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補佐官となってからいつも訪れていた執務室のはずなのに、扉をノックする事にとても緊張して胸が大きく鼓動する。
緊張の中には恐怖心も混ざる。
アルフレッドに恋していた時、彼は突然理由もなく私から離れしまった。
嫌われた理由が私にも分からない、失礼な事をした記憶なんてない。
だからこそ、ユリウス様にも同じように嫌われてしまうのが怖くて仕方ない。
けど、突っ立ているわけにもいかない。
大きく深呼吸をして、扉を数回ノックすると優しい声色で「どうぞ」と声が聞こえた。
「失礼します」
入った瞬間だった。
手を引かれて壁に押し当てられ、ユリウス様と視線を合わせる。
彼は、憂いを帯びた瞳で私を見つめていた。
「不安だったよ。待つのは怖い」
「ユリウス様も……怖いと思うのですね」
「僕は臆病だから。誰かに君を奪われるのではないかとずっと心配してしまう」
話し出せばいつも通りなのに、お互いに視線を外せない。
ドクドクと大きな鼓動はどちらから鳴っているのか、分からなかった。
「ユリウス様は……いつから想ってくれていたのですか?」
私の問いに彼はふっと微笑む。
「本当は騎士団から追い出す気だった。性別を偽って騎士団に入団してきた君に甘くみるなと厳しい鍛錬を強いて諦めさせようとしたのに……諦めるどころか喜々として僕のしごきについてきた、思えばその時に惹かれていた」
彼はそっと私の髪を一房すいて、頬に手を当てる。
「キッカケはマルクに僕の噂を吹聴されている事が聞こえて胸がざわついた事。否定したくて出かけた日、僕の代わりに泣いてくれた優しい君を手放したくないと思ってしまった」
彼は顔を近づけ、息の当るような距離となる。
耳元で囁かれるような声に、頭がポーッとしてしまう。
「僕は話したよ? 次は君だ」
「近い……ですよ。恥ずかしいです」
「今まで我慢させられたからね。これぐらいは我慢してよ」
きっと……照れる私を見たいのだろう。
恥ずかしいが、別にユリウス様になら見られてもいいと思ってしまう。
それぐらい、私は彼の事が。
「私は、酒場での時に気持ちが分かりました。それまでは厳しい指導を強いるユリウス様を悪魔だと思ってましたよ」
「知ってる」
いたずらっぽく小さく笑うユリウス様に私からそっと手を当てる。
意外そうに驚いた彼を少しだけ可愛いと思う。
「でも気付いたのです。さっきユリウス様は私を追い出すために厳しくしたと言っていましたが、本当は全て私のために厳しくしてくれていたのですよね? 危ない職務だからこそ、甘えを失くそうとしてくれた。心配しての行動だと知って、貴方は優しいと気付いたの」
「優しいかな?」
「優しいですよ、だって……厳しい訓練の時、私がいつ倒れても大丈夫なように、ずっと傍にいてくれたじゃないですか? 忙しい癖に」
彼自身も自覚していなかったのだろう、目を見開き……嬉しそうに微笑んだ。
「ユリウス様の事、こう見えてもしっかりと見ていますからね」
「本当、僕以上に見えているみたいだね」
「それに……貴方は私に元気をくれたから、あの本が私の人生を変えてくれた」
私達は息遣いを感じる距離へと近づく。
鼓動する胸、見つめ合いながら壁際でユリウス様は口を開いた。
「好きだと……もう伝えていいかな? リール」
私は彼の両頬に手を当てながら、ニコリと微笑む。
既に言っている、なんて野暮な事は言わない。
「もう女性と隠す気はありません……だから、リルレットと呼んで欲しいです。ユリウス様」
「分かった。リルレット……好きだ」
「私も、好きです」
お互いに伝えた言葉、自然と息遣いは途絶えて唇を重ね合わせる。
思わず漏れた甘い吐息を聞き、ユリウス様は私を強く抱きしめた。
「んっ……ユリウス様」
「ユリウスでいい、君にはそう呼んでほしい」
「ふふ、分かりましたよ。ユリウス」
彼は私と指を絡めていく。
返すように手の甲を優しく指先で撫でると、彼は再びキスをくれた。
彼と気持ちを伝え合う事が嬉しくて、幸せで仕方がない。
けど、私には確認しないといけない事がある。
「ユリウス、私が妃候補だったと知っていても受け入れてくれるの?」
分かっているのに、アルフレッドの事を思い出して尋ねてしまう。
嫌われるような理由を一つでも残したくなかった。
そんな気持ちを汲み取ってか、彼は安心させるように私の額にキスを落とした。
「君は、僕が別の女性と婚約関係だった事を知って嫌いになる?」
「そ、そんな訳ありませ……」
人差し指で口元を抑えられ、彼は耳元で囁いた。
「同じ。最後に愛してくれるのが僕であれば……関係ない」
私が馬鹿だった。
わかりきっていた答えだったのだ、こんな事。
だけど、その答えが胸を沸き立たせる程に嬉しくて……たまらずに彼の胸に顔をうずめる。
「ずるいぐらい……好きにさせてくれますね」
「これからは我慢しないから。覚悟しておいてねリルレット」
「お手柔らかにお願いします……」
再び唇を重ね合わせ、指を重ねる。
密かに想い合っていた私達は終わり、これからお互いに素直に生きていく。
