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皇帝陛下の愛し方
82話
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その一報は、カルセインの王家に激震を走らせた。
「ア、アイゼン帝国の皇帝が我が国へ来訪しただと?」
「は、はい! シルウィオ帝は、現在王城へ向かっております」
「なんと……」
カルセイン現国王は今年で齢六十になる。
経験豊富で冷静沈着、今までどのような出来事であっても動揺を見せずに対応してきた国王だが。その報告には初めて焦りの表情を見せた。
なにせ、何十年も直接的な交流がなかった帝国との会合になるのだ。
強国とされた二国はかつては対立した歴史もある。停戦条約が結ばれているが、決して交友が深い訳ではない。
加えて、列国の脅威にすらなり得る皇帝の来訪。
一国の精鋭隊すらも単騎で制圧した報告もあり、機嫌を損ねればカルセインも無事では済まない。
最悪、世界が傾く大戦すら起こりうる。
「すぐに出迎えの準備を。儂の礼装を用意せよ!」
「承知いたしました!!」
王宮はすぐさまに皇帝を出迎える準備を始めるが、一人の男性がその動きを止めた。
「父上……よろしいでしょうか」
「シュルク? どうしたのだ、お前も直ぐに皇帝を迎える準備を……」
「シルウィオ帝は、どうやら僕に用があるようです」
「は? なにを」
問われた言葉に、シュルクは一通の手紙を取り出す。
それは早朝、帝国からやって来た伝書鳩に括られた手紙であり、差出人はカーティア皇后からであった。
(感謝いたしますカーティア皇后。貴方のおかげ動揺せずに済んだ)
手紙の内容は、帝国の姫君リルレットが自分へ抱く、憧れに似た好意。
それを知った皇帝が、カルセインへ向かっている可能性があるというものだった。
父親として娘を溺愛する皇帝は、怒りに似た激情を抱く可能性もあり得る。
娘を愛する父は、時に暴走する事をシュルクは知っていた。
だからこそ、最悪の回避のため対応は自分だけでいいと考えたのだ。
「僕一人で対応します。父上」
シュルクはある意味で死地に赴くような心持ちではあったが、ただ待つだけで済ます訳にはいかない。
万全の準備を整え、皇帝と会う。
決して……悲惨な事が起きぬよう。
◇◇◇
午後。
カルセイン王城へと皇帝シルウィオは正式な手続きを経て入城した。
やはり、名指しでシュルクとの謁見を希望して。
若干の緊張を抑えるために深呼吸をしつつ、シュルクは玉座の間で一人待つ。
思えば、カーティア皇后の居ない場で会うのは初めてであり。
唯一、皇帝を止められる皇后が不在な事に不安が募る。
(大丈夫、準備は万端だ)
落ち着きを取り戻した時。
玉座の間の大扉が開かれ、漆黒の礼服をまとう皇帝シルウィオが入って来る。
公卿ジェラルドも隣に付き添っており、両者の眼光は震えるほどに鋭い。
皇帝の瞳は相変わらず凍てつくように冷たく。その無表情の心理は読み取れない。
「ようこそ、シルウィオ帝。お久しぶりです」
「話がある」
「はい、もちろんお聞きしますよ」
皇帝の言葉を冷静に返しつつも、深層心理では焦りを抱くシュルクは皇帝の言葉を聞く間もなく、口を開いた。
「その前に、実は皇帝へこちらからもお聞かせしたい事があります」
そう言って、シュルクはとある物を懐から取り出した。
それは最近帝国で開発された撮影機。
カルセインへ取り寄せていた実物を皇帝へと見せる。
「それがどうした?」
「実はこちらを開発した者と共同し、カルセインは新たな撮影機を開発したいと思っているのです」
「新たな……?」
「固定した時間を保存するのではなく、実際に動く時間を保存したいと思いませんか?」
「うご……く」
後に映像と呼ばれる技術。
それを保存する事が可能な機械の開発をシュルクが表明したのは、もちろん国益がある事を想定しての事だが。
一番の理由は家族を大事にする皇帝の激情を消すことが出来る提案だと確信を持っていたからだ。
「家族との時間。幼い子供達が動く姿を保存して見返すことが出来る。良いと思いませんか?」
「良い」
(即答……)
声色が明るくなり、ほのかに頬を緩めて喜々とした雰囲気となった皇帝。
シュルクは初めて見る皇帝の姿に、改めて思う。
(報告通り。本当に、家族を大事にしているようだ)
なんにせよ。
これだけ喜んでくれているなら大丈夫だろうとシュルクは心を安らげる。
娘を想うが故の溜飲は下がったと見切りをつけ、改めて尋ねた。
「それで、シルウィオ帝のお話とは?」
気楽な気持ちで尋ねた言葉。
しかし、柔らかかった雰囲気が一転して張り詰めたのをシュルクは感じ取った。
ほのかに上がっていた頬は元通り無表情になり、冷たい瞳孔が自分を射貫く。
早まったと、シュルクは考えを改めた。
(まずい……まさか、まだ激情を宿して……)
「お前には、言っておく必要がある。リルとの事についてだ」
(娘が特別な感情を抱いた僕を……遠ざけ……最悪、排除を……?)
