6 / 6
彼の元で……これからも
しおりを挟む「こちらで、エドワード様がお待ちです」
案内されたのは屋敷の庭の手入れされた花畑だった
彼に婚約をお願いされた場所のように
色とりどりの花が咲き乱れ、風に小さく揺れていた
その中心に彼が
彼の埋まる墓石が立っていた
「ただいま……エド……」
私は少しずつ
歩きながら彼に近づく
枯れていたと思っていたのに
涙は止まらなかった
「私ね、頑張ったんだよ……エド」
彼が亡くなってから50年の間
私は彼を奪った難病の研究のために医学の発展した他国に向かった
そんな事しても彼は戻ってこないだろう
けど…ただ悲しんで泣いて過ごす日々を彼はきっと許してくれないだろう
だから、ただ闇雲に研究に没頭した
倒れそうな日々を過ごしてようやく彼を奪った難病の治療法を見つけた
これから先、何千人も救われるだろう
他国からは謝礼にと使い切れないお金を私にくれたが
もうそのころにはすっかりおばあちゃんだ
数冊の歴史小説と
メイソンへのお礼のお金と
私の余生に過ごすための少額のみを受け取って
全てを寄付した
「私……一人ぼっちだけど……沢山の人々を救ったよ」
彼の墓石の前に座り、触れる
太陽に当てられた墓石は暖かくて
私の涙を拭うように風が吹く
花びらが舞い、私を包み込む
彼が褒めてくれているように………
彼の目に映る私が好きだった
彼の口から聞く私の名前が心地よかった
もう聞けないその言葉も
見れない景色も
私の記憶に刻みこまれている
この魂に刻まれている
「エド……言ったよね……生まれ変わっても……君と一緒にいたいって………私ね、こんなに頑張ったんだから………神様に見てもらえてるよね?」
神様が本当にいるのなら
私の願いはただ一つだ
何年、何百年、何千年かかってもいい
この魂に刻みこまれた彼とまた出会って
また……恋をしたい
彼の隣にまたいたい
生まれ、死んでの輪廻の先でまた彼に会えるのなら
私は多くを望まないだろう
「ただいま……エド……」
墓石を抱きしめながら彼に告げる
またね
エド……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カタリナ・フォーセリア
彼女は貴族の令嬢でありながら医学の道に進み
ただひたすらに治療困難だと言われた難病の治療法を模索した
多くの人間は不可能だと彼女を馬鹿にした
だが、彼女はそんな言葉に負けずにただ研究し続けた
彼女の家、フォーセリア家もそんな彼女のために支援金を送った
それでも、治療法は見つからなかった
そこに更に多額の支援金が送られる
彼女の亡き夫、エドワードの家
ワーグナー家からだった、多額の支援金と共に送られた言葉は
「ありがとう」その一言だ
彼女の姿勢に、多くの人間が協力した
50年の月日をかけ、完成した治療法は
多くの人間を、多くの人々を、家族を
幸せを救った
多額の謝礼金を寄付した彼女を
歴史では聖女と呼び
歴史小説にも登場する偉人として名を残した
彼女は余生を屋敷で過ごした
一人の執事と共に
静かに息を引き取った彼女は
亡き夫の隣で今も眠っている
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「またその本を読んでいるの?」
俺に語りかける彼女の言葉に読んでいた本から目を離す
「君と同じ名前だから…なんだか気に入ってるんだカタリナ」
「……まぁ…確かに偶然にしてはすごいよねあなたの名前もエドワードだし」
俺と彼女は花畑の中で座りながら話す
この場所は子供の頃から遊んでいた場所で二人だけの秘密の場所だ
「それに、聞いてくれよカタリナ…この歴史の偉人のカタリナさんのおかげで幼き頃の俺は難病から命を救われているんだよ」
「へーーじゃあ感謝しないとね」
彼女の茶色のおさげが揺れる
笑顔をみせる彼女を見るのが好きだった
「ねぇ…エド、あなたと結婚して…もう三年ね」
「あぁ…春も夏も、秋も冬も楽しかったな」
「今年こそはちゃんと泳ごうね」
「あ…あぁ……今度はちゃんと泳ぐよ」
「ウソね」
彼女は笑って俺の手を指さす
「ほら、握ってる」
「あ…」
何度も言われた癖だけど、未だに治せない
いや…治す必要なんてないか
彼女だけが知っていてくれる事だから
「それに、今年は絶対ダメよ……」
「?…どうして?」
彼女は顔を赤くしながら、俺の手をとりお腹に触れさせる
「子供がね…できたから」
「ほ、本当に!?」
「………………うん」
俺は彼女に抱きついた
こんなに嬉しい事はなかった
「ありがとう、カタリナ」
「うん………」
俺と彼女は唇を重ねた
「おかえり……カタリナ…頑張ったね」
「うん…ただいまエド」
不意に、呟いた言葉に俺たちは顔を見合わせる
なぜこんな言葉が出たのか分からないけど
俺たちはただ幸せな気持ちに包まれて
笑顔で
幸せを感じていた
輪廻を重ねて
また
あなたと共に
820
お気に入りに追加
539
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(15件)
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたから、言われるくらいなら。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢アマンダの婚約者ジェレミーは、三か月前編入してきた平民出身のクララとばかり逢瀬を重ねている。アマンダはいつ婚約破棄を言い渡されるのか、恐々していたが、ジェレミーから言われた言葉とは……。
2023.4.25
HOTランキング36位/24hランキング30位
ありがとうございました!

