【完結】側妃は愛されるのをやめました

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悪政の華⑧ セリムside

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 駆け抜ける騎馬に揺られながら、目的だった反乱軍へと迫る。
 当然ながら歓迎されるはずがない……されていいはずがない。

「王国旗を掲げよ!!! 無抵抗の意志を示すため白旗もだ!」

 同行してくれる騎士が王国軍を示す旗を掲げると、反乱軍からは空気を震わす程の激昂の声が上がってくる。
 肌が焼けるような熱い民の怒りを感じた。

 怖い、怖くて堪らない。
 この先に待つのは、決して甘いものではない。 
 それでも僕は賭けにでなければならない……この反乱を鎮めるため。
 王自ら、贖罪の機会を得るしかないのだから。

「進み続けて反乱軍の元へ向かう! 命が惜しい者は止まっていい!」

「陛下。言ったはずです、我らも家族のため……この国の未来を守れるなら命すら惜しくなどない!」

「感謝する……皆」

 白旗を掲げようと、あちらよりも明らかに少数で向かっていようとも……反乱軍は決して怒りを治めず、怒声が鳴りやまぬ。

 そして、案の定……雨のような矢が僕達の元へと降り注ぎ始める。
 反乱軍の怒りが、僕と話す事など必要ないとばかりに向かってくる。

「セリム陛下! 頭を下げてください!」
「駆け抜けるぞ! 止まればそこで終わりだ!」

 騎士達が盾を構え、降り注ぐ矢から僕を庇う。
 後方から聞こえる馬の鳴き声、落ちていく騎士の鎧の音。

 それらを聞きながらも、謝罪……懺悔の気持ちを抱きながら止まらず走る。
 この内乱を止めるためにも、止まる訳にはいかない。

「次がきます!」
「セリム陛下! これでは……!」

「止まれぬ。ここで止まれば、犠牲が無駄となる!」

「っ! 分かりました! 我らが護り抜きます! 走り続けてくだされ!!!」

 駆け抜けるしかない。
 反乱軍の矢の雨の中、少しでも近づいていくんだ。

 話をするため、彼らへと謝罪を行うために突き進むしかない。
 降り注ぐ矢が馬を貫き、騎士を落としていく。

 僕の腕や、肩、足にも矢が突き刺さり……血が垂れ落ちていく。
 だが、王国の民のため、家族ある者達のため……ラテシアのためにも。
 止まってなどいられない!

