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三章
112話 進む二人②
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グレインが休暇をとり、リーシアを誘ったという話を聞いて……数日後。
私の元へとやって来たシルウィオは、珍しくお願いをしてきた。
「外に出かけるって、今からですか」
「あぁ、政務は終わらせた。問題ない……カティ」
突拍子のない願いに、考えが追いつかない。
シルウィオは普段はあまり帝国の城から出る事は少ない。
外にも興味を示さないので、よっぽどではないと外に出たりしない。
あるとしても、私や子供達が興味を示した所ぐらいだ。
それゆえに、彼からいきなり目的も告げずに出かけるなんて提案は初めてだ。
「どこに向かうの? シルウィオ」
「まだ、言えない。でも、二人でいきたい」
「……分かりました。私はシルウィオと一緒なら、どこでもいいですよ」
こうも素直に甘えられてしまうと、断る事などできはしない。
彼の銀色の髪を撫でると、嬉しそうに紅の瞳を細めてくれる……その姿は愛おしい。
「ありがとう。カティ」
そんなお礼を告げて、シルウィオは転移魔法を始める。
どこに向かうのか……期待をしつつ、私は彼に身を任せた。
転移魔法は慣れないもので、ふわっと身体が浮かぶ感覚を終えた途端。
パッと目の前の光景が変わっているのだから、不思議なものだ。
「……綺麗、ここって」
思わず呟きながら、周囲を見渡す。
その場所はアイゼン帝国内の有名な観光地で、見渡す限りの花畑が広がっている場所だ。
ぱっと見つめるだけの多種多様な花で地面が彩られている。
「向こうのタンポポは……グラナート王国の、とある地域から取り寄せているものだ」
「え?」
シルウィオが指さすのは、私が好きな花でもあるタンポポ畑だった。
自然に群生しているものよりも、より一層……綺麗な黄色の花が眩しい。
「カティと同じ、金色の花だな」
「ふふ、どちらかといえば黄色ですけど」
「グラナートに住む。ある人物がタンポポを育てている。腕が良くて、幸せに暮らしているようだ」
「そう、ですか。…………それなら良かった」
私は答えつつも、どうしてシルウィオがここに連れてきたのか考える。
そして、気付いた。
「あ……」
そうだ、グレインにここをオススメだと紹介したんだ。
リーシアと一緒に出掛けるなら、ここがいいって……
まさか……
「私がグレインに話した事を聞いて、一緒に見にきてくれたの」
「気まぐれだ」
「ふふ、こっちみて正直に言ってください」
「……カティのおすすめは、俺が先に行きたい」
相変わらず、素直ではない彼に頬笑みを漏らす。
そっと彼の肩に頭を預けながら、「ありがとう」と声をかけた。
「ん」と答えた彼の声色は、嬉しそうに跳ねている。
ここに来た目的も分かり、ゆっくりと過ごす。
夕刻になった頃、観光地といえど人通りも少なくなってきた。
そろそろ帰ろうかと、思った時だ。
「いや! やめて!」
叫び声が聞こえて、私とシルウィオは互いに顔を見合わせて歩き出す。
観光地から離れた、人通りのすくない林道から声が聞こえた。
声の元へと向かえば、貴族令嬢が乗っていると思わしき馬車に数人の男性が集っている。
男性達の手には、鋭利な短剣が握られる。
「貴族の嬢ちゃん、観光地に来るときはちゃんと護衛をたくさん連れてこないとなぁ」
「俺らみたいな野盗にとっちゃ、人の集まる所はいい稼ぎ場所なんだから」
「離して、離して!」
「そう騒ぐな、なにも殺しはしない」
「っ……」
「俺達だって、そう目立って死体を残しちゃ帝国の騎士に目をつけられる。だから……一切痕跡を残さず行方不明として他国に売るんだよ」
「あ……」
「その伝手も手に入れてな。あんたは始めての犠牲者だ。良かったなぁ」
帝国は他国に比べて経済も発展しているが、治安も良い。
それはひとえに、帝国内の騎士の練度や働きのおかげだ。
だが、全てに目を凝らす事は難しい。
ゆえにこうして新たな悪の種が金銭目的で集う事がある……とは聞いていたが。
「……行って来る」
「はい、頼みますね。シルウィオ」
よりによってシルウィオの前での蛮行に、彼が黙って居るはずがなかった。
今にも令嬢に手を伸ばして、身ぐるみを剥がそうとする野盗の元へと……シルウィオは悠然と歩く。
「おい、アレ……」
「ちっ! まだ人がいたのかよ。お前……あいつも脅して連れていくぞ、身なりは売れそうだ」
