ません!」

「黙れっ!! これ以上……セレリナの死を悲しむ事は許さん! あの女は……俺の愛しき前王妃候補のアンネッテを殺したのだぞ!」


 俺は間違っていない、だから罪悪感など感じるはずもない。
 セレリナは……死ぬべきだった。
 そう自分に言い聞かせるように、過去の記憶が脳内を駆け巡った。



   ◇◇◇過去◇◇◇


 コリウス王国の王太子。
 それが、俺––レオン・コリウスの肩書きだ。
 たった一人の王位継承で、責務は重かった。
 幼き頃からの厳しい教育や、周囲の期待は、俺の一つの失敗も許さない。

 だが、その境遇を不幸だとは思わない。
 これらは全て、王家に生まれた者として当然の責務。

 それに……俺は幸運だ。
 通常ならば王とは、政略により王妃を周囲が決める。
 だが、偶然にも王妃に見合う家格の公爵令嬢が二人おり、愛により選ぶ権利が与えられたのだ。
 十五歳となる学生の頃に、その候補である彼女たちと顔を合わせた。

「はじめまして、レオン様。アンネッテ・マクシミアと申します」

 一人はマクシミア公爵家の令嬢。
 小麦のような金色の髪に、翡翠の瞳。
 快活に笑う姿は、まるで太陽のように明るい女性だった。

「はじめまして、セレリナ……フォンドです」

 対して、フォンド公爵家令嬢のセレリナ……彼女は奥手な女性だった。
 蒼色の髪に、琥珀色の瞳と端正な顔立ち。
 一見すれば自信に溢れても仕方ない容姿だが、彼女はアンネッテの後ろで恥ずかしそうに頬を赤く染める。
 親しき様子なのは、二人は幼き頃からの親友だからだ。

「レオン・コリウスだ」
 
 自己紹介をしつつ、俺の視線はただ一人を見つめる。
 セレリナ。
 あの時、俺は彼女に一目惚れをしていた。





 それからの学園生活、俺はセレリナと過ごす時間を見つける日々だった。

「セレリナ、また一人か?」

「は、はいレオン殿下……」

「レオンでいい。隣……いいか?」

「もちろんです……レ、レオン」
 
 恥ずかしそうに名を呼ぶ彼女が愛しい。
 そんな彼女は一人で居る事が多い。
 というのも、彼女は学生をいじめている……という、根も葉もない悪評が学園で広まっていたからだ。
 
 くだらない嫉妬のすえ、そのような悪評を流す者がいるのだろう。

「レオン。私などと居れば、おかしな噂を立てられてしまいます……」

「関係ない、俺は噂など信じない」

「……」

「セレリナは、そんな事しないと知ってる」

 そう強く言ってやれば、頬を赤くしてセレリナは微笑む。
 俺だけに見せる笑顔が眩しくて、今にも抱きしめたいのを理性で抑えた。

「セレリナ! 殿下も! ここにいらしたのですね!」

「アンネッテ!」

 セレリナが、やってきたアンネッテへ駆け寄る
 アンネッテ、彼女は俺とセレリナが居る時には必ずやって来る。
 それもそうか……二人は親友同士、俺同様に孤独なセレリナを気遣っているのだろう。

「殿下、セレリナを気にかけてくれてありがとうございます」

「いや、俺が好きで来ただけだ」

「っ……」

 真っ赤になるセレリナに笑みを見せる。
 同じ候補のアンネッテには悪いが……選ぶ伴侶はすでに心で決まっていた。

 



 学園で三年の月日が経ち、俺が次期王妃を決める日が近づく。
 そんな時に、アンネッテに突然呼び出された。

「殿下、じつはお話したい事があります……」

「どうした? アンネッテ」

「……」

 暫しの沈黙の時間が流れ、不思議に思った時。
 彼女は静寂をかき消す声を上げ、俺へと頭を下げた。

「どうか……セレリナから離れてあげてください!」

「……は?」

「セレリナには、学外に別の想い人がおります……だから、学園では一人でいたのです。悪評は殿下に諦めてもらうため、自分で流していました」

 思考が冷静ではいられなかった。
 空白になった頭を、アンネッテの言葉が巡っていく。
 想い人であったセレリナには……別に意中の者がいるなど、信じられない。

「ですが、レオン様が近づくため……セレリナは貴方を嫌うようになり……」

「っ!!」

「親友の私にしか言いませんが、あの子はずっと耐えておりました」

「……」

「どうか、あの子の恋を叶えてあげてください!」

 必死に頼み、地面に頭をつけるアンネッテの姿に迷いが生まれる。

 想い人であったセレリナには、別に恋した者がいる。
 俺の恋心か、彼女の恋心。
 どちらを取るか……決められずに無言の時間が流れた。 
 長い葛藤の末、幼少から失敗せぬよう生きてきた俺は、答えを決める。

「…………分かった、アンネッテの言う通りにするよ。セレリナのためにな」

「っ!! 感謝いたします。殿下」

 これでいい……
 セレリナに想い人がいるなら、たとえ妃に選んでも心は通わず、互いに幸せになれない。
 ならば彼女の恋心が成就する道が、もっとも最善で失敗しない選択だ。


 なんて事は建前で……本心では怯えていたのだ。
 セレリナに嫌われている事実を確かめるのが、怖かったのだ。

 だから、その後はセレリナとの関わりを卒業まで絶ち、アンネッテを妃に選んだ。
 この選択は間違っていない、皆が幸せになるはずと信じて。

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