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「話をしにきただけだ、ユリウス。剣を下ろせ」
「正騎士隊員二人に対する暴行は立派な軍律違反だ。ガディウス」
「まずは、その女こそが軍律違反で除隊されるべきでは?」
「別件として処理をする。貴様には関係のない話だ」
互いに一歩も引かず、睨み合う二人の間には緊迫した雰囲気が漂う。
ビリビリとした威圧であったが、耐えかねたようにガディウスが腰に差した剣を振り抜く。
しかし、ユリウス様はその剣を受けとめて金属音を鳴り響かせた。
「本気で俺を殺す気で剣を握っているな? ユリウスよ」
「……」
「その女か」
剣を交差させる二人の力は拮抗しているが、手助けさえ出来ない自分が歯がゆい。
私が助力をしても足手まといなだけだ。
殺気立ち、今にも血が流れそうな雰囲気であったが、打ち壊すようにパンパンと手拍子が鳴り響いた。
「はい、終わり。終わり……二人とも剣を下ろしてもらおうか」
シュレイン団長だ。
流石にこれだけ騒げばユリウス様同様に気付いてくれたのだろう、殺気立つ雰囲気とは真逆な吞気な様子にガディウス苛立ちの視線を向けた。
「シュレイン、邪魔をするな」
「ガディウス、文句はあろうと節度は守るべきだ。正騎士団本部で血は流させない」
「っ!!」
シュレイン様が片手をかざした瞬間、ガディウスの剣先は重りを付けられたように地面へと落ちる。
魔術による負荷をかけているのだと分かるが、王宮騎士団長の力を軽く凌駕する力は圧倒的であった。
「お前の、その余裕の笑みが気に食わない。だが今は言う通りにしてやる」
ガディウスは流石に剣を引き、シュレイン団長へと向き直る。
ユリウス様は額に汗を流し、剣を構えたままだった。
「シュレイン、お前には話がある。その女の件も追加でな」
「分かっている、執務室で話そう。リール君は執務室前で待っておくように。ユリウス、連れ添ってあげて」
「……分かりました」
ガディウスと共にシュレイン団長は歩き出し、ユリウス様も剣を納めて私の肩を掴む。
そして、悔し気に瞳を閉じて頭を下げた。
「すまない……もっと早く来ていれば」
「い、いえ! 頭を上げてくださいユリウス様」
こんな事が起こるとは、誰も分からない。
私も……ユリウス様も。
そして、未だに動揺し啞然としているマルクすらも。
「リール……説明してくれ、何がどうなっている?」
マルクの疑問に私は俯いて答える。
「マルク、必ず説明する。だから少しだけ待っていて欲しい」
ユリウス様の肩を借りて立ち上がり、シュレイン団長達へと付き従う。
軍律違反となれば、後の処罰は決まっている。
突然、騎士としての人生は突然終わりを告げたのだ。
悔しくて、泣き出してしまいそうなのを耐えながら……私はただ下される処罰を待った。
◇◇◇
胸元が破かれた私にユリウス様は上着を羽織らせてくれた。
執務室前で待つ私達は俯き、処罰を待つ。
彼へ視線を向けると、悔しそうに顔をしかめていた。
「君の口から……聞きたかった」
彼の呟きに、私も頷いて答える。
「私も、そう思っていました」
どうせ女性だと分かるのなら、私から明かしたかった。
同じ気持ちだった事に嬉しいと思いつつも、それが果たせなかった現実に酷く胸が締め付けられる。
悔しくて仕方ないが、こんな事で泣いている場合ではないとも分かっている。
シュレイン様とガディウスの会話は聞こえなかったが、数十分の時を経て執務室からガディウスが出てくる。
「そうか、ここにいたのか」
忘れていたような口ぶり。
怒りもあって思わず睨むと、ガディウスはニヤリと頬を緩めた。
「女ながら騎士を目指す気持ちは尊重している。しかし身分は隠すべきでなかったな」
「分かっています。然るべき罰は受けるつもりです」
「軍律違反は免れないだろう。しかし俺は有望株が好きであり、騎士団に入団できた君は紛れもない逸材だ」
片膝をついてまで、私を見つめるガディウスに呆然としてしまう。
何を言っているのだ? この人は。
「女性として俺の側室になれ、王宮騎士団で騎士として生きる道を作ってやろう。俺にはそれができる」
手をとって見つめてくる目の前の男に理解できない不気味な感情が浮かぶ。
息苦しく、真綿で首を締められているような感覚を覚える。
なんとか取られた手を振り払い、変わらず睨みながら答えた。
「ふざけないでください……」
「そう嫌うな。今回の詫びにいい事を教えておいてやる」
ガディウスはそっと耳元に近寄り、私だけに聞こえる声で囁いた。
「アルフレッド殿下には、二度と会わぬように気をつけよ。殿下はお前が思う以上に歪んでいる」
「な……なにを……」
アルフレッドが?
意味の分からない言葉に聞き返そうとするが、ガディウスはそのまま立ち上がる。
そして、私とユリウス様を交互に見つめた。
「いつか、俺に惹かれるようになる。それが正解だと気付く時がくるはずだ」
「ガディウス、話し合いは終わった。早く去れ」
ユリウス様は睨み、突き放す言葉を浴びせるとガディウスは素直に踵を返した。
しかし、去り際まで言葉を吐き捨てていく。
「お前達が遭遇した金貨が爆発した件……あれだけ高度な魔法を扱えるのは亡くなったジェイソン様、そしてシュレインだけ。疑いは持っておくことだな」
「なにを……」
言い返そうとしたが、返せなかった。
私でさえ、あれだけの高度な魔法を扱える者はシュレイン様以外に知らない。
ユリウス様も同様に口を閉じ、黙って去っていくガディウスの背を見つめるしかできない。
沈黙の中、執務室の扉が開き。
無表情のシュレイン様が私達へと声をかける。
「ガディウスと話した事、そしてリール君の処罰について話そうか」
抱いてしまった疑念、敵味方が分からない状況の中で私とユリウス様は執務室へと入った。
「正騎士隊員二人に対する暴行は立派な軍律違反だ。ガディウス」
「まずは、その女こそが軍律違反で除隊されるべきでは?」
「別件として処理をする。貴様には関係のない話だ」
互いに一歩も引かず、睨み合う二人の間には緊迫した雰囲気が漂う。
ビリビリとした威圧であったが、耐えかねたようにガディウスが腰に差した剣を振り抜く。
しかし、ユリウス様はその剣を受けとめて金属音を鳴り響かせた。
「本気で俺を殺す気で剣を握っているな? ユリウスよ」
「……」
「その女か」
剣を交差させる二人の力は拮抗しているが、手助けさえ出来ない自分が歯がゆい。
私が助力をしても足手まといなだけだ。
殺気立ち、今にも血が流れそうな雰囲気であったが、打ち壊すようにパンパンと手拍子が鳴り響いた。
「はい、終わり。終わり……二人とも剣を下ろしてもらおうか」
シュレイン団長だ。
流石にこれだけ騒げばユリウス様同様に気付いてくれたのだろう、殺気立つ雰囲気とは真逆な吞気な様子にガディウス苛立ちの視線を向けた。
「シュレイン、邪魔をするな」
「ガディウス、文句はあろうと節度は守るべきだ。正騎士団本部で血は流させない」
「っ!!」
シュレイン様が片手をかざした瞬間、ガディウスの剣先は重りを付けられたように地面へと落ちる。
魔術による負荷をかけているのだと分かるが、王宮騎士団長の力を軽く凌駕する力は圧倒的であった。
「お前の、その余裕の笑みが気に食わない。だが今は言う通りにしてやる」
ガディウスは流石に剣を引き、シュレイン団長へと向き直る。
ユリウス様は額に汗を流し、剣を構えたままだった。
「シュレイン、お前には話がある。その女の件も追加でな」
「分かっている、執務室で話そう。リール君は執務室前で待っておくように。ユリウス、連れ添ってあげて」
「……分かりました」
ガディウスと共にシュレイン団長は歩き出し、ユリウス様も剣を納めて私の肩を掴む。
そして、悔し気に瞳を閉じて頭を下げた。
「すまない……もっと早く来ていれば」
「い、いえ! 頭を上げてくださいユリウス様」
こんな事が起こるとは、誰も分からない。
私も……ユリウス様も。
そして、未だに動揺し啞然としているマルクすらも。
「リール……説明してくれ、何がどうなっている?」
マルクの疑問に私は俯いて答える。
「マルク、必ず説明する。だから少しだけ待っていて欲しい」
ユリウス様の肩を借りて立ち上がり、シュレイン団長達へと付き従う。
軍律違反となれば、後の処罰は決まっている。
突然、騎士としての人生は突然終わりを告げたのだ。
悔しくて、泣き出してしまいそうなのを耐えながら……私はただ下される処罰を待った。
◇◇◇
胸元が破かれた私にユリウス様は上着を羽織らせてくれた。
執務室前で待つ私達は俯き、処罰を待つ。
彼へ視線を向けると、悔しそうに顔をしかめていた。
「君の口から……聞きたかった」
彼の呟きに、私も頷いて答える。
「私も、そう思っていました」
どうせ女性だと分かるのなら、私から明かしたかった。
同じ気持ちだった事に嬉しいと思いつつも、それが果たせなかった現実に酷く胸が締め付けられる。
悔しくて仕方ないが、こんな事で泣いている場合ではないとも分かっている。
シュレイン様とガディウスの会話は聞こえなかったが、数十分の時を経て執務室からガディウスが出てくる。
「そうか、ここにいたのか」
忘れていたような口ぶり。
怒りもあって思わず睨むと、ガディウスはニヤリと頬を緩めた。
「女ながら騎士を目指す気持ちは尊重している。しかし身分は隠すべきでなかったな」
「分かっています。然るべき罰は受けるつもりです」
「軍律違反は免れないだろう。しかし俺は有望株が好きであり、騎士団に入団できた君は紛れもない逸材だ」
片膝をついてまで、私を見つめるガディウスに呆然としてしまう。
何を言っているのだ? この人は。
「女性として俺の側室になれ、王宮騎士団で騎士として生きる道を作ってやろう。俺にはそれができる」
手をとって見つめてくる目の前の男に理解できない不気味な感情が浮かぶ。
息苦しく、真綿で首を締められているような感覚を覚える。
なんとか取られた手を振り払い、変わらず睨みながら答えた。
「ふざけないでください……」
「そう嫌うな。今回の詫びにいい事を教えておいてやる」
ガディウスはそっと耳元に近寄り、私だけに聞こえる声で囁いた。
「アルフレッド殿下には、二度と会わぬように気をつけよ。殿下はお前が思う以上に歪んでいる」
「な……なにを……」
アルフレッドが?
意味の分からない言葉に聞き返そうとするが、ガディウスはそのまま立ち上がる。
そして、私とユリウス様を交互に見つめた。
「いつか、俺に惹かれるようになる。それが正解だと気付く時がくるはずだ」
「ガディウス、話し合いは終わった。早く去れ」
ユリウス様は睨み、突き放す言葉を浴びせるとガディウスは素直に踵を返した。
しかし、去り際まで言葉を吐き捨てていく。
「お前達が遭遇した金貨が爆発した件……あれだけ高度な魔法を扱えるのは亡くなったジェイソン様、そしてシュレインだけ。疑いは持っておくことだな」
「なにを……」
言い返そうとしたが、返せなかった。
私でさえ、あれだけの高度な魔法を扱える者はシュレイン様以外に知らない。
ユリウス様も同様に口を閉じ、黙って去っていくガディウスの背を見つめるしかできない。
沈黙の中、執務室の扉が開き。
無表情のシュレイン様が私達へと声をかける。
「ガディウスと話した事、そしてリール君の処罰について話そうか」
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