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……。
「……!!」
「……ル!!」
声が聞こえ、ゆっくり目を開くと瞳に涙を浮かべているマルクが私を見下ろして叫んでいる。
彼は何事もなさそうだけど、私はそうはいかなかったようだ。
身体を動かそうとしても上手くいかず、ズキリと腹部に強烈な痛みが走る。
「リールっ!! 大丈夫か!?」
マルクの呼びかけに顔をしかめて首を横に振る。
腹部に手を当てるとジットリとした感触を感じ、手元を見ると鮮血が付着していた。
大量の金貨に爆破魔法が仕掛けられていたのだと分かるが、捕まえていた盗賊も亡くなっているのを見るに彼らの仕業ではない事が分かる。
であれば、別の誰かが大量の金貨に爆破魔法を仕掛けたのか?
「し、止血を……止血しないと、俺の、俺のせいだ」
今は状況を整理している場合ではないとマルクの反応を見て考え直す。
腹部の傷は深く、血はとめどなく流れ続けている。
青ざめたマルクは軽いパニックを起こしており、オロオロとして冷静な判断が出来そうにない。
当の私も声を出せる程の気力が残っておらず、徐々にかすれていく意識を繋ぎとめる事で手一杯だった。
怖い……初めて感じた恐怖。
死ぬのかな? と嫌な考えが頭の中を満たして身体が震える。
息が荒くて、苦しかった。
震えて止まらない手であったが、それを握って私の名を呼ぶ彼が来てくれた。
「リールっ!!」
珍しく汗を流し、いつもの笑顔ではないユリウス様が私の傍に駆け寄る。
動揺しつつも冷静に今の状況を確認していた。
「マルク、何があった?」
「お、俺が単独行動してしまって……それで、それで」
「落ち着け、何があったか、今はそれだけ教えてくれ。リールに何が起きた?」
マルクの両頬をバシリと両手で挟んだユリウス様は視線を合わせて問いかける。
落ち着きを取り戻しはじめたマルクは呼吸を整えて状況を説明した。
ユリウス様は黙ってマルクの話を聞き取る。
「なら、突如として大量の金貨が爆発したと……」
信じられない突飛な出来事ではあるが、目の前で起こった事実に受け入れざるを得ないだろう。
ユリウス様は私の腹部を抑えて血を止めようとするが、抑え布は真っ赤に染まっていく。
「ユリウス様……リールは、リールは」
マルクの震えた声にユリウス様は視線を向けて小さな声で返事をした。
「マルク、リールは必ず助ける。だからお前達は直ぐに王都へと帰還して団長に報告してくれ……あの人なら治せるはずだ」
「そんな!? 俺も残ります。俺をかばってリールはこんな怪我を!!」
「状況を理解しろ、私情を挟むな。応急手当の知識もないお前が残っても意味がない。捕縛した盗賊も多く、連行するにも人数がいる。他の騎士と共に直ぐに王都へ戻れ」
「でも……俺は」
「くどい、必ずリールは助かる。そのためにも今は従え!!」
いつも笑顔を手放さないユリウス様が初めて激昂して声を荒げる。
猶予を許さないこの状況で手をこまねくマルクへの一喝し、ようやく納得した彼は他の騎士達に連れられて王都へと早急に向かった。
「大丈夫……じゃないよね。リルレット」
呼ばれた私の名前、嬉しいのに視線を向けるしかできなかった。
「傷口を詳しく見る。少し痛むが耐えてくれ」
コクコクと頷くと、彼が安心させるためか髪を優しく撫でてくれる。
腹部の衣服をゆっくりと剥がされて、痛みに瞳を閉じて耐える。
爆破魔法によって地面が砕かれて破片に切り裂かれたのだろう、大きな傷が腹部に広がっていた。
「大丈夫だ。絶対に助ける」
視線を合わせ、焦らせないように笑ってくれる彼だけど。
自分の身体だから分かる。
未だに流れていく血、薄れていく意識と寒くなっていく身体は私の命が長くない事を知らせている。
「ユ……ユリウス様……」
かすれた声で呼びかけると、頬に手を触れて彼が見つめてくれる。
さっきまで死ぬのは怖かったのに、不思議と気持ちは落ち着いていた。
死ぬかもしれない……だからこそ言っておきたいのだ。
私の気持ちを伝えておきたかった。
「わ、私……ユリウス様の事が……」
言いかけた唇を彼の人差し指が止めた。
彼は笑顔のまま首を横に振って、諭すように落ち着いて囁く。
「その先はまだ早いよ。言っただろう? 絶対に助けると……補佐官として僕を信じて」
応急手当ができる程の医療品もなく、王都までも遠い。
流れている血液を見ても、助かるのは無理だと分かっているのに彼の言葉に酷く安心してしまう。
信じよう、ユリウス様が助けると言ってくれるのなら。
「安心して今は寝ておくといい。また気持ちが落ち着いたら続きを聞かせてよ」
ユリウス様は私の頬にそっとキスを落とす。
それを最後に、安心感から私はゆっくりと瞳を閉じる。
この状況で私を助ける方法なんて分からない、だけどユリウス様が絶対と言ってくれたなら大丈夫だ。
意識を手放していく最後に感じたのは、私を包み込むような冷たい感覚。
冷たくひんやりとした冷気が身体を包み込む。
それは、あの酒場で過ごした夜、水と共に入っていた氷のようであった。
「……!!」
「……ル!!」
声が聞こえ、ゆっくり目を開くと瞳に涙を浮かべているマルクが私を見下ろして叫んでいる。
彼は何事もなさそうだけど、私はそうはいかなかったようだ。
身体を動かそうとしても上手くいかず、ズキリと腹部に強烈な痛みが走る。
「リールっ!! 大丈夫か!?」
マルクの呼びかけに顔をしかめて首を横に振る。
腹部に手を当てるとジットリとした感触を感じ、手元を見ると鮮血が付着していた。
大量の金貨に爆破魔法が仕掛けられていたのだと分かるが、捕まえていた盗賊も亡くなっているのを見るに彼らの仕業ではない事が分かる。
であれば、別の誰かが大量の金貨に爆破魔法を仕掛けたのか?
