【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか

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 睨み合う中、先に口を開いたのはこの状況でも余裕の笑みを携えたユリウスであった。

「ガディウス、確認はしておこう……野盗団を率いているのはお前だな?」

「その通りだ、今さら誰に知られたとて構わない。殿下より自由を受けた王宮騎士団はリルレットを探すために渡された支援金を元に各地より野盗団を集めた、全てはこの瞬間のためにな」

「新たな王とでもなるつもりか?」

 予想通りの答え……ガディウスも私達がそこまで読んでいると理解しているのだろう。
 しかし、続く言葉は私達の予想を超えていた。

「俺は新たな王になる気などはない、王宮騎士団の誰かにでもその席は譲るさ、俺の真の狙いは別だ」

「……なにを考えている?」

「これ以上を知る必要はない、今この場で副団長ユリウスを消す事の出来る機会を逃すつもりはない。リルレット、お前がこちらへ来ればこの男の命だけは救ってやるぞ?」

 今となっては理由など気にする必要はない。
 ガディウスは私達が討つべき敵であり、それ以外の情報は必要ないのだから。
 鞘を払い、銀色に光り輝く剣先を奴の勝ち誇った笑みに向け、睨みつける。

「言ったはずです。彼は貴方に殺されるような人じゃないと、もちろん、私もです」

「その通りだね。リルレット」

 ユリウスと共に剣を握った瞬間、ガディウスの周囲を取り巻いていた王宮騎士団員も一斉に剣を抜き取り、勇み足で私達へと向かってくる。
 その状況であっても、不思議と私は笑みがこぼれる程に落ち着いていた。
 数が劣った状況で、眠っているアルフレッドを守りつつガディウス達に勝つなど到底無理な話だ。
 しかし、それは正当な騎士であればの話。
 私の隣にいるのは狡猾騎士様だ。

「リルレット!! 伏せろ!!」

 ユリウスの掛け声が聞こえた瞬間、彼は懐から大量の金貨を王宮騎士へと投げる。
 王座の間に差し込む太陽の陽光が黄金を照らし出し、反射した光が周囲へと光の線を作り出していく。
「伏せろ」とユリウスが言った言葉、そしてバラまかれた金貨を見て王宮騎士は全てを察し、慌ててその身を伏せていく。
 そう……あの野盗団達が持っていた爆発する金貨を警戒して一斉にしゃがんだのだ。

「やっぱり、あれは貴方達だったのですね」

「なっ!?」

 伏せろと彼が言ったのはブラフ、金貨は爆発などせずに地面に落ちて金属音を鳴り響かせる。
 未だに方法は分からないが、彼らが金貨に爆破魔法を仕掛けていたという予想は反応を見れば分かる。そのおかげで地に伏せた彼らには明確な隙が生まれた。
 銀の光が筋を描き、私とユリウスの剣はしゃがんだ王宮騎士達へ次々と振るわれる。
 ユリウスは相手の心情を利用して生み出した隙を勝ちに繋げる。

 あっという間に王宮騎士の数は半数以下となり、怯えを見せた彼らは後ずさり、ガディウスは好転した状況に苦い表情を浮かべた。

「狡猾騎士……か、どうやら俺が思う以上に厄介なようだ」

「僕は伯爵家ではあるけど、副団長まで上りつめたのは紛れもない実力だからね」

「金貨に爆破魔法を仕掛けている我らだからこそ、生まれる警戒か……面白いな」

 ガディウスはおもむろに床に落ちた一枚の金貨を右手で掴むと、それを私達へと軽く投げる。
 キラリと変わらない光を放つ金貨が宙を舞うはずであった。
 しかし金貨は青白い光を放ち初め、爆炎と爆風が巻き起こりその熱風に瞳を閉じてしまう。

「リルレット!!」

「っ!?」

 爆煙の中を突き刺すように駆けてきたガディウスが私の腹を蹴り飛ばす。
 あまりの勢いに受け身さえ取れずに床に転がった私は咳き込みながら顔を上げると、ユリウスとガディウスが剣を交えて激しい金属音が鳴り響かせた。
 早く、立ち上がらないといけないのに……蹴られた痛みが私の身体の力を奪う。

 二人の激しい剣戟は目で追えぬ程の速度で繰り返されたが、やがてガディウスが自身の右手でユリウスの剣を掴み、血を流しながらもニヤリと笑う。

「種明かしをしてやろう。俺が王宮魔術師のジェイソンを殺害したのは事実だ。奴の家族を殺害すると脅して俺の右手に書き込ませたのだ、物を爆発物に変える魔法を魔術印としてな」

「っ!? ジェイソン様を爆破魔法の失敗と見せかけたのはそれか」

「使用できる期間は残り少なくはなったが、便利な魔法だ。ジェイソンは殺さずに生かしておくべきだった、命乞いまでしていたのに殺したのは惜しかったな」

「僕が思う以上に……お前は救いがたい」

「好きに言え」

 再び青白い光が周囲を照らし出していく、それはユリウスの剣からであり、彼は剣を咄嗟に手放しはしたが爆炎が両手を覆って火傷を負わせる。

「っ!!」

「剣を失った副団長、そして女一人……俺に勝つには不十分な戦力だな」

 悔しく、歯がゆい。
 ガディウスの力は想像を超えていた。
 奴の力のみであっさりと状況は覆され、今では私達が絶望的に追い込まれている。
 
「まずは……アルフレッドを確保しておこう。いつでも殺せるようにな」

 勝ち誇った笑みを浮かべ、私達など相手ではないというように突き進むガディウス。
 やはり私達では敵わない……ガディウスの力に対して二人では勝ち目などないと分かっていた。

 だからこそ、ガディウスは正騎士団の総力によって討つべきだと決めていた。
 王座両開きの扉、こちらを笑って見ている王宮騎士達の背後から近づく人物を見て私とユリウスは胸をなでおろす。
 
「間に合ってくれましたね……」

「? なにを言って……っぐ!!」

 疑問を抱いて振り返ったガディウスは突然として片膝を床につき、その身を動かせずに身体を震わせる。
 まるで、身体全体に重圧がかかっているかのように身を硬直させながら、その魔法を実行した人物を察して怒りを露にして叫び出す。

「シュレイン!! 貴様がなぜここに!!」

 王座の間に新たにやって来たのはシュレイン団長であった。
 乱雑に伸びた白い髪、前髪の隙間から見える金の瞳は珍しくガディウスを睨みつける。
 
 その傍にいたのはマルクであり、彼はその類まれなる腕力で油断していた王宮騎士達を背後から切り裂いてシュレイン団長の道を開く。
 今この瞬間、本来であれば戦場で指揮を執らねばらない団長がこの場にやって来ている。
 それこそが私達が張り巡らせた策でもあった。

「ガディウス……君は僕らの策にしっかりとはまってくれたね」

 元より勝つ気はない。
 私とユリウスはガディウスをおびき出すための囮だ。
 危険を冒し、ガディウスを油断させるための罠そのもの。
 アルフレッドを救出しようとしたのも、全てはガディウスを誘い出すため。

 多勢に無勢……今ここでガディウスの状況は一変する。
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