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二章
46話
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マーガレットは私を睨みながら、身体を震わせた。
「貴方! わ、私にこんな事をして……」
「あなたこそ……勝手に庭園に入って、無事で済むと思っていましたか?」
「わ、私は帝国でも由緒正しきガルシア公爵家の令嬢なのよ!? いくら貴方が皇后とはいえ、公家との仲を軽視していいわけが……」
「情けない……自分の家のことも知らないのね」
「は?」
意味が分からないと首を傾げたマーガレットへ、苦笑が漏れてしまう。
私は皇后としての責務を分かっているつもりだ。
何かあった時のため、帝国貴族の事情はジェラルド様から詳しく聞いていた。だから、彼女が誇るガルシア公爵家の今の立場は危うい事も知っている。
「ガルシア公爵家は鉱山事業で富を築いてきましたね」
「え、えぇ。我が家には、数え切れないほどの宝石がありますわ。父に頼んで、その宝石の流通も止めてしまおうかしら。貴方の愚行のせいよ?」
堆肥まみれのまま、勝利を確信して微笑むマーガレットだけど。
どうやら知らないようだ。
「ここ数年、貴方の領地で鉱石が採れなくなったのはご存知ない?」
「……は?」
「ガルシア家は貴方が思う以上に懐が厳しい状況です。帝国が貴方を許す程の立場も失墜しております。それも知らず……貴方は私に対して無礼を働いたの?」
「う……ウソよ。父は私にそんなこと一言も」
「そのお父様が、貴方に心配かけないようにしてくれていたのに。家柄に甘え身内の事すら知らずにやって来たのが貴方です。それは皇后どころか、貴方が誇る公爵令嬢としてもお粗末ね」
そこまでを聞いて、理解したのか。
彼女はいまさら姿勢を正して私へ向き直った。
「あ……あの。私も言い過ぎたわ、だからどうかお互いに許し合いましょう? 私も、貴方にされた事は言わないでおいてあげるから」
いや、まだ理解できてないのか。
この人は……
「……許すはずがないでしょう?」
「え?」
「貴方と同じ考えを抱く愚か者が出ぬよう。罰は受けてもらいます。なにせ、この庭園に許可も無く入ったのを認めていたのは貴方でしょう?」
「ぁ……」
最初の私との問答で、彼女は自分で罪を自白していたと悟り。顔を青くする。
許しはしない。
シルウィオ達が、諸侯貴族へ牽制したように。
私も……知らしめよう。幸せを奪うのなら容赦はしないということを。
「い、嫌よ! わ、私は……公爵家なのに、そんな罪で」
逃げ出すかのように、一歩引いた彼女だったが。
その最中に、足音が聞こえて来る。どうやら……つくづく、彼女は災難続きのようだ。
「カティ、迎えにきた」
無表情なのに、私を迎えに来たことが嬉しいのか。
ほわほわとした雰囲気のシルウィオが歩いてきたのだ。
それを見たマーガレットはニヤリと微笑んで彼へと一歩踏み出した。
「好機ね……ふ……ふふふ! 陛下は元婚約者の私を覚えていてくださっているはずよ! 私の高貴な美しさを見れば、土まみれの貴方など捨てるはず! ごきげんよう、陛––」
「誰だ。貴様……」
「え?」
「邪魔だ」
「ぁっっ!!」
会話も出来ぬまま、マーガレットはシルウィオの魔法により……なんと再び堆肥へと頭から押し込まれた。
あまりの勢いに、私も呆気にとられてしまう。
まさか、またそこに突っ込まれるとは……流石に少し可哀想にも思えた。
シルウィオの雰囲気は一転し、苛立った雰囲気へと変わっていた。
「俺とカティの庭園を汚すな。グレイン……連れていけ」
「はっ!!」
