死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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二章

70話

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「リルレット。グレインと一緒に先に庭園に行ってくれる? 私もすぐに向かうから」

「う? おかたん?」
「姫様、俺が御庭でお馬さんになりますよ! いきましょうか」

「っ!! やた、いく!」

 グレインが気を遣ってくれたおかげで、リルレットは先に行ってくれた。
 おかげで、シルウィオの怒っている所は見せずに済む。
 遠くからでも、彼の怒りが伝わってくるのだ。

 ルフィナがどうなるのか、想像は容易い。

「あ……あの……」

「俺が信じるのは、カティだけだ。妻を侮辱して、のうのうと生きていけると思ったか?」

「ち、違います! 私の言葉は本当なので……––あぐッ!!?!」

 焦ったルフィナが、すがりつくようにシルウィオの腕に触れた瞬間。
 彼女はいともたやすく、魔法による力で地面へと叩きつけられた。

 自慢の美貌であっただろう、顔からだ。
 その姿は、かつてのヒルダを思い出してしまう。

「触れるな」

「あ……な、なにをするのですか!? これは、我が国との問題にもなります!」

 シルウィオが加減していたからか。鼻血を流すルフィナは威勢よく叫ぶ。
 公爵家という驕りが、今の発言をさせたのだろう。
 しかし、それを聞いて答えたのは意外にもシルウィオではなかった。

「なにをしているですか、貴方は」

 そこにやって来たのは、レブナン大臣だった。
 鼻血を流すルフィナを咎めるように、睨みと共にやってくる。

「れ、レブナン様。こ、皇帝陛下にカーティアの本性を教えただけなのです! なのに、この仕打ち……わ、私は公爵家なのですよ。こんなこと、許される訳が」

「……この……大馬鹿ものが!」

 叫ぶレブナンに、ルフィナの肩がビクリと震えた。

「ひっ!?」

「品性の欠片もない貴様とカーティア様……どちらが清き方かなど一目瞭然です。我々は、あの方に王妃だった頃の罪を許してもらっている身。それを忘れて貶すなど……我がグラナートの恥です」

「れ、レブナン様? あ、貴方もかつてはカーティアの事を見て見ぬふりをしていたではありませぬか! それは、嫌気がさしていたからでしょう?」

「それは私の人生最大の汚点です。あの頃の非礼の詫びすら……私はまだ出来ていない。それなのに、あの方は罪を咎めないでいてくださる優しい方なのです。浅ましい貴方と違ってね」

「……わ、私は……」

「あの方への非礼は、シルウィオ皇帝陛下……そして、亡きアドルフ様への侮辱に等しい重罪です。その身、我がグラナートが保護するとお思いでしょうか?」

 一喝し、怒りを叫んだレブナンにルフィナは絶望の表情を浮かべた。
 その瞬間に許しを乞うように頭を下げようとしたが、シルウィオが許してはくれなかった。

「も、もうしわ––」

「最愛の妻へ貴様が放った暴言。その罪、貴様の身に刻んでやろう」

「そ……そんな、聞いてください!」

 シルウィオの魔法により、ルフィナの身体が宙に浮いていく。
 そのまま、王城の窓から外へと移動していった。
 なかなかの高さに浮かんだルフィナは、顔を青ざめさせた。

「落ちても死にはしない。殺しもしない……だが、貴様の身に刻んでやろう。俺の妻を侮辱した罪をな」

「あ……わ、ゆ、許してくだ!」

「以上だ、消えろ」

 ふわりと浮いていたルフィナが、突然力を失ったかのように窓の外から消えて落ちていく。
 悲鳴と共に大きな音が聞こえ、その後にうめき声が漏れ聞こえた。
 死んではいない。それでもかなりの傷は負っただろう。

 静かになった中で、レブナンはシルウィオへと頭を下げた。

「シルウィオ皇帝陛下。我がグラナート貴族の非礼をお詫び申し上げます! 私が……もう少し周知すべきでした。カーティア様の偉業や、立場を」

「レブナン……グラナートはお前に任せる。俺の妻をここで守り続けろ」 

「っ!! …………は、はい! 誉れある役目を任命して頂き、あり難き幸せです!」

「……励め」

 頭を下げたレブナンを見届け、シルウィオは颯爽と踵を返して足早に私の元へとやって来た。
 初めから気付いていたのだろう。
 気付けば目の前にいて、手を引いて抱きしめてくる。

「あれで……いいか? まだ償わせても良かったが……」

「シルウィオ、充分ですよ。ありがとうございます。……リルレットが待ってます。行きましょう」

「あぁ」

 二人で歩こうとした時。
 頭を下げていたレブナンも私に気付いたのか、慌てて走ってきた。

「お、お待ちください! その、ご連絡したい事があって来ていたのを忘れておりました」

「連絡……ですか?」

「は、はい! その……先程も申しましたが、特別に来賓された方がおりまして……カーティア様がいるとお伝えすれば、その方が城を探して回っているようなのです」

「その方は……どなたですか?」

「––––様です」

 レブナンが伝えた名に驚いてしまう。

 どうやら、ルフィナの件が霞むほどの人が……私を探しているようだった。






   ◇◇◇



 その人を探すため、少し歩き回ったけれど見つからない。
 シルウィオが「もう探さなくていい」と言ったので、諦めてリルレットの元へ向かう。
 

 すると……そこ居たのは。


「おししょー! もっとして!」

「了解です。お姫様、これはどうですか?」

 グレインが警戒して見ている傍で、リルレットに魔法の光を見せている人物がいた。
 椅子に座り、手先から見た事ないほどの大きな魔法の玉を次々と浮かせて、リルレットを喜ばせている。

 その魔力の量を見れば誰なのかは一目瞭然であり。
 私達が近づけば、気付いた彼は振り返って笑顔を見せた。

「お久しぶりです。シルウィオ帝、カーティア皇后。お会いしたかったです」

「……シュルク殿下」

 そこに居たのは、レブナンから聞いていた通り……シュルク殿下だった。
 前回の人生を逆行させた張本人であり、大国カルセインの第一王子。
 
 しかし、以前会った時と明らかに違う事があった。
 酷く痩せており、顔はやつれてみえる。
 庭に置かれた椅子に座っているのは、立って居られない程に弱っているからだろう。

 ––時間を逆行させた代償に、寿命が残り少ない。
 
 過去に彼が言っていた言葉が思い出せるほど、今にも倒れそうに衰弱したシュルク殿下が、そこにいた。
 


 しかし彼は「お二人に、話があるんです」と言って、弱った様子もみせずに笑顔で私達へと呟いた。


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