24 / 49
22
しおりを挟む
「さて、リール君……いや? 実際には別の名前があるのかな?」
シュレイン様の問いに頷くしかない。
「騙してしまい申し訳ありません。本名をリルレット・ローゼリアと申します。ローゼリア伯爵家の娘という身でありながら男性と偽って騎士となった事に対する処罰は如何様にも受けます」
「これ以上の噓がないのはいいね。実はユリウスから全て聞いていたから驚きはないよ。ギーデウス元騎士団様の娘さん」
「へ?」
あっけらかんと言い放つシュレイン様にきょとんとしてしまう。
隣に立つユリウス様はいつもの意地悪い笑みを浮かべ、「大丈夫だと言っただろう?」とくつくつと笑った。
既に全て知っていたのだ……思わず張っていた肩の力が抜けていく。
「全て知っていて……見逃してくれていたのですか? 団長」
「僕は能力さえあれば性別を問わずに騎士になっても良いと思っている。制度を変えるため、君がその先駆者になってもらう予定だったけどガディウスに見つかるとはね」
シュレイン様は椅子の背もたれに体重をかけて「まぁいいか……」とのんきに呟く。
「ガディウスはリルレット君の軍律違反を公にしない代わりにいくつか条件を付けてきた」
「条件? 奴はなにを」
間髪入れないユリウス様の疑問にシュレイン様は淡々と答える。
「一つはこれ以上王宮について正騎士団が調べる事は禁止。二つ目は先の爆発事件を調査するのは王宮騎士団が担当する事を条件にしてきた」
一つ目は王宮騎士団が王宮管轄であるが故に関わるなと言っているのは分かる。
しかし、二つ目には疑問を抱いてしまう。
「なぜ、二つ目を王宮騎士団が?」
「信用できないらしいからだ。あれだけの規模の爆破魔法を仕掛けられるのは今のラインハルト王国には僕しかいない。盗賊団のアジトを見つけたのも僕だからね」
自分が疑われていると濁さずに言い切るシュレイン様にユリウス様は単刀直入に問いかける。
「団長、やっていないですよね?」
「やっていない証拠はないから言い切れない。だから僕は自身の潔白を証明するためにもリルレット君に頼みたい事がある。君にしかできない事だ」
視線を向けられ、私は首をかしげる。
「頼みたい事ですか?」
「そう、実は王宮を調べていて分かった事があってね。妃候補の一人にセレン妃がいるのは君なら知っているだろう?」
問いかけに、頷く。
妃候補であった事は彼らには周知の事実であり、隠す必要はない。
セレン妃と言えば妃候補の一人であるが、第二子王子であるイエルク様に恋心を抱いているという噂を王宮で聞いた事がある、逆に言えばそれしか知らないが。
「知っていますが、会った事はありません」
「そうか……王宮では不思議と寵愛された妃が特定されずにバラバラの噂があったようだが、実際の所殿下はセレン妃の部屋へと足繫く通っていた事が分かった」
謎だった疑問の答えが少しだけ分かった。
私とカラミナ妃はどちらも偽の噂を聞いて寵愛されている妃候補が分からないでいた。
それが、実際にはセレン妃と繋がっていたのだとシュレイン様の言葉で分かる。
「しかし、セレン妃のなにが、シュレイン様の身の潔白を証明する事に関係あるのですか?」
「関係が大ありでね。王宮で起こった魔術師ジェイソン様が亡くなっているのを発見したのはセレン妃であり、それが原因で精神を病み。アルフレッド殿下と今は会うことを拒否しているらしい」
ジェイソン様が亡くなったのを発見したのがセレン妃であれば死の原因が分かるかもしれない。
有り得ない事だが、ジェイソン様が生きている可能性もあるのだ。
そうまれば、爆破の件で疑うべき人物は変わるかもしれない。
「確かにセレン妃と会って話す事が出来れば何か分かるかもしれません。しかしこれ以上の王宮への詮索は難しいのは?」
「実は、君ならギリギリ不可能じゃない」
「どういう事ですか?」
「まず最初に君は軍律違反で騎士団を除隊する」
当然の処罰であったが、胸が痛む。
しかし、何も言わず口をつぐんだのはシュレイン様は言葉を待つため。
「正騎士団は必要であれば一般人にも特務を与えて一時的に職務を補助してもらう制度がある。今回はこれを利用してカラミナ妃の護衛という特務を君に言い渡す。その際、君にはセレン妃と会って来てほしい」
「しかし、それを王宮騎士団が容認するとは思えません」
「もちろん、なるべく王宮騎士団に会わないようにしてもらう。わざわざ除隊するのは君の身柄を拘束されても正騎士団が処罰されるのを防ぐため。はっきり言ってトカゲの尻尾切りだ。責任を追及されないためにユリウスも含めて君への随行は許可しない」
ハッキリと言ったのは、選択権は私が持っているからだ。
「君が騎士に残るには名誉が必要だ。アルフレッド殿下の欲情やジェイソン様の死。王宮騎士団が減った理由と盗賊団の件、全ては王宮に繋がっていると僕は睨んでいる。君がそれらの答えを見つければ、女性騎士が認められる充分な名誉が得られるはず」