マーガレットはグレインにより堆肥から引き出され、拘束される。
日に二度も堆肥へと頭から突っ込まれたのだ。流石に絶望した表情を浮かべていた。
「わ、私は、私はいつだって誰よりも美しいと……」
褒められて生きてきたのだろう。マーガレットはそんなうわ言を繰り返し、連行されていった。
シルウィオはそんな彼女には見向きもせず、私の手を握る。
「カティ、行こう。長く一緒にいたい」
「ありがとうシルウィオ。でも……政務は大丈夫? まだ昼なのに」
「いい。カティと…………早く会いたくて、終わらせてきた」
呟き、私の手を引いてくれる彼に笑ってしまう。
愛されている実感が、心を満たしていく。
「いつもありがとう……シルウィオ」
「俺は……あ……愛するカティの傍にいれるなら、なんだってする」
「ふふ。私も大好きです」
照れながらそう言ってくれる彼に抱きつけば、返してくれるように口付けしてくれた。
疑うはずもない……きっと彼は私意外に目を向けはしない。ずっと愛してくれるはずだ。
だから、私も心の底から彼が大好きなんだ。
その後、城へ戻ってきたジェラルド様が事情を聞いて激昂した。
マーガレットと共に、公爵家だからと見逃した騎士達を含め、相応の処罰が下るようだ。
とばっちりはガルシア公爵家だろう、爵位の降格まであるらしく……その重さに帝国の怒り具合が伝わってくる。
しかし今回の件で、一つ功を奏した事もあった。
どうやら、この一件が社交界にも周囲に知れ渡ったらしく。
生誕会の日からマーガレットと同様の事を吹聴していた令嬢達がいたようで、私が彼女を堆肥まみれにしたという噂だけが巡り、その令嬢達は社交界から姿を消してしまった。
恐怖してなのか、責められる前に退避したのか分からぬけど。
これで、帝国で私達を侮る者は男女ともに一掃できたと、ジェラルド様がおっしゃっていた。
どうやら私は帝国で、シルウィオと同様に逆らってはならぬ者としっかりイメージがついたようで。
私の帝国での地盤はかなり固まったようだ。
◇◇◇
と、色々とあったけれど。
シルウィオと一緒に夜を過ごすようになってから早一か月が経った。
一緒に寝る事は幸せで、緊張にも慣れてきた。
でも、それと同時に私は子共への興味も少しずつ膨らみ始めてもいたのだ。
私の知らぬ幸せを庭園でぼうっと考えていると、ジェラルド様がなにやら緊張した面持ちでやって来た。
「カーティア様……」
「ジェラルド様、どうされましたか?」
「その、失礼を承知で、お願いがあります」
「?」
疑問に思った時、ジェラルド様の背後に誰かが居るのが見えた。
小さな手が、彼の服を掴みながらそっと顔を覗かせ私を見つめている。
幼い少女だった……それも二人。
「わ、私の娘達がどうしてもカーティア様にお会いしたいと……よろしいでしょうか……」
「え……」
ジェラルド様の娘……
子供と過ごす事に興味を抱いていた私は、素直にうなずいていた。
「も、もちろん! 可愛いらしい娘さんですね」
ちっちゃな二人を見て、微笑む。
その反応を見たジェラルド様は安堵の息を吐き、小さな少女達はパッと明るく笑った。
「皇后さま! 始めましてミリアです」
「ラーニです。はじめまして」
彼女達はお母様に似ているのだろう、桃色の髪がふわりと揺れ、蒼の瞳が可愛らしく私を見つめる。
五歳ほどの少女は、よく似た容姿で双子なのだと分かる。
彼女たちは私の手を取ってはしゃぐように、飛び跳ねた。
「皇后さま! いつもおとうさまから聞いてます。すごくやさしいひとだって!」
「遊んでください! 皇后さまとお話したいです」
「こ、こら……あまりカーティア様に失礼な事は」
「大丈夫ですよ。ジェラルド様……私もこの子達と遊んでみたいです」
二人の少女に挟まれて、思わず頬笑みがこぼれる。
