死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

文字の大きさ
上 下
61 / 111
二章

74話・二章最終話

しおりを挟む
 
 二年半後。
 ––––アイゼン帝国



「コケーー!! コケコッコ!」
「コココ」「ピヨ、ピヨ」

 コッコちゃんとその家族達は、庭園で育った形見の木に挨拶するように駆けまわっている。
 見慣れた光景に微笑みながら、私は抱っこする子へと囁いた。

「ほら、見てごらんテア。コッコちゃん達が遊んでるよ」

「こーお? あおんでる?」

 腕に抱くのは、私とシルウィオの息子––テアだ。
 シルウィオ譲りの綺麗な銀髪に、きらりと輝く紅の瞳。
 彼によく似ており、シルウィオを幼くすればきっとテアのようになるだろう。
 二歳となったばかりのテアは、甘えん坊で私に抱きついて離れない。

「おかさま! おししょーにお手紙書いたの! 文字が間違ってないかみーてー!」

「いいよ、リルレット。見せてごらん」

 机を挟み、私の対面に座っていたリルレットは手紙を見せてくる。
 シュルク殿下に宛てたお手紙は何やら難解な事が書いており、内容は全く理解できない。
 私ができるのは、せいぜい誤字脱字がないかの確認ぐらいだ。

 五歳となったリルレットは今や帝国の魔術師すら驚くほどの魔法知識を持っていた。
 その卓越した魔法技術と知識で……特に難しいとされる癒しの魔法まで使えるようになっており。今はシュルク殿下のために新たな癒しの魔法を編み出す実験を繰り返しているらしい。
 シュルク殿下と交わす手紙の内容を見れば、実験は成功しているのか少しずつ彼の容体が回復に向かっているらしく、リルレットが編み出す魔法はきっと彼を救って、さらに多くの人を救っていくだろう。

「うん、誤字はないよ。リルレット……よく書けてる」

「ありがと……おかさま……あの、その」

「ん?」

 もじもじと、私に抱かれているテアを見てリルレットはなにか言いたげだった。
 その視線から、考えを察して手を伸ばす。

「おいで、リルレット」

「っ!! いいの? りる、もうねぇねなのに」

「気にしないでいいのよ。いっぱいお母さんに甘えなさい」

「––––やた!」

 落とさぬようにテアを片手で抱きながら、甘えて抱きついてくるリルレットを抱きしめる。
 寂しい思いをさせないように頭を撫でるとリルレットは嬉しそうに「大好き! おかさま」と呟いた。
 皆からは天才だと言われているけれど、私からすれば赤ん坊から変わらない。可愛らしい娘だ。

「あーーう。おかたん。てあも~」

「ふふ、はいはい。テアもなでなでするね~」

「あーーう! てあもおかたん、なでなですゆ~」

「あ! りるもするの!」

 取り合いするように私に抱きついて頭に手を伸ばす二人に笑っていると、シルウィオと共にグレインやジェラルド様が庭園にやって来た。
 政務が終わったのだろう。

「あ! じぃじ! おとさま! おししょに送るお手紙をね、確認してほしいの!」

「はい。じぃが読みますよ姫様」

「まて、ジェラルド……奴に送る手紙はまず俺が確認する。リル、俺に渡せ」

 私の腕からリルレットが駆けだしていけば、釣られるようにテアもよちよちと歩き出してグレインの元へと向かう。

「あうぅーぐーう。おうまさんしてー」

「はい、テア様。どうぞお乗りください! 俺……かなり早くなりましたからね」

「ぐーう、きたいしてゆぞ」

「おまかせを!」

 グレインはリルレットの時と同様にお馬さんになって、テアを乗せてくれる。
 もはや慣れたもので、リルレットの時よりも流暢にお馬さんごっこをしてくれているようだ。

「コケ!」

「あら、コッコちゃん」

 その光景を見つめていれば、私の膝上にコッコちゃんが乗ってきた。
 空くのを待っていたのだろうか。
 ふわふわとした羽毛を撫でれば、コッコちゃんは心地よさそうに目を細める。

「私達が庭園に住み始めた頃から、お互いにすっかり大所帯だね。コッコちゃん」

「コケ!」

「幸せだな。私……」

 グラナートを飛び出して、全てを捨ててやって来た帝国。
 ただ気ままに暮らせていけばいいと思っていれば、今やシルウィオや家族がいて。
 グレインやジェラルド様が支えてくれている。