野盗の頭と思わしき人物が喋った途端。
彼の周りにいた部下が、一瞬で消える。
「……え?」
頭が周囲を見れば、野盗は彼を残して皆が地面に叩きつけられていた。
魔法により、一瞬で鎮圧されたのだ。
「お前には聞きたい事がある」
「な……え、あんた。誰で」
「シ、シルウィオ陛下……!?」
頭が戸惑っていた間際、襲われていた令嬢はシルウィオに気付いて平伏した。
そしてその名を聞いて最も焦ったのは当然……
「へ、陛下って……まさか……あんた」
「俺の国と知っての狼藉か」
「あ……あの」
「お前がさっき言っていた、他国への人身売買のルートを教えろ。根絶やしにする」
「…………い、言えるかよ。悪党だってプライドがある。そう簡単に言えるか、知りたきゃこちらの条件を––––」
言い終わる前に、頭の身体が吹き飛ぶ。
そして、あっさりと伸びた野盗たちを見ながら……シルウィオは襲われて服が破れていた令嬢に外套を被せて、呟く。
「お前の屋敷にある馬車と、縄を借りる」
「え……な、なにに使うのですか」
「この賊には自白してもらわないといけないからな」
あくまで無表情に、淡々と粛清をしたシルウィオは……
令嬢に告げながら、目当ての物品と馬車を借りた。
◇◇◇
「グレインが向かう前に、対処できて良かった」
「ふふ、なんだかんだ。グレインの恋路の成功を願っているんですね」
「……そうだな。あいつが、自分の意見を出す事はなかったから」
帰りの馬車の中、シルウィオは本音を吐露する。
色々理由はありそうだが、今日の外出はグレインがリーシアと向かう場所を下見していたのかもしれない。
そう思いながら、私は彼の手を握った。
「これであの場所に憂いはないですね。後は見守ってあげましょう」
「……あぁ」
お互いに指を絡めながら、頬笑み合う。
とてもいい雰囲気ではあるのだが……そうも言ってられない理由が実はある。
それは……
「た、たすけてください!」
「は、外してくれぇ!」
「言う! 何でも言うから!」
あの令嬢に借りた馬車、その後方に繋がれた野盗たちが引きずられているのだ。
悪事の元凶を吐かせるためのシルウィオの策は、見事成功したと言える。
とはいえ……
「着くまで外す気は無い。今はカティとの時間だ」
シルウィオはそう言って、野盗たちには一切の慈悲など与えなかった。
私の元へとやって来たシルウィオは、珍しくお願いをしてきた。
「外に出かけるって、今からですか」
「あぁ、政務は終わらせた。問題ない……カティ」
突拍子のない願いに、考えが追いつかない。
シルウィオは普段はあまり帝国の城から出る事は少ない。
外にも興味を示さないので、よっぽどではないと外に出たりしない。
あるとしても、私や子供達が興味を示した所ぐらいだ。
それゆえに、彼からいきなり目的も告げずに出かけるなんて提案は初めてだ。
「どこに向かうの? シルウィオ」
「まだ、言えない。でも、二人でいきたい」
「……分かりました。私はシルウィオと一緒なら、どこでもいいですよ」
こうも素直に甘えられてしまうと、断る事などできはしない。
彼の銀色の髪を撫でると、嬉しそうに紅の瞳を細めてくれる……その姿は愛おしい。
「ありがとう。カティ」
そんなお礼を告げて、シルウィオは転移魔法を始める。
どこに向かうのか……期待をしつつ、私は彼に身を任せた。
転移魔法は慣れないもので、ふわっと身体が浮かぶ感覚を終えた途端。
パッと目の前の光景が変わっているのだから、不思議なものだ。
「……綺麗、ここって」
思わず呟きながら、周囲を見渡す。
その場所はアイゼン帝国内の有名な観光地で、見渡す限りの花畑が広がっている場所だ。
ぱっと見つめるだけの多種多様な花で地面が彩られている。
「向こうのタンポポは……グラナート王国の、とある地域から取り寄せているものだ」
「え?」
シルウィオが指さすのは、私が好きな花でもあるタンポポ畑だった。
自然に群生しているものよりも、より一層……綺麗な黄色の花が眩しい。
「カティと同じ、金色の花だな」
「ふふ、どちらかといえば黄色ですけど」
「グラナートに住む。ある人物がタンポポを育てている。腕が良くて、幸せに暮らしているようだ」
「そう、ですか。…………それなら良かった」
私は答えつつも、どうしてシルウィオがここに連れてきたのか考える。
そして、気付いた。
「あ……」
そうだ、グレインにここをオススメだと紹介したんだ。
リーシアと一緒に出掛けるなら、ここがいいって……
