【完結】婚約破棄された私が惨めだと笑われている?馬鹿にされているのは本当に私ですか?

なか

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10話

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「お待たせいたしました……ディラン殿」

ワイアットは扉を開き、座っていたディランに声をかける

「いや、ワイアット殿……急でわるいね、元気にしているかい?」

「ええ、おかげさまで」

いたわる言葉を投げかけられるがその目は笑ってはいない
ワイアットはその瞳に宿る狂気をよく知っている

身体が震えるが、ソフィアの笑顔が頭によぎる

(今度こそ、折れない…父として)

「今日の要件についてですが……」

「あぁ、そうだった…その件なんだが…申し訳ない、どうやら僕の息子のデイモンドが大変な失礼をしたみたいで…留学からの帰りでおかしくなっていたみたいでね」

ディランは笑いながら言葉を続ける

「婚約破棄の件だが…取り消そう、息子が間違えて言ってしまっただけなんだ」

やはりそうきたか…
ワイアットは予想がついていたその言葉に首を横に振る

「残念ですが、婚約破棄は大勢の貴族の目の前で正式に宣言されたものです、今更取り消しなど出来ません…それにソフィアの気持ちを私は尊重したいのです!」

ワイアットの言葉に
ディランは頷きながら微笑み
立ち上がる

「そう!その通りだ、確かにソフィアの気持ちが最優先だな」

笑顔でワイアットの肩を叩いたディラン

だが、その瞬間
ワイアットを壁に叩きつける

大きな音が部屋に響き
周囲の物が床に落ちる


「そんなわけないだろ?最も優先すべきは貴族の純血の保護だ、貴様は何を考えている」

「あなたこそ、何を言っているのです…貴族に青い血なんて流れていない!いつまでそんな事を信じて…」

「お前は愚かだ、同じ純血同士…穏便に澄ましてやろううと思ったがもういい…」

ディランはワイアットを抑えながら
指をワイアットの瞳の前に持ってくる

ディランの瞳は黒く
瞳孔は開ききっていた

「目をえぐり出されるか、デイモンドとの婚約を再度結ぶかよく選べ」

「わ、私は…!?」

言いかけたところで
指先が瞼に食い込む
痛みがワイアットを襲った

「いい返事を期待している」

「私は…認めない!もうあの子の…ソフィアが苦しむ姿を見たくない!!たとえお前に眼球を抉られても…戦になろうともソフィアはお前などに渡さん!!」

「なぁ?僕がお願いしているのだぞ?公爵家の僕が…分かった、少しは譲ろう、息子の暴力行為はやめさせる…どうだ?」

「いいわけない!娘がこれまでどれだけ苦しんだと思っている!!」

「あぁ、もういいか、二つも目はあるんだ先ずは一つ潰してからもう一度答えを聞こうか」

ディランの指がワイアットの瞳に押し込まれていく
鋭い激痛が走り
思わず叫び出しそうになったが
娘達を心配させまいとワイアットは歯を食いしばる 

「グッッ……」

「良く考えろ!ワイアット!!」







突然、扉が開きソフィアが駆け込む


「やめて!!!」

部屋に入ってきたソフィアがディランを押しのけた

よろめいたディランだが、ソフィアの顔を見た瞬間大きく喜んだ

「おぉ!よくきてくれた!君に会って聞きたかったんだ」

「ソフィア、隠れていなさい!!」

「いやです!お父様が傷つくところなど見たくない!」

瞳を抑えるワイアットの前にソフィアはかばうように立つ

「ソフィア、君とデイモンドは純血同士…優れた血を持つ運命の存在なんだ、僕の家にきてもう一度デイモンドと暮らそう」

ディランはこの状況でも笑いかける
その姿にソフィアは震え
涙を浮かべながらも
必死で首を横に振る

「いやです、私は好きな人と一緒に過ごしたい…純血なんていらない!!」

「大丈夫だ、デイモンドと過ごせばきっと好きになる僕の妻もそうだった、分からなければ少し躾をしよう、痛いだろうがきっと青い血について君も分かってくれる」

「いや、こないで」

「大丈夫だ、キュベレイ家でお勉強をしよう、純血についてね…分かってくれるまでずっとね?」

「いや…いや…」

首を振り、拒否するソフィアに
ディランはゆっくりと歩み寄る
その笑っていない瞳で、不自然な程に吊り上げられた口角で
笑いながら歩む


「助けて…お願い」










「シュルク!!!!」













叫んだ彼女に伸びるディランの手

だが、そんな男の眼前に白銀の煌めく剣が現れる
鼻先に届きそうなその剣に
思わずディランは後ずさった

そこにいたのはシュルクだった
剣を構え、自身の主であるワイアットとソフィアの前に立つ
騎士として


「ソフィア様と、ワイアット様にこれ以上近づくな」

「あぁお前か…分かっているのか?貴族に剣を向ける意味を?」

ディランの言葉
シュルクの鋭い眼光は変わらず睨み付ける
貴族への反逆は重罪
彼は知っていた、だからこそ決意して前に進んだのだ


「俺の命がどうなろうと主を守る…騎士として」

「ほぉ…お前は忘れたのか?あの時の言葉を」

ー平民は貴族とは違う、お前にはふさわしくないー

シュルクの脳内にかつて言われた言葉が蘇る
幼き頃に言われ、絶望したあの日

けど


「関係ない、おれは好きな人を守る…それに理由なんていらない!」

「シュルク…」

その言葉にソフィアが名前を呼ぶが
彼は振り向かずに剣を構えたままだ



「ほぉ、どうなっても知らんぞ、ようやく想いを明かしたのにこの先どうなるのだろうな」


ディランは笑い、馬鹿にするが












「それはどうなるのですか?」



その場に冷静な言葉が響く
声の主はこの状況を観察しながらも悠然とディランの前に立った

「僕に教えてくれますか?ディラン殿」

「き…貴様は…なぜここにいる…アレキシス!!!」




そこにいたのは

ディランと同じ爵位であり
彼と並ぶ権威の持ち主
真っ赤な髪をなびかせて落ち着いて笑いかける彼

アレキシス・シュワルツ公爵


「教えてください、どうなるのかをね」


詰めるようにアレキシスは笑いながら呟くのだった





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