最悪の想定を浮かべたシュルクへ。
皇帝は冷たい瞳孔で見つめながら、淡々と言葉を続けた。
「リルのため、死ぬな」
「………………え?」
「聞こえなかったか? 死ぬ事は許さん、何があってもだ」
予想すらしていなかった言葉に、呆気にとられるシュルクを置いて。
傍に控えていた公卿ジェラルドが手に持っていたトランクから分厚い本を幾つも取り出して手渡してくる。
「え……あの。これは……?」
「帝国が保有する医学をまとめた書物だ。お前にくれてやる」
帝国の医学をまとめた書物?
それはカルセイン国での魔法学に匹敵する知識であり、帝国の知的財産。
本来ならば多くの引き換えと共に提供される蔵書をあっさりと手渡す皇帝の心境が、シュルク読めなかった。
「し、失礼ながら。どうして?」
「お前の身はリルのおかげで危機を脱した、しかしまだ危うい状況は変わらないはずだ」
「そ……それはそうですが……」
「どうでもいいと思っていたが。お前が死ねば、リルが悲しむのなら話は変わる。大切に想う人間を助けられない経験は娘の深い傷となるだろう。だから……お前が死ぬ事は許さん」
「……それは」
「リルが悲しむ結果にならぬよう、技術も知識も人も提供してやる。帝国の威信にかけ、お前を救うために尽力しよう」
シュルクは……今までの不安や恐怖が、勘違いであった事を確信した。
皇帝はただ、姫君が悲しむ結果を避けるために行動していたのだ。
調査報告書通り、行動は全て……家族のため。
「もちろん。リルを嫁にはやらん。今は俺だけのリルだ」
「そ、それはそうですよね……僕は歳が離れてますし」
「だが、手紙を返すのは誰よりも最優先にしろ。リルが喜ぶ」
「は、はい!」
「それと、リルの好物はイチゴだ。カルセイン産の物を送ってやれ」
「も、もちろん!」
「それと、テアの好物のバナナもだ。多めにな、テアはいっぱい食べる」
皇帝の要望に、シュルクは思わず頬笑みをこぼした。
恐怖していたのが、間違いであったと気付いたからだ。
(どうやら、想像以上に……皇帝は優しい父親みたいだ)
その後、急な来訪は一刻も早く医学書を届けたかったからなのだと公卿ジェラルドが伝えた。
正式な来訪の手続きをすれば数か月かかる。
その間に容態が急変する事を恐れ、急な来訪となった事を詫びられればシュルクも許す以外の答えは無い。
さらに驚いた事に、皇帝シルウィオは魅力的な提案もシュルクへ伝えてきた。
現在建て直しを進めているグラナート国だが、未だに辺境は不安定な状態。
聞けば奴隷商などの標的となっているらしい。
そこへ、アイゼン帝国とカルセイン王国の共同作戦で治安維持を図ろうというのだ。
長らく交流のなかった二国。
この共同作戦を機に両国間が親交を深めていけば、両国の国民も抵抗なく受け入れることが出来るだろう。
さらに両国の中間に位置するグラナート国を建て直し、貿易路が普及すれば連鎖的に多大な利益を生み出す。
そこまで見据えた皇帝の提案に、シュルクは舌を巻く。
(そうか……聡明なのは当たり前だ。皇帝シルウィオは……長らく続いたアイゼン帝国の貴族内乱を、たった一代で収めたのだから)
忘れていた。
皇帝シルウィオは、武力だけでなく底の見えぬ思考を持っている事を。
改めて、今世では交友関係を築けたことをシュルクは喜んだ。
話を終えて早々、皇帝は帰りの準備を始めた。
それをシュルクは呼び止める。
「シルウィオ帝。せめて王城で一晩過ごされては?」
「いや、そんな時間はない。テアのお土産にカルセイン王都のおもちゃを全種類買って帰る必要があるからな」
