【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか

文字の大きさ
上 下
7 / 49

5.5

しおりを挟む
アルフレッドside

「殿下、お話を聞いてください」

「うるさいぞ!! 俺は一人になりたいと言ったはずだ!」
 
 声を荒げてしまう程に今の俺は余裕がない。
 しかし、それには仕方のない事情がある……考えが外れていたのだから。

「アルフレッド殿下、現王様がリルレット妃への扱いを酷くお怒りなのです。一度だけでもお話ください」

「いいか? 俺の父は病に伏して長くない命だ。あと少しで俺が王となり、人選も全て俺の手中になるのだぞ、何が言いたいかわかるか?」

「で、殿下?」

「お前の家族が路頭に迷いたくないのであればリルレットとは和解したとウソをついてでも父を収めてこい! 俺の手を煩わせるなっ!!」

「っ!? は、はい……」

 使えない、俺に言われる前に察して動けるような人材はいないのか……。
 イライラしながら自室へと入り、気持ちを落ち着かせようとするが沸き立つ怒りを抑えられずに椅子を蹴飛ばしてしまう。

「くそっ! どこに行った! リルレット!」

 完全に読みが外れていた。
 何が行方不明だ……ギーデウス伯は娘の手綱も握れないのか、殺してやりたい程に愚図だ。
 
「はぁ……はぁ。だめだ、怒りを抑えねば良い考えも浮かばない」

 自室のタンスの中、奥にしまった木箱を丁寧に取り出す。
 今はこれしかない、リルレットが見つかるまで……これだけは手放すわけにはいかない。
 木箱を開き、中に入っていたアイスシルバーの色が艶めく髪を取り出し、頬に当てながら大きく息を吸って香りを堪能する。
 落ち着く……。

「リルレット、俺はお前が心配だ」

 お前は俺が嫌っていると思っているのだろう。
 それは違う、大きな間違いだ。
 今だって侍女がお前の散髪した髪を隠れて手に入れ、こうしてお前に見立てて愛でている。
 俺はリルレットを心の底から愛している、ただ愛を感じる時があいつの泣いている時であるというだけだ。
 あの初夜、雑務で遅れてしまった俺は部屋でただ一人泣いているリルレットを見て感じた事のない興奮を味わってしまった。

 昔から弟のイエルクよりも学が劣っていた俺は、奴が他国へ留学したおこぼれで王位継承者となった。
 だから、常に劣等感を感じて、それを満たすものもなく悶々として辛い日々を過ごしていた。
 それを救ってくれたのが俺を想って泣くリルレットの涙。

 お前の涙だけが、俺の劣等感を払拭して優越感と自尊心を満たしてくれる。
 俺を想い、俺を好いて涙を流す、その美しいリルレットの虜になってしまった。

「だから、今回も嫌がらせのつもりだった、直ぐに迎えに行ったのに……俺を想って行方不明にまでなってしまうなんて、そこまで俺の事を好いていてくれたのだな。リルレット」

 俺を好いて、今もどこかで泣いている。
 その事実が背筋をゾクゾクと刺激し、再びリルレットの涙を見たい欲求が溢れ出す。
 熱い息が漏れ出てしまう、興奮を抑えられない。
 しかし、お前は居ない……探さねばならない、何としても。

「リルレット、俺は必ずお前を見つけ出す。使える手段は全て使ってでも」

 今も、俺を想って泣いてくれているのだろう?
 安心してくれ、必ずまた見つけ出して迎えに行く。
 そして……その生涯を俺だけを想い続けて、泣き続けてくれ。

 とりあえず、リルレットが居ない今は別の手段でこの欲求を満たさねばならない。
 妃候補から外した時の涙は極上であったが、行方不明になってしまうのは誤算だ。
 あの美しいリルレットであれば直ぐに見つかるだろうが、今は……別のものでこの欲求を満たそう。

 
 待っているぞ、リルレット。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?

ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。 13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。 16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。 そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか? ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯ 婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。 恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。

ふまさ
恋愛
 伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。  けれど。 「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」  他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

処理中です...