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1年目の夏・2年目の夏
しおりを挟むガタガタと揺れる馬車は屋敷へと向かう
私の屋敷、フォーセリア家へと
先程まで降っていた雨はすっかり上がっており
綺麗な虹が、空にかかっていた
思わず見とれてしまう美しさだ、ずっと見ていたいと思うほど
けど、時間もない
馬車は止まる事なく走る
馬の蹄は地面を蹴り上げて
虹を見ていると、遠くに見えたのは海だった
「懐かしいわね……」
思わず呟いてしまう、海なんて数える程にしか行った事がない
だけど、こうして再び見ていると海に行った日を思い出す
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1年目の夏
「エド!来て!」
私は彼の腕を引きながら走る、エドは暑さに弱くて少し項垂れていたが
目の前の真っ青な海を見て、思わず声をあげた
「すごい……こんなに綺麗なのか……」
「綺麗だよね、私もお母様に教えてもらったの…ここなら他に人もいないだろうって」
真っ白な砂浜と真っ青な海
私は我慢できずに、ドレスを脱いだ
「!?……カタリナ!ダメだって外で裸は!」
「へ?ちょ!ちがうよ!エド!よく見て!」
私はドレスを脱ぐ、下にはキャミソールを着ており
見えないようになっている、それに下着も着けてもいる…
だから大丈夫だと言おうとしたが
ドヤ顔の私を彼は抱きしめる
「エド!?」
「君は本当に不用心だよ、他に人がいなくてよかった……君の肌を他の男に見られたくないんだ」
「………」
私の顔はいま真っ赤だろう
自分でもわかる、言われてみれば肌は露出している
他に人がいなくてよかった
「わかったよ、エド…気をつけるから……離して」
「…………」
「エド…?」
「離したくない、もう……こんな姿を見て我慢できないよカタリナ」
彼は私を抱き上げると
陽の当たらない影に連れていく
私も彼もどちらも胸の鼓動が高鳴っているのがわかった
どちらも赤くなり、鼓動の音が聞こえそうだ
「エド、折角海にきたのに…」
「カタリナは…いやか?」
いじわるな質問だ
彼は私の答えが分かっていて言っているのだろう
首を横に振る
「いや…じゃない…よ」
影の中、平たい砂浜に横たわりながら
私は恥ずかしくて顔を隠すが、彼はその手をはがし
唇を合わせる
波の音が聞こえる中、私達は蜜月の時を過ごした
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(おかげで、海で泳いだ記憶はないわね)
思わず苦笑してしまう
お互い若く、仕方がないといえど今にして思えばもう少し泳いだりしても良かった
泳いだ時間といえば、お互いの汗を流すために海に入った
夕暮れの一時だけだった
泳げなかったが、エドは「また来よう」と笑っていた
目的が違うかもしれないが…
「…けど…もう一度は行かなかったわね」
海を見ながら
悲しき夏の日々を思い出した
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2年目の夏
暑い夏の年だった
屋敷には熱がこもり、汗が止まらない
ガラス製のコップに水をいれて、私は彼の元へ行く
「ねぇ、エド………水はいる?」
彼は椅子に座りながら、本を読み
ただ一言「いらない」と冷たく答える
「けど、屋敷の中は暑いから……水分だけでも…」
「いらないっていってるだろう!!」
「!?」
思わず身をすくめてしまい、コップを地面に落としてしまう
大きな音を立ててガラスが割れ、水が広がっていく
「ご、ごめんなさい!直ぐに拾うから……」
慌てて、ガラスの破片に触れるとチクリと痛みが走った
「っ!」
思わず手を抑える
痛みがじんわりと指に感じ
ポツリと血が一滴、地面に落ちていく
俯いていると、足が見える
顔を上げると、彼が少し慌てたように駆け寄って来ていた
「エド?」
「……俺が片付けておく……お前は傷を医者に見せておけ」
「で、でも私が散らかしたから……」
「いいから……」
黙々とガラスを拾い集めるエドに私は立ち上がりながら
思い出したように声をかける
「そうだ、エド……また去年のように海に行きたいな…あなた最近家にこもりきりだから…たまには外に行きましょう?」
「…………」
「エド?」
「お前は前に言った事を覚えていないのか?俺とは離婚してくれ、書類にサインしろ」
突き放すように言われた言葉、胸にナイフが突き刺されたように痛かった
手が震えてしまう
「いやだ……エド………私は…」
「いいから!俺のことなんて忘れろ!!他の男と一緒になればいいんだ!そうすれば……」
「なんで?私はあなただから……あなただけを……」
「いいから……部屋から出ていけ!!」
「!?」
その怒りの混じった叫びに
涙が止まらない
血の代わりに、涙が地面に新たに小さな水面を作る
「もう……いやだよぉ……エド」
私は部屋を出て、ただ泣いていた
バタンと大きな音を立てて扉を閉められる
私は尻餅をつくように扉に寄りかかりながらずっと泣いていた
ずっと、ずっと
だから気づいて上げられなかった
扉の先であなたも泣いていた事に
「ごめん……カタリナ…許して…くれ…お願いだ…俺のことを嫌いになってくれ…」
泣きながら彼はきっと、私の落としてしまったガラスを
拾っていたのだろう
扉を挟んで私達は1人で
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「カタリナ様、屋敷が見えてきましたよ」
「ええ、久しぶりね……」
遠くに見えたフォーセリア家の屋敷
私とエド2人が住んでいた家だ
長い月日が経っていたのに
未だに綺麗なまま
「メイソン…屋敷を整備していてくれたのね」
「ええ、もちろんです…カタリナ様と………エドワード様の居られる場所なのですから」
「ありがとう……メイソン」
久しぶりに帰る自宅に胸がドキドキした
やっと彼に会えるのだ…
伝えたい事が数多くある
焦る気持ちに答えるように
馬車は速度を上げて屋敷へと向かった
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