「止まるなぁぁ!! いけぇぇ!!」


 声を張り上げて、檄を飛ばして騎士を奮い立たせる。
 皆が矢の雨の中、必死に手を伸ばして僕を庇う。
 全ては僕の非にて起こった戦乱、それを止めるために皆が…… 

 
「はぁ……はぁ……」


 やがて駆け抜けた先。
 反乱軍の目の前にたどり着いた僕は、傷だらけの身体のまま馬から降りる。
 後ろを見れば数十人いた騎士達は、僅かしか残ってはいなかった。
 
 もう立つのもやっとだ。
 でも……皆のおかげで、ここまでこれた。


「セリム陛下……なぜだ! なぜ、無抵抗で我らの前にやってくる!」
 

 反乱軍の者達が、驚きの表情で僕を見つめる。
 彼らからすれば王国軍が来たと思えば少数、さらに白旗を掲げて特攻だから当然だ。

 あげく先陣を切っていたのが国王である僕と分かれば……当然の反応で、これが望みだった。
 この驚きこそが、彼らと僕の話合いの機会である唯一の時間なのだから。

「反乱軍の皆、どうか……どうか聞いてほしい!」

「っ!」

 膝を落として、僕は血を流しながらも眼前に並び立つ者達を見つめる。
 皆が家族を持ち、幸せに暮らしていた。

 それを奪ったのは、他でもない僕だ。
 だからこそ、僕こそが彼らの怒りを鎮めなくてはならない。

「皆の怒りは全て、全て……国王たる僕の責任だ!!」

 声を張り上げて、喉が焼き切れそうな程に叫ぶ。
 少しでも多くの者に、聞かせるために。

「僕は愚かだった! ここに居る皆がかつての戦争にて命を賭して国を護り。血を流して民を、国を救ってくれたはずだったのに……」

「……」

「皆が居てこその平穏を享受しながら、それを他でもない王家が踏みにじってしまった。この行為は、決して許されるものではない!」

 叫びながら、流れた血で汚れた地面へと、自らの頭を下げる。
 汚れや痛みなど、気にしていられない。

「許されるなど思っていない。ただ……平和を築いてくれていた皆に、屈辱と絶望を与えてしまったことを、どうか謝罪させてほしい!!」

「俺たちはそんなもの、求めていない! 奪われた尊厳や、幸せに暮らせていた土地を取り戻すため……」

「もちろんだ! 贖罪にもならぬが……皆の土地は返還すると約束する! すでに王家として決定は下している!」

 今はまだ貴族のみが知る情報。
 ゆえに反乱軍も初耳だったのだろう。

 皆が一様に顔を見合わせる。
 他でもない国王である僕の言葉に……嫌でも信じてくれているようだ。

「踏みにじってしまった皆の富、名誉を王家が返還する!! だからどうか……亡き英霊達が築いた平和の世を維持するため。どうか……どうか」

 言葉に込めた謝意を緩めはしない。
 今、この瞬間しか好機はない。

 反乱軍が怒りを緩め、話を聞いてくれるのは今この時のみ。
 だから僕は痛む身体も気にせず、流れる血も構わずに声を張り上げた。

「この愚王が全ての責任を負う事で許してほしい!! 皆が築いた平和を……未来の国民達へとこれからも継いでいくために!」

「っ!」

「亡き父と、貴方達が築いてくれた平和で……誰も苦しまぬ世のために、どうか……」

 下げた頭。
 流れる沈黙……

 殺されても文句はいえない、むしろそれで彼らの溜飲が下がれば御の字だ。
 そう、思っていた時。

「本当に、我らの土地の返還は叶うのか?」

「約束する。この反乱を鎮めてくれた時、責任をもって王家が土地を皆に戻す」

「……」

「我がルマニア王家の名に誓って! 必ず皆の幸せを戻してみせる!」

「…………なら、我らが剣を握る意味はここで潰えたに等しい。此度の騒動、相応の処罰は当事者である我らも受けよう」

「っ!!」

「だからどうか、家族の暮らしを……頼む」

「誓う……必ず……!」

 僕の言葉に、反乱軍が怒りを鎮めて剣を収めていく。
 その姿に、僕は自らの失態の悔しさと共に……犠牲になった皆へと感謝しかできない。

「心から感謝の意を表し。僕が……皆の幸せを約束しっ––––」

 くそ……まだ、まだ倒れてなどいられないのに。
 やっと反乱軍が剣を収めてくれた、多大な犠牲を払って王国の最悪な未来を回避した。

 だからこそ、城に戻って約束を果たさねばならぬのに。
 傷ついた身体が……もう、動かな……


「––––っ!!」

 声が聞こえる。
 かすれゆく意識の中で懐かしい……誰かの、声が聞こえる……これは。

「セリム!!!!」

 その声に顔を上げれば、僕の目の前へとラテシアが騎馬して駆けつける。
 彼女の後方には、フロレイス家の私兵軍が追随する。
 反乱軍を止めるため、彼女たちは駆けつけてくれていたのだ。

 僕が突き放したはずの彼女は……僕を支えてくれると言ってくれたあの頃と同じ。
 憧れを抱く程、真っ直ぐな瞳で僕を見つめた。

「はは……やっと、僕なりに君に報いる結果が残せただろうか」
 
 呟く言葉と共に、僕の身体は地面へと……力なく倒れる。

 ラテシア。
 君の支えがなくとも……僕は、王として決断ができた。
 これで君に恥じない王に……なれただろうか?

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