【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか

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 ラインハルト王国の治安の悪化、その大きな原因としては他国に根城を持っていた盗賊団がこの国に集まってきているのが原因のようであった。

 理由は分からないが各国でも名の知れた盗賊団が続々と集まり、各地で被害を起こしている。
 原因究明のためにシュレイン様は視察中に盗賊団のアジトを一つ特定した。
 私達の仕事は彼らを捕縛してこの国にやって来た理由を聴取する事だ。

 シュレイン様にその依頼を任された私達であったが、ユリウス様は渋い表情をしていた。

「捕縛か……難しいね」

「そうなのですか?」

 珍しくシワを寄せるユリウス様に思わず尋ねる。

「組織を組む盗賊は仲間のために自害も辞さないからね」

「案外……義理に厚いのですね」

「荒くれ者達も恩ある者は守りたいのだろう。とりあえず人を集めて仕事にかかろう、人手不足で新人騎士に頼らざるを得ない、覚悟はある?」

 その問いに私は迷いもなく頷いた。

「騎士となるその日から、覚悟を決めています」

「……分かった。僕も腹を括るよ」

 笑った彼は「頼りにしているよ」と私の背中を叩いてくれる。
 騎士団の仲間として見てくれている視線に胸が熱くなりながら、「はい!」と胸を張って答えた。

   ◇◇◇

 数日後、編成を組み準備を整えて盗賊団のアジトへと向かう。
 重装騎士が五人、軽装騎士は私とユリウス様だけの二人。

 重装とは重い鎧を全身にまとい命を守るが、私の体力では動きにくく不便なだけだ。
 なので私は簡易的なプレートアーマーにガントレットで済ませている。
 ユリウス様も身軽さに重点を置いた装備。

 シュレイン団長が盗賊団のアジトと特定した場所は王都近郊の生い茂った森林であった。
 周辺に人が住んでいる場所ではないが、王都と各地を繋ぐ街道近くのこの場は盗賊団にとっては格好の狩場だ。

 明らかに人が出入りしたであろう草木を踏み分けた道が、森林の奥へと続いている。
 この森林には何も変わった所はない、なのに何故か心の中で嫌な予感が芽生える。

「ここからは警戒して、気を抜かずに進もう」

 ユリウス様の指示に私達は返事をして進んでいく。
 先頭に立つユリウス様、私は隊の後列で警戒する。

 私の前を歩いている重装騎士の足どりが遅い。
 前は颯爽と進んでいくため、私も慌てて歩くが前の重装騎士が手をかざして行く手を阻んだ。

「あの……行かせてくれませんか? 隊列から離れてしまいます」

「駄目だ、お前は俺の後ろだ」

 顔を包むヘルムで素顔は見えないが、聞き覚えのある声にため息を吐く。

「マルク……なんのつもりですか?」

 疑問の問いに彼はヘルムを外し、特徴的な赤髪をかきあげながら答える。

「お前には危険だ。俺の後ろにいろ、守ってやるよ」

「言っておくけど、打ち合いでは僕の方が勝ってるからね。心配は必要ない」

 それでも行く手を阻み続けるマルクに頭を悩ませる。

「俺は……心配なんだよ。お前は華奢で女々しいから怯えて動けなくなった時に守る奴が必要だろ?」

「マルク、僕は守ってもらうつもりなら剣など握っていません。馬鹿にしないでください」

「違う、俺は本当に心配して」

「必要ありません。先に行きますよ」

 サッと隣を抜けてマルクを追い越していく、それ以上は何も言ってこないために気にしないで足を進める。
 心配してくれるのはありがたい……でもそれは足手まといだと言われているようで癪に触った。
 
 確かに実戦は怖い……だけど誰も守れない騎士の方がもっと嫌だ。 

「静かに……この先にいる」

 先頭を進むユリウス様の声に私を含めた隊の全員が気を引き締め、剣の柄に手を掛ける。
 ドクドクと鼓動が早いなり、深呼吸して息を整える。
 茂みの奥では確かに人の笑い声が聞こえてきていた。

「最重要は頭領の捕縛だから逃さないようにね?」

 隊が頷きで返すと、ユリウス様は瞳を薄くしてニヤリと笑った。
 
「それじゃあ、先行でいかせてもらうよ」

 意地悪い笑み、彼が狡猾騎士と呼ばれる所以である戦い方が始まった。
 騎士として正々堂々は彼に似合わない。
 指先に魔力を宿らせて解き放った光は茂みの奥へと放たれ、眩い光を輝かせて盗賊達の目を潰す。

 その瞬間、私達が茂みから飛び出して次々と盗賊達を剣の柄で殴って気絶させていく。
 これはユリウス様の提案した作戦であり、苦労なく多数の盗賊が地に伏した。

 それでも目潰しが効かなかった者との交戦は残っている。
 しかし、日々ユリウス様の鍛錬を受けて打ち合いをこなしている私には彼らの剣はとても遅く、受け流しは容易だった。
 流した剣の柄をそのまま盗賊の顎へと叩き込む。

 大丈夫だ、戦えると確信した私は周囲を見渡す。
 ユリウス様を含む先輩騎士達は交戦をしていたが、目立つ赤髪のマルクが隊から離れて走っていくのだ。

 隊からの孤立はまずい。
 ユリウス様は気付いておらず、交戦は苛烈しているために伝える事ができない。

「––もう!!」

 せめて孤立でなく、二人一組であれば問題はない。
 私は場を去ったマルクを追いかけながら背中へ声をかける。

「マルク! 隊から離れてはいけません」

「うるせぇ! この先に一人逃げたのを見た。俺が捕らえる!」

 走るマルクを追いかけると、確かに必死に逃げている盗賊は盗品が入っていると思われる皮袋を握りしめていた。
 追いついたマルクは盗賊へと掴みかかり、馬乗りになって拳を叩きつけ気絶をさせる。
 その衝撃で盗品の皮袋が転がり、中身が広がった。

「どうだリール!! 俺だってやれる、大金星だろ」

「待って……マルク」

「なんだよ、俺がお前を守れるって証明してやって……」

「違う……袋を見てください、マルク」

「あ? っ!?」

 地面に散らばっていたのは無数の金貨だ。
 全てがこの国の通貨であり、とても盗品で集められるような数ではない。
 とてつもない金貨の量に言葉を失った私達へ更に不可解な現象が起こる。

 突如として目の前に広がった無数の金貨が青白く光り始めたのだ。

「なんだ? これ」

 マルクの疑問、私は答える事もなく走り出した。
 青白いこの光には見覚えがあった。
 かつて、王宮魔術師であったジェイソン様に見せてもらった爆破魔法だ。
 この青白い光の後に起こる事が頭をよぎる。

「危ない!!」

 マルクを突き飛ばしたと同時に光は最高潮を迎え、肌を焼く熱さと耳をつんざく轟音が森の中に鳴り響いた。
 その爆風に吹き飛ばされながら、私の意識は途絶えた。
  

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