「そうですな。早急に王都の商店を回りましょう!」
皇帝と公卿のやり取りに、呆然としてしまう。
そんなシュルクへ、皇帝は思い出したように口を開いた。
「それと、カルセイン国で人気な遊具を調べ、作り方を送れ」
「え……それはまたどうして」
尋ねた言葉に、皇帝はポツリと呟いた。
「リルとテアのため、各国の遊具を集めた公園を作る。きっとカティも喜んでくれるはずだ」
家族が喜ぶ姿を想像してか、頬を緩める皇帝の姿に改めて家族へ向ける想いの強さを感じ。
シュルクは笑みを漏らした。
「分かりました。カルセインの威信にかけ、とびきりの遊具をお送りしますね」
「期待している。……またリルに会いに来い、喜ぶだろう」
「はい。生きて、元気な姿を見せにいきますね」
「あぁ」
去っていく皇帝に、シュルクは王家としては異例だが……
頭を下げ、彼を見送った。
◇◇◇
その後、カルセインは帝国との交流のキッカケとなった事を喜び。
現王や貴族達がシュルクを賞賛した
祝会が終わった夜、帝国の医学書を読んでいれば。
侍女がシュルクの元へとやって来た。
「あの……シュルク様」
「どうした?」
「実は、帝国の伝書鳩が落としたらしき文が庭園に落ちていたのです」
「文が?」
伝書鳩の足に文を結ぶ関係上、大きな紙が使えない。
そのためにカーティア皇后が送っていた手紙は二通あり、残りの一通が庭に落ちていたというのだ。
シュルクは早速、内容を確認した。
ーーーー
ーシュルク様ー
シルウィオはきっと、貴方の心配をして向かっているのだと思います。
なので、どうか恐れないであげてください。
シルウィオは、家族を愛してくれて。
家族が大事に想う人も、大切にしてくれますから。
ーーーー
その手紙を読み、シュルクは微笑む。
底知れぬと思っていた皇帝の考えを知るのは、きっとカーティア皇后だけなのだと知ったから。
「ア、アイゼン帝国の皇帝が我が国へ来訪しただと?」
「は、はい! シルウィオ帝は、現在王城へ向かっております」
「なんと……」
カルセイン現国王は今年で齢六十になる。
経験豊富で冷静沈着、今までどのような出来事であっても動揺を見せずに対応してきた国王だが。その報告には初めて焦りの表情を見せた。
なにせ、何十年も直接的な交流がなかった帝国との会合になるのだ。
強国とされた二国はかつては対立した歴史もある。停戦条約が結ばれているが、決して交友が深い訳ではない。
加えて、列国の脅威にすらなり得る皇帝の来訪。
一国の精鋭隊すらも単騎で制圧した報告もあり、機嫌を損ねればカルセインも無事では済まない。
最悪、世界が傾く大戦すら起こりうる。
「すぐに出迎えの準備を。儂の礼装を用意せよ!」
「承知いたしました!!」
王宮はすぐさまに皇帝を出迎える準備を始めるが、一人の男性がその動きを止めた。
「父上……よろしいでしょうか」
「シュルク? どうしたのだ、お前も直ぐに皇帝を迎える準備を……」
「シルウィオ帝は、どうやら僕に用があるようです」
「は? なにを」
問われた言葉に、シュルクは一通の手紙を取り出す。
それは早朝、帝国からやって来た伝書鳩に括られた手紙であり、差出人はカーティア皇后からであった。
(感謝いたしますカーティア皇后。貴方のおかげ動揺せずに済んだ)
手紙の内容は、帝国の姫君リルレットが自分へ抱く、憧れに似た好意。
それを知った皇帝が、カルセインへ向かっている可能性があるというものだった。
父親として娘を溺愛する皇帝は、怒りに似た激情を抱く可能性もあり得る。
娘を愛する父は、時に暴走する事をシュルクは知っていた。
