【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか

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 私とユリウスはお互いの家より許可を得て式を挙げた。
 最初はひっそりと家族だけで式を挙げようとしていたのだけど、何処から聞きつけたカラミナ様とセレン様が恩返しだと言って盛大な式を計画してくださった。
 新たな正騎士団長ユリウス、そして有事を救った事になっているラインハルト王国初の女性騎士として多くのお客様を迎える式となってしまった。

 先輩騎士や、同期であった騎士達も私が女性であったと知らされて動揺しつつもやっぱりかというような反応を浮かべていた。
 それでも、今までと変わらない対応をしてくれて、式でも盛大に祝福の声と拍手をくれる。
 どちらかと言えば、酒を目当てにしていたのかもしれないがそれもある意味で騎士団らしい。

 シュレイン様も奥様と一緒に式に来て下さった。
 とても綺麗な方で、連れ添って歩く二人は一度も手を離さなかったのが印象的なのを覚えている。
 私も……あのような夫婦になりたいと見つめていると、ユリウスはそれに気付いて指を絡めて手を繋いでくれた。
 
 こうして式を終え、それからは正騎士団として正式に活動を始めた。
 もう男性だと偽る必要もないため、髪を伸ばして邪魔にならないように後ろに束ねる。

 ユリウスは正騎士団長として正騎士団の人員の増強、更に再び有事の際に対応できるように練兵を徹底した。
 驚く事があるとすれば、騎士達が何か困っていれば直ぐに相談ができるカウンセリングも徹底的に行うように正騎士団の各部署へと伝えていた。
 第二のガディウスを生み出さないようにという彼なりの対策でもあるのだろう。


 人員増強と騎士達への練兵のおかげか、ラインハルト王国の治安はたちまち良くなっていく。
 忙しく働くユリウスを支えるために私は補佐官として精一杯働いた。
 新人教育、新たな女性騎士も続々と入隊してきたために仕事は尽きない 。
 女性騎士は皆、私に憧れて入隊してきてくれたおかげかユリウス仕込みの訓練でさえ付いてきてくれていた。
 
 そうして、五年の月日を過ごした今の私は。

   ◇◇◇


 五年の月日の間にガディウスが率いていた野盗団の残党との掃討戦も何度かあり、私もユリウスと共に剣を振るっていく内にラインハルト王国の戦乙女などという恥ずかしい異名を付けられてしまった。
 そんな日々を過ごしていたが、私はとある事情で剣を下し……新人の練兵のために訓練場に立つ。

「じゃあ、あと五周です。水分はとるように」

「は……はいぃ」
「リルレット様、相変わらず厳しいです!」

 走っている新人達を眺めながら、私はニコニコと追加指導を言い渡す。
 これはユリウス仕込みの訓練法ではあったのだけど、いつしかかつて私がユリウスに悪態を吐いていた時と同じように悪魔だなんだと冗談で言われるようになってしまった。
 嫌われてでも生きるために厳しい訓練は必要だと思っていたが、思いのほか彼らは私に好意を抱いて指導に従ってくれる。

「リルレット様、五周終わりました。でも絶対に追加ありますよね!」

「よく分かってますね。全員で腕立てしてください」

「あ……悪魔だ」
「でも、リルレット様のようになるためにやるしかないだろ!」
 
 五年も経てばかつての話に色々と尾ひれが付き、私がガディウスと一騎打ちして国を救ったなんて話まで出ている。
 否定するのも面倒なため、その話を利用して厳しい訓練にも説得力を持たせている。
 狡猾騎士の補佐官を長く努めているうちに考え方も似てしまっただろうか?

 そんな事を考えてくすりと笑っていると、不意に走ってくる騎士が慌てて私に声をかける。

「リルレット様! 団長が視察より戻られました! 団長室へ来るようにとの事です!」

 その報告に腕立てをしていた新人達が喜々とした表情を浮かべているのを見過ごさない。
 私はニコニコと微笑み、彼らへ声をかける。

「少しだけ外します。休憩をしてくださいね」

 わぁーと声が上がって彼らは喜ぶ姿に微笑む、ユリウスと違って私は少しだけ甘いかもしれない。
 新人達の休憩を確認し、私は足早に団長室へと向かって行った。
 辿り着き扉を開くと、彼が抱きしめてくる。

「ユリウス……ここでは駄目ですよ」

「え~もう皆が公認してくれているようなものなんだけどね」

「公私混同は駄目ですから」

 いつしか甘えたがりのユリウスを諌める立場になっている。
 勤務時間が終われば、前のようにからかわれて照れたさせられるのだ……昼間ぐらいは私が主導権を握っていなくては。

 そんな事を考えている内に、ユリウスはいつもの笑いを浮かべてそっと私の髪に触れた。

「これ、今回の視察は遠かったからお土産だよ」

「これって……」
 
 長い髪をまとめるための髪飾りであった。
 海のように明るい青色の宝石のアクアマリンが散りばめられたとても素敵な物。
 思わず声が漏れ出てしまうような程に繊細な作りだ。

「こんな高価な物。どこに売っていたのですか?」

「これは貰い物だよ、お代はいらないだとさ」

「そんな、せめてお礼だけでもしないと……とても時間がかかった素敵な髪飾りですから」

「もう、礼は貰っていると言っていたよ。彼も無事に好きな事を見つけられて生き生きしていたから、大丈夫さ」

「彼?」

 何を言っているのだと首を傾げて問いかけるが、ユリウスはそれ以上何も言わずにそっと私のお腹に手を触れた。

「無理はしていない? もう一人の身体ではないから無茶しないでね」

「大丈夫ですよ、ユリウス……激しい動きはしていませんから」

 大きくなったお腹、そこには私達の子供がいる。
 ユリウスと私の大事な子だ。

「この前、少しだけ動いたんです。きっともう少しですよ」

「本当かい? 視察を早めに終わらせて来てよかった」

 彼が愛おしそうに私を見つめ、団長室の扉を閉めてそっと口付けをする。 
 駄目だと言おうとしたけど、止めて欲しくないと思ってしまう私はまだまだ甘いようだ。

「本当に無茶だけはしてはいけないよ」

「分かっています。私達もお互い背中を守っては居られなくなりましたね。この子が笑顔で過ごせるように二人で守っていかないとね」

「僕は君もお腹の子も守って見せるさ、誰にも傷つけさせはしない」

「私もそうしますよ、何人生まれても……私達が守ってあげましょう?」

 ニコリと微笑みで返すと、彼は愛おしそうにもう一度だけキスをくれる。
 その時、お腹の子が小さく動いたのを感じながら……この幸せをずっと守り続けていこうと固く、固く心に誓った。
 騎士として……妻として……母親として。

 お腹の子の幸せは……私の新たな幸福だ。




––fin––



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