今日は彼女達と過ごそう。きっと楽しいはず。
それに、私の考えにも答えが出るかもしれないから。
「貴方! わ、私にこんな事をして……」
「あなたこそ……勝手に庭園に入って、無事で済むと思っていましたか?」
「わ、私は帝国でも由緒正しきガルシア公爵家の令嬢なのよ!? いくら貴方が皇后とはいえ、公家との仲を軽視していいわけが……」
「情けない……自分の家のことも知らないのね」
「は?」
意味が分からないと首を傾げたマーガレットへ、苦笑が漏れてしまう。
私は皇后としての責務を分かっているつもりだ。
何かあった時のため、帝国貴族の事情はジェラルド様から詳しく聞いていた。だから、彼女が誇るガルシア公爵家の今の立場は危うい事も知っている。
「ガルシア公爵家は鉱山事業で富を築いてきましたね」
「え、えぇ。我が家には、数え切れないほどの宝石がありますわ。父に頼んで、その宝石の流通も止めてしまおうかしら。貴方の愚行のせいよ?」
堆肥まみれのまま、勝利を確信して微笑むマーガレットだけど。
どうやら知らないようだ。
「ここ数年、貴方の領地で鉱石が採れなくなったのはご存知ない?」
「……は?」
「ガルシア家は貴方が思う以上に懐が厳しい状況です。帝国が貴方を許す程の立場も失墜しております。それも知らず……貴方は私に対して無礼を働いたの?」
「う……ウソよ。父は私にそんなこと一言も」
「そのお父様が、貴方に心配かけないようにしてくれていたのに。家柄に甘え身内の事すら知らずにやって来たのが貴方です。それは皇后どころか、貴方が誇る公爵令嬢としてもお粗末ね」
そこまでを聞いて、理解したのか。
彼女はいまさら姿勢を正して私へ向き直った。
「あ……あの。私も言い過ぎたわ、だからどうかお互いに許し合いましょう? 私も、貴方にされた事は言わないでおいてあげるから」
いや、まだ理解できてないのか。
この人は……
「……許すはずがないでしょう?」
「え?」
「貴方と同じ考えを抱く愚か者が出ぬよう。罰は受けてもらいます。なにせ、この庭園に許可も無く入ったのを認めていたのは貴方でしょう?」
「ぁ……」
最初の私との問答で、彼女は自分で罪を自白していたと悟り。顔を青くする。
許しはしない。
シルウィオ達が、諸侯貴族へ牽制したように。
私も……知らしめよう。幸せを奪うのなら容赦はしないということを。
「い、嫌よ! わ、私は……公爵家なのに、そんな罪で」
逃げ出すかのように、一歩引いた彼女だったが。
その最中に、足音が聞こえて来る。どうやら……つくづく、彼女は災難続きのようだ。
「カティ、迎えにきた」
無表情なのに、私を迎えに来たことが嬉しいのか。
ほわほわとした雰囲気のシルウィオが歩いてきたのだ。
それを見たマーガレットはニヤリと微笑んで彼へと一歩踏み出した。
「好機ね……ふ……ふふふ! 陛下は元婚約者の私を覚えていてくださっているはずよ! 私の高貴な美しさを見れば、土まみれの貴方など捨てるはず! ごきげんよう、陛––」
「誰だ。貴様……」
「え?」
「邪魔だ」
「ぁっっ!!」
会話も出来ぬまま、マーガレットはシルウィオの魔法により……なんと再び堆肥へと頭から押し込まれた。
あまりの勢いに、私も呆気にとられてしまう。
まさか、またそこに突っ込まれるとは……流石に少し可哀想にも思えた。
シルウィオの雰囲気は一転し、苛立った雰囲気へと変わっていた。
「俺とカティの庭園を汚すな。グレイン……連れていけ」
「はっ!!」
マーガレットはグレインにより堆肥から引き出され、拘束される。
日に二度も堆肥へと頭から突っ込まれたのだ。流石に絶望した表情を浮かべていた。
「わ、私は、私はいつだって誰よりも美しいと……」