だからこそ、最悪の回避のため対応は自分だけでいいと考えたのだ。
「僕一人で対応します。父上」
シュルクはある意味で死地に赴くような心持ちではあったが、ただ待つだけで済ます訳にはいかない。
万全の準備を整え、皇帝と会う。
決して……悲惨な事が起きぬよう。
◇◇◇
午後。
カルセイン王城へと皇帝シルウィオは正式な手続きを経て入城した。
やはり、名指しでシュルクとの謁見を希望して。
若干の緊張を抑えるために深呼吸をしつつ、シュルクは玉座の間で一人待つ。
思えば、カーティア皇后の居ない場で会うのは初めてであり。
唯一、皇帝を止められる皇后が不在な事に不安が募る。
(大丈夫、準備は万端だ)
落ち着きを取り戻した時。
玉座の間の大扉が開かれ、漆黒の礼服をまとう皇帝シルウィオが入って来る。
公卿ジェラルドも隣に付き添っており、両者の眼光は震えるほどに鋭い。
皇帝の瞳は相変わらず凍てつくように冷たく。その無表情の心理は読み取れない。
「ようこそ、シルウィオ帝。お久しぶりです」
「話がある」
「はい、もちろんお聞きしますよ」
皇帝の言葉を冷静に返しつつも、深層心理では焦りを抱くシュルクは皇帝の言葉を聞く間もなく、口を開いた。
「その前に、実は皇帝へこちらからもお聞かせしたい事があります」
そう言って、シュルクはとある物を懐から取り出した。
それは最近帝国で開発された撮影機。
カルセインへ取り寄せていた実物を皇帝へと見せる。
「それがどうした?」
「実はこちらを開発した者と共同し、カルセインは新たな撮影機を開発したいと思っているのです」
「新たな……?」
「固定した時間を保存するのではなく、実際に動く時間を保存したいと思いませんか?」
「うご……く」
後に映像と呼ばれる技術。
それを保存する事が可能な機械の開発をシュルクが表明したのは、もちろん国益がある事を想定しての事だが。
一番の理由は家族を大事にする皇帝の激情を消すことが出来る提案だと確信を持っていたからだ。
「家族との時間。幼い子供達が動く姿を保存して見返すことが出来る。良いと思いませんか?」
「良い」
(即答……)
声色が明るくなり、ほのかに頬を緩めて喜々とした雰囲気となった皇帝。
シュルクは初めて見る皇帝の姿に、改めて思う。
(報告通り。本当に、家族を大事にしているようだ)
なんにせよ。
これだけ喜んでくれているなら大丈夫だろうとシュルクは心を安らげる。
娘を想うが故の溜飲は下がったと見切りをつけ、改めて尋ねた。
「それで、シルウィオ帝のお話とは?」
気楽な気持ちで尋ねた言葉。
しかし、柔らかかった雰囲気が一転して張り詰めたのをシュルクは感じ取った。
ほのかに上がっていた頬は元通り無表情になり、冷たい瞳孔が自分を射貫く。
早まったと、シュルクは考えを改めた。
(まずい……まさか、まだ激情を宿して……)
「お前には、言っておく必要がある。リルとの事についてだ」
(娘が特別な感情を抱いた僕を……遠ざけ……最悪、排除を……?)
最悪の想定を浮かべたシュルクへ。
皇帝は冷たい瞳孔で見つめながら、淡々と言葉を続けた。
「リルのため、死ぬな」
「………………え?」
「聞こえなかったか? 死ぬ事は許さん、何があってもだ」
予想すらしていなかった言葉に、呆気にとられるシュルクを置いて。
傍に控えていた公卿ジェラルドが手に持っていたトランクから分厚い本を幾つも取り出して手渡してくる。
「え……あの。これは……?」
「帝国が保有する医学をまとめた書物だ。お前にくれてやる」
帝国の医学をまとめた書物?
