死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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二章

61話

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「よくやった。下がっていろ」

 男達を殴るジェラルド様は、ギルクへとそう呟いた。
 ジェラルド様は娘を狙われた怒りが募り、見た事もない表情で次々と男達を殴り倒していく。
 拳が血にまみれて、それでも拳を止めずに殴り続ける。その姿は普段と違って……修羅という言葉が良く似合った。

「ひ……ひぃぃ」

 その姿に怯え、後ずさりしてきたギルクは、こちらへと視線を向けて再度絶句する。
 
「あ……あがが……」

 視線の先には、彼の恐怖の象徴である無表情で佇むシルウィオがいた。
 余程、トラウマだったのだろう。もう責める気もないのに怯えている。

「あ……あわわ……」

「……なんだ?」
 
 シルウィオは忘れているのだろう。
 ギルクを見て問いかけるが、彼は一瞬で土下座の姿勢を作った。

「ぜ、前回の非礼がありながら……再び皇帝陛下の御前に姿を晒す無礼! お、おゆおゆ、お許しください!」

 ギルクは震えながら、無抵抗の意志を示して謝罪の言葉を吐く。
 しかし……シルウィオはそんな彼に手を向ける。過去に、腕をへし折った時のように。

「邪魔だ」

「あ……ひ、ひぃぃ!!」

 怯えたギルクだけど、シルウィオが魔法を使ったのは彼に斬りかかろうと迫っていた男に向けてだった。
 それに気づかず、ギルクはまるで無抵抗を表す犬のようにお腹を見せて気絶してしまった。

「陛下……申し訳ありません。一人、そちらへ逃しておりました」

「いい」

 驚いた。もう終わったようだ。
 ジェラルド様によって、男達の皆が血だらけになる程殴られて倒れている。
 しかし、ジェラルド様は浮かない表情だった。
  
「陛下、この者達……」

「あぁ……皇位継承で争った者達だ」

「恨みを利用されていたようですな」

 そこらの兵達ならば、帝国公卿の屋敷を襲うという過ちを犯すはずがない。
 なので、かつてシルウィオと皇位継承争いで遺恨の残る彼らが差し向けられたのだろう。
 嫌な手を使う……

 その後、倒れた男達を縛り上げているとグレインを含めた騎士団が馬で駆け寄ってきた。
 屋敷の衛兵達が知らせてくれたのだろう。
 
「え!? へ、陛下!? ジェラルド様も……カーティア様も、姫様!? な、なぜ!?」

 驚いた様子のグレインへ簡単に事情を説明し、信じられないような顔を浮かべている彼らへ、倒れた男達の処理は任せる事となった。

「グレイン」

「はっ!! 我らが公卿のご家族を狙った罪……この者達の身に刻んでみせます」

 シルウィオの言葉に返事したグレインの真意は容易に想像できる。
 男達は、決して無事に帰れはしないだろう。

 ジェラルド様は家族の元へと戻り、抱き合って安堵の表情を浮かべていた。
 彼の娘のミリアとラーニが、後方で様子を見ていた私へと「ありがとうございました!」と叫ぶ声に、手を振って答える。
 私とシルウィオ、そしてリルレットは専用の馬車を用意してもらい、護衛と共に城へと戻る。その間際にレブナンが駆け寄ってきた。

「カ、カーティア様! グラナートでの非礼……謝罪をさせてください!」

「……レブナン」

「は、はい!」

「私はもう過去は気にしておりません。今回の活躍……本当に助かりました。ありがとう」

「……あり難き……お言葉です」

 絞り出すように、涙の混じる彼の言葉を受けながら馬車は走り出す。
 私が前を向いたように、彼も後悔しながらも今回の活躍で前を向けるかもしれない。私には関係ないけど……どうせなら、そうなると思いたい。
 
 ちなみにギルクは、今回の功績が認められたのか。ジェラルド様の判断で帝国の地方騎士として雇われる事になった。
 ……今回は彼が止めてくれた功績も大きく、感謝も大きい。
 当の本人も、「就職先が決まったぁー!」と喜ぶ声が聞こえたので……結果は最良なのだろう。
 
 
 こうして、真の主犯を掴み……全員が無事だったのはリルレットのおかげでもある。
 馬車に乗り、眠る我が子の頭を撫でる

「リルレット、ありがとうね」

「んーーん まだねんねすゆの」

「ふふ」

「……カティ」

「え?」

 微笑んでいると、シルウィオが私の頭に手を置いた。
 ほのかな笑みを携えて、優しく撫でながら彼は私へと口付けしてくれる。 

「皆が無事なのは、二人のおかげだ」

「……じゃあ、ごほうびくれますか?」

「?」

 首を傾げた彼の膝上に座って、身を預ける。
 途端に、大きな鼓動の音が聞こえだした。

「カ……カティ?」

「久々に……私も甘えたくなっちゃった。いいよね?」

「…………好きにしろ」

「ふふ、そうします」

 顔を真っ赤にしながら照れる彼が可愛くて、思わず笑ってしまう。
 太皇太后に恨まれているかもしれないと聞いた時から、何処か寂しそうだった彼だけど……そうでないと分かり、ようやく普段どおりに戻ってくれたのが嬉しい。