 充分過ぎる幸せだ。

「コーーケ!」

 感傷に浸り目を閉じていた私だったけど、コッコちゃんの鳴き声にふと目を開く。
 するとシルウィオが目の前にいて、私を見つめていた。
 コッコちゃんは気を遣ったのか、私の膝から下りて家族の元へと向かう。

「カティ……こっちを見ろ」

「え……? んっ」

 見つめ合えば、彼は唇を重ね合わせてくれる。
 首筋をなぞるような手に、思わず身が動いてしまった。

「シルウィオ……」

「今日は、政務を頑張ったからカティをずっと抱きしめていたい」

「それは、ちょっと恥ずかしいから。だめ」

「誰も見ていない」

 言われて見渡せば、グレインがテアのお馬さんになってくれており。
 リルレットはジェラルド様に手紙の送り方について話し合っている。

 その隙を見てなのか、彼は私を抱き上げて膝にのせてくる。

「シル……?」

「暫くこのままがいい。カティ、駄目か?」

「……ふふ。分かりました、いいですよ」

 了承を返すと、甘えたように強く抱きしめてくる。
 久しぶりの彼の好意は、きっと最近政務が忙しくてあまり会えていなかったからだろう。
 寂しさを感じるとすぐにこうなるのは昔から変わらない。

「ふふ、変わらないシルウィオが好きですよ」

「俺は……皇帝など辞めて可愛いカティ達とずっと一緒がいい。……いっそどこかに逃げるか」

「それは駄目!」
 
 二人でそんな会話を交わしていれば、二つの影が私達の影と重なり合った。

「おとさま! おかさまひとりじめだめ! リルもまだ抱っこしてもらうもん!」
「てあも! おかたんにぎゅってしてもらゆ~」
「まて、リル、テア。……順番だ、まずは俺からだ」

「ふ……ふふ。もう、何言ってるの。皆」

 私を巡って、そんな会話を重ねる家族の姿に自然と笑いがこみ上げてくる。
 冷遇されて孤独だったあの頃とは違う、新たな人生と最愛の人。

 そして……最愛の家族達との幸せな時間。

 手放さぬよう、大事にしていこう。

 今も、これからも……
 私の幸せは、手の届く家族がくれる。


 これからも、ずっと。
 ずっと……私は幸せのために生きていくから。

   





   ◇◇◇◇◇◇





 ここまで読んでくださった方々へ、
 ありがとうございます。
 
 後日談の予定が、二章に変更する程に長くなった今作。
 二章はシルウィオの母親の本心についてや、グラナートの人たちが幸せになるお話を書きたいと思ってギルク達を登場させました。
 再登場については批判覚悟だったのですが、思った以上に皆様に受け入れて頂き嬉しかったです。
 
 おかげで、彼らの再起までを書く事が出来ました!
 これも全ては、毎日しおりを挟んでくれたり……ご感想をくださったり、エールで応援してくださったり。
 読んで下さった、皆さまのおかげです!
 
 二章の完結とは言いましたが、投稿頻度を毎日から変更するだけで物語は続けていきます!

 これからも、好き勝手書いてきた二章以上に明るいカーティア達を自由に書いていこうと思っております。( ̄▽ ̄)
 家族が増えたカーティア達の幸せを引き続きお届けしていきますので、良ければ読んでくださると嬉しいです。

 長くなってしまいましたが、改めてここまで読んでくださった皆様。
 本当に、本当に……ありがとうございました!!
 
 皆さまに喜んでいただけるようなお知らせができるよう、これからも頑張ってまいります!


しおりを挟む
感想 994

あなたにおすすめの小説

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】潔く私を忘れてください旦那様

なか
恋愛
「子を産めないなんて思っていなかった        君を選んだ事が間違いだ」 子を産めない お医者様に診断され、嘆き泣いていた私に彼がかけた最初の言葉を今でも忘れない 私を「愛している」と言った口で 別れを告げた 私を抱きしめた両手で 突き放した彼を忘れるはずがない…… 1年の月日が経ち ローズベル子爵家の屋敷で過ごしていた私の元へとやって来た来客 私と離縁したベンジャミン公爵が訪れ、開口一番に言ったのは 謝罪の言葉でも、後悔の言葉でもなかった。 「君ともう一度、復縁をしたいと思っている…引き受けてくれるよね?」 そんな事を言われて……私は思う 貴方に返す返事はただ一つだと。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。