それはカルセイン国での魔法学に匹敵する知識であり、帝国の知的財産。
本来ならば多くの引き換えと共に提供される蔵書をあっさりと手渡す皇帝の心境が、シュルク読めなかった。
「し、失礼ながら。どうして?」
「お前の身はリルのおかげで危機を脱した、しかしまだ危うい状況は変わらないはずだ」
「そ……それはそうですが……」
「どうでもいいと思っていたが。お前が死ねば、リルが悲しむのなら話は変わる。大切に想う人間を助けられない経験は娘の深い傷となるだろう。だから……お前が死ぬ事は許さん」
「……それは」
「リルが悲しむ結果にならぬよう、技術も知識も人も提供してやる。帝国の威信にかけ、お前を救うために尽力しよう」
シュルクは……今までの不安や恐怖が、勘違いであった事を確信した。
皇帝はただ、姫君が悲しむ結果を避けるために行動していたのだ。
調査報告書通り、行動は全て……家族のため。
「もちろん。リルを嫁にはやらん。今は俺だけのリルだ」
「そ、それはそうですよね……僕は歳が離れてますし」
「だが、手紙を返すのは誰よりも最優先にしろ。リルが喜ぶ」
「は、はい!」
「それと、リルの好物はイチゴだ。カルセイン産の物を送ってやれ」
「も、もちろん!」
「それと、テアの好物のバナナもだ。多めにな、テアはいっぱい食べる」
皇帝の要望に、シュルクは思わず頬笑みをこぼした。
恐怖していたのが、間違いであったと気付いたからだ。
(どうやら、想像以上に……皇帝は優しい父親みたいだ)
その後、急な来訪は一刻も早く医学書を届けたかったからなのだと公卿ジェラルドが伝えた。
正式な来訪の手続きをすれば数か月かかる。
その間に容態が急変する事を恐れ、急な来訪となった事を詫びられればシュルクも許す以外の答えは無い。
さらに驚いた事に、皇帝シルウィオは魅力的な提案もシュルクへ伝えてきた。
現在建て直しを進めているグラナート国だが、未だに辺境は不安定な状態。
聞けば奴隷商などの標的となっているらしい。
そこへ、アイゼン帝国とカルセイン王国の共同作戦で治安維持を図ろうというのだ。
長らく交流のなかった二国。
この共同作戦を機に両国間が親交を深めていけば、両国の国民も抵抗なく受け入れることが出来るだろう。
さらに両国の中間に位置するグラナート国を建て直し、貿易路が普及すれば連鎖的に多大な利益を生み出す。
そこまで見据えた皇帝の提案に、シュルクは舌を巻く。
(そうか……聡明なのは当たり前だ。皇帝シルウィオは……長らく続いたアイゼン帝国の貴族内乱を、たった一代で収めたのだから)
忘れていた。
皇帝シルウィオは、武力だけでなく底の見えぬ思考を持っている事を。
改めて、今世では交友関係を築けたことをシュルクは喜んだ。
話を終えて早々、皇帝は帰りの準備を始めた。
それをシュルクは呼び止める。
「シルウィオ帝。せめて王城で一晩過ごされては?」
「いや、そんな時間はない。テアのお土産にカルセイン王都のおもちゃを全種類買って帰る必要があるからな」
「そうですな。早急に王都の商店を回りましょう!」
皇帝と公卿のやり取りに、呆然としてしまう。
そんなシュルクへ、皇帝は思い出したように口を開いた。
「それと、カルセイン国で人気な遊具を調べ、作り方を送れ」
「え……それはまたどうして」
尋ねた言葉に、皇帝はポツリと呟いた。
「リルとテアのため、各国の遊具を集めた公園を作る。きっとカティも喜んでくれるはずだ」
家族が喜ぶ姿を想像してか、頬を緩める皇帝の姿に改めて家族へ向ける想いの強さを感じ。
シュルクは笑みを漏らした。
「分かりました。カルセインの威信にかけ、とびきりの遊具をお送りしますね」
「期待している。……またリルに会いに来い、喜ぶだろう」
「はい。生きて、元気な姿を見せにいきますね」
「あぁ」
去っていく皇帝に、シュルクは王家としては異例だが……
頭を下げ、彼を見送った。
◇◇◇
その後、カルセインは帝国との交流のキッカケとなった事を喜び。
現王や貴族達がシュルクを賞賛した
祝会が終わった夜、帝国の医学書を読んでいれば。
侍女がシュルクの元へとやって来た。
「あの……シュルク様」
「どうした?」
「実は、帝国の伝書鳩が落としたらしき文が庭園に落ちていたのです」
「文が?」
伝書鳩の足に文を結ぶ関係上、大きな紙が使えない。
そのためにカーティア皇后が送っていた手紙は二通あり、残りの一通が庭に落ちていたというのだ。
シュルクは早速、内容を確認した。
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ーシュルク様ー
シルウィオはきっと、貴方の心配をして向かっているのだと思います。
なので、どうか恐れないであげてください。
シルウィオは、家族を愛してくれて。
家族が大事に想う人も、大切にしてくれますから。
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その手紙を読み、シュルクは微笑む。
底知れぬと思っていた皇帝の考えを知るのは、きっとカーティア皇后だけなのだと知ったから。
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