ジェイソン様は試すように「どうしたい?」と尋ねた。
危険を冒してでも騎士として残る道を選ぶか。
また、女性として生きていくか。
答えは決まっている。
「やります。特務を私に与えてください」
膝をつき、頭を下げる。
私はアルフレッドに捨てられた日から自由に生きると決めたのだ。
騎士としても女性としても生きていけるチャンスがあれば、危険であろうとためらう必要はない。
「ユリウス、君からリルレットに特命を」
私の前に立ったユリウス様は、同じく膝をつき肩に手を置いてくれた。
「リルレット・ローゼリア……今日より正騎士団からの特務を与え、君を特命騎士として任を与える」
「承りました。ユリウス様」
「必ず、無事に。待っている」
最後の言葉はユリウス様の心配であり、それを胸に感じたながら深く頷く。
私はこの日、正騎士団を除隊し、特命騎士としての任を得た。
危険であっても、自由に生きてみせると心に決めて。
◇◇◇
執務室をユリウス様と共に出て、一息つきながらも私はやり残した事を思い出す。
「ユリウス様、私は貴方に伝えたい事があります」
「リルレット……」
「でも、その前に話をしておくべき相手がいるのです。私のせいで悩みを抱えてしまった彼としっかりと話し合っておきたい。私がかつて受けた仕打ちを味合わせたくない」
かつてアルフレッドにされた事はしたくない。
しっかりと話し合い、お互いの気持ちを整理してからユリウス様と話をすべきだ。
彼も理解してくれたのか、頷いて背中を押してくれた。
「僕は執務室で待ってる。行っておいで」
「ありがとうございます」
私は駆け出し、話し合うべき彼の元へと向かった。
好きだと思う気持ちは止められないからこそ、マルクをこれ以上は悩ませたくはなかった。
シュレイン様の問いに頷くしかない。
「騙してしまい申し訳ありません。本名をリルレット・ローゼリアと申します。ローゼリア伯爵家の娘という身でありながら男性と偽って騎士となった事に対する処罰は如何様にも受けます」
「これ以上の噓がないのはいいね。実はユリウスから全て聞いていたから驚きはないよ。ギーデウス元騎士団様の娘さん」
「へ?」
あっけらかんと言い放つシュレイン様にきょとんとしてしまう。
隣に立つユリウス様はいつもの意地悪い笑みを浮かべ、「大丈夫だと言っただろう?」とくつくつと笑った。
既に全て知っていたのだ……思わず張っていた肩の力が抜けていく。
「全て知っていて……見逃してくれていたのですか? 団長」
「僕は能力さえあれば性別を問わずに騎士になっても良いと思っている。制度を変えるため、君がその先駆者になってもらう予定だったけどガディウスに見つかるとはね」
シュレイン様は椅子の背もたれに体重をかけて「まぁいいか……」とのんきに呟く。
「ガディウスはリルレット君の軍律違反を公にしない代わりにいくつか条件を付けてきた」
「条件? 奴はなにを」
間髪入れないユリウス様の疑問にシュレイン様は淡々と答える。
「一つはこれ以上王宮について正騎士団が調べる事は禁止。二つ目は先の爆発事件を調査するのは王宮騎士団が担当する事を条件にしてきた」
一つ目は王宮騎士団が王宮管轄であるが故に関わるなと言っているのは分かる。
しかし、二つ目には疑問を抱いてしまう。
「なぜ、二つ目を王宮騎士団が?」
「信用できないらしいからだ。あれだけの規模の爆破魔法を仕掛けられるのは今のラインハルト王国には僕しかいない。盗賊団のアジトを見つけたのも僕だからね」
自分が疑われていると濁さずに言い切るシュレイン様にユリウス様は単刀直入に問いかける。
「団長、やっていないですよね?」
「やっていない証拠はないから言い切れない。だから僕は自身の潔白を証明するためにもリルレット君に頼みたい事がある。君にしかできない事だ」
視線を向けられ、私は首をかしげる。
「頼みたい事ですか?」
「そう、実は王宮を調べていて分かった事があってね。妃候補の一人にセレン妃がいるのは君なら知っているだろう?」
問いかけに、頷く。
妃候補であった事は彼らには周知の事実であり、隠す必要はない。
セレン妃と言えば妃候補の一人であるが、第二子王子であるイエルク様に恋心を抱いているという噂を王宮で聞いた事がある、逆に言えばそれしか知らないが。
「知っていますが、会った事はありません」
「そうか……王宮では不思議と寵愛された妃が特定されずにバラバラの噂があったようだが、実際の所殿下はセレン妃の部屋へと足繫く通っていた事が分かった」
謎だった疑問の答えが少しだけ分かった。
私とカラミナ妃はどちらも偽の噂を聞いて寵愛されている妃候補が分からないでいた。
それが、実際にはセレン妃と繋がっていたのだとシュレイン様の言葉で分かる。
