死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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二章

58話

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「おかた! みて!」

 リルレットはフワフワとして淡い光放を指先から出していく。
 光り輝くシャボン玉のようなそれは、壁に当たると消えた。

「綺麗ね~リルレット。でも、いっぱい使ったらだめだよ」

「やーやー!」

 魔力が多い、それはとても喜ばしい事だ。
 しかし、魔法とは便利なだけではない。
 優しい光を出すだけでなく、扱いを間違えればリルレットも傷つく魔法になるかもしれないのだ。
 
 だからこそ、扱える年齢まで我慢してもらっている。
 この子は……いっぱい使いたいみたいだけど。

「リルレット、他の遊びしよう?」

「姫様、俺も遊びに付き合いますよ!」

 私に答えて、護衛をしてくれているグレインが笑顔を浮かべた。
 リルレットは少し考えた後、ニコっと笑う。

「じゃあ、ぐーう! おうまさん!」

「お、俺が馬になるのですか?」

「ぐーう!」

「承知しました! どうぞ姫様!」

 グレインが四つん這いになると、リルレットは喜んでヨジヨジと彼の背に乗った。
 帝国でも最強の騎士がリルレットと共に遊んでくれる光景など、ここでしか見れないだろう。

「おかたもいしょ! のって」

「リルレット、私は隣で手を繋いで歩くね」

 グレインは安心したように、息を吐いた。

「ありがとうございます……俺がカーティア様にも触れたとあれば、陛下に睨まれそうですから」

「ふふ、流石にシルウィオも怒りませんよ」

 笑い合い、リルレットとのお馬さんごっこを過ごしていると。
 扉が開いてジェラルド様がやって来た。
 
「っ!? グレイン……?」

「い、今は馬なんです」

 馬になっているグレインを見つめるジェラルド様は少しの驚きと共に、背に乗るリルレットを見て微笑んだ。

「あぁ、なるほど。カーティア様、姫様……いきなり申し訳ありません」

「いえ、何かあったんですか?」

「各国を回っており連絡のつかなかった前公卿。ヴォーレン公が城へ来訪したのです。なにもないかと思いますが、念のために私もお二人の護衛につけと陛下が」

 太皇太后と同じく、疑われるほどの権力を持っている前公卿の急な来訪。
 まるで、潔白を証明してからやって来たみたいだ。
 シルウィオが警戒するのも頷ける。

「じーいも、おうまさん」
 
 リルレットが瞳をキラキラとさせて、ジェラルド様の袖を引く。
 彼もなれたように笑って、四つん這いとなった。

「姫様、私はグレインよりも早いですぞ! ぜひお乗りください」

「え!? ひ、姫様! 俺の方が安定してますよ!」

「やた!」

 リルレットの前ではお馬さんになってくれる二人の姿は、微笑ましくて笑ってしまう。





   ◇◇◇





 ––同時刻、アイゼン帝国玉座の間。


「長らく帝国を不在にして、申し訳ありません。陛下」

 頭を下げるのはアイゼン帝国の前公卿––ヴォーレン・バジルア。
 髪と髭は白髪に染まるが、その瞳は老いを感じさせぬ程に鋭く、皇帝へと向いた。

「ヴォーレン……その者達は誰だ」

 皇帝シルウィオは、彼の傍に控えていた数人の男達へと視線を向けた。
 そこにいるのは赤黒い鎧を身に着け、静かに立っている騎士達。

「申し訳ありません、私が各国を回っていた理由でもあります。帝国をより強国とするために各国から選りすぐりの騎士を引き込んでまいりました。新たに皇后様を迎えられ、姫様も産まれたようですので……護衛にいかでしょうか」

