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1年目の秋・2年目の秋

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馬車から降りると目の前には屋敷が過去と変わらぬ姿で出迎えてくれた
大きく息を吸うと、辺りの森林から良い匂いがする

屋敷の周りを取り囲むように木々は生えており
今は緑で包まれているが
秋になれば紅葉となり
また違った顔を見せる

秋は好きだった、過ごし易く
また、落ち葉を踏む感覚が好きでよく歩くために出かけた
屋敷の周りの森にも、食べられるキノコなどがありよく母様に内緒で食べていた

とりわけ美味しく感じたのはやはり、落ち葉をかき集めて
芋を焼いたあの時………彼と焼き芋をたらふく食べたのを覚えている



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1年目の秋


「焼けたよ、カタリナ!!」

「ありがとう!エド!………あつっ!」

渡された焼き芋は熱くて落としてしまいそうになる
彼は笑って私が持っている芋をとり、息を吹きかけ冷ましてくれる
そういった事1つでも嬉しくて
私はエドに背中から抱きつく

「どうしたんだ?カタリナ」

「ふふ、なんでもなーい」

「なんだそれ……ほら冷めたよ」

「ありがとう。エド」

受け取った焼き芋は程々に暖かく
私は早速口にする
甘さが口の中に広がり、思わず息を吐く

「美味しい」

「そりゃそうだ、こう見えて子供の頃は良く芋を焼いてたからな」

得意げに胸を張る彼は自分も焼けた芋をほおばり、美味しそうに笑う

「ねぇ、エド………来年もこうして焼き芋をしましょう」

「あぁ、そうだなカタリナ…来年はもっと色んな食材を焼いてもいいかもな」

「本当に!?楽しみだな~」

燃えた落ち葉に水をかけ
屋敷の中に帰る道中

「おいおい、カタリナ口元に芋の残りついてるぞ」

彼は笑いながら私を指さした

「え?どっち?」

「俺が取るよ」

そう言って、彼の顔が近づいた
お互いの吐息が感じられる距離で、彼が私の口元に軽くキスする

「ほら、と…とったぞ………」

自分でしていて恥ずかしくなったのか、彼は顔をそらす
なんだかそんな彼が可愛くて、私は首元に手を伸ばして再度顔を近づける

「だめ、取れてないよエド」

「え?」

「もっと…して?」

私の言葉を聞いて、彼がなにか察したように笑うと
今度は口元ではなく
唇に彼の唇が重なる
彼は私を木に押し当て、逃げられないように口付けする

「ちょ…激しいよ……エド」

「カタリナが悪いんだぞ……」

「……じゃあもっと悪くなっていい?」

「……」


結局、帰ったのは辺りが暗くなってからだった
彼と手を繋いで落ち葉をサクサクと踏みながら帰る


「エド、手があったかいね」

「カタリナが冷たいんだよ」

「そんなことないよ!」

私は背伸びしながら彼のおでこに手を当てる

「ほら、エド、熱いよ!風邪ひいたのかも」

「それは……芋を焼いていたし……その色々とな?」

「そうだといいけど」

「まぁ…最近身体も少し重くなってきているから今日は帰ったらゆっくりしようか」

「うん!」


手を繋ぎながら帰る
お互いの昔話や、色々な話を彼と話す時間は楽しくて



大好きだった






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「本当に……今思えばあの時からだったのね」

「どうしました?カタリナ様?」

メイソンの問いかけに首を横に振る

「いえ、気にしないで…荷物は持ってくれた?」

「はい、この通り」

馬車から荷物が次々と下ろされていた
我ながら、かなりの量を持って帰ってしまった

「流石に多すぎるわね」

「いえ、カタリナ様の不在の期間を考えればかなり少ないかと」

「そうかしら?」

「ええ、なにせ50年もの間…この国から離れていらしたのですから」

50年…そんなに長い間だったのか
そりゃあ、髪も白くなってしわも増える訳だ

「彼の為にも…私の為にもね」

