【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか

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17話

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 まだまだ私達の動きは止まらない。
 王家が対策を立てる時間など与えずに策を次々と講じていく。
 
 その一つで、私はフロレイス公爵領近くの貴族と会う。
 その目的は……

「伯爵殿。この計画でいかがでしょうか?」

「わ、我が領地にも他国との街道を整備してくださるのですか!?」

「ええ、伯爵殿の協力があれば、西の国と最短で繋がりますので」

「し……しかしだな。私は王家に属す身。この計画に賛同すれば、フロレイス公爵家の独立に賛同という意味でもあり……」

「あら、それではこの話は無かった事にしましょう。伯爵殿」

「っ!」

 今、私と話す伯爵殿は、王家派閥の人間だ。
 しかし、王家に忠誠を誓ってなどいない。
 単に王家が安泰だと信じているのみで、その考えはこちらの提示する利益で容易く落ちる。
 
 その証拠に……

「街道が繋がれば、各国の多くの人々が行き交うでしょう。伯爵殿の土地には様々な果樹園があり、行き交う人々に果物狩り体験を提供すれば大いに富めましょう」

「あ……う」

「観光資源なども提供すれば、領内の発展も大きいはず。それを手放すというなら、どうかご自由に、この話は無かった事にします」

「まま、待ってくれ! 少し考えさせてくれ」

 計算通りだ。
 釣り針にかかった魚のように、私は一気に伯爵殿の迷いを海上へと引き上げる。

「他の貴族家で決断してくださる方もいますので、迷うならその方へこの話は提供します」

「っ! わ、分かった! 話に乗らせてくれ」

「では、フロレイス公爵家の独立と。その援助は惜しまぬ契約をしてくれますね?」

「あ、あぁ。こんな良い話を逃す方が、前当主の父に怒られてしまうさ」

 貴族家とは多種多様だ。
 誇りを持つ者、責務を負って王国へ尽くす者、自領の発展をただ望む者。
 示す条件により支持派閥は変わる。

 セリムは従軍経験者から奪った土地を、貴族に与えて支持を集めていた。
 だがその政策は、決定的な弱みがあった。
 結局、利益で支持を集めても……上回る利益を示せば彼らは容易く流されるということだ。

「では、契約書に署名をお願いしますね」

「あ、あぁ。分かった」

 だから私は、王家と貴族家のように上下で協力を求めない。
 あくまで横の繋がり、商業の協力相手として契約を結ぶ。
 どちらも益がある話を通し、裏切れば損を負う契約書にて切って離せぬ関係を結ぶ。

「では、伯爵殿。これからもよろしく頼みますね」

「分かった。街道の整備には、私からも人員を出そう!!」

 これで、また一家。
 我がフロレイス公爵家との切れぬ関係を結べた。
 王家の牙城を切り崩す杭は、着実に打ち続けよう。



   ◇◇◇



「はやいね、おねーさま!」

「ディア。落ちないようにね」

 風を切って走る馬車の車窓から、ディアが身を乗り出す。
 それを支えてくれるのは、同乗する護衛のダウィドだ。

「しかし……ラテシア様は思い切った方法を取られますね。まさか王家派閥を取り込むとは」

「ええ。今回の伯爵殿に加え、いくつかの貴族家を取り込めました」

 各家に、治水管理や農地管理技術の提供。
 他には先の伯爵殿のように、貿易路の建設計画に組み込む提案をすれば皆が賛同してくれた。
 王家は今、削られていく味方に対応が追い付かぬだろう。

「おねさま……」

「っと。ディア、いつの間に寝ているのよ」

 さっきまではしゃいでいたディアは、私の膝に頭を預けて睡眠していた。
 離れるよりも傍に居た方が安全なため、多くの護衛と共にディアも着いてきている。
 ディアが眠る様子に、ダウィドは珍しく眉を細めて微笑んだ。