【完結】私の大好きな人は、親友と結婚しました
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
伯爵令嬢マリアンヌには物心ついた時からずっと大好きな人がいる。
その名は、伯爵令息のロベルト・バミール。
学園卒業を控え、成績優秀で隣国への留学を許可されたマリアンヌは、その報告のために
ロベルトの元をこっそり訪れると・・・。
そこでは、同じく幼馴染で、親友のオリビアとベットで抱き合う二人がいた。
傷ついたマリアンヌは、何も告げぬまま隣国へ留学するがーーー。
2年後、ロベルトが突然隣国を訪れてきて??
1話完結です
【作者よりみなさまへ】
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です

完結 私の人生に貴方は要らなくなった
音爽(ネソウ)
恋愛
同棲して3年が過ぎた。
女は将来に悩む、だが男は答えを出さないまま……
身を固める話になると毎回と聞こえない振りをする、そして傷つく彼女を見て男は満足そうに笑うのだ。

デートリヒは白い結婚をする
毛蟹葵葉
恋愛
デートリヒには婚約者がいる。
関係は最悪で「噂」によると恋人がいるらしい。
式が間近に迫ってくると、婚約者はデートリヒにこう言った。
「デートリヒ、お前とは白い結婚をする」
デートリヒは、微かな胸の痛みを見て見ぬふりをしてこう返した。
「望むところよ」
式当日、とんでもないことが起こった。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。


あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

婚約者を追いかけるのはやめました
カレイ
恋愛
公爵令嬢クレアは婚約者に振り向いて欲しかった。だから頑張って可愛くなれるように努力した。
しかし、きつい縦巻きロール、ゴリゴリに巻いた髪、匂いの強い香水、婚約者に愛されたいがためにやったことは、全て侍女たちが嘘をついてクロアにやらせていることだった。
でも前世の記憶を取り戻した今は違う。髪もメイクもそのままで十分。今さら手のひら返しをしてきた婚約者にももう興味ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
とまと様
ご感想ありがとうございます(*´罒`*)
数ある携帯小説の中で、私の作品にお声を届けてくださって嬉しいです(≧∇≦)
今作は季節にこだわり、表現方法などを工夫した作品でした๓´˘`๓♡
それを褒めて下さり、とても嬉しいです!
彼らの人生に涙してくださり、作者としては嬉しさで満たされます☺️
こちらこそ、読んでくださりありがとうございました!
ご感想ありがとうございます💐*·̩͙𓈒𓂂𓏸
今作を読んでくださり、ありがとうございます😊
エドを失い、それでも折れずに生き続けたカタリナの生き方は、苦しくも辛くもありながらも気高い人生だったと思います。🍀*゜
長い年月の中、折れかけた心。
何度もエドとの思い出が悲しみを与えてきても、それでも折れずにいれたのは、彼のような人を二度と出さないため。
長い年月をかけ、新たな人生で巡り会えた二人。
記憶はないので、再び幸せな人生を二人は過ごしていくはずです💐*·̩͙𓈒𓂂𓏸
きっともう二度と、病魔には怯えないで済む。
前世のカタリナが、その人生を作りましたから。
今作を読んでくださり、ありがとうございます😊
私にとっても思い出深い作品なので、嬉しいです✨️
二人の幸せを、願いましょう(*´艸`)
ご感想ありがとうございます!!
彼らなりの幸せを、見届けて下さって嬉しいです。(*˘︶˘*).。.:*♡
生まれ変わって、きっと幸せに過ごしているはずです!
週末もお仕事との事、お疲れ様です。
私のお話が少しでも貴方の活力になれたのなら嬉しく思います!💕
お体に気をつけて、頑張ってください!!
こちらこそ、この作品を読んで下さりありがとうございました!!