「ええ…きっとエドワード様も喜んでくれると思います。」

「そうだと…いいわね」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2年目の秋


「ねぇ…エド」



「エド………お願いだから」





「出てきてよ……顔だけでも見せてよ……エド」





「ずっと寝たきりで……部屋から出てないよ?大丈夫?エド………」






扉の前で呟く私は鍵のついた彼の部屋に入れない
彼は秋になり部屋から全く出なくなった

たまに食事を持って部屋に使用人を入れるが素っ気ない返事で答えるだけで
ずっと寝たままのようだ
それも一か月前の話で、いまでは部屋の前に食事を置くように指示され
部屋から全く出てこない
そんな彼に会いたくて今日も声をかける

「ねぇ?エド………覚えてる?去年の秋にね、お芋を焼いたこと」

「あぁ……」

「!?」

返ってこないと思っていた返事に思わず驚いてしまった
久々にきいた彼の声は少し小さいが私に答えてくれた事が嬉しくて
次々と伝えたい言葉が出てくる

「あのね、メイソンに頼んで色んな食材を用意してもらったの!だからエドも」

「俺は…いい」

扉の先で聞こえる返事に肩を落としてしまうが
諦めずに話しかける

「で、でもね!エド、最近の屋敷の周りは紅葉が凄く綺麗だから見に行くだけでも…」

「なぁ……カタリナ…」

「!………ど、どうしたの!?エド」

「なんで……俺を嫌いになってくれないんだ」

告げられた言葉
彼の細い声は、少し泣いているようにも見えた

私は叫ぶように彼に語りかける

「嫌いになんてなれない!!私はあなたが大好きなの!ずっと隣にいたいの!嫌いになんてなれる訳ないよ………………ばか………………」

「俺は…お前にあれだけ酷い事を言ったのにか?」

私は溢れる涙を抑えられず、嗚咽を漏らしながら
彼の問いかけに答える

「ばか……ばか!!!エドは噓が下手だから……私、知ってるもん……酷い事を言った時は噓だって」

「なんでわかるんだ…カタリナ」

「言ったでしょ?あなた……噓ついてるときね……ずっと拳を握ってるの…だから…ずっとあなたが噓をついてるってわかってた」

「………………」

「だから…言ってよ…なにがあなたを変えたの?なにを隠しているの?ねぇ!エド!教えてよ!」

私の叫びの返事はなかった
沈黙が訪れ、答える者はいなかった

「ねぇ……会いたいよ…エド」

最後の呟きに
沈黙を破るように足音が聞こえ


ガチャリと、扉の鍵が開く音がして
ゆっくりと扉が開く


「ごめん………カタリナ…俺は…君に伝えないといけない事があるんだ」

私は彼の姿を見て涙が止まらなかった

分かってしまったんだ

彼がなぜ私を遠ざけたのか…なんで私と別れたがったのか…


全て

私は彼に抱きついて、ずっと泣いていた
一番辛いはずの彼が私の頭を優しく撫でてくれた事を今でも忘れない



彼は


きっともう






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「カタリナ様、屋敷の中は掃除されております…入りますか?」

「ええ、メイソン…荷物をお願いできる?」

「ええ、もちろんです」

私は屋敷へと進む
記憶と変わらない姿に
胸が高鳴って、あの日を思い出さないといえばウソになる


「お辛くありませんか?…カタリナ様」

メイソンは心配そうに声をかけてくれた
きっと自分が思うよりももずっと悲しい顔になっていたのかもしれない

いけない…これからエドに会いに行くんだから
笑顔で、彼の好きな姿で

「大丈夫よメイソン…入りましょう」

うまく笑えてるかな?
こんな歳になってもこんなに不安になるなんてね
心の中で笑ってしまう、50年他国に行った期間…ろくに笑ってなかったから

そんな私の心中を察してくれたのだろう

メイソンも答えるように笑って
屋敷の扉を開いてくれた






ただいま




エド











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