【完結】婚約破棄された私が惨めだと笑われている?馬鹿にされているのは本当に私ですか?

なか

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4話

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アレキシスは会場を出た瞬間に走り出した

(まだ、間に合うかもしれない!)

謝りながら、前を歩いている貴族達をかき分けていく
高鳴る胸の鼓動が久しく感じていなかった興奮が
アレキシスのほほを赤くする
まるで子供の頃に戻ったかのように気分が高揚していた


デイモンドの、いやキュベレイ公爵家の大きな屋敷から
飛び出すように外に出たアレキシスは辺りを見渡す

(いた!)

遠くにいたソフィアを見つける
だが、まだ距離がある…………アレキシスは駆け出した

彼女は護衛であるシュルクに連れられながら馬車に乗り込んでいた

(間に合う!)

アレキシスは彼女に大声で呼びかけようと手を挙げたが
ふと、彼の動きが止まる

「………………」

アレキシスが見つめる先で
ソフィアは馬車に乗りながら
顔を抑えて泣いていたのだ

遠くからでも、月夜に照らされて涙が零れ落ちるのが見えた


(なぜ泣いているんだ?ソフィア、デイモンドとの婚約破棄が悲しいのか?………………いやそんなはずない…ならなぜ?)

アレキシスはかける言葉を見つけられないまま
立ち尽くしてしまう

そんな彼を置いて
ソフィアを乗せた馬車は
シュルクが御者として馬を走らせ、去って行ってしまった


「今は、君に会うべきではないのかもしれないな、ソフィア」

アレキシスは去っていく馬車を見つめながら呟く


(だが、次はきっと君にこの想いを伝えてみせるよ)


そう心に誓いながら、アレキシスは自身を待つ使用人達の元に戻っていくのであった






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

馬の蹄が地面を蹴る音と、すすり泣くような声が聞こえる
手綱を引くシュルクはキュベレイ公爵家からすこし離れた場所で馬車を止めた

自身の主でもあるソフィアが涙を流している姿を他の貴族達に見せるわけにはいかない

「大丈夫ですか?ソフィア様」

シュルクの声にソフィアは顔を上げる
ほほが赤く染まり、瞳を涙で潤ませた彼女にシュルクは思わずその涙を自分自身で拭おうと思った

手を差し伸べ、ゆっくりとソフィアのほほに触れようとする
彼女もそれを受け入れるようにシュルクを見つめているが


「!?………すいません、出過ぎた真似を………これをお使いください」

シュルクは自分が差し伸べた手を引くと、綺麗なハンカチをソフィアに手渡す
彼女は少し残念そうにそのハンカチを受け取ると
涙を拭う

「残念だったのですか?………デイモンド様との婚約の破談が」

仕える身としては過ぎた質問
思わず聞いてしまった言葉にシュルクは再び謝罪しようとしたが
目の前のソフィアは口を緩ませて笑う

「ふふ、違うのよシュルク……嬉しかったの、これでようやく自由になれたんだって」

「自由…ですか?」

「ええ、私はもう誰のものでもないの」

彼女は微笑みながらシュルクに向かって両手を伸ばす
貴族達の前とは違い、気を許したように緩ませた顔で彼の服の袖を掴む

「ねぇ?シュルク……昔みたいに嬉しい時は抱きしめてよ?子供の時みたいに」

「……ソフィア様…今の俺は、あなたに仕える騎士です…そのようなことは」

「私にとってはシュルクはシュルクだよ?子供の頃から変わらないの」

「ソフィア……」

久しく見ていなかったソフィアの子供の頃のような可愛らしい笑顔に
シュルクの記憶が蘇る、主従関係やしがらみのなかったあの幸せな幼き日々を

月夜の馬車の中、袖を掴むソフィアに引かれ
ゆっくりと顔を近づけ、彼女へと腕を伸ばす

抱きしめようとシュルクが腕を伸ばした瞬間


ー平民は貴族とは違うのだ、お前などではふさわしくないー


幼き頃に言われた言葉が
シュルクを止めた


「………………シュルク?」

「すいません、ソフィア様…今日は寒いので風邪をひいてはいけません…帰りましょう」

シュルクは上着を脱ぎ、ソフィアにかけると
再び馬車を走らせるために手綱を握りに戻ってしまった

「シュルク…………私は、あなたが」

ソフィアの呟いた言葉にシュルクは振り返らずに馬車を走らせた

「ソフィア様には………もっと相応しいお相手がいますよ…」


それから、シュルクは何も言わずに黙って馬車を走らせた


(私が本当に望む相手は……)

ソフィアは言い出しそうになった言葉を飲み込む
何度も言ったその言葉に彼はきっといつもと変わらない言葉しか返してくれないだろうから



(ねぇ、シュルク……笑顔で私に接してくれたあなたを変えてしまったのは…誰なの?)


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