「好きだよ。シルウィオ」

「…………お、俺もだ」

 眠るリルレットを抱きながら、私は照れるシルウィオと久々に二人きりの時間を過ごした。





   ◇◇◇





 その夜、城内の執務室にシルウィオと私、そしてジェラルド様やグレインが集まる。

「主犯ヴォーレンを直ぐに捕らえましょう……我らに仇成した罪を償わせます」

 一際怒りの表情を見せるジェラルド様が言葉を発す。
 誰も文句などあるはずがない。私も……リルレットを狙われたのだ、絶対に許す気はない。

 だからこそ、逃す訳にもいかない。
 
「よろしいですか?」

 私の言葉に、視線が集まった。

「こちらから攻めれば、前公卿は兵を使い、時間を稼ぎ身を隠す可能性が高い。なので確実に私達の前に引き摺り出す考えがあります」

「考え……ですか?」

「捕らえた騎士の連絡方法を利用して……ヴォーレンにはジェラルド様の暗殺が成功した事を伝えるのです」

「っ……」

「そして、シルウィオからは敢えて……二日後に行われる祭典で私の警護を頼む招待を送りましょう。向こうが望んでいる要望を送るのです」

 相手からすれば、私達が頼ってくる状況は内部に入り込める最大の好機。
 だからこそ、必ずのってくるはず。
 そうなれば……後はこっちのものだ。

「万が一にも逃す可能性も無くすためにも、何も知らぬクズを罠に嵌め、私達の前に引きずり出します」

 私の幸せを脅かす者は、徹底的に潰す。
 それは……城を出た時から変わらない考えだ。

「いいですか? シルウィオ」

「あぁ……それでいくぞ。準備せよ」

「「はっ!」」

 シルウィオの言葉と共に、断罪のための準備が始まった。

 順調に進む中、唯一の気掛かりが残るとすれば……
 シルウィオの祖母、太皇太后はなぜ姿を表さないのだろうか。

 いや、今はヴォーレンというクズの断罪が最優先だ。
 まずは、それに集中しよう。


 


   ◇◇◇◇◇◇





 ヴォーレンが書斎にいると、扉が開き騎士が入って来る。

「連絡が来ました! 公卿ジェラルドの暗殺は成功したようです」

 黒緋色の鎧騎士の報告に、ヴォーレンは拳を握り締める。
 皇帝となる道に、また一歩近づいたと思い。彼はにやける頬を抑えながら、ふと違和感に気付く。

「向かわせていた騎士は帰っていないのか?」

「ええ、伝書鳩で知らせてきたのです。なんでも顔を見られたので身を隠すらしく……臆病な奴らですね」

「……」

 あの者達が、姿を隠すだろうか? まさか計画は失敗しているのでは?
 そう考えたヴォーレンだったが、続いての報告にその考えは消し飛んだ。

「他に、帝国皇帝が皇后の護衛を任せたいと書簡がきていました。公卿が消えて焦っているのでしょうね」

「ほ、本当か!?」

「はい、確かに届いています」

「よし! よし! 私を信用しているぞ! 上手くいっている!」

(このまま順調に皇帝の懐に潜りこみ、あの憎き顔に刃を突き刺してやろう。その後、私が皇帝となるのだ)
 ヴォーレンは計画の達成が目前に迫り、先程の違和感はもはや忘れていた。

「計画が完了すれば……俺達には約束通り皇后を」

「あぁ、分かっている。好きにしろ。いまは部屋を出て行け!」

「はっ!!」

 出て行く騎士の背を見送り、ヴォーレンは暫し考える。
 もし自分が皇帝となれば、傍らに華があった方が民衆の支持が集まるはず。
 騎士達があれだけ絶賛する皇后……それを自分の物にするのもいい。美しいのならば、枯れた欲も蘇るだろう。

「帝国の花カーティア……私の妻にするのもいいな」

 そんな考えを抱き、舌なめずりをする。
 元々、腕だけで雇った黒緋の騎士は捨て駒。皇帝を殺した際の犯人に仕立て上げる予定だった人材だ。
 願いを叶えてやる気はない。 

 現皇帝シルウィオを殺す際は、目の前で妻を使い……愛を凌辱してやるのもいい。
 あの無表情が悔しさで歪む事を考えるだけで、愉悦が沸き上がる。

「あぁ……楽しみだ……私の悲願はようやく叶う。あの若造よりも、長く帝国に仕えた私こそが、皇帝に相応しいのだから」
 
 野望の炎を燃やし、ヴォーレンは一人笑う。
 自ら……地獄の中に進んでいるとも知らず。
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