【完結】婚約破棄された私が惨めだと笑われている？馬鹿にされているのは本当に私ですか？

8話

「シュルク、今日の予定は？」

「今日はなにもありませんよ、ソフィア様」

クラリス家の屋敷の中で、シュルクに向かい笑顔を向ける彼女の姿に
父親でもあるワイアット・クラリスは嬉しそうに微笑む

（娘がようやく笑顔になってくれた…父親としてこれほど嬉しい事はない）

ワイアットはずっと後悔していた

ソフィアの母親は早くして他界している

大切に育てた娘、
そんな彼女の護衛にとシュルクと共に育てた


幼き頃より二人は仲がよく、ワイアットもソフィアとシュルクならと
思っていたのだが

（あの日、キュベレイ公爵家に脅されてソフィアとデイモンドとの婚約を認めてしまった）

その日からソフィアの生活は一変した
幼いころより甘やかされて育てられたデイモンドは気に入らない事があるとソフィアに暴力を振るった

護衛のシュルクが止めようとしたが、キュベレイ公爵家はデイモンドのその粗暴に対して一言

ー耐えろー

ただそれだけを突き付けてきた
もしこちらが反抗したり、婚約を破談すればソフィアの命を奪うと

有り得ない要求だが
キュベレイ公爵家の現当主である
ディランは貴族の純血を保つためならどんな手も使う
いかれた男だ

娘の為にも、ワイアットはただ傍観することしか出来なかった



（だが、デイモンド自身で婚約破棄を宣言し、証人となる他貴族の方々も大勢いる…もう大丈夫だ）

自由となり、シュルクに笑いかけるソフィアを見ながら
ワイアットは同じく微笑んだ


「お父様！」

ソフィアが微笑みながらワイアットに話しかける
そんな彼女を抱きしめながら返事を返す

「どうした、ソフィア」

「お父様、私ね、もう自由だから好きな人と一緒になってもいいんだよね？」

子供のような質問だが
それほどソフィアを我慢させていたのだろう、嬉しそうに聞く彼女に
ワイアットは頷く

「もちろん、ソフィアの好きな人と一緒になりなさい」

「やった！ねぇシュルク！お父様の許可も貰ったわよ！」

ソフィアの言葉にシュルクは動揺する

「ソフィア様、だから俺は…」

「もう！私は自由なんだよ？シュルクは私の事、どう思ってるの？」

詰め寄るソフィアにシュルクは顔を赤くしている
その表情で誰が見ても答えはわかる

いや、幼き頃より過ごしていた二人
デイモンドとの婚約がなければ今頃結婚していたかもしれない

ワイアットとしてはシュルクとの結婚は大歓迎なのだが
肝心の彼ががどこか言いよどむように答えを言わない


（シュルクよ、お前が結婚できないのはかつて言われた貴族の純血を気にしているのだろう、誰に言われたか答えてくれなかったが、もうそんな事を気にする時代は終わったのだ…それにお前は）


「シュルク」

ワイアットの言葉にシュルクは顔を上げ
返事をする

「どうしましたか？ワイアット様」

「お前には言わなければいけない事がある」

ワイアットは生唾を飲み込み
シュルクを見つめる

（言うべきだろうか…いや、もうシュルクもソフィアも大人になった……真実を伝えてもきっと………）

「お父様？」

ソフィアの心配する声にワイアットは隠していた秘密を告げようとした瞬間




「ワイアット様！！ここにおられましたか！？」


慌てたように使用人が駆けてきた


「どうした？」

「じ、実はお客様が来ています……その…」


言いにくそうにしている使用人にワイアットは少し嫌な予感がした

そしてそれは当たっていた


「キュベレイ公爵家の当主、ディラン様がお越しです…」

その言葉に、ソフィアの笑顔が消える
シュルクも苦い顔をして、拳を握りしめていた


「要件は聞いているか？」

「は、はい！！その…デイモンド様との婚約の破談…………あれを取り消してほしいと…」

「………………」


沈黙が流れた
それを破ったのはソフィアだった

「嫌です、お父様、私………………いや…」

涙を浮かべ、首を振るソフィアの頭をワイアットは優しく撫でる

「大丈夫だ、父さんに任せて」

彼は安心させるように笑いながら
シュルクを見つめる

「シュルク、ソフィアと部屋の中にいなさい、出てきてはいけないぞ」

「わ、わかりました！」

二人が行くのを確認し、ワイアットは決意する

（やはり、諦めてはくれないかディラン・キュベレイよ、だが……もう娘の笑顔を奪わせる気はないよ）



父として
ワイアットはディランの待つ客室へと向かった