隠すような恋から、伝え合う恋へ。
緊張の中には恐怖心も混ざる。
アルフレッドに恋していた時、彼は突然理由もなく私から離れしまった。
嫌われた理由が私にも分からない、失礼な事をした記憶なんてない。
だからこそ、ユリウス様にも同じように嫌われてしまうのが怖くて仕方ない。
けど、突っ立ているわけにもいかない。
大きく深呼吸をして、扉を数回ノックすると優しい声色で「どうぞ」と声が聞こえた。
「失礼します」
入った瞬間だった。
手を引かれて壁に押し当てられ、ユリウス様と視線を合わせる。
彼は、憂いを帯びた瞳で私を見つめていた。
「不安だったよ。待つのは怖い」
「ユリウス様も……怖いと思うのですね」
「僕は臆病だから。誰かに君を奪われるのではないかとずっと心配してしまう」
話し出せばいつも通りなのに、お互いに視線を外せない。
ドクドクと大きな鼓動はどちらから鳴っているのか、分からなかった。
「ユリウス様は……いつから想ってくれていたのですか?」
私の問いに彼はふっと微笑む。
「本当は騎士団から追い出す気だった。性別を偽って騎士団に入団してきた君に甘くみるなと厳しい鍛錬を強いて諦めさせようとしたのに……諦めるどころか喜々として僕のしごきについてきた、思えばその時に惹かれていた」
彼はそっと私の髪を一房すいて、頬に手を当てる。
「キッカケはマルクに僕の噂を吹聴されている事が聞こえて胸がざわついた事。否定したくて出かけた日、僕の代わりに泣いてくれた優しい君を手放したくないと思ってしまった」
彼は顔を近づけ、息の当るような距離となる。
耳元で囁かれるような声に、頭がポーッとしてしまう。
「僕は話したよ? 次は君だ」
「近い……ですよ。恥ずかしいです」
「今まで我慢させられたからね。これぐらいは我慢してよ」
きっと……照れる私を見たいのだろう。
恥ずかしいが、別にユリウス様になら見られてもいいと思ってしまう。
それぐらい、私は彼の事が。
「私は、酒場での時に気持ちが分かりました。それまでは厳しい指導を強いるユリウス様を悪魔だと思ってましたよ」
「知ってる」
いたずらっぽく小さく笑うユリウス様に私からそっと手を当てる。
意外そうに驚いた彼を少しだけ可愛いと思う。
「でも気付いたのです。さっきユリウス様は私を追い出すために厳しくしたと言っていましたが、本当は全て私のために厳しくしてくれていたのですよね? 危ない職務だからこそ、甘えを失くそうとしてくれた。心配しての行動だと知って、貴方は優しいと気付いたの」
「優しいかな?」
「優しいですよ、だって……厳しい訓練の時、私がいつ倒れても大丈夫なように、ずっと傍にいてくれたじゃないですか? 忙しい癖に」
彼自身も自覚していなかったのだろう、目を見開き……嬉しそうに微笑んだ。
「ユリウス様の事、こう見えてもしっかりと見ていますからね」
「本当、僕以上に見えているみたいだね」
「それに……貴方は私に元気をくれたから、あの本が私の人生を変えてくれた」
私達は息遣いを感じる距離へと近づく。
鼓動する胸、見つめ合いながら壁際でユリウス様は口を開いた。
「好きだと……もう伝えていいかな? リール」
私は彼の両頬に手を当てながら、ニコリと微笑む。
既に言っている、なんて野暮な事は言わない。
「もう女性と隠す気はありません……だから、リルレットと呼んで欲しいです。ユリウス様」
「分かった。リルレット……好きだ」
「私も、好きです」
お互いに伝えた言葉、自然と息遣いは途絶えて唇を重ね合わせる。
思わず漏れた甘い吐息を聞き、ユリウス様は私を強く抱きしめた。
「んっ……ユリウス様」
「ユリウスでいい、君にはそう呼んでほしい」
「ふふ、分かりましたよ。ユリウス」
彼は私と指を絡めていく。
返すように手の甲を優しく指先で撫でると、彼は再びキスをくれた。
彼と気持ちを伝え合う事が嬉しくて、幸せで仕方がない。
けど、私には確認しないといけない事がある。
「ユリウス、私が妃候補だったと知っていても受け入れてくれるの?」
分かっているのに、アルフレッドの事を思い出して尋ねてしまう。
嫌われるような理由を一つでも残したくなかった。
そんな気持ちを汲み取ってか、彼は安心させるように私の額にキスを落とした。
「君は、僕が別の女性と婚約関係だった事を知って嫌いになる?」
「そ、そんな訳ありませ……」
人差し指で口元を抑えられ、彼は耳元で囁いた。
「同じ。最後に愛してくれるのが僕であれば……関係ない」
私が馬鹿だった。
わかりきっていた答えだったのだ、こんな事。
だけど、その答えが胸を沸き立たせる程に嬉しくて……たまらずに彼の胸に顔をうずめる。
「ずるいぐらい……好きにさせてくれますね」
「これからは我慢しないから。覚悟しておいてねリルレット」
「お手柔らかにお願いします……」
再び唇を重ね合わせ、指を重ねる。
密かに想い合っていた私達は終わり、これからお互いに素直に生きていく。
隠すような恋から、伝え合う恋へ。
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