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アルフレッドside
「殿下、お話を聞いてください」
「うるさいぞ!! 俺は一人になりたいと言ったはずだ!」
声を荒げてしまう程に今の俺は余裕がない。
しかし、それには仕方のない事情がある……考えが外れていたのだから。
「アルフレッド殿下、現王様がリルレット妃への扱いを酷くお怒りなのです。一度だけでもお話ください」
「いいか? 俺の父は病に伏して長くない命だ。あと少しで俺が王となり、人選も全て俺の手中になるのだぞ、何が言いたいかわかるか?」
「で、殿下?」
「お前の家族が路頭に迷いたくないのであればリルレットとは和解したとウソをついてでも父を収めてこい! 俺の手を煩わせるなっ!!」
「っ!? は、はい……」
使えない、俺に言われる前に察して動けるような人材はいないのか……。
イライラしながら自室へと入り、気持ちを落ち着かせようとするが沸き立つ怒りを抑えられずに椅子を蹴飛ばしてしまう。
「くそっ! どこに行った! リルレット!」
完全に読みが外れていた。
何が行方不明だ……ギーデウス伯は娘の手綱も握れないのか、殺してやりたい程に愚図だ。
「はぁ……はぁ。だめだ、怒りを抑えねば良い考えも浮かばない」
自室のタンスの中、奥にしまった木箱を丁寧に取り出す。
今はこれしかない、リルレットが見つかるまで……これだけは手放すわけにはいかない。
木箱を開き、中に入っていたアイスシルバーの色が艶めく髪を取り出し、頬に当てながら大きく息を吸って香りを堪能する。
落ち着く……。
「リルレット、俺はお前が心配だ」
お前は俺が嫌っていると思っているのだろう。
それは違う、大きな間違いだ。
今だって侍女がお前の散髪した髪を隠れて手に入れ、こうしてお前に見立てて愛でている。
俺はリルレットを心の底から愛している、ただ愛を感じる時があいつの泣いている時であるというだけだ。
あの初夜、雑務で遅れてしまった俺は部屋でただ一人泣いているリルレットを見て感じた事のない興奮を味わってしまった。
昔から弟のイエルクよりも学が劣っていた俺は、奴が他国へ留学したおこぼれで王位継承者となった。
だから、常に劣等感を感じて、それを満たすものもなく悶々として辛い日々を過ごしていた。
それを救ってくれたのが俺を想って泣くリルレットの涙。
お前の涙だけが、俺の劣等感を払拭して優越感と自尊心を満たしてくれる。
俺を想い、俺を好いて涙を流す、その美しいリルレットの虜になってしまった。
「だから、今回も嫌がらせのつもりだった、直ぐに迎えに行ったのに……俺を想って行方不明にまでなってしまうなんて、そこまで俺の事を好いていてくれたのだな。リルレット」
俺を好いて、今もどこかで泣いている。
その事実が背筋をゾクゾクと刺激し、再びリルレットの涙を見たい欲求が溢れ出す。
熱い息が漏れ出てしまう、興奮を抑えられない。
しかし、お前は居ない……探さねばならない、何としても。
「リルレット、俺は必ずお前を見つけ出す。使える手段は全て使ってでも」
今も、俺を想って泣いてくれているのだろう?
安心してくれ、必ずまた見つけ出して迎えに行く。
そして……その生涯を俺だけを想い続けて、泣き続けてくれ。
とりあえず、リルレットが居ない今は別の手段でこの欲求を満たさねばならない。
妃候補から外した時の涙は極上であったが、行方不明になってしまうのは誤算だ。
あの美しいリルレットであれば直ぐに見つかるだろうが、今は……別のものでこの欲求を満たそう。
待っているぞ、リルレット。
「殿下、お話を聞いてください」
「うるさいぞ!! 俺は一人になりたいと言ったはずだ!」
声を荒げてしまう程に今の俺は余裕がない。
しかし、それには仕方のない事情がある……考えが外れていたのだから。
「アルフレッド殿下、現王様がリルレット妃への扱いを酷くお怒りなのです。一度だけでもお話ください」
「いいか? 俺の父は病に伏して長くない命だ。あと少しで俺が王となり、人選も全て俺の手中になるのだぞ、何が言いたいかわかるか?」
「で、殿下?」
「お前の家族が路頭に迷いたくないのであればリルレットとは和解したとウソをついてでも父を収めてこい! 俺の手を煩わせるなっ!!」
「っ!? は、はい……」
使えない、俺に言われる前に察して動けるような人材はいないのか……。
イライラしながら自室へと入り、気持ちを落ち着かせようとするが沸き立つ怒りを抑えられずに椅子を蹴飛ばしてしまう。
「くそっ! どこに行った! リルレット!」
完全に読みが外れていた。
何が行方不明だ……ギーデウス伯は娘の手綱も握れないのか、殺してやりたい程に愚図だ。
「はぁ……はぁ。だめだ、怒りを抑えねば良い考えも浮かばない」
自室のタンスの中、奥にしまった木箱を丁寧に取り出す。
今はこれしかない、リルレットが見つかるまで……これだけは手放すわけにはいかない。
木箱を開き、中に入っていたアイスシルバーの色が艶めく髪を取り出し、頬に当てながら大きく息を吸って香りを堪能する。
落ち着く……。
「リルレット、俺はお前が心配だ」
お前は俺が嫌っていると思っているのだろう。
それは違う、大きな間違いだ。
今だって侍女がお前の散髪した髪を隠れて手に入れ、こうしてお前に見立てて愛でている。
俺はリルレットを心の底から愛している、ただ愛を感じる時があいつの泣いている時であるというだけだ。
あの初夜、雑務で遅れてしまった俺は部屋でただ一人泣いているリルレットを見て感じた事のない興奮を味わってしまった。
昔から弟のイエルクよりも学が劣っていた俺は、奴が他国へ留学したおこぼれで王位継承者となった。
だから、常に劣等感を感じて、それを満たすものもなく悶々として辛い日々を過ごしていた。
それを救ってくれたのが俺を想って泣くリルレットの涙。
お前の涙だけが、俺の劣等感を払拭して優越感と自尊心を満たしてくれる。
俺を想い、俺を好いて涙を流す、その美しいリルレットの虜になってしまった。
「だから、今回も嫌がらせのつもりだった、直ぐに迎えに行ったのに……俺を想って行方不明にまでなってしまうなんて、そこまで俺の事を好いていてくれたのだな。リルレット」
俺を好いて、今もどこかで泣いている。
その事実が背筋をゾクゾクと刺激し、再びリルレットの涙を見たい欲求が溢れ出す。
熱い息が漏れ出てしまう、興奮を抑えられない。
しかし、お前は居ない……探さねばならない、何としても。
「リルレット、俺は必ずお前を見つけ出す。使える手段は全て使ってでも」
今も、俺を想って泣いてくれているのだろう?
安心してくれ、必ずまた見つけ出して迎えに行く。
そして……その生涯を俺だけを想い続けて、泣き続けてくれ。
とりあえず、リルレットが居ない今は別の手段でこの欲求を満たさねばならない。
妃候補から外した時の涙は極上であったが、行方不明になってしまうのは誤算だ。
あの美しいリルレットであれば直ぐに見つかるだろうが、今は……別のものでこの欲求を満たそう。
待っているぞ、リルレット。
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