褒められて生きてきたのだろう。マーガレットはそんなうわ言を繰り返し、連行されていった。
シルウィオはそんな彼女には見向きもせず、私の手を握る。
「カティ、行こう。長く一緒にいたい」
「ありがとうシルウィオ。でも……政務は大丈夫? まだ昼なのに」
「いい。カティと…………早く会いたくて、終わらせてきた」
呟き、私の手を引いてくれる彼に笑ってしまう。
愛されている実感が、心を満たしていく。
「いつもありがとう……シルウィオ」
「俺は……あ……愛するカティの傍にいれるなら、なんだってする」
「ふふ。私も大好きです」
照れながらそう言ってくれる彼に抱きつけば、返してくれるように口付けしてくれた。
疑うはずもない……きっと彼は私意外に目を向けはしない。ずっと愛してくれるはずだ。
だから、私も心の底から彼が大好きなんだ。
その後、城へ戻ってきたジェラルド様が事情を聞いて激昂した。
マーガレットと共に、公爵家だからと見逃した騎士達を含め、相応の処罰が下るようだ。
とばっちりはガルシア公爵家だろう、爵位の降格まであるらしく……その重さに帝国の怒り具合が伝わってくる。
しかし今回の件で、一つ功を奏した事もあった。
どうやら、この一件が社交界にも周囲に知れ渡ったらしく。
生誕会の日からマーガレットと同様の事を吹聴していた令嬢達がいたようで、私が彼女を堆肥まみれにしたという噂だけが巡り、その令嬢達は社交界から姿を消してしまった。
恐怖してなのか、責められる前に退避したのか分からぬけど。
これで、帝国で私達を侮る者は男女ともに一掃できたと、ジェラルド様がおっしゃっていた。
どうやら私は帝国で、シルウィオと同様に逆らってはならぬ者としっかりイメージがついたようで。
私の帝国での地盤はかなり固まったようだ。
◇◇◇
と、色々とあったけれど。
シルウィオと一緒に夜を過ごすようになってから早一か月が経った。
一緒に寝る事は幸せで、緊張にも慣れてきた。
でも、それと同時に私は子共への興味も少しずつ膨らみ始めてもいたのだ。
私の知らぬ幸せを庭園でぼうっと考えていると、ジェラルド様がなにやら緊張した面持ちでやって来た。
「カーティア様……」
「ジェラルド様、どうされましたか?」
「その、失礼を承知で、お願いがあります」
「?」
疑問に思った時、ジェラルド様の背後に誰かが居るのが見えた。
小さな手が、彼の服を掴みながらそっと顔を覗かせ私を見つめている。
幼い少女だった……それも二人。
「わ、私の娘達がどうしてもカーティア様にお会いしたいと……よろしいでしょうか……」
「え……」
ジェラルド様の娘……
子供と過ごす事に興味を抱いていた私は、素直にうなずいていた。
「も、もちろん! 可愛いらしい娘さんですね」
ちっちゃな二人を見て、微笑む。
その反応を見たジェラルド様は安堵の息を吐き、小さな少女達はパッと明るく笑った。
「皇后さま! 始めましてミリアです」
「ラーニです。はじめまして」
彼女達はお母様に似ているのだろう、桃色の髪がふわりと揺れ、蒼の瞳が可愛らしく私を見つめる。
五歳ほどの少女は、よく似た容姿で双子なのだと分かる。
彼女たちは私の手を取ってはしゃぐように、飛び跳ねた。
「皇后さま! いつもおとうさまから聞いてます。すごくやさしいひとだって!」
「遊んでください! 皇后さまとお話したいです」
「こ、こら……あまりカーティア様に失礼な事は」
「大丈夫ですよ。ジェラルド様……私もこの子達と遊んでみたいです」
二人の少女に挟まれて、思わず頬笑みがこぼれる。
今日は彼女達と過ごそう。きっと楽しいはず。
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