死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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二章

50話

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「カティは、他国からの信頼も厚く、どの令嬢よりも多くの交流を持っている。その彼女が皇后に相応しくないと、なにを根拠に言える」

「あ……それ……は」

「答えろ」

「っ!?!! あぐっ!!」

 再び、デニーロの指が数本曲げられていく。逃げる事も突き刺さる剣が許しはしない。
 しかし質問に答えられるはずもなかった。現皇后に一切の非の打ち所がないのだから。

「言え」

「あ、ありませぬ! 私が間違っておりました……現皇后様に、間違いなどありませぬ!」

「貴様は言ったな……俺がカティを愛すれば、仇成す貴族も生まれると……」

「あ……あぁ……わ、私が間違って、おりま……」

 シルウィオは立ち上がり、デニーロを見下ろす。
 紅の瞳は、鋭く……冷たく。帝国の恐怖の象徴でもある。
 その瞳に見つめられて、震える身体をデニーロは抑えられなかった。

「先の発言は……貴様が帝国へと仇成すという意味か」

「ち、違いま!」

 デニーロの首が、見えぬ力によって絞められる。
 見下ろされる冷たい視線に、彼はもはや言葉も出せなかった。

「俺がカティを愛する事へ不満を抱く者がいるのなら。その虫を全て消すだけだ」

「あ……あぁ! す、すみませ」

「ちょうどいい……降爵の審議、ここで結論を出す。ガルシア家、貴様らが皇后へと向けた非礼の処罰をな」

「へ、陛下! 陛下、どうか! 寛大な処置を!」

 ゆっくりと近づくシルウィオにデニーロは必死に救いを懇願する。
 誰も止める者が居ない中、近づく足音と、凍てつくほどの冷たい視線だけがデニーロの感覚には届き、恐怖を引き立て、歯がカチカチと音を鳴らす。

「あ……あぁ」

「貴様も含め、これだけの功績を残したカティへ不満を持つ者は相応の処罰を与えるだけだ」

 見下ろす深紅の両眼。
 色とは真逆に、恐るべきほどに冷たく威圧的な眼に睨まれるデニーロは、自身の身の丈に合わぬ欲を考えていたと、気付いた時には全てが遅かった。
 娘と妻に、今回の要求を通すように言われた時にもっと考え、調べるべきだったのだ。
 大人しくさえしていればと後悔しても、もはや変えられない。
 彼自身が、処罰を大きくしてしまったのだ。

「お、お許しを! どうか! 寛大な処置を!」

「黙れ」

「おゆるし––!!」

 懇願した言葉は、もはや聞き入れてもらえることは無かった。









   ◇◇◇






「コケェェーーー!!」
「コココ」

「はぁ……やってしまいました。またノックを忘れるなんて……」

 シルウィオがガルシア家を対応してくれており、私は再び庭園へと戻っていた。
 護衛としてグレインも付いて来てくれたのだけど、彼はしゃがみこみ頭を抱えて落ち込んでいる。
 どうやら、先程の件を再び悔やんでいるようだ。

「コケェ!」

 そんなグレインの頭の上でコッコちゃんは遊んでいるのか、からかっているのか跳ね回っており。コサブは心配しているのか足元をウロウロと歩き回っていた。
 落ち込んでいるせいで二羽の様子を気にしない彼に笑ってしまいそうになりながらも、言葉をかける。

「グレイン、落ち込まなくともシルウィオは気にしておりませんよ」

「しかし、流石に三回目ですので……陛下も内心お怒りかもしれません! 護衛騎士を解雇となればどうすれば!」

「そんなこと、ありえないですよ」

「カーティア様、俺が職を失った時は……鶏たちの世話係として雇ってください」

「真剣な顔して何言ってるんですか!」

「ですが! もしもがありますから……」

 完璧に思えるような剣の腕を持つグレインだけど、失敗は引きずるようで。
 流石に三回目ともなると、不安に思ってしまうようだ。
 グレインの今までの活躍は、そんな失敗を何百と繰り返しても許されるぐらいなのに、考えすぎだ。

「心配しなくても、シルウィオと私はむしろ感謝しておりますよ。グレインのおかげで仲が深まったといってもいいですから」

「うぅ……本当ですか?」
「コケッコ―!!」

 しおらしいグレインをどう納得させるか、彼の頭の上で跳ねまわるコッコちゃんを見つめながら考えていると。

「カティ」と、いつもの呼び声が聞こえて振り返る。
 シルウィオが迎えに来てくれたようだ。

「陛下! お疲れ様です!」

 慌てたように、頭にコッコちゃんを乗せたままグレインが姿勢を正す。
 気づいていないのだろう。少し面白い。

「グレイン……」

 シルウィオはコッコちゃんへ視線を向けた後に、グレインを見つめた。

「陛下! ……先ほどはノックもせずに入ったこと、改めて謝罪を」

 謝罪の言葉を話そうとするグレインを遮り、シルウィオは呟いた。

「家族は元気か?」

 その突然の質問に、グレインは驚きつつも答えた。

「え? は、はい! 陛下が剣しか取り柄のなかった俺を護衛騎士にしてくれたおかげで、貧乏だった両親や兄弟も食うには困ってません」

「……」

「陛下?」

「グレイン、お前には今日から伯爵の爵位と、家名ダルテリオを与える」

「……え?」

 シルウィオの言葉に、グレインは目を見開く。
 驚きも当然だ、元は爵位すらなかったグレインが突然伯爵の地位を与えられるなど、前例などないはず。私も驚きで啞然としてしまう。
 その反応も気にせずに、シルウィオは言葉を続けた。

「……領地管理は専属の者を手配する。お前は変わらずカティの護衛に務めよ」

「へ、陛下!?」

「これからも励め。その働きに……いつも感謝している」

 きっと、先程は言えなかったシルウィオなりのお礼なのだろう。 
 彼は視線を逸らしながらも、グレインへと感謝を伝えた。

「あ……あ……あり難きお言葉です! 陛下! ありがとうございます! 今後も必ずや、陛下の大切なカーティア様を御守りいたします!」 

「あぁ」

「あと……これからはノックをちゃんとします!」

「それは、しっかりとしろ」

 微笑ましいやり取りに、私も微笑んでしまう。
 コッコちゃんを頭に乗せたまま感極まって喜んでいるグレインを置いて、シルウィオは私の手を握った。

「夕食の時間だ。いこう、カティ」

「は、はい」

 二人で歩き出せば、彼は嬉しそうに私を抱き寄せて歩く。
 そんな素直に甘えてくる彼に、笑いかけた。

「グレインに、お礼を言ってくれたんですね」

「あぁ、世話になっているからな」

 会話をしながら、私もお礼を伝える。

「ガルシア家の対応をしてくれて、ありがとうございます」

「気にするな」

「ふふ……大好き」

 気持ちのままに伝えると、急に彼の動きが止まった。
 どうしたのだろう? と首を傾げると彼は私の手を引いて、抱きしめてきた。

「シルウィオ?」

「俺も、愛してる」

「っ……」

 彼は呟きと同時に口付けをして、そっと私の髪を撫でる。
 背中に回された手は、離さぬように、いつもよりも力強かった。

「今夜……部屋に来てくれるか? カティ」

「う……うん。もちろん」

 意味のこもったその言葉を交わした時、寄り添う私達のお互いの鼓動は、音が聞こえる程に高鳴っていた。
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