まさか……
「私がグレインに話した事を聞いて、一緒に見にきてくれたの」
「気まぐれだ」
「ふふ、こっちみて正直に言ってください」
「……カティのおすすめは、俺が先に行きたい」
相変わらず、素直ではない彼に頬笑みを漏らす。
そっと彼の肩に頭を預けながら、「ありがとう」と声をかけた。
「ん」と答えた彼の声色は、嬉しそうに跳ねている。
ここに来た目的も分かり、ゆっくりと過ごす。
夕刻になった頃、観光地といえど人通りも少なくなってきた。
そろそろ帰ろうかと、思った時だ。
「いや! やめて!」
叫び声が聞こえて、私とシルウィオは互いに顔を見合わせて歩き出す。
観光地から離れた、人通りのすくない林道から声が聞こえた。
声の元へと向かえば、貴族令嬢が乗っていると思わしき馬車に数人の男性が集っている。
男性達の手には、鋭利な短剣が握られる。
「貴族の嬢ちゃん、観光地に来るときはちゃんと護衛をたくさん連れてこないとなぁ」
「俺らみたいな野盗にとっちゃ、人の集まる所はいい稼ぎ場所なんだから」
「離して、離して!」
「そう騒ぐな、なにも殺しはしない」
「っ……」
「俺達だって、そう目立って死体を残しちゃ帝国の騎士に目をつけられる。だから……一切痕跡を残さず行方不明として他国に売るんだよ」
「あ……」
「その伝手も手に入れてな。あんたは始めての犠牲者だ。良かったなぁ」
帝国は他国に比べて経済も発展しているが、治安も良い。
それはひとえに、帝国内の騎士の練度や働きのおかげだ。
だが、全てに目を凝らす事は難しい。
ゆえにこうして新たな悪の種が金銭目的で集う事がある……とは聞いていたが。
「……行って来る」
「はい、頼みますね。シルウィオ」
よりによってシルウィオの前での蛮行に、彼が黙って居るはずがなかった。
今にも令嬢に手を伸ばして、身ぐるみを剥がそうとする野盗の元へと……シルウィオは悠然と歩く。
「おい、アレ……」
「ちっ! まだ人がいたのかよ。お前……あいつも脅して連れていくぞ、身なりは売れそうだ」
野盗の頭と思わしき人物が喋った途端。
彼の周りにいた部下が、一瞬で消える。
「……え?」
頭が周囲を見れば、野盗は彼を残して皆が地面に叩きつけられていた。
魔法により、一瞬で鎮圧されたのだ。
「お前には聞きたい事がある」
「な……え、あんた。誰で」
「シ、シルウィオ陛下……!?」
頭が戸惑っていた間際、襲われていた令嬢はシルウィオに気付いて平伏した。
そしてその名を聞いて最も焦ったのは当然……
「へ、陛下って……まさか……あんた」
「俺の国と知っての狼藉か」
「あ……あの」
「お前がさっき言っていた、他国への人身売買のルートを教えろ。根絶やしにする」
「…………い、言えるかよ。悪党だってプライドがある。そう簡単に言えるか、知りたきゃこちらの条件を––––」
言い終わる前に、頭の身体が吹き飛ぶ。
そして、あっさりと伸びた野盗たちを見ながら……シルウィオは襲われて服が破れていた令嬢に外套を被せて、呟く。
「お前の屋敷にある馬車と、縄を借りる」
「え……な、なにに使うのですか」
「この賊には自白してもらわないといけないからな」
あくまで無表情に、淡々と粛清をしたシルウィオは……
令嬢に告げながら、目当ての物品と馬車を借りた。
◇◇◇
「グレインが向かう前に、対処できて良かった」
「ふふ、なんだかんだ。グレインの恋路の成功を願っているんですね」
「……そうだな。あいつが、自分の意見を出す事はなかったから」
帰りの馬車の中、シルウィオは本音を吐露する。
色々理由はありそうだが、今日の外出はグレインがリーシアと向かう場所を下見していたのかもしれない。
そう思いながら、私は彼の手を握った。
「これであの場所に憂いはないですね。後は見守ってあげましょう」
「……あぁ」
お互いに指を絡めながら、頬笑み合う。
とてもいい雰囲気ではあるのだが……そうも言ってられない理由が実はある。
それは……
「た、たすけてください!」
「は、外してくれぇ!」
「言う! 何でも言うから!」
あの令嬢に借りた馬車、その後方に繋がれた野盗たちが引きずられているのだ。
悪事の元凶を吐かせるためのシルウィオの策は、見事成功したと言える。
とはいえ……
「着くまで外す気は無い。今はカティとの時間だ」
シルウィオはそう言って、野盗たちには一切の慈悲など与えなかった。
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