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2年目の冬
しおりを挟む彼の部屋の扉を開ける
日光が部屋の中に差し込まれ
片付けられた荷物と
積み重なった書物が置かれていた
彼は読み物が好きだったから
特に歴史小説が大好きでよく読んでいた
「エド…これをあなたに渡しにきたのよ」
机の上に数冊の本を置く
彼が読みたがっていた本だけど、高価で買えなかった物
お金も使い切れない量を貰ってしまったので
折角ならと彼が喜ぶ物を購入した
埃一つない部屋はメイソンが綺麗にしてくれたのだろう
ここにいると、あの日…あの時を思い出す
ここであなたと
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2年目の冬
「なぁ…カタリナ…」
「どうしたの?エド…」
寝ているあなたの隣で手を握りながら、私は座る
もう、彼には握る力も残っていない
酷く弱っていて、目を開くことさえ今は困難だ
「顔を…見せてくれないか?君の顔が見たい…」
「エド…」
私は彼に顔を近づける
弱々しくも目を開く彼は笑った
「泣いていたら…ダメじゃないか……」
「だって………エド………私はまだ…あなたと」
彼は、辛いはずなのに私のほほに手を伸ばすと優しく触れる
「最後なんだ…君の笑顔がみたいな…」
「……」
笑顔を見せるが、涙は止まらない
彼の顔に落ちた雫は弾けて、広がる
「うまく…笑えないよ……エド」
「いいんだ…その笑顔を絶やさないで生きて欲しい…俺は君の笑顔が世界で一番…好きだ」
彼は、真っ直ぐに私を見つめて言葉を続ける
「ごめん……君に嫌われるために…酷いことを言った…悲しませてしまった…」
「もう…もういいよ…エド………最後は好きって言って…エド………」
彼は、笑顔で
私を抱きしめる
もう弱くてあの春のような力はない
けど、離さないようにしっかりと
「ずっと……まだまだずっと一緒にいたかった…」
「私も…」
「君の隣に居られるだけで世界が色づいて…輝いて見えた」
「…お願いずっと隣に……いてよ…」
「カタ…リ…ナ…これで…最後だ…愛しているよ」
「エド………お願い…もっと…ずっと言ってよ……ねぇ…エド………お願いだから…」
彼の腕が、私から離れる
わずかに聞こえていた鼓動が聞こえなくなり
私の泣き声だけが部屋に響いた
「ねぇ…エド………エド………お願い…エド………」
冷たくなっていく彼の身体を離したくなかった
私はこの先も彼が好きだ
心の中で繰り返されるのは彼と過ごした四季
彼と過ごしたそのどれもが私の幸せで…
全てだった
「エド……またね…」
呟いた言葉と共に涙は彼のほほに落ちる
冷たくなってしまった唇に口付けをして
私は彼とお別れをした
私はその日
孤独という文字の意味が
一人だということに気づいた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………………さ」
「………様」
「カタリナ様」
メイソンの声に我に返る
いつの間にか、陽が傾いていた
この部屋でただ立ち尽くしてしまっていたのだろう
「大丈夫ですか?お辛いようなら…エドワード様と会うのは明日にでも」
「いえ…大丈夫よメイソン…ごめんなさい心配をかけて……」
「……無理をなさらず」
「ええ……むしろ嬉しいのよ…ようやく彼に会えるんだから」
「…会いに……行かれますか?」
「ええ、行きましょう」
エド……ようやくあなたに会えます
待っていて
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