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彼女が居ない生活⑦ シャイラside
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ローズベル公爵家主催の夜会。
私が今まで参加してきた社交界の中で、一番豪奢な会場。
参加する方々も、高位貴族ばかりだ。
そんな素敵な夜会に参加できると、ヴィクターから聞いて来たのに……
「ええ……だからこの子が離婚を願った所を、妻が拒んで失踪したのですよ」
「ですが。妊娠は流石に擁護できないのでは……?」
「いえ、聞いてください。この子はしっかりと話し合い。問題なく離婚を進めようと……」
義母様は、周囲の貴族にお姉様の悪口を話す。
嫌だけど、クロエル伯爵家が存続するためには必要なのだろう。
だから私とヴィクターは黙り、ナターリアお姉様が悪いという弁護を聞き続ける。
「なにより、学園を退学した情けない妻だったんです。自分の立場を守るために必死だったのでしょう」
義母の言葉に、私の胸がチクリと痛む。
私はヴィクターを愛しており、彼からの愛も信じていた。
だけど……義母がお姉様を蔑む言葉に、もうすぐ学園を退学させられる身の私も。
同じ蔑みを受けるのではないかと、今から怖い。
「……」
どうしてこうなったのだろう。
ヴィクターを初めて見た時、彼と仲良くなれば大好きなお姉様に会えると思って話しかけた。
話すうち彼が凛々しくて、好きという感情が芽生えたのだ。
お父様に気持ちを打ち明ければ、この恋を応援してくれた。
ヴィクターも同じ感情を抱いてくれていて、嬉しくて身体を重ねた。
結果……妊娠したけど、私は楽観的だった。
優しいお姉様なら私を護ってくれる。
正妻の座を引き、側室となって私と子供を大切にしてくれるはず。
だって、幼き頃から過ごしたお姉様はあんなに私を大切にしてくれていたもの。
なのに……
『シャイラ、私はもう貴方と一緒に暮らす気は無いわ。世話をする気はないの』
お姉様は冷たく、私を突き放した。
こんなに悲しい事は無い。
いつだってなんだって叶えてくれていたのに。
いきなり突き放すなんて、裏切られたような気分だった。
「でも今は……少しだけお姉様の事、分かった気がするよ」
義母に押し付けられそうになった領主としての仕事。
ヴィクターに言われて、出来なければ失望される気持ち。
家族以外と接してこなかった私は……初めて誰かに求められて、分かったのだ。
誰かのために身を犠牲にするのは、辛い事だと。
なんで、こんな簡単な事を分からなかったのか。父の言葉を信じていた自分が今は恥ずかしい。
「……ヴィクター、少し外に出てくる」
「シャイラ?」
「直ぐ戻るから」
お姉様の悪口がいたたまれなくて、会場の外へ出る。
夜風に当たると、感傷的な心が震えた。
私が悪かったのかな?
今までお父様の言う通りに、お姉様は私を愛してくれていると思っていた。
でもそれが違っていて。
私が義母に抱いた感情を……お姉様がずっと思っていたなら。
「私……怖いよ」
大好きだったお姉様に嫌われている。
それがたまらく怖くて、恐ろしかった。
「どこから来られたのですか?」
「良ければお名前を……」
ふと、会場の外に人だかりができていると気付く。
多くの令嬢が集まっている。
「せめて、家名だけでも」
「……無理だ」
「あの……お話をしたいのですが」
「必要ない」
人だかりの中央で佇むのは、目を引くほどの美麗な男性だった。
絹糸のように輝く銀髪と、満月のような琥珀色の瞳。
整った顔立ちに感情は一切含まれず、それが目を引く。
「良ければダンスを」
令嬢にモテモテだ。
一人の令嬢が手を伸ばし、彼の腕をとろうとするが。
「……触れるな」
冷たく、無表情のまま拒絶する。
何者も寄せ付けぬ彼に、どうして社交界に参加したのだと疑問を抱いた時。
「リカルド様。お待たせしました……自分で作ったドレスをマリアに着せてもらっていました」
酷く聞き馴染みのある声が聞こえたと同時に……
リカルド様と呼ばれた男性が、視線を上げて人だかりを抜ける。
そして一人の女性の前で……先程まで違い、ふわりと優しい言葉を吐いた。
「ナターリア……可愛い」
「……ふふ、ありがとうございます。リカルド様」
そこに居たのは、ナターリアお姉様だ。
かつて私がヴィクターにねだった、公爵家御用達のドレスで身を着飾り。
結わえた三つ編みがふわりと揺れて、リカルド様を見つめている。
「手……繋ぎたい」
「まだ駄目。離婚するまで……待ってくれますか?」
「分かった。待つ……直ぐ終わらせよう」
先程とまるで違う……無表情だった男性の柔らかな言葉遣い。
その琥珀色の瞳に他を映したくないとでもいうように、お姉様だけを見つめていた。
私は即座に分かる。
あの人はお姉様を愛している。
そして反応を見るにその逆も……
「行きましょうか。他の貴族の方々には、私の手配は無実だとマリアが事前に周知してくれてますから安全です」
「あぁ、行くか」
「はい、さっさと終わらせます。ルウが待ってますからね」
私が驚いている間に、二人は会場へと入って行く。
ヴィクター達が待つ会場へ……
私は驚きから出遅れ、一拍の時間を置いて二人を追いかけた。
◇◇◇◇◇◇
さっさと離婚するため、ゲリラ投稿。
ナターリアには、早く帰ってほしいですからね。
私が今まで参加してきた社交界の中で、一番豪奢な会場。
参加する方々も、高位貴族ばかりだ。
そんな素敵な夜会に参加できると、ヴィクターから聞いて来たのに……
「ええ……だからこの子が離婚を願った所を、妻が拒んで失踪したのですよ」
「ですが。妊娠は流石に擁護できないのでは……?」
「いえ、聞いてください。この子はしっかりと話し合い。問題なく離婚を進めようと……」
義母様は、周囲の貴族にお姉様の悪口を話す。
嫌だけど、クロエル伯爵家が存続するためには必要なのだろう。
だから私とヴィクターは黙り、ナターリアお姉様が悪いという弁護を聞き続ける。
「なにより、学園を退学した情けない妻だったんです。自分の立場を守るために必死だったのでしょう」
義母の言葉に、私の胸がチクリと痛む。
私はヴィクターを愛しており、彼からの愛も信じていた。
だけど……義母がお姉様を蔑む言葉に、もうすぐ学園を退学させられる身の私も。
同じ蔑みを受けるのではないかと、今から怖い。
「……」
どうしてこうなったのだろう。
ヴィクターを初めて見た時、彼と仲良くなれば大好きなお姉様に会えると思って話しかけた。
話すうち彼が凛々しくて、好きという感情が芽生えたのだ。
お父様に気持ちを打ち明ければ、この恋を応援してくれた。
ヴィクターも同じ感情を抱いてくれていて、嬉しくて身体を重ねた。
結果……妊娠したけど、私は楽観的だった。
優しいお姉様なら私を護ってくれる。
正妻の座を引き、側室となって私と子供を大切にしてくれるはず。
だって、幼き頃から過ごしたお姉様はあんなに私を大切にしてくれていたもの。
なのに……
『シャイラ、私はもう貴方と一緒に暮らす気は無いわ。世話をする気はないの』
お姉様は冷たく、私を突き放した。
こんなに悲しい事は無い。
いつだってなんだって叶えてくれていたのに。
いきなり突き放すなんて、裏切られたような気分だった。
「でも今は……少しだけお姉様の事、分かった気がするよ」
義母に押し付けられそうになった領主としての仕事。
ヴィクターに言われて、出来なければ失望される気持ち。
家族以外と接してこなかった私は……初めて誰かに求められて、分かったのだ。
誰かのために身を犠牲にするのは、辛い事だと。
なんで、こんな簡単な事を分からなかったのか。父の言葉を信じていた自分が今は恥ずかしい。
「……ヴィクター、少し外に出てくる」
「シャイラ?」
「直ぐ戻るから」
お姉様の悪口がいたたまれなくて、会場の外へ出る。
夜風に当たると、感傷的な心が震えた。
私が悪かったのかな?
今までお父様の言う通りに、お姉様は私を愛してくれていると思っていた。
でもそれが違っていて。
私が義母に抱いた感情を……お姉様がずっと思っていたなら。
「私……怖いよ」
大好きだったお姉様に嫌われている。
それがたまらく怖くて、恐ろしかった。
「どこから来られたのですか?」
「良ければお名前を……」
ふと、会場の外に人だかりができていると気付く。
多くの令嬢が集まっている。
「せめて、家名だけでも」
「……無理だ」
「あの……お話をしたいのですが」
「必要ない」
人だかりの中央で佇むのは、目を引くほどの美麗な男性だった。
絹糸のように輝く銀髪と、満月のような琥珀色の瞳。
整った顔立ちに感情は一切含まれず、それが目を引く。
「良ければダンスを」
令嬢にモテモテだ。
一人の令嬢が手を伸ばし、彼の腕をとろうとするが。
「……触れるな」
冷たく、無表情のまま拒絶する。
何者も寄せ付けぬ彼に、どうして社交界に参加したのだと疑問を抱いた時。
「リカルド様。お待たせしました……自分で作ったドレスをマリアに着せてもらっていました」
酷く聞き馴染みのある声が聞こえたと同時に……
リカルド様と呼ばれた男性が、視線を上げて人だかりを抜ける。
そして一人の女性の前で……先程まで違い、ふわりと優しい言葉を吐いた。
「ナターリア……可愛い」
「……ふふ、ありがとうございます。リカルド様」
そこに居たのは、ナターリアお姉様だ。
かつて私がヴィクターにねだった、公爵家御用達のドレスで身を着飾り。
結わえた三つ編みがふわりと揺れて、リカルド様を見つめている。
「手……繋ぎたい」
「まだ駄目。離婚するまで……待ってくれますか?」
「分かった。待つ……直ぐ終わらせよう」
先程とまるで違う……無表情だった男性の柔らかな言葉遣い。
その琥珀色の瞳に他を映したくないとでもいうように、お姉様だけを見つめていた。
私は即座に分かる。
あの人はお姉様を愛している。
そして反応を見るにその逆も……
「行きましょうか。他の貴族の方々には、私の手配は無実だとマリアが事前に周知してくれてますから安全です」
「あぁ、行くか」
「はい、さっさと終わらせます。ルウが待ってますからね」
私が驚いている間に、二人は会場へと入って行く。
ヴィクター達が待つ会場へ……
私は驚きから出遅れ、一拍の時間を置いて二人を追いかけた。
◇◇◇◇◇◇
さっさと離婚するため、ゲリラ投稿。
ナターリアには、早く帰ってほしいですからね。
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