【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

なか

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33話

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 ルウとの再会を果たし、その日は共に過ごした。
 帰ってきたらいっぱい遊ぶ約束をしていたから、それを反故にしない。
 
 だから鬼ごっこや、かくれんぼ。
 ルウのやりたい遊びをし尽して、もう夕刻だ。

「ルウ、そろそろ帰ろう?」

「やだ……もっとナーちゃんといっしょ!」

「でも、もう遅い時間だから」

「もっといっしょにいたいって言ったら。ナーちゃん、おこる?」

 怒る訳がない。
 むしろルウが珍しくワガママを言うので、可愛らしい。
 とはいえ両親が不安に思うだろうから。

「ルウ。また明日いっしょに学び舎に行こう。これからずっと一緒だから、大丈夫だよ」

「ほんと? もう、どこかいかない?」

「うん。ルウと一緒に学び舎で勉強したいからね」

 そう言うと、ルウはようやく笑ってくれて。
 帰り道へと歩き出す。

「ナーちゃん、おてて!」

「だっこしてあげようか?」

「やた! だっこ! ナーちゃん」

 ルウを抱っこすると、久しぶりなせいか以前よりも重みを感じる。
 いや……これは。

「ルウ、おっきくなった?」

「えへへ、ルウね。ちょっとだけ身長のびたの」

「ふふ、そのうち追い越されるかもね」

「ルウがおっきくなったらね、ナーちゃんを抱っこしてあげる。たかいたかいもするの」

「それは楽しみ。待ってるよ」

「うん!」

 他愛ない会話をして、抱っこしてあげていると。
 ルウは私に抱きつきながら、眠りの船を漕ぎはじめる。
 揺れが心地よいのか……遊び疲れていたのだろうか。

「これから、また一緒だからね……ルウ」

「うゆ……ナちゃん。やた」

「ふふ」
 
 寝ぼけまなこのルウを連れて、ご両親と会ってルウを抱き渡す。
 二人とも、私が帰って来てくれた事を喜んでくれた。 

「ルウったら、いっつも朝に貴方の家に行ってたのよ」
「そうそう、それでナーちゃんが居ないって、泣きながら帰って来るんだよな」

 ルウが寂しがっていたんだ。
 それを知ると、自然と瞳が潤んでしまう。
 明日は……私から迎えに行こう。
 寂しい思いをさせないよう、絶対にだ。


「それでは、私はこれで」

「ナターリアさん。ルウをいつもありがとね」

「いえ……私の方が、ルウに感謝したいぐらいですよ」


 ここを故郷に思えたのも、離れたくないと思えたのも。
 全部……友達になってくれたルウがキッカケなのだから。
 感謝しかない。


 ルウを送り届け、私はリカルドの邸へと歩き出す。
 会う約束と、父とも会う必要があるからだ。
 しかし道中……数人の兵士が私を見て叫んだ。

「あっ!! ナターリアさん!!」 
  
「皆さん、どうかしましたか?」

「す……すぐに辺境伯邸に来てください!」

「え?」

「辺境伯様の容態が急変しました! 直ぐに、あの方の元へ向かってください!」

 兵士の言葉を聞いた瞬間……
 私はリカルドが待つ、辺境伯邸へと走っていた。





   ◇◇◇



「リカルド!!」

「っ……」

 私が部屋へと駆け込んだ途端、彼は目を見開く。
 寝台に座り、いつもと同じ無表情のままだけど。
 明らかに、顔色が悪い。

「誰が、知らせた」

「わ、私どもではありません……」

 リカルドが睨むのは、寝台の近くにいた医者達。
 その他、使用人達も皆が首を横に振っていた。

「私が兵士に命じて、呼んでもらいました。リカルド様」

「ジェイク……伝えるなと言ったはずだ」

「今回だけは、僕は貴方の命に従えません」

 ジェイクさんが兵士の方に伝えてくれたのだろう。
 私はリカルドの元へ駆け寄ると……明らかにいつもと違い、私を見る瞳に元気がない。
 息も苦しそうに、かすれている。
 