「要らん」

「あのグレインよりも腕がある者達ですよ? これほど心強い者達はおりませぬ」

「ヴォーレン、いつから……俺の言葉を否定できるようになった」

 その一言に、ヴォーレンは身を震わせる冷たさを感じた。
 皇帝の恐怖を思い出し、頭を下げる。

「申し訳ありません。陛下の判断に従います」

「……」

「ですが……私は本当に陛下の味方でございます。此度の来訪も……私の疑いを晴らすためのもの。今は姿が見えぬ太皇太后様の凶行、決して許してはなりませぬ」

「貴様には関係のない事だ」

「そうはいきません、幼少より貴方を知る者として、平和を支えるご協力をさせてくだされ!」

「貴様には関係ないと言っている。下がれ」

「っ!! ……も、申し訳ありません。今日は、ここで」

 ヴォーレンは言われた通り、大人しく踵を返す。
 何より、皇帝の苛立つ声色に逆らえるはずがなかった。

 
 






 城を出て、馬車に乗りこんだヴォーレンに、赤黒い鎧をまとう騎士が言葉を出した。

「ヴォーレン様……あの皇帝、完全に私達を下に見ておりました。良いのですか?」

「あぁ」

「やはり強行してでも俺達が……首を」

「ぬかせ。私はな、現皇帝に誰よりも恐怖して、その力を知っている。だから慎重に計画を進めているのだ! 台無しにする気か!」

 ヴォーレンは自身の腕に刻まれた傷を見て、苦々しい顔を浮かべる。
 かつて公卿の立場を利用し、帝国の国費を不正利用した事をシルウィオに見つかり、付けられた傷だ。
 当時シルウィオは皇帝ではなかったため、ヴォーレンは傷つきながらも証拠を隠滅した事で難を逃れた。

 証拠が無くては、罰する事はできない。
 しかし、当然……シルウィオが皇帝となった際に公卿という立場は剝奪されてしまった。
 その日からヴォーレンの恨みは始まった。

「……くそっ!!」

(忌々しい。あの皇帝が消えれば……その座は私のものだったというのに)
 そんな考えを抱き、恨みを募らせていたのだ。

「ヴォーレン様の言う通り、計画は順調です。長い時間をかけたおかげで、向こうは太皇太后しか見ておりませぬ」

「あぁ……そうだな」

 ヴォーレンは自身の従者に太皇太后の遣いを名乗らせ、各地の者たちを帝国へ仕向けた。
 全ては……今後の計画を進めるにあたり、自身に疑惑の目が向かぬよう。
 とある理由で皇帝に会う事を避けている太皇太后へ、罪の全てを擦り付けたのだ。

 全てはシルウィオを崩御させ、ヴォーレン自身が新たな皇帝となるための計画。

「だが……侮らず、慎重に計画を進めよ」

「分かりました。でも契約は守ってください。全てが終われば……」

「あぁ貴様らは、皇后の身を好きにするがいい。私の歳では欲もないさ」

「よしっ! グラナート王妃として国に来ていた時から、あの美しさと身体を好きにするのをどれだけ夢見たか! 情婦にして、逃がさぬようにしなくてはな……」
「一日中を遊ぶか……娘もいるらしいからな、育てば……二度楽しめる」

 色めき立つ騎士達は、呆れるほど性欲に溺れている。
 しかし、その実力は確かに……あのグレインを超えているとヴォーレンは確信しており、欲に忠実な彼らはある意味で信用できる者達だった。
 
 しかし、今はまだ調子に乗る時ではない。
 
「騒ぐな、次にすべき事は分かっているな?」

 諌めるヴォーレンの言葉に、騎士は冷静に答えた。

「ええ、まずは……帝国城内の戦力を削ります」

 もう一人の騎士が言葉を続けた。

「まずは……公卿––ジェラルドを消しましょうか……娘を人質にすれば楽ですから」

「あぁ、それで進めろ。公卿が消えても、今なら疑いは太皇太后へと向く」

 順調な計画に、ヴォーレンは笑みが止められなかった。
 しかし……

「そういえば、皇帝を憎むグラナート出身者達……確かレブナンと、ギルクでしたか。あれもそろそろ利用しますか?」

「あぁ、好きに使え」

 皇帝へ恐怖し、帝国を決して侮らず計画を企てたヴォーレンだったが……警戒すべき相手が増えていることに気づかなかった。
 新たな皇后カーティア、彼女は幸せのためならば……過去に遺恨の残る相手であろうと利用する女性だという事を知らず、侮っていたのだった。
 
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