「しかし、セレン妃のなにが、シュレイン様の身の潔白を証明する事に関係あるのですか?」
「関係が大ありでね。王宮で起こった魔術師ジェイソン様が亡くなっているのを発見したのはセレン妃であり、それが原因で精神を病み。アルフレッド殿下と今は会うことを拒否しているらしい」
ジェイソン様が亡くなったのを発見したのがセレン妃であれば死の原因が分かるかもしれない。
有り得ない事だが、ジェイソン様が生きている可能性もあるのだ。
そうまれば、爆破の件で疑うべき人物は変わるかもしれない。
「確かにセレン妃と会って話す事が出来れば何か分かるかもしれません。しかしこれ以上の王宮への詮索は難しいのは?」
「実は、君ならギリギリ不可能じゃない」
「どういう事ですか?」
「まず最初に君は軍律違反で騎士団を除隊する」
当然の処罰であったが、胸が痛む。
しかし、何も言わず口をつぐんだのはシュレイン様は言葉を待つため。
「正騎士団は必要であれば一般人にも特務を与えて一時的に職務を補助してもらう制度がある。今回はこれを利用してカラミナ妃の護衛という特務を君に言い渡す。その際、君にはセレン妃と会って来てほしい」
「しかし、それを王宮騎士団が容認するとは思えません」
「もちろん、なるべく王宮騎士団に会わないようにしてもらう。わざわざ除隊するのは君の身柄を拘束されても正騎士団が処罰されるのを防ぐため。はっきり言ってトカゲの尻尾切りだ。責任を追及されないためにユリウスも含めて君への随行は許可しない」
ハッキリと言ったのは、選択権は私が持っているからだ。
「君が騎士に残るには名誉が必要だ。アルフレッド殿下の欲情やジェイソン様の死。王宮騎士団が減った理由と盗賊団の件、全ては王宮に繋がっていると僕は睨んでいる。君がそれらの答えを見つければ、女性騎士が認められる充分な名誉が得られるはず」
ジェイソン様は試すように「どうしたい?」と尋ねた。
危険を冒してでも騎士として残る道を選ぶか。
また、女性として生きていくか。
答えは決まっている。
「やります。特務を私に与えてください」
膝をつき、頭を下げる。
私はアルフレッドに捨てられた日から自由に生きると決めたのだ。
騎士としても女性としても生きていけるチャンスがあれば、危険であろうとためらう必要はない。
「ユリウス、君からリルレットに特命を」
私の前に立ったユリウス様は、同じく膝をつき肩に手を置いてくれた。
「リルレット・ローゼリア……今日より正騎士団からの特務を与え、君を特命騎士として任を与える」
「承りました。ユリウス様」
「必ず、無事に。待っている」
最後の言葉はユリウス様の心配であり、それを胸に感じたながら深く頷く。
私はこの日、正騎士団を除隊し、特命騎士としての任を得た。
危険であっても、自由に生きてみせると心に決めて。
◇◇◇
執務室をユリウス様と共に出て、一息つきながらも私はやり残した事を思い出す。
「ユリウス様、私は貴方に伝えたい事があります」
「リルレット……」
「でも、その前に話をしておくべき相手がいるのです。私のせいで悩みを抱えてしまった彼としっかりと話し合っておきたい。私がかつて受けた仕打ちを味合わせたくない」
かつてアルフレッドにされた事はしたくない。
しっかりと話し合い、お互いの気持ちを整理してからユリウス様と話をすべきだ。
彼も理解してくれたのか、頷いて背中を押してくれた。
「僕は執務室で待ってる。行っておいで」
「ありがとうございます」
私は駆け出し、話し合うべき彼の元へと向かった。
好きだと思う気持ちは止められないからこそ、マルクをこれ以上は悩ませたくはなかった。
261
お気に入りに追加
2,959
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?
ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。
13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。
16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。
そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか?
ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯
婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。
恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇


わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる