【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか

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   ◇◇◇

 目覚めると、私は暖かな寝台で横になっていた。
 横に顔を向けると看病してくれていたのか、手を握りながら寝ているユリウス様が傍にいた。
 
「ユリウス……様」

 また、彼の顔を見れた事が何故か無性に嬉しかった。

「ん……」

 起こしてしまったのだろうか、瞳をゆっくりと開くユリウス様はねむけ眼のまま私の頬へ手を添える。
 優しくて暖かな手、私自身も自分の手を重ねた。

「信じて良かっただろう?」

「ユリウス様……ありがとうございます。でも、どうして」

「ん~~今は内緒にしておくよ」

 いいたずらっぽい笑みを浮かべ、口元で人差し指を立てる彼に私も思わず笑みがこぼれる。
 本当にずるい人で、好きだなと思ってしまう。

 同時に、死の間際に言おうとしていた言葉に顔が熱くなってしまう。
 ユリウス様が止めてくれなれば、私は最後まで言っていただろう……好きだと。
 彼は気付いてニヤリと頬を緩める。

「もう少しだけは待ってあげるよ? 気持ちが落ち着くまでね」

「あ……ありがと–––ます」

 寝具に顔をうずめ、ごにょごにょと答える私を彼は愛おしそうに撫でてくれる。
 私が男装していなければ、素直に気持ちを伝えてしまってもいいのに……それでも焦らずに待ってくれるユリウス様に心がポカポカとして、感謝の気持ちが溢れる。

 彼の手を掴み、甘えたくて顔を上げた瞬間にユリウス様の手が引っ込んだ。
 瞬間、病室の扉が開いてシュレイン団長が入ってくる。

「リール君、容態はどうかな?」
 
 慌てて身体を起こすが、ユリウス様が「無理をするな」と抑えてくれた。
 横になったままの報告をシュレイン様も許可してくださったので恥ずかしいがこのまま報告をする事にした。

「容態は大丈夫です。お腹も痛く……ないです」

 今さら気付いた。
 腹部にあった傷の痛みはなく、驚く程に回復している。

「良かった、良かった……傷口は僕の回復魔法で治しておいたよ。といっても無理は暫く禁止だけどね」

 回復魔法とは高度な魔法のはず。
 シュレイン様の底が知れない魔法の力に驚いて口を開いていると、ユリウス様が隣で笑った。

「言ってなかったね。シュレイン団長は本来ならば亡くなったジェイソン様と同等の魔法の使い手。僕の催眠魔法や閃光魔法もシュレイン団長に教えてもらったんだ」

「そうだったのですね……回復魔法も扱えるなんて」

 私の声にシュレイン様は珍しく頬を緩めた。

「助かったのはユリウス君の止血が良かったおかげだよ、本来なら王都に着く前に死んでいたのだから」

「団長、それ以上は」

「あぁ、そうだったね。とりあえず無事で良かった」

 意味深な言葉、ユリウス様はどのようにして私を助けてくれただろう。
 疑問はあったが、二人はすでに別の話へと移行してしまう。

「それで、報告にあったように盗賊達が持っていた大量の金貨が爆発したのは本当かい?」

「はい、マルクからの報告です。リールも見ていたのだろ?」

 ユリウス様の問いにコクリと頷く。
 シュレイン様は眉間にシワを寄せて考える素振りをとる。

「爆発によって同時に亡くなった野盗が頭領だったようでね。捕縛した下っ端では情報を持っていなかった。唯一分かったのはラインハルト王国へ向かうと頭領に突然言われた事だけだ」

「申し訳ありません、しっかりと捕縛していれば……」

「謝る必要はない、あまりにも突飛な出来事で命が助かっただけでも良かった。とはいえ気になるのは爆発した大量の王国金貨だね」

 私とユリウス様も頷く。
 あの数は盗品の量を超えていた、それが表すのはつまり……。

「王国金貨を使って盗賊達を手引きしている者がいる可能性がある。治安の悪化もいとわない程に大量の盗賊団をね」

「目的が分かりませんね。財を投げうってまで手引きする理由が」

 私の言葉にシュレイン様は頷いた。

「とりあえず、この件は君たちに頼まれていた王宮の事も合わせて僕が調べるよ。リール君は引き続き療養、ユリウスは看病しつつ職務に当たるように」

「了解しました。団長、お願いします」

 ユリウス様が意見を挟まずに頼っているのは、シュレイン様を信頼しているからだろう。
 病室を出ようとするシュレイン様を見送っていると、彼は思い出したように振り返る。

「そういえば、近々王宮騎士団の団長が僕に会いに来るかもしれない。今回の盗賊団の件で情報共有したいとの事だけど、彼は正騎士団を目の敵にしているから会わないように注意しておいてほしい」

 私は首を傾げ、感じていた疑問を投げかけた。

「どうしてですか? 騎士団は国のためという理念は同じのはずです」

「僕が王宮騎士団長に嫌われているから……かな?」

 含みのある答えと同時にシュレイン様の瞳は少しだけ寂しさを帯びていた。
 しかし、彼はそれ以上は答えず病室を出ていく。

 残された私とユリウス様の間にしばしの沈黙が流れ、それを破るように彼は囁いた。

「さっき、何をしようとしていたの?」

「っ!?」

 つい甘えようとしていた事を思い出してしまう。
 顔が熱くなり、再び寝具で顔をうずめようとした私の手を彼が握って、指先を絡めてきた。

「あの時に伝えようとした事、気持ちが落ち着くまでは待つと言ったけど……僕自身は我慢しないからね」

 細めた瞳で浮かぶ笑みはいつもと違い、二人の時だけに見せる魔性を帯びた微笑となる。
 うっとりとして、その魅力に気が遠くなりそうな程にぼんやりとしてしまう。

 今にも気持ちを伝えさせてしまうような、魅力を確かに感じる。

「ずるいです……耐えられません」

「待っているのも辛いからね。君の選択を待っているよ」

 そうだ、私は選択をしなければならない。
 騎士を続けるために、この恋情を諦めて男として生きていくのか。
 再び女性へと戻って、素直な気持ちで生きていくか。

 彼が望んでいる選択は私にも分かっている。
 だけど、かつて踏みにじられた初恋が私の選択を踏みとどめた。

 はっきりとしない私達の関係、それを許してくれている彼に甘えながら……あと少しだけ考える時間を頂こう。
 ずるくて、優しい彼なら許してくれるはずだから。
 
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