「子供は、お好きですか?」

「……はい。弟がディア様と同じ歳でしたから」

 呟かれた、同じ歳だったという過去形での言葉。
 失礼ながらも、ダウィドに問いかける。

「弟君は……」

「二十年前の戦争時、国境に住んでいた俺の村は戦火に巻き込まれ。還らぬままとなりました」

「っ。ごめんなさい……嫌な事を聞いたわね」

「いえ。俺から話したも同然です。むしろ、ラテシア様には聞いて欲しかった」

 そう言って、ダウィドは姿勢を正して私を見つめる。
 眼が真っ直ぐ、私を射貫いた。

「此度の王家の法案に反発する従軍経験者は、土地を奪われた後。その姿を隠し、反乱の機会を窺っていると聞きます」

「……やはり、そういった方々もいるのね」

「だが俺も含め、多くが土地を奪われても王家へと反乱を起こさなかったのは……家族の犠牲あって築いた平和を、血に染めたくなかったからです」

「……」

「だから、感謝しております。ラテシア様が……王家に対して、無血にて反逆を示す手段を提示してくれましたから」

 ダウィドを始め、従軍経験者の想いは平和への願いだ。
 セリムは彼らが危険思想だと言ったが、明らかな間違いだ。
 彼の言葉で、私は正しかったのだと改めて思わせてくれた。

「そろそろ自領に着くはずで……っ!!」

 ダウィドの言葉の途中、馬車が停まる。
 何事かと思った刹那、高らかな声が響いた。

「フロレイス公爵家とお見受けする! 話があって参った!」

「っ……ゼブル公の兵。やはりいましたか」

 フロレイス公爵家の領地にて待っていたのは、ゼブル公爵家の私兵だ。
 財を消費して私兵を出したゼブル公爵の焦りが伺える。

「セリム陛下のご意向にて技術者などの返還を要求なさっている! 貴殿の反乱行為を見逃す代わりに、即刻人員を引き渡されよ!」

 なんという身勝手だろうか。
 いや、それ以上に呆れてしまう。

 私の策で崩れそうな王家の危機に、セリムが下した判断は。
 私を捕縛せぬ対価に、技術者を返してほしいというのだから。


「技術者の方々は、自らの判断で我が領地に移住しました。彼らの自由意志を尊重せぬ判断に従う気はありません」

「っ……だ、だが! セリム王家は現在、対応できぬ人員不足で……」

「関係ありません、ご帰還ください」

「ま、待たれよ! ……我らがここで成果を上げずに帰還すれば、ゼブル公爵から土地を奪われてしまう!」

 ゼブル公爵は私兵にまで、圧政を強いているのだ。
 ゆえに引き留める彼らの顔つきは鬼気迫っていた。

「我らが家族のため、お話をお受けください! 出なければ剣を抜いてでも!!」

「止めておけ」
 
 必死な形相だった兵士達へと、同乗していたダウィドが声を出す。
 護衛騎士である彼が姿を見せた途端、兵士達の表情が変わった。

「ダウィドッ! お前もラテシア殿の元に居たのか……」

「帰れ。俺も剣は抜きたくはない」

 碧色の眼光が鋭く、ゼブル公爵の私兵を睨む。
 その瞳に押されてなのか、隊長らしき人物が剣の柄から手を離した。

「……仕方、あるまい」

「隊長! そんな!」

「相手がダウィドでは、この人数では敗れるのは目に見えている。それに……」

 隊長は顔を上げ、どこか懐かしむように微笑んだ。

「かつての戦争で命を救ってくれたお前に、剣は向けられん」

「っ……」

 先ほどの鬼気迫る表情から、一転して微笑む表情に変わっている。
 彼らも戦争を経験しており、ゼブル公爵の私兵であるため土地等を奪われずに済んだのだろう。

 皆、それぞれの生活のために命を懸けている。
 だが……本心では争いを好む者などいるはずもないはずだ。

「我らは帰還する。フロレイス公爵家の返答を王家に伝えよう」

 馬車が進み始めて、ゼブル公爵の私兵達の中を抜ける。
 皆、今後の不安を思っているのか、表情が暗い。
 そんな彼らへ……

「もし、貴方達の土地が奪われたなら。私の元へ来なさい」

「っ! よ、良いのですか」

「身辺調査は必要ですが。分け隔てなく庇護します。貴方達も平和を築いてくれた民ですから」

「…………ダウィド。お前が羨ましいよ、よき主と出会えたな」

「あぁ。俺の誇りだ」

 彼らの言葉を聞きながら、私達は領地へと戻る。
 リガル様から報告を受け……僅か数か月で王家の支持派閥から一割も引き抜いた事を知る。
 
 そろそろ王家が対応を始めるだろうが、時すでに遅い。
 こちらの対策、支持派閥は政略によって整い始めている。

 早くもセリム達は、薄氷を踏むような王政を歩み出す事になったようだ。
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