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王宮に正騎士団が入るには許可が必要だ。
その理由は王宮内部を管轄する王宮騎士団が正騎士団の王宮への介入を嫌っているからだ。
よって、今の私は王宮へ入る許可の証である。青いスカーフを腕に巻いて王宮内を歩く。
加えて顔を隠すためにヘルムで目元を隠す事をユリウス様に念押しされて言われており、考え過ぎだと思ったが王宮を歩いていて納得した。
白銀の鎧の私を王家騎士団は睨み、忌々しそうに舌打ちしている。
元々から正騎士団と王家騎士団は仲が悪いとは聞いていたがここまでとは…。
当てつけのように正騎士団の白銀の甲冑とは真逆の漆黒の甲冑で統一し、歓迎されていないのだと分かる。
しかし、王家騎士団とは数が多くないのだろうか? 道中の見張りの数は少ないように思えた。
気にしつつも、何事もなくカラミナ妃の寝室へとたどり着く。
驚いた事にカラミナ妃の寝室周辺には護衛が誰もいない、私も妃候補として王宮に住んでいたがこんな事はありえなかった。
違和感を抱きつつ、寝室の扉をノックする。
「外に立っていて、妃候補の寝室に騎士が入れば問題となるから」
カラミナ妃の声に当然だと納得して扉の前に立つ。
石造りの王宮内の廊下は暗さもあってか不気味であり、燭台も少ないために妙な寒気があった。
「僕が扉の前に立っておきますので、安心してお眠りください」
「……それだけじゃ安心できないのよ。いい? この後に何が起きても私を助けると誓いなさい」
不審な程に念押ししてくる彼女はなにに怯えているだ、衰弱するほどの何かが起こるのだろうか?
なんにせよ私の役割は決まっている。
「カラミナ妃、安心してください。何があろうと必ず貴方をお守りします」
「その言葉、信じているわよ」
寝室の周囲には誰もいない、扉の前に立っている私だけだ。
やはり明らかにおかしい、妃候補の寝室に私しか護衛がいないこの状況は明らかにおかしい。
背筋に謎の寒気を感じ、剣の柄に手を当て警戒して周囲を見渡す。
時間が経ち、月の灯りが窓から差し込む夜更け、足音が少しずつこちらへと近づいてくるのが聞こえた。
「…………」
剣の柄に手を当て、足音へと視線を向ける。
やってきた人物に胸がドキリと音を立てた。
「……アルフレッド……殿下」
「誰だ、貴様は……人払いは済ませたはずだが?」
首を傾げたアルフレッドは私をチラリと見るが、興味がないのか直ぐに寝室の扉へと手をかけた。
ヘルムで目元を隠していて良かった……だが、扉に手をかけたアルフレッドは睨みを効かせて口を開く。
「カラミナに何を言われているか知らぬが、これは王家に関わる事……もし邪魔立てすれば首を斬る。お前はずっとそこで立っているか、何も言わずに去るか選ぶことだな」
「……」
無言で見つめる私へ彼は忌々しそうに舌打ちしてカラミナ妃の部屋へと入っていく。
アルフレッドは彼女を寵愛していた。
故にカラミナ妃も彼が来てくれたのなら怯える事はないだろうと思ったが、部屋から漏れ出てきた声は争うように激しく、悲鳴にも似ていた。
聞こうとせずとも内容が聞こえてくる。
「お願いです! アルフレッド様、お考えなおしください!」
「カラミナ、言っただろう? 君が子供を産めるか、身体の相性を確かめるためにも婚前交渉は当たり前だ。素直に受け入れろ」
「心の準備をさせてください。最近のアルフレッド様はおかしいです。婚前交渉も本来なら両者の合意が必要のはずなのに強引に決め––」
バシンと肌を叩く音が聞こえたと同時にカラミナ妃の悲鳴が聞こえてくる。
「止めてくださいアルフレッド殿下!! お願いします」
「ワガママに付き合う気はない。妃候補ならばいつでも俺を受け入れる準備をすべきであり、拒否権はない」
「お願いします。ん……やめ」
扉ごしに起こっている出来事に愕然とする。
私を見限ってカラミナ妃を寵愛していたアルフレッドが、何故か強引に婚前交渉を迫っているのだ。
嫌がる彼女に強引に行為を迫る、これは王家という立場を乱用した強姦のような行為だ。
私が好きだったアルフレッドはこんな事をする人ではなかったはず、あまりの変貌に言葉を失い、動けないでいたが会慌てて扉に手をかけ開いた。
入るなと言われたが……カラミナ妃と約束もした。
それに、ここで見ぬふりするには騎士ではない。
「アルフレッド殿下!! おやめください、カラミナ妃は望んでおられません」
叫ぶ私へ、涙で瞳を潤ませドレスのはだけたカラミナ妃は助けを求めるようにこちらを見つめてくる。
反対にアルフレッドは敵意をむき出して私へと詰め寄った。
「王家に関わる事だと伝えたはずだ。首を斬るともな……覚悟はいいのか?」
「そうであろうと女性の気持ちをないがしろにしていいはずがありません」
「黙っていろ。貴様は正騎士団だな? 身分と顔を明かせ、相応の処罰を騎士団へ与えてやろう」
「っ!?」
アルフレッドは私に詰め寄り、ヘルムへと手をかけた。
動揺してしまい、兜を脱がされて顔があらわとなってしまう。
慌てて口元を手で覆う、髪も切っているから大丈夫だと思ったがアルフレッドは私と視線を合わせて呆然としていた。
「貴様は……」
顔を見られてしまった、だけど一瞬だ。
彼は呆然としており、この隙を見逃しはしない。
私はアルフレッドへと手を向けた。
その理由は王宮内部を管轄する王宮騎士団が正騎士団の王宮への介入を嫌っているからだ。
よって、今の私は王宮へ入る許可の証である。青いスカーフを腕に巻いて王宮内を歩く。
加えて顔を隠すためにヘルムで目元を隠す事をユリウス様に念押しされて言われており、考え過ぎだと思ったが王宮を歩いていて納得した。
白銀の鎧の私を王家騎士団は睨み、忌々しそうに舌打ちしている。
元々から正騎士団と王家騎士団は仲が悪いとは聞いていたがここまでとは…。
当てつけのように正騎士団の白銀の甲冑とは真逆の漆黒の甲冑で統一し、歓迎されていないのだと分かる。
しかし、王家騎士団とは数が多くないのだろうか? 道中の見張りの数は少ないように思えた。
気にしつつも、何事もなくカラミナ妃の寝室へとたどり着く。
驚いた事にカラミナ妃の寝室周辺には護衛が誰もいない、私も妃候補として王宮に住んでいたがこんな事はありえなかった。
違和感を抱きつつ、寝室の扉をノックする。
「外に立っていて、妃候補の寝室に騎士が入れば問題となるから」
カラミナ妃の声に当然だと納得して扉の前に立つ。
石造りの王宮内の廊下は暗さもあってか不気味であり、燭台も少ないために妙な寒気があった。
「僕が扉の前に立っておきますので、安心してお眠りください」
「……それだけじゃ安心できないのよ。いい? この後に何が起きても私を助けると誓いなさい」
不審な程に念押ししてくる彼女はなにに怯えているだ、衰弱するほどの何かが起こるのだろうか?