「し、止血を……止血しないと、俺の、俺のせいだ」
今は状況を整理している場合ではないとマルクの反応を見て考え直す。
腹部の傷は深く、血はとめどなく流れ続けている。
青ざめたマルクは軽いパニックを起こしており、オロオロとして冷静な判断が出来そうにない。
当の私も声を出せる程の気力が残っておらず、徐々にかすれていく意識を繋ぎとめる事で手一杯だった。
怖い……初めて感じた恐怖。
死ぬのかな? と嫌な考えが頭の中を満たして身体が震える。
息が荒くて、苦しかった。
震えて止まらない手であったが、それを握って私の名を呼ぶ彼が来てくれた。
「リールっ!!」
珍しく汗を流し、いつもの笑顔ではないユリウス様が私の傍に駆け寄る。
動揺しつつも冷静に今の状況を確認していた。
「マルク、何があった?」
「お、俺が単独行動してしまって……それで、それで」
「落ち着け、何があったか、今はそれだけ教えてくれ。リールに何が起きた?」
マルクの両頬をバシリと両手で挟んだユリウス様は視線を合わせて問いかける。
落ち着きを取り戻しはじめたマルクは呼吸を整えて状況を説明した。
ユリウス様は黙ってマルクの話を聞き取る。
「なら、突如として大量の金貨が爆発したと……」
信じられない突飛な出来事ではあるが、目の前で起こった事実に受け入れざるを得ないだろう。
ユリウス様は私の腹部を抑えて血を止めようとするが、抑え布は真っ赤に染まっていく。
「ユリウス様……リールは、リールは」
マルクの震えた声にユリウス様は視線を向けて小さな声で返事をした。
「マルク、リールは必ず助ける。だからお前達は直ぐに王都へと帰還して団長に報告してくれ……あの人なら治せるはずだ」
「そんな!? 俺も残ります。俺をかばってリールはこんな怪我を!!」
「状況を理解しろ、私情を挟むな。応急手当の知識もないお前が残っても意味がない。捕縛した盗賊も多く、連行するにも人数がいる。他の騎士と共に直ぐに王都へ戻れ」
「でも……俺は」
「くどい、必ずリールは助かる。そのためにも今は従え!!」
いつも笑顔を手放さないユリウス様が初めて激昂して声を荒げる。
猶予を許さないこの状況で手をこまねくマルクへの一喝し、ようやく納得した彼は他の騎士達に連れられて王都へと早急に向かった。
「大丈夫……じゃないよね。リルレット」
呼ばれた私の名前、嬉しいのに視線を向けるしかできなかった。
「傷口を詳しく見る。少し痛むが耐えてくれ」
コクコクと頷くと、彼が安心させるためか髪を優しく撫でてくれる。
腹部の衣服をゆっくりと剥がされて、痛みに瞳を閉じて耐える。
爆破魔法によって地面が砕かれて破片に切り裂かれたのだろう、大きな傷が腹部に広がっていた。
「大丈夫だ。絶対に助ける」
視線を合わせ、焦らせないように笑ってくれる彼だけど。
自分の身体だから分かる。
未だに流れていく血、薄れていく意識と寒くなっていく身体は私の命が長くない事を知らせている。
「ユ……ユリウス様……」
かすれた声で呼びかけると、頬に手を触れて彼が見つめてくれる。
さっきまで死ぬのは怖かったのに、不思議と気持ちは落ち着いていた。
死ぬかもしれない……だからこそ言っておきたいのだ。
私の気持ちを伝えておきたかった。
「わ、私……ユリウス様の事が……」
言いかけた唇を彼の人差し指が止めた。
彼は笑顔のまま首を横に振って、諭すように落ち着いて囁く。
「その先はまだ早いよ。言っただろう? 絶対に助けると……補佐官として僕を信じて」
応急手当ができる程の医療品もなく、王都までも遠い。
流れている血液を見ても、助かるのは無理だと分かっているのに彼の言葉に酷く安心してしまう。
信じよう、ユリウス様が助けると言ってくれるのなら。
「安心して今は寝ておくといい。また気持ちが落ち着いたら続きを聞かせてよ」
ユリウス様は私の頬にそっとキスを落とす。
それを最後に、安心感から私はゆっくりと瞳を閉じる。
この状況で私を助ける方法なんて分からない、だけどユリウス様が絶対と言ってくれたなら大丈夫だ。
意識を手放していく最後に感じたのは、私を包み込むような冷たい感覚。
冷たくひんやりとした冷気が身体を包み込む。
それは、あの酒場で過ごした夜、水と共に入っていた氷のようであった。
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