「ナターリア……帰れ。問題ない」

「問題あります。どうして……言ってくれないの」

「……帰れ。大丈夫だから」

「リカルド、心配ぐらいさせて。ずっと辛かったの?」

「違う。違う……俺は、そんな顔をしてほしくなくて……」

 彼の琥珀色の瞳が、私を見つめる。
 弱々しく虚ろで……いつもの覇気はない。

「っ!!」

 そして、リカルドが突然口を塞ぐ。
 口から血を吐き、それを手で押さえていたのだ……

 力を失った手先からは血が漏れ出て、寝台が赤に染まる。
 もう彼の意識は、消えかけていた。

「そんな、いや……リカルド! リカルド!」

「……問題ない、すぐに収まる」

「だめ、だめ……血が……リカルド」

「いつもと一緒だ。だい……じょうぶだ」

 彼は弱々しく腕をまくり、絆創膏を見せた。
 はがれかけたそれが、私達を繋いだ一つのキッカケだ。

「これで、治る」

「そんなはずがないよ。リカルド」

「本当だ……今まで楽しいなんて思った事もなかった。でも君と会って、これを貼ってから……俺はずっと……ずっと」

 今まで誰かを守るため……
 辺境伯領の民に不安を与えぬために傷だらけの人生を送っていた彼は。
 最後まで不安を与えぬため、私へと小さな笑みをみせる。

「…………嬉しくて、どんな苦しさも耐えられた」

「っ!!」

 まさか……ずっと、ずっと……
 苦しみの中、私のために一緒にいてくれたのだろうか。
 それに気付けなかった自分が、たまらなく悔しい。

「だからこれからも、ナターリアがいるから……大丈夫……だ」

 呟きながら、リカルドは意識を落としていく。
 呼吸は苦しそうで、容態は悪化していた。

「お医者様……リカルドの容態を教えてください!」

「元からあちこちの臓器が弱っており、損傷している箇所が多くありました。それが今日になって限界がきたようです……」

「っ……」

「正直、このまま安静にしていても助かる可能性は限りなく低く……」

 もう、私しかいない。
 こんな時のために……私は勉学に励んでいたのだから。

 ルウからもらった髪飾りで髪をまとめて、あの子に勇気を貰う。
 きっと大丈夫のはずだ……
 
「私の治癒魔法で彼を治します! やらせてくだ––」

「待て。ナターリア嬢」

「っ!?」

 制止の声を出したのは、モーセさんだ。
 彼も伝えられて走って来たのか、息切れしながら私の肩に手を置いた。

「まだ知識が不十分だ。今のお主では……彼の身体が正常に治る保証はない」

「ですが……お医者様も傍におります。知識を補助する説明をしてくれれば……」

 私は視線を向けるが、お医者様は首を横に振った。

「私共には、逆に魔法の知識がありません。貴方に正しく手段を伝えられない……危険です」

 なら、どうすればいい。
 ただ指をくわえて、弱っていくリカルドを見守るなんて出来ない。
 悩んでいた時、モーセさんが……ふと呟いた。

「一人だけ…………居た」

「え?」

「魔法学を研究分野にし、医療にも精通していている者が……一人いたではないか」

「っ……」

「奴の補助があれば、確実にリカルド様を救える」


 モーセさんの言葉に、私も分かってしまう。
 そんなの、たった一人しかいない。




 魔法研究者で、医療者でもあり、ティアさんを殺したと聞いた。
 私の……お父様だ。









   ◇◇◇◇◇


いつも本作を読んで下さってありがとうございます。
エール、いいねなど……本当に励みになっております。m(_ _)m

最終話まで書けまし。
完結予定日は525となりますので、一気読みしたい方はそちらを参照ください!

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