なんにせよ私の役割は決まっている。
「カラミナ妃、安心してください。何があろうと必ず貴方をお守りします」
「その言葉、信じているわよ」
寝室の周囲には誰もいない、扉の前に立っている私だけだ。
やはり明らかにおかしい、妃候補の寝室に私しか護衛がいないこの状況は明らかにおかしい。
背筋に謎の寒気を感じ、剣の柄に手を当て警戒して周囲を見渡す。
時間が経ち、月の灯りが窓から差し込む夜更け、足音が少しずつこちらへと近づいてくるのが聞こえた。
「…………」
剣の柄に手を当て、足音へと視線を向ける。
やってきた人物に胸がドキリと音を立てた。
「……アルフレッド……殿下」
「誰だ、貴様は……人払いは済ませたはずだが?」
首を傾げたアルフレッドは私をチラリと見るが、興味がないのか直ぐに寝室の扉へと手をかけた。
ヘルムで目元を隠していて良かった……だが、扉に手をかけたアルフレッドは睨みを効かせて口を開く。
「カラミナに何を言われているか知らぬが、これは王家に関わる事……もし邪魔立てすれば首を斬る。お前はずっとそこで立っているか、何も言わずに去るか選ぶことだな」
「……」
無言で見つめる私へ彼は忌々しそうに舌打ちしてカラミナ妃の部屋へと入っていく。
アルフレッドは彼女を寵愛していた。
故にカラミナ妃も彼が来てくれたのなら怯える事はないだろうと思ったが、部屋から漏れ出てきた声は争うように激しく、悲鳴にも似ていた。
聞こうとせずとも内容が聞こえてくる。
「お願いです! アルフレッド様、お考えなおしください!」
「カラミナ、言っただろう? 君が子供を産めるか、身体の相性を確かめるためにも婚前交渉は当たり前だ。素直に受け入れろ」
「心の準備をさせてください。最近のアルフレッド様はおかしいです。婚前交渉も本来なら両者の合意が必要のはずなのに強引に決め––」
バシンと肌を叩く音が聞こえたと同時にカラミナ妃の悲鳴が聞こえてくる。
「止めてくださいアルフレッド殿下!! お願いします」
「ワガママに付き合う気はない。妃候補ならばいつでも俺を受け入れる準備をすべきであり、拒否権はない」
「お願いします。ん……やめ」
扉ごしに起こっている出来事に愕然とする。
私を見限ってカラミナ妃を寵愛していたアルフレッドが、何故か強引に婚前交渉を迫っているのだ。
嫌がる彼女に強引に行為を迫る、これは王家という立場を乱用した強姦のような行為だ。
私が好きだったアルフレッドはこんな事をする人ではなかったはず、あまりの変貌に言葉を失い、動けないでいたが会慌てて扉に手をかけ開いた。
入るなと言われたが……カラミナ妃と約束もした。
それに、ここで見ぬふりするには騎士ではない。
「アルフレッド殿下!! おやめください、カラミナ妃は望んでおられません」
叫ぶ私へ、涙で瞳を潤ませドレスのはだけたカラミナ妃は助けを求めるようにこちらを見つめてくる。
反対にアルフレッドは敵意をむき出して私へと詰め寄った。
「王家に関わる事だと伝えたはずだ。首を斬るともな……覚悟はいいのか?」
「そうであろうと女性の気持ちをないがしろにしていいはずがありません」
「黙っていろ。貴様は正騎士団だな? 身分と顔を明かせ、相応の処罰を騎士団へ与えてやろう」
「っ!?」
アルフレッドは私に詰め寄り、ヘルムへと手をかけた。
動揺してしまい、兜を脱がされて顔があらわとなってしまう。
慌てて口元を手で覆う、髪も切っているから大丈夫だと思ったがアルフレッドは私と視線を合わせて呆然としていた。
「貴様は……」
顔を見られてしまった、だけど一瞬だ。
彼は呆然としており、この隙を見逃しはしない。
私はアルフレッドへと手を向けた。
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